2002学習会講義資料バックナンバー 3-2  

 
キャリア・ガイダンスとは何か?
 
1.キャリア・ガイダンスとは何か?
(1)キャリア(Career)とは何か?
・単に「職業」とは言えない。ボランティアや子供会の役員等,報酬がなくても「キャリア」である。訳しようがなく,「キャリアはキャリア」とした方が使いやすい。キャリアの定義は様々だが,次のSuper(1976)の定義はキャリアをうまく捉えている。
 
 人生を構成する一連の出来事。自己発達の全体の中で,労働への関与として表現される職業と,人生の他の役割の連鎖。青年期から引退期に至る報酬,無報酬の一連の地位。それには学生,雇用者,年金生活者などの役割や副業,家業,ボランティアなども含まれる。 
 
<青年期>→<成人期>→<壮年期>→<老年期>
 
進路  職業  ボランティア  子供会役員等の役割
生き方そのもの
 
(2)キャリア・ガイダンス(Career Guidannce)とは何か?
・学校における指導においても,職業センター等における指導においても,キャリア・ガイダンスが行われる。同じ哲学,理論,技法を背景に持って迫るのであるが,対象となる相手が違うということである。
 
@学校において(日本進路指導学会「学校教育における定義案」,1986)
・「学校における進路指導は,学校教育の各段階における自己と進路に関する探索的・体験的諸活動を通じて在学青少年みずから自己の生き方と職業の世界への知見を広め,進路に関する発達課題を主体的に達成する能力,態度等を養い,それによって,自己の人生設計のもとに,進路を選択・実現し,さらに卒業後の生活において,職業的自己実現を図ることができるよう,教師が学校の教育活動全体を通して,総合的,体系的,継続的に指導援助する過程である」
 
A職業センター等において(職業安定法第5条)
・「職業指導とは,職業に就こうとする者に対して,その者に適当な職業の選択を容易にさせ,及びその職業に対する適応性を大ならしめるために必要な実習,指示,助言その他の指導を行うことである」
 
(3)キャリア・ガイダンスの起源
・ドイツのHerbartは,学校教育の目的を強固な道徳的品性の陶冶にあるとし,そのために教師は「管理」,「教授」,「訓育」を行うとした。その後,弟子のReinは「教授」と「指導」(管理+訓育+養護)の二つにまとめた。この考えはやがてアメリカに渡り,前者を「instruction」,後者は「guidance」と訳された。
・guidanceは,まず職業指導から始まり,その後,中学校における教育の2大機能とは「学習指導」と「職業指導」と言われるようになった。このように,guidanceは職業指導として定着したが,徐々にその領域を社会性,人格,健康,余暇などに関する指導へと拡大していき,個々の生徒の生活つまり人格と行動の全ての面にわたり,指導の手が差し伸べられるようになった。
  
 
☆生徒指導の領域と内容
 教育の機能の一つとして,生徒指導は欠かすことができない。学校において,生徒指導ということでなされている指導は次の6つにまとめることができる。
@学業指導(educational guidance)
・学業が首尾よく遂行されるように指導することを目的とする。(学習興味の喚起,成績不振の診断,学習技術の習得等)
 
A進路指導(career guidance)
・各生徒が個性に応じて進路を選択できる能力を養うことを目的とする。
 
B個人的適応指導(personality guidance)
・児童生徒を発達可能性のある人格として捉え,人間としての調和的発達をめざす。(正確に関する悩み解決への支援等)
 
C社会性指導(social guidance)
・集団,社会の一員としての社会的資質を育成することをねらう。(友人関係の指導,社会習慣,社会徳性の指導等)
 
D余暇指導(leisure-time guidance)
・余暇の選択,善用についての指導。
 
E健康・安全指導(health-safety guidance)
・健康,安全な生活実践に向け,それを可能にする知識,技術の指導。(基本的生活についての指導,性教育等)
 
2.なぜ今,キャリア・ガイダンスなのか?
(1)個人の働き方の変化
・日本における4.6%の失業率はついにアメリカを越えた。雇用関係もかつてのように終身雇用として安心できなくなってきている。
・働く形がだいぶ変わってきている。就業人口そのものは横這いだが,内容的には正規職員が減り,パート職員が増えているという実態。一つの会社に籍を置くのではなく,いくつかの会社に出向いていって仕事をする,「派遣労働者」が増えている。通訳やコンピューター関連の仕事など。
 つまり,現代は,個人が自分はいったい何ができるのかということを考えざるを得なくなった状態であり,個人としての対応を迫られるような時代になったということである。 
 
(2)個人に対する企業の対応の変化
・企業もまた現代に流れに合わせようとしている。「うちの会社もいろいろと選択の幅を用意しますよ。でも,それを選ぶのはあなた自身です。」
・「中途採用」を行う企業も増えてきている。これは大学卒を採用するよりも,小企業で働いたり,ボランティアの経験があったりするような人を中途採用する方が,企業メリットが大きいだろうという考え方である。
・「会社を越えて通用する能力」にも着眼するようになってきている。他社で鍛え上げられてきた者で,希望するなら大歓迎という考え方である。
・入社試験の際に,以前なら学歴重視の風潮があったが,今では,出身大学名など問わない企業が多い。「大学で何を学んだのか?」,「我が社で何をしたいのか?」等が問われる時代である。
・従業員のキャリア形成,自己啓発への支援を行う企業も増えている。大学院等へのかかった費用の8割をフィードバックするような制度等。
 
(3)学校進路指導に求められる変化
・「生き方の指導」こそ,すべての教育の基本である。学校進路指導に「職業と労働を取り戻すこと」が求められている。
・「進路や職業を選ぶということは,その人のライフスタイルを決めることである。人は働き方を選ぶ時,単に職業だけでなく同時にライフスタイル,生き方そのものを選んでいる」(木村周,2001)
 
 以上のことを補うのが,キャリア・ガイダンスである。
 
3.キャリア・ガイダンスの理論
(1)特性−因子理論
・進路指導の古典的,伝統的理論。考え方の元祖がParson。彼の職業指導理論(1909)は,心理測定(テスト)で各個人の特性を明らかにし,職業分析で各職種が必要とする特性を明らかにし,そして各個人が自分の特性に適した職を選ぶという図式である。
<仮説>
@生徒は固有の可能性や能力の体系化された型を持っており,それはテストによって確認できる。
A生徒の持つ能力は労働課題と関連がある。
Bそれぞれの職業群には,そこで成功するための特性群があり,それはテストによって確認できる。
Cそれぞれの職業群で,各人がそこで成功するのを予測できる。
  
*「特性」と「因子」について
・特性とは「測定できる反応」である。例えば「記憶力」は「先生がこれから言う言葉を真似していってみてね」で測定できる。また,「概念化」は「馬はどんなものですか?」という問いに「走るものです」というように答えられるかどうかでその程度を測定できる。それ故に,いずれも「特性」である。この「記憶力」と「概念化」に共通するものは何かというと「言葉の力」と言える。このように共通して捉えられたものを「因子」という。
 
(2)Hollandの構造理論
・構造理論は人と環境との交互作用を重視する。Hollandは「類は友を呼ぶ」の考え方に立ち,次の四つの仮説を立てた。
<仮説>
@多くの人々は,現実型,研究型,芸術型,社会型,企業型,慣習型のどれかに分類される。
・現実型〜物体,道具,機械,動物などを具体的,組織的に取り扱うことが要求される活動を好む。
・研究型〜物理的,生物学的,文化的現象を理解し統制するため,観察的,創造的,体系的研究を含む活動を好む。
・芸術型〜物質,言語,人間を素材として芸術的様式や製品を創造するなど,あいまい,かつ自由で非組織的活動を好む。
・社会型〜他人に対する伝達,訓練,養成,治療,啓発などの活動を好む。
・企業型〜他人に働きかけ,組織目標や経済的利益の達成などにかかわる活動を好む。
・慣習型〜決められた方式や規則,習慣を重視し,それに従って行う活動や反復的で事務的要素の強い活動を好む。 
A我々の生活環境も,上記の型に準ずる型がある。
B人は自分の持っている技能や能力を発揮し,自分の価値観や態度を表現し,かつ,自分にあった役割や問題を引き受けさせてくれるような環境を探し求める。
C個人の行動は,その人のパーソナリティと環境の特徴との相互作用によって決定される。
 
(3)Superの発達理論
・日本の進路指導に大きな影響を与えた理論。
・個人は多様な可能性をもっており,様々な職業に向かうことができる。職業発達は個人の全人格的発達の一つの側面であり,発達の一般的原則に従う発達段階と発達課題がある。職業発達の中核は自己概念である。自己概念を職業を通して実現することをめざした斬心的,継続的,非可逆的なプロセスである。かつ妥協と統合のプロセスである,という考え方。
 
(4)Scheinのキャリア・アンカー
・個人が職業を選択する際には,必ず大事にしたい,こだわりたいというような興味や能力,欲求,価値観,態度といったものがある。「選択する」とは,一方で何かを捨てることであり,人は「捨てきれない何か(大事にしたいもの)」を持っている。Scheinは,この「捨てきれない何か(大事にしたいもの)」を総称して「キャリア・アンカー(進路の碇)」と命名し,8つのアンカーを設定した。
・人生という長い航海で,安全な港に停泊するためのその人なりのアンカー。このアンカーは航海(人生)の中で経験を重ね,悩みながら「発達・熟成」する。
 
【キャリア・アンカーの8タイプ】(Schein,1990)
1. 技術力・職能的能力(職人気質タイプ)
2. 管理能力(管理職志向タイプ)
3. 保証・安定(安定志向タイプ)
4. 創造性(クリエータータイプ)
5. 自律・独立(独立志向タイプ)
6. 挑戦・克服(チャレンジタイプ)
7. ライフスタイル(生活第一タイプ)
8. 奉仕・貢献(奉仕タイプ) 
 
<参考>8つのビジネス・コア機能(Timothy Butler & James Waldroop,1999)
1.技術マニア
2.定量分析マニア
3.理論人間
4.創造的生産人間
5.カウンセリング人間
6.管理志向派
7.組織のリーダー
8.アイディアマン 
 
4.キャリア・ガイダンスの6ステップ
・進路や職業の選択は,次の六つの手順を踏む。人生をどう生きていくかを決めるには,六つの手順を踏むことが大切だが,なかでも選択する前に「やってみること,できれば働いてみること」が大切である。
 
@個性理解〜自分の個性を吟味し,それを描いてみる
 (内容例) ・進路及び職業的適合性はどうか
        ・人事,労務管理の能力はどうか
 (方法例) ・観察法(見て)
・検査法(テストして)
・面接法(会って) 
 
A職業理解〜進路や職業について情報を集め,選択肢を挙げる
 (内容例) ・職業の種類は何があるか
 (方法例) ・様々な情報を伝える(印刷物,インターネット等)
       
B啓発的な経験〜いくつかの選択肢を実際に経験してみること(体験入学,職業実習等)
 
Cカウンセリング〜先生など専門家に相談する
 
D方策の実行〜選択肢の中から一つを選び,実行する
 
E職業適応〜選択した進路や職業で学習を続け,適応する
 
<参考・引用文献>
・教職課程講座第7巻 生徒指導〜生き方と進路の探求,仙崎武編,ぎょうせい,1990
・エンカウンターで進路指導が変わる,片野智治編,図書文化,2001
・教師養成研究会 教職課程講座7 生徒指導の理論と方法;江川?成,学芸図書株式会社,1992
・http://www.mc-compass.com/ordinary/html/jibun02c.html
・コーチングの思考技術,ダイヤモンド社,2001
 

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