2001学習会講義資料バックナンバー 2
「学校現場に生かす統計〜t検定」
t検定、それは2つの群の間の平均の差が偶然なのか、そうでないのか。それを調べることができる統計方法のひとつです。
…と言われても、何のことだかよくわからないのが統計ですよね…。
計算は自分でやろうとするととっても面倒なのですが、パソコンの中に入っている表計算ソフト「EXCEL」を使うとあっという間に計算してくれます。なので、ここでは計算式の意味や作り方、その理論などという(私にとってはとっても難しい…)ことはとりあえず優秀なパソコン君にお任せして、その使い方や考え方について少しだけ説明してみましょう。
*皆さんは、こんなことを考えたことはありませんか?
エンカウンターをやると生徒達がとても楽しそう。クラスの雰囲気もなんとなくよくなっているような気がするし、生徒たちの授業中や休み時間の様子もなんだか前と違うみたい…。エンカウンターってやっぱり生徒たちにはいいみたい。でも本当に何か変わってるんだろうか?だとしたら、どんなことだろう?それってエンカウンターのおかげなのかな?どうすればはっきりと違いが見えてくるんだろう??変わったように感じるということだけでは、あまり説得力がないかもしれない。誰にでもちゃんと説明できるようなことはないのかな?何をどうすればいいんだろう?
⇒こんな時は、データを使うという方法があります。エンカウンターをやる前にはこのぐらいだったものが、やった後ではこのくらいの数値になったんですよ、というように、数字でみてみると変化がよく分かってくると思います。
さて、こんなときに使える質問紙(アンケート)には、どんなものがあるというと…。
・社会的スキル尺度:戸ヶ崎・岡安・坂野(1997)によって作成された「中学生用社会的スキル尺度」
社会的、対人的な場面において、関係をスムーズに進めていくため、つまりはうまくつきあっていくことができるために必要な社会的、対人的な技術のこと。 |
・ストレス反応:三浦・福田他(1995)によって作成された「中学生用ストレス反応尺度」この質問紙では、「不機嫌、怒り」「抑うつ、不安」「無気力」「身体反応」などについて測定することができます。
・自尊感情(self-esteem):Rosenberg(1965)によるself-esteem尺度の翻訳版(星野命,1970)
自分が大好き、自分を大切にできる、自分を自分として受け入れることができるという気持ち |
これ以外にも、エンカウンターの目的にあった質問紙、尺度を用いて、エンカウンターを実施する前と実施した後で、得点を比較してみると、生徒たちの変化がとてもよく分かると思います。
アンケートを取る場合は、1回ずつの実施について…というよりは、何度かエンカウンターを繰り返し行った後にやってみたほうがいいと思います。エンカウンターによる十分な変化が自分なりに認められる時、その裏づけとして。または何が変わっているのかよく分からない、もしかしたら何も変化がないんじゃないだろうかと感じた時などの確認の意味で用いてみてはどうでしょうか。
さて、アンケートを実施してみて、数字的にはなんとなく差が出てきたように見えるけれども、それはただの偶然の結果なのか、本当に何か意味のある差なのか…。微妙な差しか出ていなかったりすると、迷うところです。これは本当に意味のある差なのだ!と言うためには、その根拠が必要です。
そこで使えるのがt検定です。現れた差は、意味のあるものなのかどうか(エンカウンター効果によるものなのかどうか)を、パソコン君で計算してみてください。
↓ その結果の見かたは、と言うと……。
t検定を行うと、t値の出現確率(p)がわかります。この出現確率の意味は以下の通りです。
出現確率 | 有意水準 | 論文記載上の表現 | 表中のマーク |
p > .10 | 「有意でない」 | n.s | |
.05 < p < .10 | 「有意傾向である」 | † | |
p < .05 | 5% | 「有意である」 | * |
p < .01 | 1% | 「有意である」 | ** |
有意水準というのは、つまりはそのt値が偶然出てくる可能性のことです。例えば有意水準1%というのは、100回同じ調査をやったとして、このような結果になるのは1回だけだ、100回に1回なら、偶然と言ってしまってもいいだろう、ということです。偶然出てくる可能性が小さければ小さいほど、その差は何か意図した結果によって生じたものであると考えることができます。そのため、pが小さいほど有意であると言えるのです。
例えば、エンカウンターの前後で、社会的スキルの得点の差を検定してみて、上記のような5%、1%水準の結果が出てきたならば、それはエンカウンターによる変化であるのだ!と言うことができるのです。つまり、エンカウンターをやることによって生徒達の社会的スキルが向上したということですね(減少するということはまずないと思いまが、もし、平均点がエンカウンター後の方が低く、それが有意であったとしたら、逆にエンカウンターは社会的スキルを低下させるものであると言えます…)。
また、有意水準は危険率とも言います。t検定をする場合、初めに帰無仮説というものを立てます。これは、文字通り、無に帰する仮説、捨てる仮説です。つまり「2つの群の差はエンカウンターによるものではない」という仮説を立てるのです。その仮説が成立する確率(有意水準)が小さければ、それは捨ててもよい仮説であるとなります。しかし、成立する確率が5%、または1%はある、とも言えます。本当は正しい仮説を捨ててしまう危険性がそれだけあるということで、危険率という言い方になるのです。このあたりは注意して統計処理をしてください。
皆さんもこのようなアンケートやt検定を利用して、エンカウンターの効果を更に実感してみてはいかがでしょうか。
* ちなみに、今回ご紹介した質問紙については、KAZUさんが詳しくご存じです。対人不安意識などについて知りたい方は、後ほど個別にお知らせ下さい。
さらに詳しく統計について知りたい方には、こんな本がおすすめです。
・ 推計学のすすめ〜決定と計画の科学〜 佐藤信著 BLUE BACKS
→統計についてとても分かりやすく書かれています。計算式などがとても少ない、読みやすい本だと思います。ちょっと面白話を通して統計を知りたい人にはおすすめです。
・ ユーザーのための教育・心理統計と実験計画法〜方法の理論から論文の書き方まで〜
田中敏・山際勇一郎著 教育出版
→ちょっとややこしい統計の手法も分かりやすく書いてあります。計算式やその意味、なぜそう計算するのか等、本格的に統計を知りたい人の入門編です。