2001学習会講義資料バックナンバー 4 

            「学校に活かす内観」

1.内観療法の基本的考え方
・「自己とは何か」を見つけるために,西洋から入ってきたカウンセリングや心理療法では自由に話し合ったり,催眠やイメージの中で自分を探ったり,絵を描いたり,箱庭を作ったりしながら自己理解を深めるような手法をとる。ところが日本では,何か悩みごとがあると一人静かに寺にこもる風習が平安時代からあった。鎌倉時代には座禅も始まり,ただ座ることを通して自己の本質を悟ろうとした。吉本伊信によって,昭和28年に創始された内観療法は,この日本の風土と歴史から生まれた自己探求法である。静かな場所にこもって自分の歴史を回想する内観療法は現在,日本各地のみならず,欧米でも実施されている。

<基本型〜1週間の集中内観>
(1)状況設定
@場所;静かな個室
A姿勢;楽な姿勢で座る
B時間;朝6時〜夜9時,1週間
C作業;テーマに沿って自己探求

(2)内観のテーマ
 身の回りの重要な人物(母,父,配偶者等)について「世話になったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を年齢順に具体的な事実を調べていく。(まず,小学校3年生まで,次は6年生まで,その次は中学時代というように)

(3)カウンセラーとの面接
@場所;クライエントの部屋
A位置;対面
B時間;1〜2時間ごとに3〜5分,1日8回

2.どんな子どもたちに使えるのか
・もともと内観療法は,精神的に健康な人の自己探求法として使われていたが,来談者の中には神経症,心身症,対人不和など人生の様々な問題に苦しむ人もあり,そうした問題にも効果があることがわかった。そして,今では,心理療法としての機能も明確となり,健康な成人のみならず,親子関係の不和,不登校や非行,家庭内暴力や心身症などの子どもたちにも適用されるようになってきている。

<適用上のポイント>
・子どもが内観するときには親も同行して内観するとよい。そのことによって子どもの内観への動機付けを強め,親子が共通の体験をし,相互理解が促進され,その後の親子関係や夫婦関係が改善され,家庭の雰囲気がよくなり,子どもの問題行動や症状の改善に結びつくからである。

<適用上の注意点>
・内観への動機付けが弱いときには,子どもに内観を強制するのは避けた方がよい。カウンセラーとのラポールが結べず,苦痛なだけである。それよりも親だけでも内観すると,子どもへの理解が深まり,家庭での親子関係が改善し,問題や症状の解決のきっかけになることがある。

3.学校での活かし方
 学校において特に大きな問題を持たない普通の生徒たちに対しては,次のような方法が考えられている。
(1)宿泊学習での10分間内観
・内観に関する考え方,やり方の簡単な講義のあと,10分間内観を実施。ある生徒は「母に対して内観をしていくと涙が止まらなくなった。母はこんなに苦労したんだ,辛かったんだろうな,という思いが止まなかった」と記した。

(2)学校行事としての4時間内観
・1日2時間ずつ2日間で4時間,教室や体育館で生徒に内観を実施。ある生徒は「はじめはどんなことをするのか不安だったが,やってみると,両親に何もかもお世話になり,先生にもいろいろ迷惑をかけたり,教えていただいたこと,叱られたことが噴水のように思い出された。改めて,感謝の心がこみ上げてきた。そして,不思議と気持ちが安らいだ」と記した。
 
(3)ホームルームでの3分間内観
・学習意欲が乏しく,集中力に欠ける生徒たちへの指導に悩んでいたとき,3分間内観を半年間実施した。その結果,生徒たちの表情が次第に穏やかになり,素直さが感じられるようになった。内観によって生徒たちは情緒的に安定し,様々な活動意欲を高めたという実践報告がある。

(4)記録内観
・授業のレポートとして自宅で短時間内観した結果を報告させた。ある生徒は「母に対する気持ちや考えが,自分自身の中に確実に残されていくのを感じた。苦労をかけている母に,申し訳ないという気持ちとがんばろうという気持ちになれただけでもうれしかった。この経験をこれからの人生に役立てたい」と記した。

【参考】内観;エンカウンターで学級が変わる2中学校編より
(1)インストラクション〜内観の説明
@過去,お世話になったと素直に思える人を思い浮かべる。
A自分がその人にどんな接し方をしてきたかを調べる。項目は三つ,「お世話になったこと」「迷惑をかけたこと」「お返ししたこと」について,具体的な事実を思い出す。
B15分間,三つの項目について箇条書きにする。

(2)エクササイズ(15分)
・ワークシートへの記入

(3)シェアリング
・ペアになってのインタビュー
・インタビューが終了後,自分が感じていることをワークシートにまとめる。

(4)まとめ


<参考・引用資料>
・子どもが生きるカウンセリング技法第8回「愛情の再体験と自己中心性の自覚」.三木善彦.児童心理.金子書房 

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