2001学習会講義資料バックナンバー 3−1 

 
「ストレスマネジメント」について
 
1.ストレス,ストレスマネジメントとは何か
・ストレス反応の軽減を目的とした介入のことを「ストレスマネジメント」と呼ぶ。なお,「ストレス」という用語は,「心身の適応能力に課せられる要求(ストレッサー)」と「その要求によって引き起こされる心身の緊張状態(ストレス反応)」を包括的に表す概念である。(有斐閣心理学辞典.1999)
 
2.秋田大学大学院臨床心理学特論(鶴光代教授)の講義から
・現代はストレスマネジメント教育が必要なのではないか。スウェーデンの小学校では,休み時間に「これからストレスマネジネントを始めます」と言って,リラクゼーションタイムが始まる。子どもたちは室内にマット等を敷き,楽な格好でくつろぐ。現代の子どもたちには,自らリラックスしようとして実際にリラックスできる力が必要である。
・「寒い」というのは単なる刺激である。その「寒さ」を「嫌だなぁ」と思ったときに初めてそれは「ストレス」になる。(「寒さ」がストレッサーとなり,「不機嫌な感情」としてのストレス反応を生じるということ) つまり,「認知」が大きく関与しているということであり,ストレスは人が自分自身で作り出すものと言える。「ストレスは内にある」。
・ストレスという言葉を一般化したのはセリエ。しかし,セリエが唱えたストレスとは,物理的な刺激が加えられたことによって生じた身体のひずみであり,心理的ストレスではなく,「生理的ストレス」のことである。(ゴムボールを指で押したときの状態図がよく紹介されている) 人の血液中の水分は,多くなると汗,尿として出てしまい,少なくなると水を飲んで一定の量を維持している。人の身体は環境が変わってもそれまでの状態を維持していこうとする。この生体のバランス傾向はキャノンによって,「ホメオスタシス」と名付けられた。「ストレスは外にある」と言われた時代。
・「受験はストレス」「渋滞はストレス」「雪が多いのもストレス」というような言い方がされる。しかし,「受験」等は単なる刺激に過ぎない。それらはその人が,認知したときにはじめてストレッサーとなる。つまり,「考え方(認知)次第で悩みは消える」という根拠はここにある。
・ストレス等に対する対処能力のことを「コーピング」という。コーピングは,「多様性」を関連する。選択肢を多く持っている人は強い。あるストレス状態に陥ったとき,「どのような対処の手段を持っているか」,「どのような対処が可能か」,「対処の効果は期待できるか」等,様々に考えるプロセスを持っていると強い。コーピングは「積極的な対処」とも言われる。対して,「消極的な対処」もある。主に「逃げる」ということ。セリエは「できないことはしないほうがストレスを防ぐ」と述べている。
・ストレスマネジメントには,「ソーシャルサポートネットワーク」も大切である。人はどれくらいネットワークを持っているかで,ストレスの感じ方が異なる。豊かに持っているかどうかより,サポートをしてくれると主観的に持っている認知こそが大切。いざというときに頼りになる人を何人持っているかで,違ってくる。

<参考>A・エリスの論理療法(ABC理論)

 人は,A(出来事)→C(結果)と思いがち。例:会社が倒産(A)→体調を崩して入院(C)。ところが,同じAでも→奮起して立ち直る(C)人もいる。この違いは何か? AとCの間にB(信念)が存在し,Bの持ち方によって自らCを導いたと考える。前者は「会社をつぶした俺はダメな人間である」という信念,後者は「一つの会社をつぶしたからといっても,俺の全てが否定されるわけではない」という信念。人の悩みの多くは,自らが作りだしているものであるし,考え方を変えることによって,悩みが消えるのではないかというのが,その骨子である。
 
 
3.リラクゼーションを用いたストレスマネジメントプログラムの紹介〜三浦正江先生(広島国際大学人間環境学部臨床心理学科専任講師)の研究から  
(1)プログラム内容(別資料)
 @ストレスに関する理解
  ・ステップ1〜ストレスってなぁに?
  ・ステップ2〜どんなときにストレスを感じるの?
  ・ステップ3〜ストレスに強いってどんなこと?
  
 A漸進的筋弛緩法の習得
  ・ステップ4〜ストレス撃退テクニック「リラクセーション法」
 
(2)プログラムの効果 
・三浦先生は,教育心理学会等の発表の中で,プログラムの効果を「級友との関係」,「学習への意欲」,「教師への態度」の向上が認められたとしている。これらは学校生活全般に対する適応感(モラール)の向上という見方もできる。学校適応感(スクールモラール)は不登校,いじめ,学級崩壊などの問題行動と密接に関係があるという従来からの知見を考慮すれば,プログラムの実施は学校現場における様々な問題行動の予防につながる可能性が示唆されたと結んでいる。
*三浦先生の研究の詳細は参考文献にて。
 
4.ストレス反応の測定
・三浦先生は24項目からなる「中学生用ストレス反応尺度」も作成している。この尺度は「不機嫌・怒り感情」「抑うつ・不安感情」「身体的反応」「無気力」の4つの下位尺度からなるものである。
 
<参考文献>
・「中学生の学校場面におけるストレスマネジメントに関する予備的研究」.三浦正江,上里一郎.1999.日本教育心理学会第41回発表論文集
・「中学生の学校場面におけるストレスマネジメントプログラムの実施」.三浦正江,上里一郎.2000.日本教育心理学会第42回発表論文集


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