学習会QUユニット講義資料バックナンバー 1 
アンケートQUを生かした学級経営コンサルテーション
いい学級経営をしていくためにはどうしたらいいのか。何か困ったとき,自分は今何をどうしたらいいのか具体的に考えるには,事例研究会が有効である。しかし,「同じ視点で見る」「同じルールで見る」ということがないと,力を合わせることができない。そこで,QUを利用する。 |
1.QUとは何か?
<利点>
@短時間ででき,大事な点を抑えることができる。
A危ない子どもを事前に発見できる。
Bデータの理解に専門性を必要としない。
C視覚化されている。
<視点>
・学級経営がうまくいかないと指導力の問題とされる。つまり,「指導技術が未熟」「熱意が足りない」と言われている感じがする。ところが,大学に相談に来る先生方はベテランの先生が多く,熱意は十分にある。言えるのは,指導力の問題ではなく,展開している指導が子どもの実態と空回りしてしまっているということ。ボタンを掛け違えてしまっていることが本人に見えないが,回りには見える部分がある。それ故に,ちょっと離れて回りから見てみようということ。
・どこを見るかというと,「学級生活の満足感を知るということ」である。「満足感」がないと,どんなにいい授業を展開しても乗ってこない。楽しい仲間と一緒なら,ちょっとした料理でもおいしく感じる。ところが,その場の雰囲気が楽しくないなら,いくら豪華な料理でもおいしくはないだろう。では,具体的に「満足」とは何かといえば,一つはその集団が「安全」であるということである。もう一つはその集団の中で自分がどれくらい認められているか,つまり「所属感,承認感」があるということである。
<理論的背景>
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5.自己実現 |
4.承認と自尊心 |
3.所属と愛情 |
2.安全と安定 |
1.生理的満足 |
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【マズローの欲求階層説】(本来の図はピラミッド型)
人間は第一の欲求(生理的欲求)が満たされると,次に第二の欲求(安全と安定欲求)が生じ,これも充足されると第三の欲求へとすすんでいく。つまり,上位の欲求は下位の欲求がたとえ部分的にせよ満たされて初めて発生すると考えた。 |
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・QUは,マズローの説を参考にして,X軸にて「安全」を,Y軸にて「承認」を見るように設定している。そして,二つの軸の重なりで学級の子どもを4群にプロットする。
<4群について>
・各プロットは子ども一人一人の主観的なものである。子ども自身がそう思った時点から問題に対応せよが基本。それ故に,教師等による客観的な評価よりも大切にすべきである。
・「非承認群」,「侵害行為認知群」,「不満足群」の子どもたちは,欲求不満やストレスを抱えている。「どうせ俺なんて」という感情はそのままではとどまらない。どこかで安定を求める。安定には二つの方向がある。「自分自身が伸びていって安定する」,「他の人も自分に合わせて引き下げて安定する」のどちらか。特に後者に行く可能性が高い。がんばっている人を冷やかすなど,クラスの雰囲気が悪くなり,崩壊への道をたどる。
<利用の仕方>
・実施の結果,クラスのほとんどが不満足群に入ったとする。その結果だけを見て「俺は何てダメな教師なんだ」と落ち込むくらいならやらない方がいい。そこから何をすべきかを考えるために利用してほしい。問題解決志向でQUを活用してほしい。対応を考え,数ヶ月後にもう一度,QUをとってみる。その時に自分のとった手だてが効果的だったかどうかわかる。その結果を見て,再度検討していけばいい。
<小中学校版と高等学校版の違い>
・高校の項目には自分の所属校に対する認知の項目が入っている。選抜されて入るわけなので,そこは重要なポイントである。所属校によっては,スタートの時点から傷ついている。「どうせ俺は第二志望にしか入れなかったダメな奴」という認知。でも,そこからやるしかないんだということが大切。
*なお,高等学校版は図書文化社に直接注文で手に入る。
<2つの尺度>
・QUは「満足度尺度」と「スクールモラール(学校生活の様々な領域に関する意欲,士気)尺度」の2つの尺度から構成されている。
・小学生はモラールが,「学習」「友だち」「学級」に分化。教師との関係は「学級」に含まれている。ところが,中学生の場合は「学級」が「学級そのもの」と「教師」に分化。さらに,「進路」「部活動」が入ってくる。
・QUについている補足記入事項は,ある意味で「ソシオメトリックテスト」。ソシオをマイルドにしたものだが,対象児童生徒が敏感すぎるようなら実施しない方がよい。
・荒れているクラスに実施する場合には,名前を書かないで実施する場合もある。
<プロット図の見方>
*図はHTMLファイルで表示できないので,ここでは省略する。
・図1のように学級内のほとんどが不満足群に集中する状態では手の打ちようがない。
反抗的な男子グループも不満足群に入っている。いじめた,いじめられたが日常的に頻繁。何人かが休みがち。くい止めるのがやっという状態。これ以上状態が悪くならないように,そして,子どもたちが傷つかないように危機介入が必要。
・図2の頃ならまだ対応できる。反抗的な男子グループは侵害行為認知群に入っている。認められた感じはあるが,何らかのトラブルを持っている。全体的に承認感の低い学級。担任は意欲は少ないが,比較的まとまりのいい学級という認識を持っていた。これは裏を返せば,面白くも何ともないけど,怖いから黙っていたという状態。この学級は1学期の時点では何とか持ったが,2学期になると崩れだした。1学期の時点で学級が動いていたということ。
<何故,早い段階でのQUか>
・なぜ,6月の時点で本セミナーを開催したのか。今の時点ならまだ学級を立て直すことが可能だからである。集団は形成されてから1ヶ月たつとほぼ固まってくる。「辛い学級,嫌な学級」という感じを持ち出すと,それを「0の状態」に戻すことで大きなエネルギーが必要になる。つまり,「0からプラス」に変えるよりも,「マイナスから0,さらにプラスへ」ということでは,2倍の力が必要になる。だからこそ,学級の状態がマイナスに陥る前の1学期の対応がとても大切ということである。
・学級の崩壊が表面化するのは11月頃が多い。何故か? 9,10月は行事が多い。それが終え,授業に戻ったときに学級の規範が崩れていくからである。
・次に多いのが1,2月。これは冬休み明け。そして,6月も多い。何故か? 前年度からの荒れを引き継ぎ,新しい担任が前の指導方針を引き継いでしまったというパターン。
・学級崩壊が起こってから実態把握をするのは辛い。崩壊が起こる前なら,実態把握をして,「ここを気をつけるといいよね」とアドバイスができる。そして,2ヶ月後,もし悪い方向に変化があったとしても,「あれ,前よりこうなってるよ」と隠さずに言い合うことができる。
・同調性が一番高いのが思春期。多数派に入って安定したいという心理が働く。学級がガタガタだと特に同調性が高まる。一人だけ目立つのは嫌という心理で,同調性はプラスにもマイナスにも働く。
・集団の同調性がプラス,マイナスのどちらに動くかを判断する目安は,「50%」という数字。学級の半分以上が満足していない状況だと,同調性がマイナスに動いてしまう。集団というのは,いじめの構造と同様,「傍観者」から「観衆へ」のように動いていて,固定化していない。どう動くかのポイントは一つだけ。「自分が被害者だけにはなりたくない」という心理である。だからこそ,先手を打つことが大切なのである。
2.コンサルテーションについて
(1)学級集団の現在地の確認
・学級がどのパターンになっているのかをつかむためにプロット図を作成する。そのパターンを見ると崩壊等に向かうある程度の予測はつく。学級が崩壊していくには規則性があるからである。
・現在地をおさえるポイントとしては,「ルール」と「リレーション」の確立はどうかを見ることである。
・「ルール」として,「廊下は走らない」とか「チャイムが鳴ったら席に着く」などの他に,大きなものとして「コミュニケーションルールがあるかどうか」ということが大切である。10年前に不登校は7000人。この頃の子どもたちはお互いのコミュニケーションを察することができたし,家庭等で最低限のしつけはされていた。けんかをしてもどこまで殴ってもいいかということがある程度わかっていた。しかし,今の子どもたちは,共有のコミュニケーションがなく,自分を守るにはかかわらなければいいという消極的な考え方が多い。ルールができていない学級においてはまず,そのルールを設定することから始めないといけない。加えて場面の設定も必要。SGEで「ハイ,2分間で」「3人組になって」「このエクササイズをやります」というようなコーデイネイトをしてもらうとすごく楽になる。ルールがきちんとしていないと,SGEも言った者勝ち,正直者が損をする,周りの子どもは口を閉じるようになる,というような状況に陥ってしまう。学級も同じである。ルールがないと,力の強いものが「俺がルールだ」と宣言し,一人だけ満足するような学級が生まれてしまう。
・ルールとリレーションは同時に存在する。ルールがあるところでは,人間関係づくりのきっかけが生まれ,そして,リレーションが高まっていく。
<ルールとリレーションのパターン分布>
*ルールのある学級は,子どもたちが学級に対して安全であるという意識を持っているために,満足群と非承認群にプロットされ,集団が立て伸びの分布になる。一方,リレーションのある学級は,子どもたちが自分は認められているという意識を持っているために,満足群と被侵害行為認知群にプロットされ,集団が横伸びの分布になる。(図は省略)
<ルールのある分布からの変化>
・集団が立て伸び(満足群と非承認群にプロットされた子どもたちが多い分布)。ルールがしっかりしているため侵害行為を認知していないが,認められて満足している子どもと認められないで不満足の子どもが階層化。その理由は,「教師の評価の観点(物差し)」による。つまり,「A君,すごいね」という教師の評価は「あなた達はダメね」と聞こえる。「ダメだ,私たちは先生から認められていない」と思った子どもは不満足群に流れていく。(分布が斜めに傾く) そして,さらにまじめな子どもたちの足を引っ張りはじめ,学級の崩壊が進む。
<リレーションのある分布からの変化>
・集団が横伸び(満足群と被侵害行為認知群にプロットされた子どもたちが多い分布)。教師が穏やかで友だち感覚のかかわりをする学級。締め付けが弱いので子どもたちは,認められている感覚は持っている。周りから見ると明るい学級であるが,騒々しい学級という印象。ルールが弱いので,いじめられたという思いを持つ子供もいる。その子どもたちはだんだん学級にいるのが嫌になる。不満足群に流れていく。(分布が斜めに傾く) そして,さらにまじめな子どもたちの足を引っ張りはじめ,学級の崩壊が進む。
・学級が崩壊していくプロセスにはある程度の段階があるということである。だからこそ,学級集団の現在地を確認することが第一段階として大切。
(2)教師の指導タイプは何か? (どんな物差しを子どもに当てはめているのか)
・満足群にいる子ども,不満足群にいる子どもを見つめてみる。すると,共通項が見えてくる。例えば,「成績がいい子」「運動の得意な子」など。このクラスで認められるのは成績なんだ,先生は成績のいい子を褒めてかわいがっているんだ,という受け止め方を学級の子どもたちが感じているということになる。先生が私たちを測る物差しは「成績か」と。教師が自分自身の物差しに気づくことも大切。
(3)学級集団の目的の確認
・現在診断した学級集団を1,2ヶ月後にはどの地点まで行かせたいのかを考える。あまり先を見すぎてもいけない。ある程度の段階を踏むために,まずは,1,2ヶ月後を見据える。その目的地に行くために,いくつかの方法を検討する。方法として13のプロセスを考えている。(K−13法)
3.K−13法を用いた具体的な展開
*事例提供者は学級のプロット図を提示する。
(1)事例提供者は学級集団の事例の一部分(インシデント)を発表する。
@リーダー児童生徒の説明
A配慮を要する,または予想外の児童生徒の説明
B学級内グループの説明
C学級の問題の説明
*参加者は分析表に記号(○,△,□)等で書き込みをする。
(2)参加者は事例に関する質問をし,情報を得て,問題の全体像を理解する。
D参加者は事例提供者に疑問点,確認点を質問する。
*この段階にて,司会者が促して必ず説明してもらう内容
・学級経営方針
・日々の授業の進め方の概略
・4群ごとの児童生徒の特徴と担任のかかわり
<インシデント・プロセス法とは?>
事例提供者は事例を一部分(インシデント)示すにとどめ,参加者は事例提供者に質問することで事例に関する情報を得,問題の全体像を理解していく。メリットは次のとおり。
・メンバー間のチームワーク向上
・メンバー間の知識向上,問題解決への意欲向上
・メンバーの問題解決能力の向上 |
(3)アセスメント
E参加者全員で,考えられる問題のアセスメントをできるだけ多く発表する。(紙片に書いてもいい)
F似たもの同士を集めて整理する。
G重要だと思われる順に並べ,理由もあわせて発表する。そして,全員で協議して統一見解を作る。
(4)対応策の検討
H統一見解としてまとめた問題の解決方法をできるだけ多く発表する。(紙片に書いてもいい) *誰でもが物理的に取り組める内容にする。
I似たもの同士を集めて整理する。
J重要だと思われる順に並べ,全員で協議して統一対応策を作る。
*目的地は明確にする。その際,2週間後,1ヶ月後のサブゴールの見通しも明確にする。
K事例提供者の不安な点,懸念される問題点について確認する。
(5)結論と決意の表明
L事例提供者が,取り組む問題と具体的な対応策をみんなの前で発表する。
*フォローアップとして,1,2ヶ月後に再びQUを実施し,ポジティブな変容が認められないときには,再度,同様の会議を開催する。
<ブレーンストーミングとは?>
アメリカの心理学者オズボーン考案。集団の検討会で,メンバーが出すアイディアの数を増大させるための手法である。メンバーが意見を出しやすいように,基本原則をまず提示する。(1)批判・評価厳禁,(2)自由奔放に発想,(3)質よりも量,(4)改善発展
まず最初の人がアイディアを発表する。その後,別の人がこのアイディアを発展させたり,新しいアイディアを提示したりしながら続ける。
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<KJ法とは?>
川喜多二郎考案の情報整理法。ブレーンストーミングで提示された個々の情報を同じ概念同士でまとめ,そのグループに上位概念となる表題をつける。続いて,表題ごとにさらに同じ概念でまとめられるものがあれば,まとめる。 |
4.K−13法を用いたコンサルテーション実施上の留意点
・学級集団の現在地を確認するとき,その状況を担任のパーソナリティに返さないこと。実態と指導法とのミスマッチということに返すように。マッチする方法を見つけるためのアプローチというとらえ方で進めたい。
・会議の中に「仕切屋」がいてはダメ。みんなが同じ土俵で話し合いができるように。
・よりよい学級づくり,教師のメンタルヘルス(悩みを一人で抱え込まないように),社会的立場を守るため(これだけのことはやってきていますよ,という発信)の「ツール」としてQUを使ってほしい。
・それまでの担任のやり方を否定してはダメ。それまでの考え方を尊重しながらも「ここはこうしたらどうですか?」。今までのやり方をもっとよく生かすために,という考え方。
・担任に,「これはできない」と思わせたらダメ。
・今よりも「ちょっとでもよくなる(モア・ベター)」の考え方を基本として。
・解決策はとにかく具体的にすること。どうにもとれるような曖昧な策では進められない。
【参考】秋田県総合教育センター提唱;「サンプル事例方式」
秋田県総合教育センターでは,平成11年度の研究紀要にまとめた「サンプル事例方式」を校内事例研究会の新しいスタイルとして提言している。K−13法とその進め方がよく似ているので,以下に紹介する。
<サンプル事例方式とは何か?>
・あらかじめサンプル化された事例を使い,「事例提供」の負担を減らす。
・1時間で終了する。
・小グループ形式で,全員参加型の協議スタイルをとる。
・初期対応の在り方に重点を当てる。
・原因究明ではなく,対応と援助に重点を当てる。
<具体的な進め方>
(1)目的,方法の確認(5分)
(2)サンプル事例の説明(5分)
(3)事例についての質問(10分)
(4)小グループによる協議(20分)
・5人程度の小グループを作る。
・グループ内で進行,記録,発表者を決める。
・事例の子どもをどう理解するかを話し合う。
・具体的な対応策をできるだけ多く出す。
・全員から出された対応策に優先順位をつける。
(5)グループからの発表(15分)
(6)全体まとめ(5分)
<サンプル事例方式の自校事例への発展>
・サンプル事例方式での事例研究会を数回行うことで,自校の事例検討がスムーズに行えるようになると思われる。
<参考・引用資料>
・学級経営セミナー講義資料(河村茂雄先生),2001.6.9,盛岡会場
・問題行動への初期対応講義資料(野口俊温先生),2001.6.26,生徒指導における危機管 理講座
