学校で使える！？精神分析

「学校で使える！？精神分析」（協和病院　浅沼知一）

Ⅰ．２／９「精神分析理論の基礎を学ぶその１」の復習

　フロイトは，精神分析研究の重要な道標として，「心的過程の意識性の有無による区別」を提唱した。これが局所論である。(浜川他,1978, p74)

　　・意　識～気付いていること・知っていることの領域 (外林他,1981, p14)

　　・前意識～無意識的ではあるが，注意を向けることによって意識できる領域 (浜川他,1978, p74)

　　・無意識～直接的に観察できない領域。意識に入り，留まることのでき，抑圧された観念が入れられる(外林他,1981, p426)

　研究を進めるうちに局所論的観点だけでは不十分と知ったフロイトは，後に人格を自我・超自我・エスという構造に分けて考えるようになった。これが構造論である。(浜川他,1978, p127)

　　・自我～人格の中枢機関。意識的な部分と無意識的な部分がある。外界・超自我・エスからの働きかける力によって葛藤しながら，調和を図ろうとする(浜川他,1978, p127～p132)

　　・超自我～ほとんど無意識的。幼少時に両親や社会から規範が取り入れられた領域で，道徳的な役割を果たす(黒田他,1987, p237)

　　・エス～無意識に属す。本能的衝動が貯蔵され，無秩序。論理や時間観念はなく，ただ快感原則に従って衝動を満足させようとする(浜川他,1978, p127)

　前述のように，無意識は直接的に観察できないが，錯誤行為・夢・神経症・自由連想等によって推測はできる。(浜川他,1978, p70・p154)

　神経症発症の症状は，以下のようなメカニズムによって発現する。

　　①自我が外界の現実や超自我の要求によってエスの衝動を拒否（抑圧）する

　　②抑圧された衝動は放散を求め続け，自我の力の及ばない通路を通って代用物を作り出す。

　　③代用物が自我に妥協を迫り，妥協の産物として神経症症状が発現する。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(浜川他,1978, p140)

　精神分析療法とは～フロイトの精神分析療法は，自由連想によって無意識的葛藤を意識的葛藤に置き換える作業　(浜川他,1978, p154)

　＝「神経症の苦痛を，普通の不幸に転じさせること」(ｱｯﾋﾟｸﾞﾅﾈｯｾｲ,1980, p40)　

Ⅱ．精神分析的アプローチを用いる際の留意点（禁忌）

　精神分析の用語を使って，児童生徒の問題を本人や保護者に解釈しない。

　＝wild Psychoanalyseを避ける。医者（教師）が推定した患者（児童生徒）の秘密をいきなりぶしつけに話して聞かせたりして不意を襲うようなやり方は，技法的に排斥すべき。そのような乱暴なやり方は，覿面な報いをうけ，医者（教師）に対する心底からの敵意を惹き起こし，それ以後の患者（児童生徒）に対して及ぼすべき影響力を断ち切ってしまう。そのような話し合いを行う必要があると思うときは，「一定の気遣いと思いやり」を持って行う。(ﾌﾛｲﾄ,1969,p54, p60～p61)。

　精神分析的な治療（指導）をしない

　＝堅固な治療構造（普通の社会生活と異なった，現実生活を離れた一般社会生活の価値や規範に縛られない，職業的人間関係＝治療の同盟）がなければ，できるワケがない。(浜川他,1978, p156)

Ⅲ．精神分析的理論・アプローチを，学校（治療場面以外）で活かす

　生育歴（親との関係）を詳しく知ること

　＝「問題の原因を探る」のではなく，児童生徒への「かかわり方のヒントを得る」ため。

　転移と逆転移～児童生徒からの激しい反応・児童生徒への不適切な感情に気付き・理解し・処理するため。

　転移～クライエント（生徒）が過去誰か（家族など重要な関係がある人）に抱いていた無意識的な感情を，カウンセラー（教師）に向けること。陽性転移（好意・愛情etc.）と陰性転移（敵意・拒否etc.）とがある。

　　(浜川他,1978, p162～p163)(外林他,1981, p327)

　→教師や医師は，父親像を投影され易い＝転移を起こされ易い職業。

　→拒否されても落ち込まない。好意を示されてもその気にならない。（どちらも転移の作用である場合が多いから）

　→性愛的な転移も，治療への抵抗＝治療者を愛人の地位に引き下げる試み

　　(ﾌﾛｲﾄ,1969,p178)

　逆転移～クライエント（生徒）の言動に刺激されて，カウンセラー（教師）が自分の私的感情を出すこと(浜川他,1978, p164)。感情的に「巻き込まれた」状態。

　→児童生徒への敵意や性的欲求を感じても，自己嫌悪しない。（どちらも逆転移の作用である場合が多いから）

　→「逆転移を起こさない」「逆転移を認めない」ことに努力するのではなく，むしろ逆転移に率直に向かう。『精神分析は真実性の上に立つ』という原則から。(ﾌﾛｲﾄ,1969,p181)

　→治療者（教師）は，自分の逆転移の傾向を明らかにしておくことが必要。　(外林他,1981, p371)自分自身が「リトマス試験紙」となり，逆転移を分析することで，相手のことも理解できる。

　→逆転移は隠さず，スーパーヴァイザー（仲間）に話すことで，安全に処理できる。(神田橋,1990, p168)

　※転移・逆転移の考え方は「という目で見てみる」「しばしの間，行動を控えて，事態を再検討してみる」ことで錯綜した関係に対処する為に利用。(神田橋,1990, p152)

　※性愛的な陽性の転移では，「愛」という言葉にダマされない。(神田橋,1990, p167)

　参考文献

・FOR BEDGINNERS フロイト　ｱｯﾋﾟｸﾞﾅﾈｯｾｲ･R 加藤亮志訳　現代書館

・精神分析療法　ﾌﾛｲﾄ･S 小此木敬吾訳　日本教文社

・フロイト精神分析物語　浜川祥枝･生松敬三･馬場謙一･飯田真　有斐閣

・精神療法面接のコツ　神田橋條治　岩崎学術出版社

・応用的見地からの一般心理学　黒田正典･徳田安俊･木村進　八千代出版

・誠信心理学事典　外林大作･辻正三･島津一夫･能見義博　誠信書房　　