徒然草

 仁和寺にある法師 九月二十日のころ  亀山殿の御池に  平朝臣宣時  五月五日加茂の競い馬を 丹波に出雲といふ所あり


仁和寺にある法師

教材観
 仁和寺にある法師───仁和寺というのは、八八八年に建立された、宇田天皇も退位後住んだことがある、由緒正しい大きな寺である。当時の寺は現在の大学に当たる学問の府である。その中でも仁和寺は格式が高く、今で言えば国公立大学や有名難関私学レベルてあった。そこの僧だから高僧である。「ある」は諸説があるがラ変の連体形と考えよう。
 年寄るまで岩清水を拝まざりければ、心憂くおぼえて───岩清水は岩清水八幡宮。八幡市男山にある。八五九年に造営された天皇にも縁の深い有名な神社で、仁和寺より古い歴史を持っている。高僧は年老いていて、長年八幡宮に参拝したいと思っていた。寺の僧が神社を参拝するのはそぐわない感じがするが、日本人はあまりこだわりがなかった。しかし、なかなか実現しないのが情けなく、死ぬまでに一度は参拝したいと思っていた。
 その僧が念願の岩清水八幡宮に参拝する。しかも、船で行けば楽なのに、高齢にもかかわらず、供も連れずに徒歩で行ったところにも意気込みを感じる。年寄りの冷や水といったところである。
 岩清水八幡宮に付属している山の下にある高良神社をお参りして、想像以上に尊いと感動し、本宮だと勘違いし、山の上にある本宮に参拝せずに帰って来た。しかし、参拝する人がみんな山に登って本宮に行ったことには疑問を感じていた。しかし、展望を楽しむために登るのだろうと思い込んでいた。したがって、山に登っていく人を信心がないと蔑んでいる。そうした失敗に気づかず、人に得意気に話しているところにも、作者の高僧に対する皮肉が込められている。
 こうした説話から、何事にも案内者が必要であると教訓を述べる。しかし、重点は案内者の必要性ではなく、高僧に対する妬みから来る反感であったともいえる。
生徒観・指導観
 古典を使った進学を考える生徒には、古文読解のプロセスをふりかえる授業になる。一年からの総復習から始める。歴史的仮名遣いはよしとして、重要古語、単語分け、品詞分解は、動詞の行と活用の種類と活用形、形容詞・形容動詞の活用の種類と活用形、助動詞の意味と活用形と接続の確認は必須である、助詞は接続助詞と係助詞とその結び、副詞や連体詞や接続詞の判別まで。ここまでをあらかじめノートに完成させておく。その上で、正確な訳を付けさせる。板書はポイントだけ。指示語などの内容を確認し、法師の気持ちや作者の意図まで読み深めていく。
 受験に必要のない生徒には、基礎的なことは抑えつつ、お話としての面白さを味わう授業になる。重要古語、単語分け、助動詞の意味、動詞の活用の種類と活用形、係り結びを抑える。


0.【W】死ぬまでに言ってみたい所とその理由(魅力)を問う。
 ・ノートに書き、一人ずつ発表させ、4人組でさらにその理由や魅力についてインタビ  ューする。
1.【L1】徒然草について復習する。
 1)ジャンルは
  ・随筆
 2)作者は
  ・吉田兼好
 3)成立は
  ・鎌倉時代後期。
2.学習プリントで漢字の読みを確認する。
3.音読する。

★単語分けし、品詞分解してから進めていく。

4.仁和寺にある法師、年寄るまで石清水を拝まざりければ、心憂くおぼえて、あるとき 思ひ立ちて、ただひとり徒歩よりまうでけり。
 1)【説】仁和寺の説明をする。
・京都市右京区にある(地図で確かめる)。八八八年に建立された、宇田天皇も退位後住んだことがある、由緒正しい大きな寺である。当時の寺は現在の大学に当たる学問の府である。その中でも仁和寺は格式が高く、今で言えば国公立大学や有名難関私学レベルてあった。
 2)【説】岩清水を説明する。
  ・八幡市にある。(地図で確かめる)岩清水は岩清水八幡宮。八幡市男山にある。八五九年に造営された天皇にも縁の深い有名な神社で、仁和寺より古い歴史を持っている。仁和寺から三十キロはある。
 3)【語】
  ・心憂し=情けない。つらい。嫌だ。
  ・より=格助詞。手段や方法。
  ・まうづ=1)うかがう。謙譲語。2)お参りする。
 4)【法】
  ・ある(ラ変体)
  ・拝ま(マ四未)ざり(打消用)けれ(伝聞過去已)は(接続助詞順接)
  ・ある(連体詞)とき
  ・まうで(ダ下二用)けり(伝聞過去止)
 5)【訳】訳す。
  ・仁和寺の法師が、年をとるまで岩清水八幡宮を拝まなかったので、情けなく思って、   ある時思い立って、たった一人で徒歩で八幡宮にお参りした。
 6)【L1】法師の様子は。
  ・仁和寺の法師だから、高僧である。
  ・しかも年老いている。
 7)【L1】岩清水にお参りした理由は。
  ・年寄るまで拝まなかったから。
 8)【L1】どのような手段で行ったのか。
  ・歩いて行った。
  ・距離は30キロある。
  ・老人の脚で、8時間はかかる。
  ・普通は、船で桂川を下る。
 9)【L2】仁和寺の僧が八幡宮へ参ることはおかしくないか。
  ・僧が神社に参るのは変だが、日本では昔から神仏の区別にこだわらなかった。
5.極楽寺、高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。さて、かたへの人に会ひ て、
 1)【説】極楽寺、高良を説明する。
  ・八幡宮の付属の寺と神社。男山の麓にあった。神社の中に寺もあった。神仏混合。
   仁和寺の法師が八幡宮にお参りするのと同じ。
 2)【語】
  ・かばかり=これだけ。
  ・さて=そして。
  ・かたへ=そば。
 3)【法】
  ・心得(ア下二用)
  ・帰り(ラ四用)に(完了用)けり(過去止)
 4)【訳】訳す。
  ・極楽寺と高良神社を拝んで、これだけと思って帰ってしまった。そして、そばにいる人に会って、
 5)【L1】「かばかり」の指示内容は。
  ・極楽寺、高良神社だけ。
  ・八幡宮はお参りしていない。
6.「年ごろ思ひつること果たしはべりぬ。聞きしにも過ぎて尊くこそおはしけれ。
 1)【語】
  ・年ごろ=長年の間。
  ・はべり=丁寧語。
  ・おはす=「ゐる」の尊敬語。
 2)【法】
  ・果たし(サ四用)はべり(ラ変用)ぬ(完了止)
  ・尊く(ク用)こそ(係助詞強意)おはし(サ変用)けれ(過去已)
 3)【訳】
  ・「長年の間思っていたことを果たしました。聞いていた以上に尊くいらっしゃった。
 4)【L1】「年ごろ思ひつること」とは何か。
  ・岩清水に参ること。
 5)【L2】法師の気持ちは。
  ・岩清水八幡宮に敬語を使って尊んでいる。
  ・長年の念願を果たしてたいへん満足している。
7.そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん。ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず。」とぞ言ひける。
 1)【語】
  ・そも=そもそも。今まで述べて述べて来たことを承けて次にあることがらを言い出す前置きの気持ちを表す接続詞。
  ・ゆかし=興味がある。ここでは、知りたい。
  ・本意=本来の目的。
 2)【法】
  ・登り(ラ四用)し(過去体)
  ・何事か(係助詞疑問)あり(ラ変用)けむ(過去推量体)
  ・ゆかしかり(シク用)しか(過去已)ど(接続助詞逆接)
  ・参る(ラ四体)こそ(係助詞強意)本意(名詞)なれ(断定已)
 3)【訳】
  ・そもそも、お参りした人がみんな山へ登って行ったのは、何かあったのだろうか。知りたかったけれども、神にお参りするのが本来の目的であると思って、山(の上)までは見なかった。
 4)【L1】法師の疑問は。
  ・高良神社をお参りした人がみんな山へ登っていくこと。
 5)【L2】法師が山へ登らなかった理由は。
  ・高良神社が八幡宮だと思って、本来の目的を遂げたと思っていたから。
 6)【L3】法師は山へ登る人をどのように思っていたか。
  ・山に登って景色を見る観光目的で、信心が薄い。
 7)【L3】この話を聞いたかたへの人はどう思ったか。
  ・失敗談を得意気に話している愚かな人。
8.少しのことにも先達はあらまほしきことなり。
 1)【語】
  ・先達=案内者。
 2)【法】
  ・あら(ラ変未)まほしき(希望体)こと(名詞)なり(断定止)
 3)【訳】
  ・少しのことにも案内者はあってほしいものである。
 4)【L3】どうすれば失敗を防げたか。
  ・よく調べてから行く。
  ・山に登る人に尋ねる。
 5)【L3】なぜ、山に登る人に尋ねられなかったのか。
  ・自分の信心に過剰な自信を持っていたから。
  ・プライドが高かった。
 6)【L3】作者の意図は。
  ・自分勝手に判断せずに、専門家の意見を聞くべきである。
  ・何事にも案内者が必要である。
  ・高僧に対する妬みから来る皮肉。


九月二十日のころ

 九月二十日、中秋の名月の夜に、ある身分の高い人に誘われて、一晩中月を見に出歩くことがあった。ある人は思いついて、途中である家に入って行った。私も中に入って庭を見ていたが、その庭が、客が来るためではなくいつも香が焚いてあったり、ひっそりと暮らしている様子などがしみじみと感じられて見とれていた。
 ある人は適当な時間に退出したが、わたしはまだ庭が見ていたくて、物の陰から見ていると、その家の主が戸締りに出てきて、すぐに戸を閉めないで月を眺めていた。もし、月を見ないでそのまま鍵をかけていたなら、家の主は月を見れなくて残念なことをしたことただろう。これも私が見ているからわざとしたのでなく、普段から風流に暮らしているからできることである。その主はまもなく亡くなったと聞いた。
 夜中に中秋の明月を見て歩くある人や私もかなりの風流人であるが、訪れた家の主は、普段から香を焚いたりして風流に暮らしている。その心がけが、戸を閉める前に月を見ると言う行為に自然に現れたのであろう。


展開
1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.教師が範読し、生徒と音読する。

3.九月二十日のころ、ある人に誘はれたてまつりて、明くるまで月見ありくことはべりしに、おぼし出づる所ありて、案内せさせて入りたまひぬ。
 1)「誘はれ」の「れ」の助動詞の意味は。
  ・受身。
  ・上に「ある人に」がある。
 2)「案内せさせ」の「させ」の助動詞の意味は。
  ・使役。
  ・単独で用いられている。
 3)「たまひぬ」の「ぬ」の助動詞の意味は。
  ・完了。
  ・四段連用形に接続し、終止形である。
 4)敬語については、種類と訳にとどめ、詳細は二年で教える。
 5)「ありく」「おぼし出る」「案内」の意味を確認する。
 6)「誘はれたてまつりて」「おぼし出づる」「案内せさせて入りたまひぬ」の主語は。
  ・私。ある人。ある人。
 7)九月二十日頃の月の形について説明する。
  ・宵闇月、更待月と呼ばれ、下弦の月。
  ・月の出は十時頃。夜中に空高くかかる。
  ・満月に比べると暗く、近くの物の輪郭が見える程度。
 8)家にはだれがいるか。
  ・女性。
  ・昔の愛人。

4.荒れたる庭の露しげきに、わざとならぬにほひ、しめやかにうちかをりて、しのびたるけはひ、いとものあはれなり。
 1)「わざとならぬ」の「ぬ」の助動詞の意味は。
  ・打消。
  ・四段の未然形に接続し、下に体言がある。
 2)「荒れたる庭の」の「の」の用法は。
  ・同格。
  ・「しげき」が連体形である。
 3)「しめやか」「しのぶ」「あはれ」の意味をとその共通点を確認する。
 4)庭の様子をイメージする。
  ・荒れているのでなく、自然のままの趣を大切にしている。
  ・薄暗いので、露ぐらいしか見えない。
  ・香は来客のためにわざわざ焚いたのでなく、いつも嗜みとして焚いている。
  ・しみじみとした風流な様子。

5.よきほどにて出でたまひぬれど、なほ事ざまの優におぼえて、物のかくれよりしばし見ゐたるに、妻戸をいま少し押し開けて、月見るけしきなり。
 1)「けしきなり」の「なり」の助動詞の意味は。
  ・断定。
  ・体言に接続している。
 2)「よきほど」の意味は。
  ・ほどよい時間。
 3)「妻戸」の形式を説明する。
  ・両開きの戸。
  ・「遣戸」は左右に引く。
 4)「出でたまひぬれど」「見ゐたるに」「押し開けて」の主語は。
  ・ある人。私。その人。

6.やがてかけこもらましかば、くちをしからまし。あとまで見る人ありとは、いかでか知らん。かやうのことは、ただ朝夕の心づかひによるべし。
 1)「かけこもらましかば〜くちをしからまし」の「ましか」「まし」の助動詞の意味は。
  ・反実仮想。
  ・実際は鍵をかけて中に入ったが、もしそうしていなかったらという仮定で、その結   果の残念だっただろうという結果を想像している。
 2)「知らん」の「ん」の意味と活用形は。
  ・推量、連体形。
  ・上に係助詞「か」(疑問)がある。
 3)「よるべし」の「べし」の意味は。
  ・推量。
 4)「やがて」「くちをし」「朝夕」の意味を確認する。
 5)「あとまで見る人」とは誰か。
  ・私。
 6)「かやうのこと」の指示内容は。
  ・妻戸をいま少し押し開けて、月見る
  ・わざとならぬにほひ」「しめやかにうちかを」らせる
 7)その人の風流心について考える。
  ・日頃から風流であるから、こんな時にもそれが表れる。

7.その人、ほどなく失せにけりと聞きはべりし。 
 1)「失せにけりと聞きはべりし」の「に」「けり」「し」の助動詞の意味は。
  ・完了。(間接伝聞)過去。(直接体験)過去。
  ・「けり」は伝聞の過去で、死んでしまったと人から聞いた。
  ・「き」は直接体験の過去で、聞いたという体験をした。


亀山殿の御池に

 鎌倉時代、後嵯峨院は嵐山の亀山の麓に、離宮を造営した。当時としては大規模な事業であった。大井川の水を離宮に引き込む工事を、土民にさせたが、多大な費用と日数をかけたが、いっこうに回らなかった。そこで、古くから水車の名所であった宇治の里人を呼び寄せて工事させたところ、やすやすと組み立て、素晴らしい出来ばえであった。何事においても、専門家は尊いものである。

 まず、状況を補足説明して把握させることが必要である。そのことによって主語が明らかになる。注意すべき語句については、「つくる」と「こしらふ」、「まわる」と「めぐる」の類義語に注意することと、敬語の意味を重点的にする。訳は、主語を補うこと、助動詞に注意することも大切であるが、敬意表現が多くあるので、敬意の主体や対象は後日の学習に譲るとして、訳だけは意識しながらする。内容は、大井の土民と宇治の里人の違いを補足説明しながら、対比的な部分に注意する。そして、この段で言いたかった、専門家の尊さを読解する。


展開

1.「学習プリント」を配布し、学習の準備を宿題にする。
 ・本文写し、古語調べ、できれば訳も。
 
2.教師が音読する。
 
3.生徒が音読する。
 
4.単語に区切って読ませ、訳させる。
 1)省略されている主語を補わせる。
  ・第一文の主語が「後嵯峨院」であることを説明する。
  ・「多くの銭を〜いたづらに立てりけり」「さて、宇治の里人〜めでたかりけり」の   主語の変化に注意する。
 2)助動詞(使役「す」、尊敬「らる」)に注意する。
 3)接続助詞(順接「ば」「が」、逆接「に」「ども」、打消接続「で」)に注意する。
 4)難解古語を意味を確認する。
  仰す=人に言葉を負わせるところから、命じる。命じるのは一般に上位者であることから尊敬の意味を伴う。さらに上位者上位者の言葉を命令のような気持ちで聞くところから言うの意味にも用いられる。
      1)命令する。2)おっしゃる。
  造る=類材料に手を加えて、新たに目的のものを作成する。
      1)制作する。2)耕す。3)料理する。4)書く。5)似せる。6)整える。7)なす。
  廻る=類周囲に沿ってまるく一巡する。
      1)円を描くように回転する。2)巡回する。3)周りを取り囲む。4)行って元の所に戻る。5)転生する。
  とかく=相対する二つのもの。
      1)いろいろと。2)とにかく。3)ともすれば。
  回る=類平面上を大きく旋回する。
      1)回転する。物の周囲に沿ってぐるりと動く。2)遠回りする。3)隅々まで周り歩く。4)十分に行き渡る。
 5)金が運用されて利益を生む。
  いたづら=価値や努力に見合った結果が得られないで、無駄である、役に立たない、かいがない、むなしいと感じるさま。
      1)役に立たない 。2)甲斐がない。3)何もない。4)暇である。
  召す=見るの尊敬語でご覧になる。
      1)ご覧になる。2)お治めになる。3)お呼び寄せになく。4)お取り寄せになる。5)召し上がる。お召しになる。6)お乗りになる。
  こしらふ=類既にできている構図におさまるようにする。調整する。
      1)構える。作る。2)用意する。3)計画する。
  やすらか=1)心配がなく気楽な様子。2)わざとらしくなく落ち着きがある。3)簡単なさま。
  参らす=人を介して差し上げる、という為手と受け手の間に距離をおいた表現が、受け手に対する話し手の高い敬意表現として用いられるようになった。
      1)差し上げる。2)お〜申し上げる
  めでたし=「めづ」(=賞賛する)に「いたし」(=はなはだしい)がついた。
      1)すばらしい。2)喜ばしい。
  やんごとなし=そのまま止めておけない、捨てておけないの意味。捨てておけないような、重々しく扱うべきもの、大切なもの。
      1)捨てておけない。2)大切だ。3)家柄や身分が高貴だ。4)学識や世評が高い。5)並々でない。
 4)敬語の訳に注意する。
 
5.内容を考える。
 1)亀山殿の工事について
  ・鎌倉中期の一大事業であった。
 2)大井川について説明する。
  ・上流は保津川、嵐山付近は大井川、下流は桂川。
 3)多くの銭について説明する。
  ・世間に広く使われて足のように歩き回ることから、金銭の異名。
  ・貨幣経済が軌道に乗った時代。
 4)大井の土民と宇治の里人の対比するの部分を抜き出す。

大井の土民
宇治の里人             
・数日に営み出して、掛けたりけるに・おほかた廻らざりければ
・いたづらに立てりけり
・やすらかに結ひて参らせたりけるが ・思ふやうに廻りて
・水を汲み入るること、めでたかりけり

 5)大井の土民と宇治の里人の違いついて説明する。
  ・大井の土民=灌漑用水をためておく堰を作る技術に長けていた。
  ・宇治の里人=急流の宇治川は古くから水車の名所で、水車を作る技術に長けていた。
 6)この章段の作者の主題は。
  ・何事につけても専門家の知恵と技術は尊いものである。
  ★大井の土民と宇治の里人の優劣ではない。
 
8.文中の動詞の基本形・行・活用の種類・活用形を考える。
 
9.形容詞と形容動詞について説明し、活用の種類・活用形を考える。

平宣時朝臣

 平宣時は執権連署として、時の執権北条時頼に仕えた。執権は将軍の補佐役であるが、当時の将軍は飾り物で、実権は執権が握っていた。時頼は当時の最高権力者である。
 ある晩、時頼に呼ばれて、正装していこうと直垂を探していたが、その内にまた使いが来て、夜だからどんな格好でもかまわないから早く来いと督促された。普段着のままで急いでいくと、用件は、酒を一人で飲んでいても寂しいので一緒に飲もうと言うことであった。当時の最高権力者である時頼が、そんなことで呼びつけるというのは、傲慢というのではなく、それほど宣時を信頼していたということである。
 しかし、酒を飲もうと誘っておきながら、酒の肴がない。家来を呼んで探させてもよいのだが、みんな寝ているから探して来いと言う。このあたり、公私混同しないところが偉い。そして、皿に少しついた味噌を見つけてくると、これで十分と、気持ちよく酒を飲んだ。当時の権力者は、それほど素朴で質素であった。
 それに比べて、現在の権力者は、私利私欲に走り、格式張って、贅沢であると言う批判が見られる。


展開

1.「学習プリント」を配布し、学習の準備を宿題にする。
 ・本文写し、古語調べ、訳させる。
 
2.教師が音読する。
 
3.生徒が音読する。
 
4.単語に区切って読ませ、訳させる。
 1)平宣時朝臣、老の後、昔語りに、「最明寺入道、ある宵の間に呼ばるることありしに、
  1)「平宣時朝臣」「最明寺入道」の後に「が」を補う。
  2)「るる」の意味を、受身・尊敬・可能・自発の意味を説明し、その中から選ばせる。
  3)夜中に上司に呼び出されたらどんな用事だと思うか。
   ・緊急の重要な要件。
 2)『やがて。』と申しながら、直垂のなくて、とかくせしほどに、
  1)主語を問う。
  2)「やがて」の意味と、後の省略を問う。
   ・1)そのまま。2)すぐに。3)すなわち。4)そっくりそのまま。5)まもなく。
  3)逆接の接続助詞「ながら」を確認する。
  4)「直垂」を図説229頁で確認する。
 3)また使ひ来たりて、『直垂などの候はぬにや。夜なれば、異様なりとも、疾く。』とありしかば、
  1)主語を確認する。
  2)「候ふ」の意味を確認する。
   1)お仕えする(謙譲語)。2)ございます(丁寧語)。3)(補助動詞)〜です。
  3)打消の助動詞「ぬ」、断定の助動詞「に」、疑問の係助詞「や」を確認する。
  4)「にや」の後の「あらむ」の省略を補う。
  5)逆接の接続助詞「とも」、順接の接続助詞「ば」を確認する。
  6)「疾く」の意味を確認し、後の省略を問う。
   ・1)勢いが激しい。2)早い。
   ・来よ(来たまへ)
 4)萎えたる直垂、うちうちのままにてまかりたりしに、銚子に土器取り添へて持て出でて、
  1)主語を問う。途中で変わっている。
  2)「萎ゆ」の意味を確認する。
   ・1)ぐったりする。2)柔らかくなる。
  3)「まかり」の意味を問う。
   1)(「去る」の謙譲語)退出する。2)(「行く」の謙譲語)出て行く。3)(「行く」の謙譲語)参上する。4)(「行く」の丁寧語)参ります。
   ・身分の低いところから高い所へいく。
   ・身分の低い平宣時朝臣から、高い最明寺入道へ。
  4)直垂がなかったのでなく、糊のきいた直垂がない。
  5)銚子と土器を持って出てきたのだから、酒を飲むために呼び出したことがわかる。
 5)『この酒を独りたうべんがさうざうしければ、申しつるなり。
  1)会話の主体を問う。
  2)「さうざうしけれ」の意味を問う。
   ・心が安んじない、楽しくない。あるべきものがないという、心が満足しないさま。1)物足りない。
   ★現代語とは違う。
  3)順接の接続助詞「ば」を確認する。
 6)肴こそなけれ。人は静まりぬらん。さりぬべき物やあると、いづくまでも求めたまへ。』
  1)主語を確認する。
  2)強意の助動詞「ぬ」現在推量の助動詞「らん」、強意の助動詞「ぬ」適当の助動詞「べし」を確認する。
  3)強意の助動詞「こそ」疑問の係助詞「や」の意味と結びを考える。
   ・係り結びの法則について説明する。
  4)尊敬の補助動詞「たまへ」を確認する。
  5)夜中に酒を飲むのに呼び出したのに、酒の肴を用意していない。
  6)執権であり、召使も自由に使えるのに、寝ているからといって用事を言いつけない最明寺入道の人柄に注意する。
   ・部下を思いやる。
  7)部下である宣時に「たまへ」と尊敬語を使っていることに注意する。
   ・部下に対しても偉そうぶらない。
 7)とありしかば、紙燭さして、隈々を求めしほどに、台所の棚に、小土器に味噌の少しつきたるを見出でて、
  1)主語を問う。
  2)順接の接続助詞「ば」を確認する。
  3)酒の肴を探して、味噌しか見つけられなかった宣時の気持ちを考える。
   ・叱られるのではないかと心配である。
 8)『これぞ求め得てさうらふ。』と申ししかば、『こと足りなん。』とて、快く数献に及びて、興に入られはべりき。
  1)主語を問う。
  2)補助動詞「さふらふ」「はべり」を確認する。
   ・「さふらふ」は前出と意味が異なる。
   ・「はべり」1)(「あり」の謙譲語)お仕えする。2)(「あり」の丁寧語)あります。3)(補助動詞)〜ます。
  3)「れ」の意味を、受身・尊敬・可能・自発の中から選ばせる。
  4)宣時に恐る恐る差し出した味噌を、満足して受け取って、気持ちよく酒を飲んでいる最明寺入道の人柄を考える。
   ・質素で贅沢をしない。
   ・相手の気持ちを大切にする。
   ・本当の酒飲みである。
 9)その世には、かくこそはべりしか。」と申されき。
  1)主語を問う。
  2)「はべり」の意味を確認する。
   ・ここは補助動詞ではなく本動詞である。
  3)「れ」の意味を、受身・尊敬・可能・自発の中から選ばせる。
 
5.内容を考える。
 1)もう一度通訳をする。
 2)「かくこそはべりしか」の指示内容を考える。
  a)夜中に酒を飲む相手に部下を呼び出す。
  b)服装を気にしない。
  c)酒に誘いながら肴を用意していない。
  d)召使に気をつかう。
  e)客に肴を探させる。
  f)部下に敬語を使う。
  g)粗末な肴に満足して酒を飲む。
 3)これらのことに対する、宣時の評価は。
  ・肯定している。
  ・夜中に、酒を飲むために呼び出されて、肴まで探させられたが、好意的に受け取っている。
 4)最明寺入道の人柄を考える。
  ・外見を気にしない。
  ・部下と信頼関係があり、深い関係が結べる。
  ・質素である。
 5)宣時が昔語りをした意図を考える。
  ・最明寺入道との思い出にふける。(最明寺入道は毒殺されて死んでいる)
  ・最明寺入道を称賛している。
  ・昔を好意的にとらえ、今の世を批判的にとらえている。
 6)宣時は、今の世をどのように思っているか。
  ・外見ばかり気にしている。
  ・部下との信頼関係や深いつながりがない。
  ・贅沢である。


五月五日、加茂の競べ馬を

 五月五日といえば、現在では子ども日である。古代中国では、端午といい、邪気を払うために菖蒲を屋根にかけた。菖蒲は尚武(武術や勇気を尊ぶこと)に通じることから、
男児の節句になった。この日、上賀茂神社では、2頭の馬が走り競う勇壮な行事が行われた。多くの人が見物した。兼好法師は車に乗って見物に出かけた。車というのは牛車である。貴族の乗り物である。兼好は下級とはいえ貴族の子息である。ところが、遅く行ったので前の方に身分の低い見物人が立ち並んでいて見えない。貧乏人は暇なのであろうか、今でも行事があると早くから並ぶ。せっかく来たのに見えない。入る隙間もない。
 ちょうどそのとき、向かいの楝の木の股に座って見物している法師がいた。獄門に植えてさらし首をかけるのに利用された。そこなら誰もいないし、混んでいてもよく見える。ところが、朝早くから見物に来ていたからだろうか、法師は居眠りをしているので落ちそうである。落ちそうになっては目を覚ます。
 見ている人も冷や汗モノである。こんな無茶をする法師もいるものだと軽蔑したり、驚いたり、呆れたり。危険な状態の中で安穏としていられるものだなぁと笑っている。そのとき、兼好の心にふとこんな考えが浮かんできた。自分たちもいつ死ぬかわからない危険な状態なのに、それを忘れて、安穏として競馬を見物している。愚かさでいえば、法師を上回っている。思ったままを口に出すと、前にいた見物人が、本当にそうだと感心して、場所を空けてくれた。こんな言葉にどうして人は感心して、場所を譲ってくれたのか。一説には、このとき兼好は十三歳であり、幼い子どもが言ったからみんなが感心してくれたという。これなら納得できるが、いい大人が言ったとしても、小賢しいといって相手にされなかったであろう。
 最後の兼好のコメントであるが、最初は分け入る隙もなかったが、私の話を聞いて感動して、場所を譲ってくれるほど態度が変化したことを取り上げている。こんな道理は大したことはなく、だれでも思いつくことだが、言ったタイミングがよかったから感動したのだとしている。人は、木や石のように感情がない生き物ではなく感情があるので、同じことを言っても時と場合に応じて感動もするものだ。とはいえ、こう書いてみると自慢話に聞こえる。兼好が大人でもそうだが、十三歳であったとしたらなおさらである。しかし、達観した兼好自身、競馬を見に来ているし、場所を空けてもらったら喜んで見物しているのは、大きな矛盾である。


展開

0.「学習プリント」を配布し、学習の準備を宿題にする。

1.教師が音読する。
 
2.生徒と音読する。
★単語に区切らせ、助動詞を説明し(指摘させ)、難解語句説明し、訳させ、補足説明や 質問をする。
 
3.五月五日、賀茂の競べ馬を見はべりしに、車の前に雑人立ち隔てて見えざりしかば、おのおの下りて、埒の際に寄りたれど、ことに人多く立ち込みて、分け入りぬべきやうもなし。
 1)五月五日について説明する。
  ・古代中国の節句の一つ。「図説国語(東京書籍)」二七七頁。
  ・一月七日=人日。七草がゆや、高い所で詩を作る。
   三月三日=上巳。曲水の宴をしたり、川で身を清めたり人形に身の穢れを移して流したりして災厄を払う。雛祭り。
   五月五日=端午。菖蒲を酒に浮かべて飲んだり、ちまきを作ったりした。菖蒲が尚武につながり、男子の節句になった。
   七月七日=七夕。牽牛と織女が年に一度天の川で会う。裁縫などの技芸を祈って針供養などを行う。
   九月九日=重陽。九という陽数が重なる。高い所に登って菊の花の酒を飲み、邪気を払い、長寿を祈った。
 2)加茂の競べ馬を説明する。
  ・二頭の馬が走り比べをする。
  ・普通は五月一日に行われるが、この年は五日に行われた。
 3)「はべりし」の「し」が直接過去の助動詞の連体形で、自分の体験である。したがって主語は私である。
 4)「車」とはどんな車か。
  ・牛車。図説二三八頁参照。
  ・身分の高い人の乗り物。作者である兼好法師は身分が高い。
  ・「雑人」とあることからも、作者は身分が低くないことがわかる。
 5)接続助詞に注意する。
 6)「入りぬべき」の助動詞の意味を考える。
  ・ぬ+推量=強意
 7)身分の低い貧しい人にとって、この行事は少ない娯楽の一つであり、早くから来て待っている。そこに、身分の高い作者らが牛車に乗って見物にやってきたという状況を確認する。
 
4.かかる折に、向かひなる楝の木に、法師の登りて木の股についゐて物見るあり。取り つきながらいたう眠りて、落ちぬべき時に目を覚ますことたびたびなり。
 1)「楝の木」は、獄門に植えてさらし首を書けるのに使った、三メートルばかりの木である。
 2)格助詞「の」の用法を考える。
 3)「落ちぬべき」の助動詞の意味を考える。
  ・ぬ+推量=強意
 4)「たびたびなり」の助動詞の意味を考える。
  ・断定「なり」終止形。体言に接続する。
 5)法師の様子を図示しながら理解する。
 
5.これを見る人、あざけりあさみて、「世のしれ者かな。かく危ふき枝の上にて、安き心ありて眠るらんよ。」と言ふに、
 1)「眠るらんよ」の「らむ」の助動詞の意味を考える。
 2)人々は、法師の何を嘲り呆れたのか。
  ・危険な状態にあるのに、それに気づかず安心しているから。
 
6.わが心にふと思ひしままに、「我らが生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて、物見て日を暮らす。愚かなることは、なほまさりたるものを。」と言ひたれば、
 1)「わが心」とは誰の心か。
  ・作者の心。
 2)「ただ今にもやあらん」の品詞分解をする。
  ・に=断定「なり」連用形(体言に接続)
  ・や=疑問の係助詞。
  ・あら=ラ変未然形
  ・推量「む」連体形(係り結び)
 3)「それ」の指示内容は。
  ・我らが生死の到来
 4)「物見て」とは具体的に何を見るのか。
  ・加茂の競べ馬の行事。
 5)法師とわれらの愚かさを比較する。
  ・法師=木の上で落ちそうになっているのに、木の上で安心して眠っている。
  ・我ら=死がいつ訪れのかわからないのに、競べ馬を見て楽しんでいる。
 
7.前なる人ども、「まことに、さにこそさうらひけれ。最も愚かにさうらふ。」と言ひて、皆後ろを見返りて、「ここへ入らせたまへ。」とて、所を去りて呼び入れはべりにき。
 1)「さこそさうらひけれ」の係り結びを考える。
 2)敬語に注意して訳す。
 3)「はべりにき」の助動詞を考える。
  ・に=完了「ぬ」連用形
  ・き=過去「き」終止形。
 4)さっきは作者に無関心で、場所も譲らなかった雑人が、作者の言葉で、場所を空けて招き入れるという態度が大きく変わったことに注意する。
 
8.かほどの理、誰かは思ひ寄らざらんなれども、折からの思ひかけぬ心地して、胸に当たりけるにや。人、木石にあらねば、時にとりて物に感ずることなきにあらず。
 1)「かほどの理」とは何を指しているか。
  ・我らが生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて、物見て日を暮らす。
 2)「誰かは思ひ寄らざらんなれども、」の助動詞と係り結びを考える。
  ・か=反語の係助詞
  ・ざら=打消「ず」未然形
  ・ん=推量「む」連体形
  ・なれ=断定「なり」已然形
  ・係助詞「か」の結びで「なる」になるはずであるが、接続助詞「ども」が接続した ので、結びが流れた(消滅した)。        3)「折りからの」の訳に注意する。
  ・時が時なので
 4)「思ひかけぬ心地」の助動詞を識別する。
  ・ぬ=打消「ず」連体形。完了「ぬ」終止形との識別である。
   接続で見れば、「かけ」が未然形か連用形か判断できない。
   体言「心地」が接続するので連体形になる。
 5)「にや」の説明し、省略部分の補足する。
  ・に=断定「なり」連用形
  ・や=疑問の係助詞。
  ・あらむ(む=連体形)が省略されている。
 6)「木石にあらねば」の助動詞を考える。
  ・に=断定「なり」連用形
  ・ね=打消「ず」已然形
 7)「なきにしもあらず」の助動詞を考える。
  ・に=断定「なり」連用形
  ・ず=打消「ず」終止形
 8)人が木石ではないとは、木や石をどのようなものととらえているか。
  ・感情がないもの。
 
9.作者は何が言いたかったのか。この章段の主題は何か。
 ・人は感情を持っているので、何気ない言葉にも時によって感動するものである。
 ・人々の態度の変化が中心になっている。
 ・しかし、この話のようなことを祭の場で言われて、感動するだろうか。
 
10.作者の死生観について考える。
 ・人間は死と背中合わせに生きているのに、それを忘れて安心して生活している。
 
11.という死生観を持っているにもかかわらず、この章段の作者の行動に矛盾はないか。
 ・自分も加茂の競べ馬を見に来ている。
 ・場所を譲られて喜んで見物している。
 ・一説によると、この話は作者が十三歳の時の話であるとされている。そうすれば、人々が感動したことも、作者が続いて見物したことも理解できる。


丹波に出雲といふ所あり

教材観
 京都の丹波地方に、山陰の出雲大社のフランチャイズの,地方には珍しい立派な神社があった。しだの何とか言う人が領有している土地にあったので、しださんが聖海上人や多くの人を、ぼたもちをご馳走しようと参拝に誘った。ぼたもちで釣るところがせこい。連れて行ったところ、あの出雲大社のフランチャイズということだけで信心を起こしてしまう。しかも、獅子や狛犬が背中合わせに立っているのを見て、上人はますます感動し、その他の人にも強要するので、その他の人も感動してしまう。さらに好奇心をかき立てられて、年配の神官を呼び止めて、その由緒を尋ねる。すると、神官は、悪ガキどもの悪戯だ、と言って置き直して行ってしまう。上人の感涙は無駄になってしまった。
 これも、高徳の僧の失敗談である。兼好は同業者には厳しいのであろう。ただ、名前や権威だけで無批判に受け入れてしまう風潮を風刺したのであろう。


1.【指】「学習プリント」を配布し、学習の準備を宿題する。
2.【指】宿題の点検をする。
3.【説】読み方を確認する。
4.音読する。
5.あらすじをとる。
 1)【L1】季節は。
  ・秋。
 2)【L1】場所は。
  ・丹波の出雲の神社。
 3)【L2】登場人物は。
  ・ひだのなにがし、聖海上人、神官、同行者。
 4)【L2】何があったのか。
  ・獅子と狛犬が背中を向け合って立っていたので、聖海上人が感動した。
  ・しかし、子どものいたずらであった。
  【注】ここまで理解できれば素晴らしいのだか。

6.丹波に出雲といふ所あり。大社を移して、めでたく造れり。
 1)【L1】丹波の位置は。
 2)【説】出雲大社の説明をする。
  ・島根県にある。日本の神社の元締め。各地方に支社があった。縁結びで有名。十月には日本中の神が出雲に集まるというので、神無月という。
 3)【説】語句の意味。
  ・大社を移す=神霊をお迎えする。神霊は大国主命。
  ・めでたし=1)すばらしい2)美しい3)喜ばしい。現代語は喜び祝うべき。
 4)【L1】訳させる。
  ・丹波に出雲というところがある。出雲大社の神霊をお迎えして、立派に造ってある。

7.しだのなにがしとかやしる所なれば、秋のころ、聖海上人、そのほかも、人あまた誘 ひて、
 1)【説】語句の意味。
  ・なにがし=だれそれ。名前を知らない人を言う。
  ・しる=1)治める2)領有する。現代語の「知る」ではない。
  ・あまた=多く。
 2)【L2】訳させる。
  ・しだのなんとかいう人が領有する所なので、秋の頃、(しだのなにがしが)、聖海上人やその他多くの人を誘って
 3)【L2】「誘ひて」の主語は。
  ・しだのなにがし。

8.「いざたまへ、出雲拝みに。かいもちひ召させん」とて、
 1)【L1】誰の会話か。
  ・しだのなにがし。
 2)【説】敬語の種類と訳し方。
  ・尊敬=お〜になる。特殊な言い方。
  ・謙譲=〜申し上げる。お〜する。
  ・丁寧=〜です。〜でございます。
 3)【説】語句の意味。
  ・たまふ=尊敬の補助動詞。ここでは上に「来」が省略されている。いらっしゃい。
  ・かひもちひ=ぼたもち。
  ・召す=「食ぶ」の尊敬語。お食べになる。召し上がる。
      1)ご覧になる2)お治めになる3)お招きになる4)お取り寄せになる5)任命なさる6)お食べになる7)身にお着けになる8)なさる9)お乗りになる。
 4)【説】文法事項。
  ・せ(使役)む(意志)
 5)【L2】訳させる。
  ・「さぁ、いらっしゃい。出雲を拝みに。ぼたもちをご馳走しよう。」
 6)【L2】「いざたまへ、出雲拝みに」の技法は。
  ・倒置法

9.具しもて行きたるに、おのおの拝みて、ゆゆしく信おこしたり。
 1)【説】語句の意味。
  ・具す=1)備える。2)連れて行く
  ・ゆゆし=1)おそれおおい2)不吉だ3)はなはだしい4)すばらしい5)ひどい。現代語では5)。
  ・信=信心。
 2)【L1】訳させる。
  ・連れて行くと、おのおの拝んで、たいへん信心を起こした。
 3)【L2】なぜ、人々は信心を起こしたのか。
  ・地方なのに神社が立派であったから。

10.御前なる獅子・狛犬、背きて、後ろさまに立ちたりければ、上人いみじく感じて、
 1)【説】獅子と狛犬について
  ・魔除けのために置かれた像。左に獅子、右に狛犬。一方は口を開き、他方は閉じ、阿吽の一対をなして、向き合って立っている。
 2)【説】語句の意味。
  ・背く=背中を向け合って。
  ・いみじ=1)たいへん2)すぐれている3)ひどい。
 3)【L1】訳させる。
  ・神社の前になる獅子と狛犬が、背中を向け合って、後ろ向きに立っていたので、上人はたいへん感心して、
 4)【説】人形を使って実演する。
 5)【L1】なぜ、上人は感心したのか。
  ・獅子と狛犬が背中合わせに

11.「あなめでたや。この獅子の立ちやう、いと珍し。深きゆゑあらん」と涙ぐみて、
 1)【説】語句の意味。
  ・ゆゑ=理由。                              
 2)【L1】文法事項。
  ・ん(推量)
 3)【L1】訳させる。
  ・「ああ、すばらしい。この獅子の立ち方、たいへん珍しい。深い理由があるのだろう」と涙ぐんで、
 4)【L2】なぜ、上人は涙を流したのか。
  ・獅子と狛犬が背中合わせに立っているのには深い理由があると推測したから。
  【注】上人の感動は、一人でヒートアップしている。

12.「いかに殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。むげなり」と言へば、
 1)【説】語句の意味。
  ・いかに=1)どのように2)なぜ3)さぞかし4)いやはや5)どんなに6)ちょっと(感動詞。呼びかけ)
  ・殿=1)屋敷2)男性の尊称3)夫。
  ・ばら=〜たち。複数を表す接尾語。
  ・殊勝=1)特に優れている2)おごそかだ3)けなげだ。
  ・ご覧じとがめずや=「見とがむ」の尊敬語。「とがむ」は1)非難する2)気づく。
            見てお気づきになりませんか。
  ・むげ=1)まったくひどい2)身分が低い3)極端である4)それ以外の何物でもない5)不運だ。
 2)【L2】訳させる。
  「ちょっとみなさん。特に優れていることを見てお気づきになりませんか。まったくひどい。」
 3)【L2】「むげなり」とは何が、まったくひどいのか。
  ・人々が獅子と狛犬の立ち方のすばらしさに気がついていないこと。      
 4)【説】上人は自分の感動を他の人にも強要している。

13.おのおの怪しみて、「まことに他に異なりけり。都のつとに語らん」など言ふに、
 1)【説】語句の意味。
  ・あやし=1)不思議である2)異常である3)不都合である4)身分が低い5)見苦しい。
  ・つと=土産話。物を藁などで包んで持ち運びやすくしたもの。
 2)【L1】文法事項。
  ・けり(詠嘆)
  ・ん(意志)
 3)【L1】訳させる。
  ・おのおの不思議に思って、「本当に他と違っている。都への土産話に話そう」など言うと。
 4)【L1】何を「あやし」と思ったのか。
  ・獅子と狛犬が背中合わせに立っていること。

14.上人なほゆかしがりて、おとなしくもの知りぬべき顔したる神官を呼びて、
 1)【説】語句の意味。
  ・ゆかし=1)関心が引かれる。知りたい、見たい、聞きたい2)なつかしい。現代語は2)や上品だ。
  ・おとなし=1)大人びている2)年配で思慮分別がある3)温和だ。現代語は従順な。
 2)【説】文法事項。
  ・ぬ(強意止)べき(推量体)
 3)【L2】訳させる。
  ・上人はさらに知りたがって、年をとっていそうな顔をした神官を呼んで、


15.「この御社の獅子の立てられやう、さだめてならひあることにはべらん。ちと承らばや」と言はれければ、
 1)【説】語句の意味。
  ・さだめて=きっと。
  ・ならひ=1)習慣2)由緒。
  ・はべり=1)(謙譲)お仕えする2)(丁寧)〜ございます。
  ・承る=「受く」「聞く」の謙譲語。1)お受けする2)お聞きする。
 2)【説】文法事項。
  ・たて(下二未)られ(受身用)。
  ・はべらむ(推量止)
  ・言はれ(尊敬)
  ・ばや(終助詞。願望。〜したい)
 3)【L2】訳させる。
  ・「この神社の獅子の立てられ方は、きっと由緒があることでございましょう。ちょっとお聞きしたい」とおっしゃったので、
 4)【説】上人の好奇心はさらにヒートアップして、自分の感動の根拠を確認したいと思っている。

16.「そのことに候ふ。さがなき童どものつかまつりける、奇怪に候ふことなり。」
 1)【説】語句の意味。
  ・候ふ=(謙譲)1)お仕えする2)参上する。(丁寧)3)ございます。
  ・さがなし=1)意地悪な2)口が悪い3)いたずらな。
  ・つかまつる=1)「す」の謙譲語。いたす。2)丁寧だ。
  ・奇怪=不思議な。
 2)【L2】訳させる。
  ・「そのことでございます。いたずらな子どもたちがいたした、不思議なことでございます。」
 3)「そのこと」の指示内容は。
  ・この御社の獅子の立てられよう


17.とて、さし寄りて、据ゑ直していにければ上人の感涙いたづらになりにけり。
 1)【説】語句の意味。
  ・いたづら=1)無駄だ2)何もすることがない。
 2)【説】文法事項。
  ・いに(ナ変用)
 
3)【L1】訳させる。
  ・と言って、近寄って、置き直したので上人の感涙は無駄になった。

18.【L3】起承転結4つに分け、上人の感動の昂りの段階は。
 1)(起)「はじめ〜信おこしたり。」
  ・神社の立派さに、「ゆゆしく信を起こした」。
 2)(承)「御前なる獅子〜都のつとに語らん」などいふに、」
  ・獅子と狛犬が背中合わせに立っているので、「いみじく感じて」
  ・深い理由があるのだろうと「涙ぐみ」
 3)(転)「上人なほゆかしがりて〜いにければ」
  ・「なほゆかしがりて」、その理由を神官に尋ねた。
 4)(結)「上人の感涙いたづらになりにけり」
  ・子どものいたずらと知って、がっかりした。



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仁和寺にある法師 学習プリント

学習の準備
1.次の漢字の読み方を現代仮名遣いで書きなさい。
 仁和寺  法師  岩清水  心憂く  徒歩  尊く  本意  先達
2.次の語句の意味を古語辞典で調べてください。
心憂し
徒歩より
まうづ
かばかり
さて
かたへ
年ごろ
はべり
おはす
そも
ごと
ゆかし
本意
先達


学習のポイント
1.仁和寺の法師の様子を理解する。
2.法師が岩清水をお参りした理由を理解する。
3.法師のお参りした感想を理解する。
4.法師が山まで行かなかった理由を理解する。
5.法師の山へ行く人に対する気持ちを理解する。
6.作者の言いたかったことを理解する。
7.係助詞の意味と結びを確認する。
8.過去の助動詞の使い分けを理解する。


九月二十日のころ(徒然草) 学習プリント
                                                            点検  月  日
学習の準備
1.本文をノートに写しなさい。その際、右1行左2行空けておきなさい。
2.単語に分けなさい。
3.本文の右に、用言は−−−線を引き、行・活用の種類・活用形を書きなさい。助動詞 は、−−−を引き、意味・基本形・活用形を書きなさい。
4.読み方を現代仮名遣いで書きなさい。
 九月 案内 妻戸 朝夕
5.次の語句を古語辞典で調べ、ノートに書きなさい。
 たてまつる ありく はべり おぼす 案内 たまふ しげし しめやか しのぶ
 あはれ やがて くちをし ただ 
6.本文の左に現代語訳を書きなさい。

学習のポイント
1.何をするために外出したのかを理解する。
2.庭の様子を理解する。
3.その家の主の行為を理解する。
4.その行為に対する作者の感想を理解する。
5.主語を確認する。
6.受身・使役・反実仮想の助動詞に注意する。
7.「時知らぬ〜」の歌の解釈を理解する。

丹波に出雲といふ所あり 学習プリント
          組  番 氏名               点検  月  日

学習の準備
1.本文を4行ずつあけてノートに写しなさい。
2.次の語の読み方を現代仮名遣いで書きなさい。

 丹波  出雲  大社  聖海上人  召す  具す  御前  狛犬  背く

 殊勝  御社  承る  候ふ  童  奇怪  感涙
3.次の語句の意味を古語辞典で調べなさい。
めでたし
しる
あまた
召す
具す
ゆゆし
殊勝
むげ
怪し
つと
ゆかし
おとなし
さだめて
ならひ
承る
さがなし
奇怪に
いたづら

学習のポイント
1.出雲大社について理解する。
2.獅子・狛犬の状態について理解する。
3.聖海上人が感動した様子を段階的に理解する。
4.獅子・狛犬が背中合わせになっていた理由を理解する。
5.上人の涙が「いたづら」になった理由を理解する。
6.主語や会話の主体について理解する。
7.助動詞の意味に注意する。