2001学習会講義資料バックナンバー 1 

「構成的グループエンカウンター(Structured Group Encounter=SGE)とは何か」

 構成的グループ・エンカウンター(SGE)を語るには,エンカウンター,グループ・エンカウンターをまず,語らねばならない。

1.「エンカウンター」,「グループ・エンカウンター」とは何か?
 「エンカウンター」という用語は「出会い」という意味。出会いとは縁を大事にした触れあいのことである。ホンネとホンネの交流をするという意味でも使う。このエンカウンターをグループで実現しようとするので「グループ・エンカウンター」という。

2.二つのグループ・エンカウンター
 グループ・エンカウンターには二つの種類がある。
(1)ベーシック・グループ・エンカウンター(非構成的グループ・エンカウンター)
 1960年代以降,Rogersらによるアメリカの人間性回復運動(ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント)の中で展開してきたグループ体験。これは,後にRogersがパーソン・センタード・アプローチという呼称を用いたものと同一のものである。自由討議を主たる内容とし,ルールの取り決めも少なく,リーダーの主導権が極度に低いのが特徴。

(2)構成的グループ・エンカウンター
 國分が1970年代半ばに我が国に紹介,普及した「構成的グループ・エンカウンター」である。リーダーが用意したプログラム(エクササイズ)により作業や討議を行うのが特徴。

*両者の比較 
 どちらの方法が優れているのかという議論は不毛であるが,國分・菅沼(1979)が「非構成法」と対比しての「構成法」の意義を簡潔にまとめているので以下に引用する。

 「非構成法」に対比する「構成法」のメリットは次の通りである。
1)レディネスに応じてスピードを調整できる。
2)レディネスに応じてレベルを調整できる。
3)専門的リーダーでなくても展開できる。
4)時間に応じてプログラムを伸縮できる。
5)短時間にリレーションを高められる。
6)グループサイズを大になし得る。

 また,國分(1992)は,大学生のグループをYG検査を用いて測定したところ,三泊四日の合宿制グループに関する限り,「構成法」も「非構成法」もその効果に差がなかったと報告している。そして,効果の差がないにもかかわらず,あえて「構成法」を主張する理由を次のように述べている。

1)所定の時間に納められる。沈黙だけ続いて解散ということがない。
2)参加者のレディネスに応じてエクササイズの順序と時間配分とリーダーの介入を勘案するので,心的外傷を予防しやすい。
3)内容的にも時間的にも枠があるため,グループが荒れに荒れることがない。したがってリーダーはカウンセリングの専門家でなくてもできる。
4)150人,200人といった多人数にも活用できる。
5)構成法のリーダーは支配的・能動的・家父長的・自己開放的な人物が適しており, 教師や企業家,社会教育家の中に適任者を見つけやすい。

3.構成的グループ・エンカウンター
(1)ねらい
 グループ・エンカウンターの目的は「ホンネとホンネの交流のできる人間を育成すること」である。構成法を提唱する國分は,2に詳述するエクササイズとシェアリングによって,「集団内にリレーション(心と心のふれあい)を作ることと個々が自己発見をすること」の二つを目的としていると述べている。

(2)SGEのキー概念の構造化(*ワープロソフトで,キー概念を図にして構造化してありますが,うまくHTMLファイルに変換できず,チャレンジ中です。興味のある方は,メールをいただければ,一太郎ファイルでお送りします。)

*ジョハリの窓〜自己並びに他者から見た自己の領域を表す概念。ジョセフ・ルフトとハリー・インガムが提唱した概念であるので,二人の名前をとってこの名称がある。

ジョハリの窓
自分が知っている自分 自分が知らない自分
他者が知っている自分 A 自他にオープンな領域 B 自己盲点の領域
他者が知らない自分 C 秘密の領域 D 無意識の領域

・構成的グループエンカウンターは「小なるAを大なるA」に拡げていく効果がある。つまり, Bの領域をAに組み込むにはフィードバックで相手に気づかせてあげることであり,Cの領域をAに組み込むには自己開示して相手に自分を知ってもらうことでAの窓が拡がっていく。

(3)SGEの3本柱
@インストラクション
 目的,やり方,留意点やコツについて説明することをインストラクションという。「簡潔明瞭」がポイントである。特に目的を言う際には,リーダー自身の体験を通して語りかけると有効。

Aエクササイズ
 エクササイズとは心理面の発達を促すための課題であり,自己理解や他者理解,自己受容,自己主張,信頼体験,感受性の促進などをねらっている。エクササイズはカウンセリングの様々な理論に基づいて構成されるものである。

Bシェアリング
 シェアリングとは,わかちあいや振り返りの意味であり,エクササイズを通して,気づいたり,感じたりした,自分のことや他者のことをホンネで伝えあう。気づきや感情を明確化し,ねらいを定着させる働きを持っている。さらに,一人の生徒の気づきや感情を集団全員が共有する働きもある。

4.グループ・エンカウンター略史
 今日のグループ・エンカウンターに類するものが昔にも三つあった。
(1)サイコドラマ(心理劇)
・1910年,ウィーンにて誕生。現実の生活場面で体験したことを舞台の上で観客を前に演ずる。サイコドラマの骨子は外界に左右されず,自分のホンネが出しやすくなるということがグループ・エンカウンターに通ずる。集団心理療法の祖と言ってもいい。

(2)道徳再武装(オックスフォードグループ)
・1920年代,イギリスにて誕生した学生グループ運動。ねらいはマスターベーションの罪障感からの解放。自分の罪障感を告白しあうことにより,仲間意識ができる,そして,その意識が罪障感を消すと考えた。「告白」という点が,現在のエンカウンターに酷似している。

(3)禁酒同盟
・1935年,アメリカにおいて,オックスフォードグループの影響を受け誕生。アル中患者の告白グループ。

 今日のグループ・エンカウンターにつながった二つの流れがある。
(ア)アメリカ東部のエンカウンター。1940年代後半。レヴィンをリーダーとして地域の代表者が地域の諸問題に対処するために集団討議をした。その討議自体に意味があることに気づいた。1947年,討議そのものを目的とした集団を「グループ開発実験室」と称し,やがて1949年,「Tグループ」と命名された。主催は全米トレーニング・ラボラトリー(NTL)である。

(イ)アメリカ西部のエンカウンター。現代アメリカ社会の諸問題(人口移動の激しさ,家庭生活の希薄化等)に起因する「根無し草」的人間から何とか脱却する方法として登場。1962年設立のエスリン研究所が中心。ゲシュタルト療法の祖,パールズが有名。

*その他にもグループ・エンカウンターのセンターとして著名なものがいくつかある。ロジャーズの「人間研究所」のラ・ホイア・プログラムなど。

 日本のグループ・エンカウンターはいつから始まったのか。三つの説が考えられる。
a)1955年,友田不二男が始めたカウンセリング討論検討会。
b)1958年,日本キリスト教協議会がアメリカ,カナダから指導者を呼んで実施。
c)1970年,畠瀬稔らが「エンカウンター・ワークショップ」として実施。

 野島(1999)は,グループ・エンカウンターを含む「グループアプローチ」の歴史を次のように整理している。

 「グループアプローチ」とは「自己成長をめざす,あるいは,問題・悩みを持つ複数のクライエントに対し,一人または複数のグループ担当者が,言語的コミュニケーション,人間関係,集団内相互作用等を通して心理的に援助していく営みである」と定義している。グループアプローチには,グループサイコセラピィ,サイコドラマ,グループカウンセリング,グループワーク,集団指導,集中的グループ経験などが含まれる。(グループ・エンカウンターは集中的グループ経験に含まれる)
 グループアプローチの実践・研究の流れの中で我が国においてどのようにグループ・エンカウンターが紹介され,広まっていったかについて,野島(1992),佐治(1983),國分(2000)らの文献・資料から以下のように整理した。

<参考>類似語の識別を!!
・グループサイコセラピィ〜集団心理(精神)療法。専門家による治療であり,相談とは違う。精神疾患患者が対象。
・グループワーク〜例えば情報能力の訓練など,「能力」にウェイトが置かれる。
・グループカウンセリング〜個人カウンセリングに対する概念。集団の力学的機能によって,自己理解と行動変容を進める試み。人数は8人前後。多すぎても少なすぎても難しくなる。

・1905年,Prattのクラス法が現代的意味でのグループアプローチの始まり。結核患者が対象の治療。
・1910年,Morenoの心理劇。心理劇とは,個人に焦点を当てる「サイコドラマ」,集団の課題に焦点を当てる「ソシオドラマ」,役割機能の発展をめざす「ロールトレーニング」(教育領域では「ロールプレイング」)を総称した呼び方。
・1930年代,Slavsonによる精神分析的集団精神療法。
・1946年,マサシューセッツ工科大学(MIT)において,LewinがTグループを提唱。エンカウンターグループの始まり。
・1946年,シカゴ大学のRogersがカウンセラー養成の集中的グループワークを実施。
・1964年,ラ・ホイヤ研究所に移ったRogersはエンカウンターグループの研究を盛んに行う。この一連の研究の中で,Rogersは従来のクライエント中心という考え方を拡げ,PCA(パーソンセンタードアプローチ)を提唱。
・1970年代はじめ,エスリン研究所のParlsがゲシュタルトワークショップを開催。エクササイズを主に取り入れた手法は,後の構成的グループエンカウンターの源流。
・1972年,上智大を中心に国際心理学会開催。その中でアメリカのカウンセラーによって行われたワークショップが,日本における最初の構成的グループエンカウンター。(*他の説もある)
・1970年以降,Rogersのもとで学んだ畠瀬稔らによるベーシック・エンカウンターグループ(非構成法)が盛んに行われた。
・1973〜74,國分康孝がフルブライト交換教授として渡米し,構成的グループエンカウンターを学ぶ。
・1975年以降,國分が中心となって,八王子にて「インターカレッジ人間関係ワークショップ」を開催。
・1978年以降,國分・菅沼・村瀬が人間関係開発プログラムに関する論文を多数発表。
・1980年,野島が看護婦対象のゲーム・エンカウンター・グループの事例研究。
・1981年,國分が「エンカウンター」出版。これを機に構成的グループエンカウンターが専門家の間でも一つの 立場として認められる。
・1986年,國分が「教師と生徒の人間づくり〜エクササイズ実践記録集」出版。教育における構成的グループエンカウンターの展開に大きく寄与。
・1980年代後半,國分ら以外の実践者,研究者による構成的グループエンカウンターの論文が増加。

<主な参考文献>
・構成的グループ・エンカウンター.國分康孝.誠信書房.1992
・カウンセリングの理論.國分康孝.誠信書房.1980
・グループアプローチ.野島一彦編集.現代のエスプリ385.至文堂.1999
・エンカウンター.國分康孝.誠信書房.1981
・エンカウンターで学級が変わるPart1〜3.國分康孝監修.図書文化.1996〜99

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