3.インシデント・プロセス法
 
1) 一般的な事例研究                          
 総合的な理解のために、事例研究が行われます。従来の一般的な事例研究は、全教職員が会議室に集まり、事例発表者が30分程度発表し、その後質疑応答をし、助言者がいる場合は助言を受けて終わりというパターンが多く見られる。この方法は、次のような欠点があります。 
  1. 事例発表者が資料をそろえたり、レジュメのプリントを作るのが大変である。
  2. 終了した、あるいは成功した事例が提供されることが多く、質疑応答がしにくい。
  3. 参加者が受動的になりやすく、質疑応答が不活発になりがちである。
  4. 質疑応答で、発表事例についてではなく、自分の事例について説明する人がいる。
  5. 研修した内容がその事例に止まり、発展しにくい。
                                    
2) インシデント・プロセス法の特徴 
 インシデント・プロセス法は、発表者の短い象徴的な出来事をもとにして参加者が質問によって事例の概要を明らかにし、原因と対策を考えていくものです。その特徴は次の点にあります。 
  1. 参加者一人一人が発表者の立場でなく、問題解決の当事者の立場で考えられるので、主体的、積極的な研修ができる。
  2. 実際の教育相談活動の場において発生した問題を、参加者が共有体験を通して解決できる。その後の参加者の実践的な活動に結びつきやすい。
  3. 事例の資料が短くてすむので、発表者の負担が少なく誰でも引き受けることができる。
  4. 質疑応答は事例の事実について行われるので、発表者の対応に対しては批判的になりにくく、発表者の心理的な負担が少ない。
 
第1段階 インシデント(事件あるいは出来事)を調べる。(5分)     
 発表者がインシデント(事件・出来事)を発表し、参加者は内容を把握する。
第2段階 背景となっている事実を集め、まとめる。(50分)
参加者は発表者に質問し、自分なりに事例を組み立てながら、問題の解決に関係があると思われる事実を集める。
司  会  者  
1) 質問の留意点を説明する。 
 @事実について簡潔に質問する。 
 A質問を独占しない。 
 B大まかな質問(例「生育歴は?」)をしないで、具体的な質問(例「大きな病気はしなかったか?」)を質問する。 
 C他の参加者と重複した質問をしない。また、他の参加者と協力して組織的に関連した質問をする。(そのために他の人の質問と回答をメモしておく) 
 D発表者の今後の対応については原則として質問しない。どうしても質問しなければならない場合はに批判的にならない。 
 E発表者の推測、感想、意見を求めない。 
2) 質問者が偏らないように配慮する。 
3) 質問や回答中に割り込んで質問することのないように注意する。 
4) ルールを逸脱した質問や回答に注意する。 
5) 必要に応じて、質問内容が分散しすぎないように注意する。 
6) 必要に応じて、質問内容の偏りを是正する。 
7) 必要に応じて、まだ質問されてない項目に気付かせる。 
8) 必要に応じて、発表者に補足させる。 
発  表  者 
1) 事実をありのままに簡潔に回答する。             
2) 質問からそれた事柄は回答しない。              
3) 推測、意見は原則として言わない。 
4) 推測で答えなければならない場合は、推測の根拠になった事実や理由を簡単に説明する。  
5) 今後の対応は言わない。 
参  加  者 
1) 自分なりに事例の全体像を組み立てながら質問する。 
2) 留意点に注意して質問する。
第3段階 当面、何が問題なのか、問題点を探り絞る。(15分)       
参加者はインシデントと集めた事実を総合し、自分なりの事例の全体像を作り、当面の問題点を絞る。
司  会  者                         
1) 参加者が12〜3人の場合、全体で当面の問題点を自由に話し合わせる。 
2) 参加者が多い場合、6〜8人の小グループに分けて、当面の問題点について自由に話し合わせる。 
3) 今後の対応について参加者に「具体案」を書かせる。 
 〔内容〕自分ならこう対応するという具体的な内容 
 〔理由〕なぜそうするのかという理由や根拠 
4) 「具体案」を回収し、休憩をとる。 
5) 内容を分類する。 
発  表  者  
1) 各参加者が組み立てた事例の全体像を理解する。 
2) 各参加者が出した問題点と、自分が考えている問題点を比較検討しておく。 
参  加  者 
1) インシデントと集めた事実を総合する。 
2) 自分なりの事例の全体像を明確にする。 
3) 当面の問題点を探り、1つに絞る。(対応までは考えない) 
4) 自由に自分の意見を述べる。 
5) 自分ならこうすると決断した「具体案」を書く。
第4段階 当面の問題に対してどうしたらよいか、対応について考える。(50分)
参加者は対応とその理由について話し合い、まとめる。発表者は実際の対応とその後の経過を発表する。
司  会  者                         
1) 分類した内容を提示し、グループ分けし、グループリーダーを決めさせ、グループで自由に話し合わせる。 
2) グループ毎に「具体案」を決め、内容と理由を発表させる。 
3) 発表者に実際の対応とその後の経過を発表してもらう。 
発  表  者                         
1) 参加者の考えた対応と、自分が実際にとった対応を比較検討しておく。 
2) 好きなグループかに入って話し合う。 
3) グループでは自分が実際にとった対応は話さない。 
4) 実際の対応とその後の経過を発表する。 
参  加  者 
1) グループリーダーを決め、「具体案」について自由に話し合い、グループとしての内容と理由を固める。 
2) 必要に応じて、ロール・プレイなどを取り入れる。 
3) グループ毎に内容と理由を発表する。
第5段階 何を学んだか、この研究会がうまくいったかを検討する。(10分) 
事例全体を振り返って、この事例から、また参加者相互から何を教訓として学びとることができたかを考える。
司  会  者 
1) 参加者に何を学んだかを問う。 
2) 発表者に言い残したことや感想を問う。 
3) 助言者に講評してもらう。 
発  表  者 
1) 言い残したことや、事例研究の経過について感想を述べる。 
参  加  者                         
1) 事例全体を振り返って、この事例から、参加者相互から何を教訓として学んだかを話す。
 
 
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第6章  開発的教育相談プログラム

第2章の学校教育相談と進路学習・人間関係学習で理論的な説明をしました。この章では、その具体的なプログラムを紹介します。巻末のワークシートをコピーしてご利用ください。
 

1 ファースト・インプレッション 自己紹介 ワーク
2 カード式自己紹介 自己紹介 ワーク
3 私がしたい20のこと 自己理解 ワークシート
4 個性とはなんだろう 自己理解 ワークシート
5 エゴグラム 自己理解 ワークシート
6 自己肯定度チェック 自己理解 ワークシート
7 私の発達曲線 自己理解 ワークシート
8 自己表現チェック 対人関係 ワークシート
9 コミュニケーション・トレーニング 対人関係 ワーク
11 川を渡る女 集団づくり ゲーム
12 自我同一性測定 進路学習 ワークシート
13 MY  LIFE 進路学習 ワークシート
14 貿易ゲーム 人権学習 ゲーム
15 ちがいのちがい 人権学習 ゲーム
16 環境問題ジレンマ 環境問題 ワーク
                                                   
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