は じ め に

私の本職は国語の教師です。仕事では教務部長をしています。家庭では3児の父親です。教育相談はというと,趣味です。実際,教師になって23年間,学校で教育相談の仕事をしたことはありません。趣味だからこそ,いろいろなことができると思っています。

私の教育相談との出会いは,教師になって5年目でした。先輩の先生に教育相談の研究会に連れて行かれ,しばらくすると,その先生は来られなくなりました。私が後釜だったのです。この研究会は昭和37年から綿々と続いて,当時も創立メンバーが中心になって運営していらっしゃいました。そこに行くと,自然とエンカウンターグループの雰囲気が出来上がっていました。月に1回,疲れた心を癒すオアシスでした。そこで身につけたことは,「待つ」ということでした。今もそうですが,その頃は今よりひどいイラチで,すぐにカッとなって,生徒ともよくぶつかりました。しかし,「待つ」ことができるようになると,生徒の行動の背景にある気持ちや事情が見えるようになりました。

そして,独学で勉強を続けているうちに,9年前,教育相談の長期研修の機会を得ました。1年間自由に勉強させてもらいました。その頃は,カウンセラーになりたいという思いが非常に強くありました。というよりカウンセラーに対するコンプレックスが強くありました。京都大学の河合隼雄先生の講義にもぐり込んだ時,「科学の知」に対して「臨床の知」ということをおっしゃっていました。その時閃いたのが「現場の知」でした。カウンセラーは確かにカウンセリングのプロですが,学校では教師にしかできないカウンセリング,「学校教育相談」というジャンルもあるのではないかと考えるようになりました。

そして,4年前に「フツーの高校教師の学校教育相談」,2年前に少し改良して「Ver2」を出しました。当時は,有頂天でかなり天狗になっていました。少しして教育相談関係の雑誌を読んだり,本屋で新しい書籍を見たりして冷や汗が出てきました。自分の勉強が5年程前で止まっていたことに気づいたからです。また,冊子を出したことが縁で,いろいろな先生と出会う機会が増えました。世の中にはすごい先生がいっぱいいるのだということを改めて思い知らされました。と同時に,ファイトも湧いて来ました。もっと勉強したり実践したりしてよりよいものを作ろう,その時からこの冊子の企画が始まりました。

この冊子は,読んですぐに使えることを目的にして作りました。心構えなどの精神面や事例については,他に優れた書籍があるので,そちらの方をお読みください。

第1章は,「個人面接の技法」です。不登校になってしまったような重度の生徒ではなく,問題を抱えながらも登校している生徒を対象にしています。また,従来の原因追究ではなく,解決志向の教育相談のつかい方を考えました。

第2章は,「開発的教育相談の創り方」です。開発的教育相談は,自己理解や他者理解や人間関係やコミュニケーションをテーマにした,グループワークのつくり方を考えました。いくつかのメソッド(手法)を紹介しました。ロングホームルームや教科の授業だけでなく,「総合的な学習の時間」に役立つようにまとめました。

第3章は,「こころのグループワーク」です。今年度,3年の選択授業「国語表現」の時間に「総合的な学習の時間」の試行のつもりで,開発的教育相談を利用したグループワークを実施しました。その様子は,私のホームページ「教育の職人」で「LIVE KOKUHYOU」として公開しました。その実践で使ったワークシートをさらに改良したり,追加したりしました。授業展開と生徒の感想もまとめました。

第4章は,「基礎理論」です。第1章から第3章を書くに当たって,基礎になる理論を私が理解している範囲でコンパクトにまとめました。より深く勉強しようと思われれば章末の参考文献をお読みください。

分量的には,第3章が全体の4分の3を占めてしまいましたが,高等学校のための実践集が少ない中では,貴重な資料になるのではないかと思っています。また,ご自分でワークをされることで,教育相談のエキスが理解でき,個人面接の力量が高まるのではないかと密かに思っています。

書き終えて,学校教育相談が少し自分のものになったかなという感じがしています。しかし,まだまだ借り物の部分が多いです。今後もさらに研鑽と経験を重ねて,いずれは「学校教育相談の神髄」なんてタイトルをつけた冊子をまとめたいと思っています。

なお,「Ver2」はこの冊子とは違う観点からまとめてあります。巻末に目次を紹介しました。もしよろしければ残部がありますのでご連絡ください。

最後になりましたが,この冊子をまとめるに当たって,研修会や講演会に快く送り出していただいた本校の管理職ならびに先生方,いろいろな面で協力してもらった京都府立学校教育相談研究会の諸先輩方やメンバーの先生方,大いなる刺激を与えていただいた多くの先生方に,この場を借りて感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。

平成12年3月

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