2001学習会講義資料バックナンバー 11-2 

 
個別面接(カウンセリング)スキルアップ;「コーヒーカップ方式」
 
1.コーヒーカップ方式とは何か
・國分康孝先生が命名し,提唱している単純軽快なカウンセリングモデル。面接の「初期」,「中期」,「後期」の三つのステップと,「意識」,「無意識」という二つのレベルを組み合わせている。形がコーヒーカップに似ているので,この名前がつけられた。
*残念ながら,コーヒーカップ方式の図が,HTMLファイルでは表示できません。                
 
2.コーヒーカップ方式の三本柱
(1)リレーションを作る(面接初期)
・なぜリレーションが大切なのか。「このカウンセラーは自分の味方である」,「自分の身になって聴いてくれる人である」という信頼感がないとクライエントは胸襟を開かない。すると,情報も入らず,クライエントの理解につながらない。
 
(2)問題をつかむ(面接中期)
・クライエント話を聴きながら,の問題の本質に迫り,今までに気づかなかったことを洞察する時期。カウンセリングの山場である。
 
☆上記のリレーションを作り,問題の本質をつかむために,次の五つの技法を最低限身につける必要がある。
@受容;具体的には相手の話を「うむ,うむ」と相づちをうちながら聴くこと。「治そうとするな,わかろうとせよ」。受容するには一時的に自分の価値観を捨て,手ぶらになって相手の世界に入ることが必要な場合もある。相手の世界を相手の眼で見ることが大切。
 
A繰り返し;相手の話したポイントをつかまえてそれを相手に投げ返すこと。相手の文章をそのままオウム返しするのではない。言いたいことは何かをキャッチして,そのポイントを繰り返す。枝葉末節を切り捨て,ポイントを繰り返すので,クライエントは当然,次の感情に向き合うことになる。ラッキョウの皮を一枚ずつはがしていくイメージ。
 
B支持;通俗的に言えば同調したい気持ちのこと。支持はクライエントの自己受容の原動力になる。しかし,何でもかんでも支持すればいいわけではない。判断の基準の一つは理論。例えば,精神分析のリビドー発達理論に触れておけば,判断する際の基準になる。理論が思いつかない場合は,自身の体験を振り返ることも基準になる。
 
C明確化;クライエントが薄々気づいているけれども,まだはっきりと意識化していない部分を先取りしてカウンセラーが言語化(意識化)すること。精神分析の解釈ほど深層には触れないので,危険性は少ない。解釈は表情,動作,夢,肉体症状,服装等も対象とするが,明確化は言葉による表現に焦点を合わせる。例;「先生,今夜,お時間おありですか」と相手が言った場合,「いや,今日は都合が悪くてね」と言うだけにとどめず,「何か私と話したいことでもあるのかな」と言うのが明確化。(*明確化の演習は次貢にて)
 
D質問;一般的には,オープンクエスチョンが情報を集めるために効果的である。しかし,口の重いクライエントの場合は,クローズドクエスチョンが役に立つ。
 
 上記の五つの技法を駆使展開するうちに自ずからリレーションは成立し,問題の核心がクローズアップされてくる。そして,次の段階として,その問題をどう処置するかに面接が進む。
 
(3)問題の解決方法や処置を講ずる(面接後期)
@リファーする;他の機関や援助者に依頼すること。精神疾患なら精神科医に,法律の絡むものなら弁護士にリファーするなど。相談を受けたから全てを抱えるというビリーフは持たないこと。多くのリファー先を持つこともカウンセラーの能力の一つである。
 
Aケースワークを行う;個人そのものを対象とせず,環境に働きかけて個人を変えること。問題がクライエントのパーソナリティに絡む場合は効果がないが,そうでなければ,解決の可能性も高い。転居,別居,離婚,転校,転職など。
 
Bスーパービジョンを行う;スキルの個別教育を行うこと。スキルがないゆえに問題が生じている場合も多い。行動療法に学び,スキルを個別に指導することで解決する場合も多い。「してみせて,言って聞かせて,させてみて,ほめてやらねば 人は動かじ」(山本五十六)
 
Cコンサルテーションを行う;情報提供とアドバイスのこと。職業相談などはコンサルテーションで問題解決につながる例。アドバイスは他者の人生に介入するわけであるので,よほど覚悟を決める必要がある。強制的なアドバイスが必要なのは生命の危険にかかわる場合。情緒的な問題の場合,アドバイス程度では何の足しにもならないことがある。その時には,二人で一緒に漂えばよい。カウンセリングとは二人で一つの問題を背負う共同作業であることを思い出せばよい。
 
D具申を行う;組織の長への進言をすること。問題が個人の内的世界でなく,組織の変容が必要となれば,カウンセラーは組織の長へ意見具申をする義務がある。「自分の首が怖いようではカウンセラーはつとまらない」 ただし,具申の際には,長の抵抗を起こさせないような物の言い様を配慮するとよい。
 
E狭義のカウンセリングを行う;問題が個人の情緒にある場合,時間をかけて当人とつきあう必要がある。しかし,心理療法とカウンセリングを識別する観点は,そのクライエントが精神疾患を持つのか,持たない(健常者)のかという点である。精神疾患を持つのであれば,精神科医にリファーする。発達上のクリアすべき問題に引っかかっている健常者であれば,様々な理論や技法を駆使して対応することになる。
 
3.教育現場における個別面接(カウンセリング)のポイント
 様々な教育機関において指導を受けている子どもたちの多くは健常な子どもたちである。問題を抱え,悩みを持つといっても情緒的な問題,パーソナリティに絡むような問題というのは少ない。学級崩壊,不登校,いじめ,非行,学業不振,人間関係トラブル,進路選択の悩みなどは,当然,クリアされるべき発達課題がクリアされなかったことから生起していることが多い。そのような子どもたちに対する面接のポイントは,精神科医等の行う面接とはウェイトが異なる。以下に,そのポイントを列挙する。
 
(1)従来の方法(助言,教示,情報提供等)を生かして
・傾聴は受容は,リレーションづくりに欠かせないものであるが,それだけでは人間を教育することにはならない。具体的な問題解決を求めての来談が多い教育現場では,助言等で問題が解決されるケースも多い。カウンセリング研修(例えば,ロジャーズの来談者中心療法)を受けた教員が,カウセリング場面では具体的な提案等はしてはならないと思いこむようだが,決してそうではない。
 
(2)自己開示的な提案・助言を
・助言等を行うにしても,価値観の押しつけにならないように留意する必要がある。例えば,教師が自己開示の形で具体策の提案をすれば,その策を採用するか否かは生徒にあるので,それほど抵抗は起こらない。
 
(3)問題の把握を正確に
・来談する生徒がいったい何の問題を抱えているのかを正確に把握して面接を進めたい。転部希望の学生が来ても,転部そのものに問題を焦点化せず,いつのまにやら性格や生育歴など,内面に触れる問題にすり替えてしまうようなことのないようにしたい。  
 
 

演習〜「明確化」のイメージをつかむ
 
 
1.君,今,お金持ってる?
 
2.君の会社はボーナスがたくさん出たんだろうなぁ
 
3.先生,カウンセリングくらいで本当に人間の性格が変わるのでしょうか?
 
4.あなたは自宅から会社まで近くていいですね
 
5.先生もたまには休講しないかな
 
6.牧師でも夫婦げんかするんですか?
 
7.あなた,今夜も帰りが遅いの?
 
8.あと何回,面接に来ればいいんですか?
 
9.今夜もまた残業があるのかなぁ
 
10.あなたの学校は共学だからいいわね
 
 
 
<参考・引用文献>
・國分カウンセリングに学ぶコンセプトと技法,國分康孝,歴々社,2001
・カウンセリングの技法,國分康孝,誠信書房,1979
 

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