2.マイクロカウンセリング

カウンセリングの訓練を行うために,A.E.アイビィが開発したプログラムです。マイクロカウンセリングの特徴は,カウンセリングをいくつかの技法に分類し階層化したことです。

技法の統合
技法の連鎖および面接の構造化
対決技法    矛盾・不一致・混乱の指摘   
積極技法    指示,論理的帰結,解釈,自己開示,助言,情報提供,説明,教示,フィードバック,カウンセラーの発言の要約   
焦点のあてかた技法 来談者の会話の流れを方向づける    
意味の反映     来談者の体験の個人的な意味を探求する 
基本的傾聴の連鎖  感情の反映     来談者の感情の世界を正確に感じとる
要約技法      重要部分のくり返し,明確化,具体化
はげまし・言い換え 会話の促進,傾聴の伝達      
質問技法      閉ざされた質問,開かれた質問   
クライエント観察技法     
かかわり行動            視線,身体言語,声の調子,言語的追跡  

この中で,「焦点のあてかた技法」「開かれた質問」「閉ざされた質問」は,たえず使われている技法で,「中間3技法」といいます。

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6.ブリーフセラピー


(1)ブリーフセラピーの理論

 ブリーフセラピーは,アメリカの精神科医であるミルトン・H・エリクソンの天才的な奇妙な治療に基づいた,多くの理論モデルがあります。共通しているのは,治療の効果性や効率性を重視して,治療を短期に終結することです。
 従来の心理療法は,問題志向的・過去志向的,つまり,問題は何か,なぜ問題が起こったのかを,過去にさかのぼることによって解明しようとしていました。
 それに対してブリーフセラピーは,そんなものはどうせわからないし,わかったとしてもどうにもならないと考えます。そして,解決志向的・未来志向的,クライエントが「どうなりたいのか」「どうなればいいのか」「どうなっているのか」といった解決や未来に焦点を当てます。
 基本的なルールは次の3つです。
@もしうまくいっているなら,それを直そうとするな。
Aもし一度うまくいったなら,またそれをせよ。
Bもしうまくいっていないのなら,何か違うことをせよ。
 プリーフセラピーの姿勢
@クライエントに合わせようと思うこと。
A2つ以上の方法が頭の中に浮かんでいること。
Bそのうちどれがクライエントに合っているかをクライエントに聞くこと。
Cうまくいった時にはクライエントを誉め,うまくいかなかった時はカウンセラーはすぐ 謝ること。


(2)ブリーフセラピーの技法

@マッチング(ペーシング)
 マッチングとは,クライエントに合わせることです。「受容」と言うとクライエントがやってくるのを待って受け入れる感じがするが,「合わせる」はカウンセラーがクライエントの所へ行く感じがして,より積極的・能動的です。
 また,「共感」と言うと対象が主に感情や情緒になりますが,「合わせる」は対象が主にクライエントの使っている言葉や行動,価値観,考え方や発想の枠組み,興味や関心,趣味や嗜好などになります。感情は見えないから本当に共感できたかどうか分からないので,まずは見えるものから合わせていきます。また,感情はコントロールできませんが,言葉や行動はコントロールできます。
Aリフレーミング
 ある具体的な状況に対する構えや見方を変化させることです。それによって異なった結果をもたらすことがあります。
Bミラクル・クエスチョン
 クライエントの未来時間のイメージを扱う質問です。当然こうなっているだろうという必然的進行としての解決像を質問します。例えば,「もし,ある晩,あなたが寝ている間に奇跡が起こっていて,すべての問題か解決していたとしたら,あなたはどうやってそのことがわかるでしょう」「〜歳になった時,あなたはどうなっていると思う?」
C例外探し
 例外とは,すでに起こっている解決の一部,あるいは,例外的に存在している解決の状態です。そのような状態について具体的に細かく聞いていきます。否定的な形の質問をすると肯定的な内容を考えやすくなります。そして,例外を糸口にして,すでに存在している解決を発展させ,積み上げていくように協力し援助します。例えば,「最近こうしたことがなかったのはいつですか」
Dプレサポジショナル・クエスチョン
 良い変化があったことを前提にした,具体的な答えを必要とする質問です。例えば,「どんないいことがありましたか?」
Eプリテンド・ミラクル・ハブンド
 クライエントに,奇跡が起こったつもりになって,解決した後のように振る舞ってもらい,他の人がどんな反応をしたかを観察してもらいます。
F外在化
 クライエントの問題を名付けることによって対象化して取り出し,その対処法を指導します。
Gビデオ・トーク
 クライエントに,ビデオで見ているようにありありと写実的な記述をしてもらいます。
Hスケーリング・クエスチョン
 様々な事柄を数値に置き換えて表現してもらいます。これによって,抽象的なものを具体的な記述に結びつけることができます。数値の大きさよりもその差や変化が重要です。例えば,「あなたがこうあってほしいという状態を10,これまでで最悪だった状態を0とします。今あなたはどこにいますか」「前回の状態は4だったけど,今回はいくつぐらいですか」「あと2上がったら,どんなことが起こりますか」
Iコーピング・クエスチョン
 クライエントの状況の困難さを受け止めながら,問題がさらに悪化していくのをくい止めている何かを捜します。クライエントが自分では気づいていない力や強さ,少しでもうまく行っていることへと話題が展開するようにします。例えば,「そんな大変な状況の中で,よく今日までやって来ましたね。どうしてきたのかですか?」
Jコンプリメント
 クライエントを誉めることです。クライエントは自分が何気なくやっていることを評価されることによって,自分の力や状態についての認識を新たにできます。
Kブリッジ
 クライエントが納得できるように,課題の意味や価値を伝えます。


(3)クライエントのタイプ

@ビジター・タイプ
 クライエントが問題や不満があることを表明していない,あるいは,不満はあるが変化や解決を期待していないタイプです。対応は,コンプリメント程度にとどめておきます。
Aコンプレイナント・タイプ
 クライエントは不満があり困っている,また,解決がどのようなものかを話せるし,変化への期待ある,しかし,問題なのは誰か他の人物であって,自分はむしろ被害者であると感じているタイプです。対応は,コンプリメントをし,例外探しの課題を出す程度にしておきます。
Bカスタマー・タイプ
 クライエントは困っており,解決への期待も抱いていて,自分の問題と感じ,解決のためには自らが積極的に変化し,行動することが必要だと考えているタイプです。対応は,コンプリメントをし,ゴールセッティングをしっかりして,具体的な行動課題を出します。


(4)ブリーフセラピーの過程

@クライエントの話を聞く
 面接の最初は,「いかがですか?」「どうですか,最近の調子は?」で始めます。「それで?」「もう少し詳しく聞かせてください」「具体的には」と,具体的に聞く。オウム返しや明確化は多用せず,クライエントが解決につながる言葉を発した時に使います。例外についても聞いておきます。
Aゴールについての話し合いを行う
 問題が具体的になったら,ゴールについての話し合いに進みます。ゴールは本人の中にあるもので,外から与えられるものではありません。カウンセラーの仕事は,ゴールを与えることではなく,クライエントの中にあるゴールを引き出すことです。ゴールについての話し合いは,それ自体が治療的です。解決した時にはどんなことが起っているのかを質問します。直接聞いたり,ミラクル・クエスチョンやスケーリング・クエスチョンを使います。
B解決に向けての話し合いを行う
 ゴールがいくつかでできたら,そこからさらにより実現の可能性の高いもの1つに絞り込みます。良いゴール(解決像)が備えている要件は,
@大きなことではなく,小さなことであること。
A抽象的ではなく,具体的に行動の形で語られていること。
B否定形(〜しない)ではなく,肯定形(〜する)で語られていること。
C測定しやすいこと。
D達成しやすいこと。
 絞り込めたら,ゴールを達成した後の状態をもう一度イメージしてもらいます。
Dアドバイス・指示・課題などを与える
 課題は成功体験を得てもらうために出します。したがって,簡単なものから1回に1つずつ出します。
Eゴール・メンテナンスをする
 課題の中でうまくやれたことや新たな例外を確認し,それを維持する方法も確認します。そして,例外や既にある解決の一部分を増幅して,例外がクライエントの生活の多くの部分を占めるようになり,もはや例外ではなくなるようにします。

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8.アサーション


(1)アサーションとは

アサーションとは,自分と他人の関係をより平等にするための方法です。

1950年代のアメリカで,対人関係がうまくいかないことで悩んでいる人や,自己表現が苦手な人のための治療法として開発されました。その後,1960年代から70年代における基本的人権をめぐる社会的・文化的動きが,攻撃的にならずとも強力に自己主張するアサーションという方法を支持することとなり,個人的な治療だけでなく,人権としてのアサーションという考え方へと発展していきました。


(2)人間関係の3つのパターン

1)攻撃的
自分のことだけを考えて,他人を踏みにじるやり方です。相手の気持を軽視したり無視したりして,自分の気持や考えを一方的に表現します。その場の主導権を握り優位に立とうとしたり,勝ち負けにこだわったりします。反面,防衛的で必要以上に威張ったり強がったりします。

2)非主張的
自分よりも他人を優先し,自分のことを後回しにするやり方です。自分の気持や考えを表現しなかったり,しそこなったりします。自分に対しては,劣等感や諦めの気持があります。相手に対しても,恩きせがましい気持や恨みがましい気持が残ります。

3)アサーティブ
自分のことをまず考えるが,他人をも配慮するやり方です。自分の気持や考えを率直にその場にふさわしい方法で表現しながら,相手にも同じように表現することを奨励します。面倒がらずにお互いの意見を出し合い,譲ったり譲られたりしながら,双方にとって納得のいく結論を出そうとします。


(3)アサーティブな表現

言語を使ったアサーティブな表現には次のようなものがあります。
1)自分を相手に知らせる。
2)要求された答えだけでなく,質問に関連したことや自分の関心のあることを付け加えて,相手と共有できる領域を広げる。
3)「開かれた質問」と「閉ざされた質問」をその目的に応じて適切に使い分ける。
4)余分な音や変な前置きはしない
5)文化の違いを知っておく

また,非言語的なアサーティブな表現として,次のようなことがあります。
1)積極的に相手の話に耳を傾け,相手を目で確認しながら話す。
2)自分の感情にあった表情,身振り手振りをする。
3)相手との間に心地よい距離を置き,両足をしっかり地に着けて胸を張って立つ。


(4)アサーティブになれない理由

1)自分の言いたいことが自分ではっきりつかめていない。
2)自分の言いたいことが伝わるかどうか失敗を恐れている。
3)誰にもアサーティブになってよいという権利があることを知らない。
4)常識や思い込みにとらわれて,考え方がアサーティブでない。
5)アサーションのスキルを持っていない。


(5)基本的アサーション権

アサーションは,誰もが持っている基本的人権の一つです。ただし,自他の権利を侵さない限りにおいてという条件がつきます。アサーションは,その場の状況やその時の関係において適切な自己表現ですから,合わなかったり,自己主張すると大変なことになる場合はしなくてもいいのです。
1)私たちは,誰からも尊重され,大切にしてもらう権利がある。
2)私たちは誰もが,他人の期待に応えるかどうかなど,自分の行動を決め,それを表現し,その結果について責任を持つ権利がある。
3)私たちは誰でも,過ちをし,それに責任を持つ権利がある。
4)私たちは支払いに見合ったものを得る権利がある。
5)私たちは,自己主張しない権利もある。

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