第2章 開発的教育相談の創り方

    

1.開発的教育相談と「総合的な学習の時間」

 学校は,同年代の人間が最も多く集まり,最も長く生活を共にする場です。人間関係の葛藤を経験し,乗り越え,人間として成長していく絶好の場です。ところが,学校での人間関係のトラブルから精神的に不安定になる生徒も増えています。だからこそ,ホームルームなどで人間関係を学習する必要があります。
 また,高等学校で平成15年度から始まる学習指導要領で新設される「総合的な学習の時間」では,生徒には主体性や創造性を身につけさせること,教師には体験的や問題解決的な生徒参加型の授業をすることが求められています。また,学習活動の例として,国際理解,情報,環境,福祉・健康を挙げていますが,人間関係とかコミュニケーションなどを設置することができます。
 そうしたニーズに十分応えることができるのが,開発的教育相談です。開発的教育相談は,比較的健康な人の心を育てる教育相談です。発達段階に応じて,自己理解や他者理解,人間関係やコミュニケーション能力を高め,思考や行動を充実させたり変容させたりすることを目標としています。また,個人だけではなく集団も対象にできるので,グループワークという参加体験型の学習スタイルも提示してくれます。
 開発的教育相談のグループワークには,Tグループ,ニュー・カウンセリング,構成的グループエンカウンター,サイコエジュケーションなど様々なやり方があります。開発的教育相談以外にも,国際理解教育のアクティビリティ,ソーシャル・スキル・トレーニング,ライフ・スキル・トレーニング,プロジェクト・アドベンチャー,学習ゲームなども多くのヒントを提供してくれます。
 開発的教育相談を使って「総合的な学習の時間」をプログラムするには,次の手順が必要です。
 1)目的を明確にする。
 2)学習活動の内容と順序を考え,全体の流れを作る。
 3)個々の学習活動を組み立てる。開発的教育相談では,ウォーミングアップをする,ねらいと進め方を説明する,ワークをする,ふりかえりをするという順になる。
 4)学習活動にふさわしい教材を作る。
ここでは,主なメソッドを紹介します。

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2.ウォーミングアップをする

 一般にグループワークをする前に,緊張をほぐし,和やかな雰囲気を作り,動機づけをするために簡単なウォーミングアップをします。宿泊研修など非日常的な場面でグループワークをする時は十分にした方がよいでしょう。日常のLHRや「総合的な学習の時間」などでグループワークをする場合は,必要に応じてすればよいでしょう。特に,イメージワークやロールプレイなどのワークの場合はした方がよいでしょう。また,チェックシートはそれ自身がウォーミングアップにもなります。ここでは,手軽にできて,あまり抵抗がないものを紹介します。ワークに合わせて,選んでください。

1)体しらべ(個人。リラックス)
@ペアを作り,右手の親指と人指し指で輪を作り,相手の人にこじ開けてもらい力の入り具合を調べてもらう。
A椅子に座ったまま,前傾と後傾,右傾と左傾,右捻り左捻りで腹式呼吸をして,それぞれどちらの方が呼吸がしやすいか確かめる。
Bその合体した姿勢で腹式呼吸を3回する。
Cもう一度右手の親指と人指し指で輪を作り,相手の人にこじ開けてもらい力の入り具合を調べてもらう。前に比べて,力が強くなっているはずである。これは体が最も呼吸しやすい姿勢で,リラックスした状態になっているからである。

2)名探偵○○(○○はその時流行している探偵の名前)(全体。交流)
@犯人を決めておく。
A自由に歩き回って握手をする。
B犯人は握手をする時に人指し指で相手の掌を刺すことができる。
C刺された人は,5秒後に声を上げてその場に倒れる。
Dそれを繰り返し,犯人が分かった人は手を挙げる。
E3人手を挙げたら一斉に犯人の名前を言う。
F合っていれば犯人が代わり,合っていなければ続行する。

3)コイン回し(全体,グループ。交流)
 10人ぐらいのチームに分かれ,2チームが対戦する。
@回す側は,誰がコインを持つかを相談する。
A1列に並び,合掌するように両手を合わせ,その間にコインを挟み,隣の人に両手の隙間からコインを落として回して行く。
Bコインを持つ人から後は,コインを落とす振りをして最後まで回す。
C回し終わった人は,両手を合わせたままにしておく(馴れてくれば,片手ずつ握り直すと当てる数が倍になって面白い)。
D当てる側は,順番にコインを持っていない人の名前(名前と左右どちらの拳か)を指名していく。
E指名された人は手(拳)を開けていく。
F何人(拳)開けられるかを競う。
G攻守を交代して行う。
H何回戦か繰り返し行うこともできる。

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4.ワークをする

 目標やテーマごとにいくつかのメソッドを組み合わせて1つのワークを作ります。LHRに投げ込むには,1時間で完結する単発のワークがいいでしょう。総合的な学習の時間で活用するには,系統的な単元学習をするためにいくつかのワークを組み合わせて1つのプログラムを作る方がよいでしょう。
 ワークの深さには3段階あります。ヌ知識や情報を交流する思考レベル,ネ動きのある作業を伴う行動レベル,ノ感情の交流まで踏み込む感情レベルです。感情レベルでは,予想しなかった生徒の反応が起る可能性があるので,ケアできる力量や補助してくれる人が必要です。思考レベルや行動レベルでも感情を伴うので注意が必要です。
 参加体験型学習のベーシック・メソッドには次のようなものがあります。

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1)スピーチ
自分とは考え方や感じ方の違う多くの相手を意識して,論理的な言葉で語ります。1対1の私的なお喋りとは違い,一方通行のコミュニケーションになります。また,すぐに消えてしまうので聞き落とされた言葉は確認できません。それを補うための工夫が必要です。
●事前の準備
@主題や時間の設定
A話材の収集と整理
B内容の構成
C原稿の執筆
 ・1分間で300字程度。
Dスピーチの練習
●内容の構成の工夫
@予告的な話
  ・最初に内容や目的を述べて方向づけをする。
  ・先に要約や概略を述べてから,詳しい内容を述べる。
  ・先に結論を述べてから,理由を述べる。
  ・論点がいくつあるかを先に述べる。
A中心的な話
  ・今,何番目の論点を話しているかを明示しながら話す。
  ・論点に,数文字以内の2つの概念を組み合わせた見出し(ラベル)をつける。
  ・数的なデータ,事実,専門家の見解の引用など,具体的な内容にする。
  ・1つの文で1つの事柄を話す。
  ・事実と意見を分ける。
  ・強調したい部分は繰り返す。
Bまとめの話
  ・単なる繰り返しでなく,「ひねり」を入れる。
●話し方の工夫
@日常の会話より少しゆっくりした速さで話す。
A口を大きく開けて,はっきりした声で話す。
Bジェスチャーを適度に交えて言葉の内容を補強する。
Cできるだけ聞き手の目を見て話す。
D「〜ですね」など,対話するように話す。
E間をとって,自分の話したことが相手に理解されたかどうかを判断する。

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3)フィッシュボール

 2つのグルーブに分かれ,1つのグループが討議しているのを,もう1つのグループが観察し,観察した結果をフィードバックしたり,討議の仕方をコーチしたりします。日常は他人の言動に対して批判的なことを言いにくいですが,しかし,指摘されないと気づかないことも多くあります。
●進め方
 ヌぺアを5〜10組作り,ペアの中でAとBを決めます。
 ネAグループが内側に円形になり,その外側をBグループが囲んで円形になる。
 ノAグループが討議をし,Bグループが観察する。
 ハ中断して,BグループがAグループのペアの人に気づいたことをアドバイスする。
 ヒ討議を続ける。
 フBグループが内側に円形になり,Aグループの討議について観察したことを話し合う。 Aグループは外側に円形になり,話し合いを聞く。
 ヘペア同士で話し合う。
 ホAグループとBグループが役割を交代して行う。
 マ全員で話し合う。
●観察のポイント
 ヌボディランゲージが用いられていたか。
 ネ自分の意見をうまく主張していたか。
 ノ他人の意見によく耳を傾けていたか。
 ハよく考えて応答していたか。
 ヒ討議の中に,偏見や妨害や威圧などはなかったか。

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10)インタビュー

 直接相手に話を聞くことによって情報を集めます。アンケートのように一度に多くの情報を集めることはできませんが,生きた具体的な情報を集めることができます。
●進め方
 ヌ聞きたい話のテーマを決める。
 ネそのテーマを聞くのにふさわしい人を選ぶ。
 ノテーマや相手のことを調べて,聞きたい質問を準備しておく。
 ハその人に依頼する。あらかじめ,テーマや主な質問を伝えておくと,話がスムーズに展開する。依頼の方法には,電話する,手紙を書く,直接訪問するなどの方法がある。
 ヒメモを取りながら話を聞く。テープレコーダーや写真を使う場合は,必ず相手の了解をとってからにする。ただし,これらはあくまで補助手段である。
 フ話の展開によっては,準備していた質問とは別に,その場の内容に応じた質問をはさむ。適切な質問は,話の内容を豊かにする。
 ヘ話の内容だけでなく,相手の表情やしぐさにも注意する。
●依頼電話のかけ方
 ヌ電話をかけ,自分の名前を告げる。
 ネ相手を確認する。
 ノ電話した目的を簡潔に伝える。
 ハ事情を詳しく説明する。
 ヒ質問があれば答える。
 フ約束をもらう。
 ヘ日時と場所を確認し,連絡先を伝える。
 ホ礼を言って,電話を切る。
●メモのとり方
 ヌインタビューの年月日・時刻・場所・相手の氏名・テーマを書き添える。
 ネいつ・どこで・だれが・何を・どのような理由で,どのように言ったかというポイント を落とさない。
 ノ強調された部分はアンダーラインなどの印をつけておく。
 ハ素早く書き留めることができるように,自分なりの記号や略語を決めておく。
 ヒ人名・地名などの固有名詞は漢字を確認する。
 フ年月日・数量などの数字にも注意する。

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