サイコエジュケーションとは何か
担当 Ken
1.サイコエジュケーション(psychoeducation)とは何か
サイコエジュケーションは心の教育である
サイコエジュケーションは國分康孝・國分久子教授が1996年に初めて提唱した。育てるカウンセリングの一領域をなす。サイコエジュケーションの表現は原語を重視している。訳語は「心理教育」。「心理学の教育」ではない。「人の心理」つまり感情・思考・行動を教える「心の教育」である。「心理学教育」と混同されるおそれがあるので原語を重視している。定義すれば,以下のようになる。
集団を対象に,特定の事柄について,概念学習及び体験学習を通して,思考・行動・感情のいずれかの変容をねらいとするプログラムを展開すること。(國分2001)
心理療法のサイコエジュケーションとはちがう
育てるカウンセリングの他にサイコセラピーの世界でもサイコエジュケーションという言葉が使われている。「患者の家族に患者の扱い方を教える」という意味である。心理療法の世界で使う「サイコエジュケーション」と育てるカウンセリングにおける「サイコエジュケーション」とは意味が異なる。
「育てるカウンセリング」 とは
國分康孝によると英語でcounseling and developmentと定義している。発達課題を解きつつ成長するのを援助する。
○育てるカウンセリングの3領域
(問題解決的領域)
留年問題、不登校など発達課題を解きかねて困っている人への援助
(予防的領域)
養護教諭の健康相談、エイズ教育、禁煙教育などはこの中に入る。
(開発的領域)
これはSGE、キャリアガイダンス、サイコエジュケーションなど 発達課題を人間的な成長に役立てようとする援助で、教育的色彩の強いカウンセリングである。
2.サイコエジュケーションの内容
○思考の教育
イラショナルビリーフ(非論理的なものの考え方、受けとめ方)を変える。考え方を変えれば悩みが変わることを教えたり、複数の価値観やフレームに触れさせたりする。
○行動の教育
アサーショントレーニング(自己主張訓練)、ソーシャルスキルとかピアサポートとかピアヘルピング、さらに創造的発想法、例えば川喜田二郎のKJ法、ブレーンストーミングなどである。
○感情の教育
子どもたちの自己肯定感を高めたり、人に感謝の感情を伝えたりすることや人にあやまりたいという日常生活の中心的な感情を教えたりすることである。
SGEとサイコエジュケーションの違い
主として強調する部分が「思考の教育」と「行動の教育」である。SGEは「感情の教育」を強調する。
3.サイコエジュケーションの3つの目的
○思考を練る
単純な感情、むかつく、きれるという感情、短絡的行動は思考が練れていないという仮説に立つ。思考は感情や行動の母体である。だから思考を練れば単純な感情、短絡的な行動は予防できる。
○ヒューマンスキルを学習する
ヒューマンスキルとは、「社会生活を快適にするための人間技法のこと」。中身にはアサーションやソーシャルスキルなどが入ってくる。問題解決、愛他的行動(思いやり)や自己主張などで、どう対処していいか、どう動いていいか、その動き方を学習する。
○感情体験を豊かにする
「いじめ」には人の痛みがわからないという側面がある。また、自己疎外感の問題がある。周りに合わせることが中心になって自分のホンネ、したいことがわからなくなってしまい、自己疎外感に陥ってしまう。
自己主張には気概が必要である。例えば引っ込み思案の人や言いたくても自己主張できない人はいまいち気概に乏しい。気概は感情であるから、この気概を体験させ、身に付けさせていくことが必要。
4.サイコエジュケーションの方法
(1)サイコエジュケーションの教授法
○レクチャー(講義法)
○視聴覚教材の活用
○文学作品絵画の活用
○SGE
○ロールプレイ
※ロールプレイの3つの長所
(1)意図的に場面や状況を作りやすい、(2)上手にできなくても相手を傷つけることがない、(3)演じているうちに人の気持ちを推論できる能力が育つという3つの長所がある。
※ロールプレイの抵抗の処理
「役割をうまく演ずることではない、演技力を身につけることではない、周りの人に見せることがねらいではない」ことを説明する。
教師がしてみせる、子どもたちががそれにならう、子どもがやったときはできるだけほめる。そして、改善点があれば、具体的な言い方、表現、言葉の使い方を教えてやる。
※モデリング
ロールプレイをしている時モデリングをする。「人の振り見て我が振りなおせ」これは人の行動を観察していて自分の行動を改めていくことである。
※模倣学習・フィードバック・シェアリング
模倣学習は、手を取り足を取り、学習をさせること、まねをさせることである。
フィードバックは、感じたことや気付いたことを返していくことである。通常フィードバックといったらできるだけ事実を返していくことがポイントとなる。
シェアリングで感情を交流させる。
※介入
介入とは口をはさむことである。教師の方がでしゃばって、ロールプレイの場面で、指示していくこと。何回か体験していくことで、その技法を身に付けていくことができる。
(2)サイコエジュケーションを実施する場面
○総合的な学習の時間・特別活動・保護者会などで
○企業内研修
(3)サイコエジュケーション実施上の留意点
○教師と生徒間のリレーションをつけておく
○ルールを設定する
○導入で意味付けをする
○グループを画一化しない
○うまく参加できない児童生徒にも役割を
○教育カウンセリングの理論や技法にふれる
参考文献
<概説を学ぶために>
國分康孝著「愛育通信より」 瀝々社
1997
國分康孝著「カウンセリング心理学入門」 PHP新書 1998
國分康孝編「サイコエジュケーション 心の教育その方法」図書文化1998
國分康孝監修「現代カウンセリング事典」金子書房2001
國分康孝・大友秀人著「授業に生かすカウンセリング」誠信書房 2001
<実践のために>
國分康孝監修「ソーシャルスキル教育で子どもが変わる」(小学校)1999
園田雅代・中釜洋子著
「子どものためのアサ−ション自己表現グル−プワ−ク」日本・精神技術研究所 2000
國分康孝監修 篠塚信・片野智治編 実践 サイコエジュケーション」 図書文化1999