あづま路の道の果て


 都で生まれ八才頃まで京都に育ち、九才から十三才の思春期に当たる時代を、父親の国司の任地の関係で辺鄙な東国で送った作者が、五十才を過ぎた晩年の観点から生涯を回想し、物語への憧れに焦点を当てて綴った自分史である。作者のいる上総の国(千葉県)は、直線的な距離では「あづま路の道の果て」である常陸の国(茨城県)より近いのであるが、陸路ではより奥の方にある。精神的にも距離があったのだろう。

 そんな自分を「なほ奥つ方に生ひ出でたる人」と三人称で表現している。日記ではあるが、物語仕立てにするためか。そして、その主人公を「いかばかりかあやしかりけむを」と田舎者であると卑下している。そんな主人公が、姉や継母が語る物語の端々を聞いて、ぜひ読んでみたいと思うようになる。上総の田舎にあってもさすがに菅原道真の一族である、学問や文学には熱心であった。しかし、田舎であるので本を手に入れられるわけでもなく、それを暗記して聞かせてくれるわけでもなく、読みたいという思いだけが積もり積もっていく。「いかで見ばや」に一途で積極的な物語への憧れがうかがえる。

 彼女の願いをかなえてほしいと、等身大の薬師仏を作り、人のいない時にこっそり祈ることを繰り返す。薬師仏は現世利益をもたらす仏と信じられていた。「身を捨てて額をつき」という様子に願望が強く込められている。

 その願いがかなったのか、十三才の時に京都に帰ることができるようになった。現実には父の任期が終了したのである。住んでいた家を壊して、牛車に荷物を乗せていざ出発しようという時になって、夕暮れの霧の中から等身大の薬師仏が立っているのが見えた。この薬師仏が願いをかなえてくれたのだ思うと、感謝の気持ちと同時に、見捨てていかねばならない別れのつらさがこみ上げてきて、思わず涙が出てきてしまった。


1.学習プリントの点検をする。

2.教師が音読する。

3.生徒と音読する。

4.脚注で『更級日記』の概要を説明する。
 ・成立=平安時代中期。
 ・ジャンル=日記文学。
 ・作者=菅原孝標の女
 ・内容=五十一才になった作者が、十三才頃のことから回想している。物語へのあこがれ、宮仕えや結婚、夫との死別、信仰の生活。

5.あづま路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、

 1)「あつまぢの道のはてよりも、なほ奥つかた」とはどこか確認する。
  ・表紙裏の地図を利用する。
  ・「あつまぢの道のはて」とは常陸である。
  ・「奥つ方」の「つ」は「の」の意味である。
  ・「なほ奥つ方」とは、さらに北の磐城ではなく、房総半島に南下した上総である。
  ・直線距離では上総の方が京都に近いが、道の関係で常陸を通って上総に行くので遠い。
 2)「生ひいづ」の意味を確認する。
  1)生まれ出る。2)成長する
 3)「いかばかりかあやしかりけむを」を品詞分解させる。
  ・いかばかり(副詞)か(係助詞・疑問)あやしかり(シク・用)けむ(過去推量・体)を(接続助詞)
  ・「けむ」から回想であることがわかる。
 4)「いかばかり」「あやし」の意味を確認する。
  1)(程度に関する疑問・推測)どのぐらい。2)(程度が計り知れない)どんなにか
   〔怪し〕1)神秘的だ2)変わっている3)不思議だ4)不都合だ
   〔賤し〕1)見苦しい。田舎じみている。2)身分が低い
 5)訳させる。
 6)「あづま〜生い出でたる人」について。
  1)誰のことか質問する。
   ・作者。
   ・菅原孝標の女。
  2)日記であるのに「私」が主語でない理由を説明する。
   ・「土佐日記」「蜻蛉日記」にならって、できるだけ客観性をもたせようとしている。
  3)実際は父が上総の国司でそれについてきているのに、生まれた時から上総に生まれて育ったような表記になっている理由を説明する。
   ・田舎で育った少女が物語に憧れているというテーマを強調するため。
 7)「いかばかりかあやしかりけむ」と卑下している理由を説明する。
  ・田舎で育った少女が物語に憧れているというテーマを強調するため。

6.いかに思ひ始めけることにか、「世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばや。」と思ひつつ、

 1)「いかに」の意味を確認する。
  (状態・原因・程度の疑問・推測)1)どのように2)なぜ3)どんなに4)なんとまぁ
 2)「いかに思ひ始めけることにか」を品詞分解させる。
  ・いかに(副詞)思ひ(四用)始め(下二用)ける(過去)こと(名)に(断定用)か(係助・疑問)
 3)「にか」の省略を質問する。
  ・あらむ
 4)「あんなる」の文法的説明をする。
  ・あん(ラ変・連体・撥穏便)なる(伝聞・連体)
  ・「なる」は接続から識別できないが、意味の上から伝聞。
 5)「いかで」「ばや」の意味。
  1)(疑問)どうして。2)(反語)どうして〜か。3)(願望)なんとかして
  1)〜したいものだなぁ。2)〜であってほしい
 6)訳させる。
 7)上総の田舎に住んでいるので、年頃になって物語が読みたいと思っても、本が手に入らないことを説明する。

7.つれづれなる昼間、宵居などに、姉・継母などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、

 1)「宵居」の意味を確認する。
  ・夜起きていること。
 2)訳させる。
 3)「語る」「聞く」の主語を質問する。
  ・語る=姉、継母
  ・聞く=私
 4)姉や継母が多くの物語を暗唱しているほど教養がある理由を質問する。
  ・作者は菅原孝標の女で、菅原一族である。
  ・菅原道真の一族で、学問に通じている。
  ・母の姉は『蜻蛉日記』の作者である

8.いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。

 1)「ゆかしさ」の意味を確認する。
  ・知りたさ、見たさ、聞きたさ、読みたさ
 2)「そらにいかでかおぼえ語らむ」を品詞分解させる。
  ・そら(名)に(格助)いかで(副詞)か(係助・反語)おぼえ(下二用)語ら(四未)む(推量体)
 3)「そら」「いかで」の意味を確認する。
  1)うつろな。2)いいかげんだ。3)はかない。4)暗記している
  1)(疑問)どうして。2)(反語)どうして〜か。3)(願望)なんとかして。
 4)訳させる。
 5)「まされど」「思ふままに」「語らむ」の主語を質問する。
  ・まされど、思ふままに=私
  ・語らむ=姉、継母
  ★特に「語らむ」の主語に注意する。自分が暗唱するのでなく、姉や継母に自分の聞きたいところを暗唱して語ってもらう。

9.いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、手洗ひなどして、人間にみそかに入りつつ、

 1)「心もとなし」「ままに」の意味を確認する。
  1)気がかりだ。2)待ち遠しい。3)たよりない。
  1)〜の通りに。2)〜にまかせて。3)〜するにつれて。4)〜ので。5)〜したままで。6)〜するやいなや
 2)「薬師仏」の説明をする。
  ・現世利益がある。作者は物語が見れるようにお願いしている。
 3)「人間」の意味を確認する。
  ・誰もいない時に。
 4)訳させる。
 5)「手洗い」をした理由を質問する。
  ・神仏に祈る前に身を清める。
 6)誰もいない時に薬師仏を作った理由を質問する。
  ・父や継母に気をつかっている。

10.「京にとく上げたまひて、物語の多く候ふなる、ある限り見せたまへ。」と、身を捨てて額をつき、祈り申すほどに、

 1)「とく」の意味を確認する。
  〔敏し〕1)すばしこい2)勘が鋭い
  〔疾し〕3)早い4)速い
 2)敬語について、種類、主体、対象を確認する。
 3)敬語を抜き出し、種類、主体、対象を質問する。
  ・上げたまひ=尊敬、あやしかりける人→仏
  ・候ふなる=あやしかりける人→仏
  ・見せたまへ=尊敬、あやしかりける人→仏
  ・祈り申す=謙譲、作者→仏
 4)助動詞「なる」の意味を質問する。
  ・伝聞
  ・接続では判断できないので、文脈から判断する。
 5)訳させる。
 6)京に行けば物語をすべて見たいと言う熱意を確認する。
 7)祈り方にも一途さが表れていることを確認する。
 8)生徒にとって、これほどほしいものがあるか質問する。
  ・都会に住んでいるので、金があれば手に入る。
  ・インターネットが発達したので、さらに手に入りやすくなった。
  ・作者ほどほしいものはあるのだろうか。

11.十三になる年、上らむとて、九月三日、門出して、いまたちといふ所に移る。

 1)助動詞「のぼら」の意味を確認する。
  ・意志。
 2)訳させる。
 3)京に行くことになった理由を質問する。
  ・父親の任期が切れたので、京に帰ることになった。
 4)方違へをしていることを説明する。

12.年ごろ遊び慣れつる所を、あらはに毀ち散らして、立ち騒ぎて、日の入りぎはの、いとすごく霧りわたりたるに、

 1)「年ごろ」の意味を確認する。
  ・数年来
 2)「日の入りぎは」の「の」の用法を質問する。
  ・同格
  ・「わたりたる」と連体形が下にある。
 3)訳させる。

13.車に乗るとて、うち見やりたれば、人間には参りつつ額をつきし薬師仏の立ちたまへるを見捨てたてまつる、悲しくて、人知れずうち泣かれぬ。

 1)敬語を抜き出し、種類、主体、対象を質問する。
  ・参り=謙譲、作者→仏
  ・立ちたまへる=尊敬、作者→仏
  ・見捨てたてまつる=謙譲、作者→仏
 2)「人知れずうち泣かれぬ」を品詞分解させる。
  ・人(名詞)知れ(四未)ず(打消用)うち(接頭語)泣か(四未)れ(自発用)ぬ(完了止)
  ・「れ」は知覚動詞に接続しているので自発。
  ・「ぬ」は接続では判断できないが、終止形なので完了。
 3)帰京の希望を実現してくれた薬師仏に、感謝しながらも、見捨てていかねばならない  (大きすぎる)悲しみを説明する。
 4)生徒に、引っ越した時に同じような経験がないか質問する。


源氏の五十余巻


  継母は父との不仲で去っていき、長年世話をしてくれた乳母や侍従の大納言の娘も他界し、塞ぎ込んでいる私をなんとか慰めようと、実母は私の物語好きを考えて様々な物語を探して与えてくれる。読んでいく内に心が慰んでゆく。

 その中に「源氏物語」の「若紫」の巻があった。上総に居ることから憧れていた「源氏物語」である。しかし、五十四分の一、一巻を読むと他も読みたくなるのが人情である。漫画のコミックスと同じである。みんな上京したばかりで言っても探してもらうこともできないので、相談もできない。折あるごとに心の中で「源氏物語」を一巻から五十四巻まで全部読ませてほしいと祈る。そんな親が広隆寺に籠もった時も同行し、この折にも源氏物語を読ませてほしいと祈る。寺を出ると同時に霊験があらたかになるかと期待したが実現しなかった。

 折りも折り、田舎から上京した叔母の所に親が私を行かせた。久しぶりの逢瀬に叔母は感心してくれた。そして帰りがけに全く期待していなかったのに、土産に「源氏物語」のみならずさまざまな物語の入った櫃をくれた。叔母は姪の物語好きを聞き知っていたのか、わざわざ田舎から持ってきてくれたのである。恐るべし菅原一族である。まさに、棚からぼた餅であった。私の帰る時の心地は格別であった。

 私はその日から一人部屋に籠もって読み続ける。私にとって当時最高の名誉である后の位も問題にならない程の幸せであった。一日中寝る時間も惜しんでひたすら読み、暗記までしてしまった。

 そんな私を見かねて、僧が夢枕に立ち、当時の女性に尊重された女人の成仏を説いた法華経の第五巻をを習えと言う。遊んでばかりいないで女性としての勉強をしなさいと言うのである。しかし、私は人に話しもせず、法華経を習おうともせず、物語のことばかりが頭にあった。「源氏物語」を読んでは、自分と似たような身分である夕顔や浮舟のようになりたい、しかし今は器量が悪い、年頃になると器量もよくなり、髪も長くなるだろうと、そんなことばかり思っている。本当に、あの頃の自分を思い出すと、なんと呆れたものかと思う。

 私の「源氏物語」へのあこがれを、生徒の何かへのあこがれと重ね合わせて考えていく。当時は、仏教が勉強で物語は遊びである。生徒にとって、勉強を全くしないで没頭できるものがあるのかないのか、あるとすればそれは何か。


あらかじめ難解語句を調べさせておき、生徒に訳させていく。主語・敬語・助動詞に注意する。

1.学習プリントの点検をする。

2.教師が音読する。

3.生徒と音読する。

4.ここまでのあらすじを確認する。
 ・継母は父親と夫婦仲が悪く離婚した。
 ・世話をしてくれた乳母や侍従の大納言の娘とは死別した。
 ・都で不慣れな上に、このようなことが重なりふさぎ込んでいる。
 ・継母に代わって、都に残っていた実母と暮らすことになる。

5.かくのみ思ひくんじたるを、「心も慰めむ。」と心苦しがりて、母、物語など求めて見せたまふに、げにおのづから慰みゆく。

 1)「思ひくんじ」「心苦しがる」の意味を確認する。
  ・ふさぎこむ。
  ・気づかう。
 2)訳させる。
 3)「思ひくんじたる」「慰めむ」「心苦しがりて」「見せたまふ」「慰みゆく」の主語を質問する。
  ・(私が)思ひくんじたる、(母が)慰めむ、心苦しがりて、見せたまふ、(私は)慰みゆく
 4)敬語を抜き出し、種類、主体、対象を質問する。
  ・見せたまふ =尊敬、作者→母
  5)「母」とは実母で、上総にはついて行っていないので、その分娘のために何かしてやりたいと思っていた。ことを説明する。

6.紫のゆかりを見て、続きの見まほしくおぼゆれど、人語らひなどもえせず、誰もいま だ都慣れぬほどにて、え見つけず。

 1)「人語らひ」の意味を確認する。
  ・人に相談すること。
 2)助動詞を指摘させ、意味と活用形を質問する。
  ・見まほしく=願望用
  ・えせ=打消用
  ・慣れ=打消体(名詞が接続しているので連体形)
  ・見つけ=打消止
 3)副詞「え」の意味を説明し、用法を質問する。
  ・可能
  ・下に打消語を伴い不可能の意味を表す。
  ・不可能
 4)訳させる。
 5)「紫のゆかり」とは何という物語の何という巻か質問する。
  ・源氏物語の若紫。
 6)一部を見ると全部見たくなる心理を理解する。
  ・漫画コミックと同じで一部を読むと止まらなくなる。
 7)「人語らひ」をしなかった理由を質問する。
  ・相談しても誰も都に不案内なので見つけられないから。

7.いみじく心もとなく、ゆかしくおぼゆるままに、「この『源氏の物語』、一の巻よりして、皆見せたまへ。」と、心の内に祈る。

 1)「心もとなし」「ゆかし」の意味を復習し、「まま」の意味を確認する。
  ・心もとなし=待ち遠しい。じゃったい。
  ・ゆかし=読みたい                
  ・ままに=1)そのまま。2)思ったとおり。3)〜したまま。4)〜につれて。5)〜するとすぐに。6)〜なので。
 2)訳させる。
 3)敬語を抜き出し、種類、主体、対象を質問する。
  ・見せたまへ=尊敬、私→?

8.親の太秦に籠りたまへるにも、異事なくこのことを申して、出でむままにこの物語見果てむと思へど、見えず。

 1)「太秦に籠り」について説明する。
  ・太秦は広隆寺であり、「籠り」は寺に泊まり込みお祈りをすること。
  ・当寺は聖徳太子ゆかりの秦氏の氏寺として,歴史の幕をあけた。秦氏が衰退した以後の当寺は,秘蔵する仏像の霊験を宣伝して,信仰の寺として寺運を保った。信仰の中心は古代・中世・近世を通じて薬師信仰と聖徳太子信仰だった。病気平癒の現世利益を願う薬師信仰は,平安初期から当寺安置の薬師如来の霊験が世にきこえ,貴賤が群参し参籠する風が広くおこった。
  ・神社や仏堂などへ参り,一定の期間昼も夜もそこに引き籠(こも)って神仏に祈願すること。参籠の日数が多いほど神仏に訴える効果があり,神仏もその熱意に感応せざるをえなくなる。
 2)助動詞を指摘させ、意味と活用形を質問する。
  ・見果て=意志止
 3)訳させる。
 4)「籠もりたまへる」「申して」「出でむ」「見えず」の主語を質問する。
  ・親の−籠もりたまへる
   (私が)申して
   (私が)(広隆寺を)出でむ
   (物語が)見えず
 5)敬語を抜き出し、種類、主体、対象を質問する。
  ・籠もりたまへる=尊敬、作者→親
  ・申して=謙譲、作者→仏
 6)「このこと」の指示内容を質問する。
  ・この『源氏の物語』、一の巻より して、皆見せたまへ
 7)当時の書物の入手の困難さを説明する。
  ・当時は印刷技術もなく、すべて書写していたので、冊数が少ない。本屋に行けば買えるようなものではない。

9.いとくちをしく思ひ嘆かるるに、をばなる人の田舎より上りたる所に渡いたれば、

 1)助動詞を指摘させ、意味と活用形を質問する。
  ・嘆かるる=自発体
  ・をばなる=存在
  ・上りたる=完了体
  ・渡いたれば=完了已
 2)「渡い」はイ音便だが、元の形を質問する。
  ・「渡し」であって、「渡り」ではない。
  ・従って、主語や目的語が変わる。
  ・「渡し」=親が私を。
   「渡り」=私が。
 3)訳させる。
 4)「嘆かるる」「上りたる」「渡いたれば」の主語を質問する。
  ・(私が)嘆かるる
  ・をばなる人の−上りたる
  ・(親が)渡いたれば
 5)何を「思ひ嘆かるる」のか質問する。
  ・広隆寺の仏に「源氏物語」を見せてくれるようにお祈りしたのに、実現しないから。

10.「いとうつくしう生ひなりにけり。」など、あはれがり、めづらしがりて、帰るに、

 1)「いとうつくしう生ひなりにけり」を品詞分解させる。
  ・いと(副詞)うつくしう(シク用、ウ音便)生ひ(上二用)なり(四用)に(完了用)けり(詠嘆用)
 2)訳させる。
 3)会話の主体を質問する。
  ・をば
 4)「あはれがり、めづらしがり」「帰る」の主語を質問する。
  ・(をばが)あはれがり、めづらしがり、(私が)帰る

11.「何をか奉らむ。まめまめしき物は、まさなかりなむ。ゆかしくしたまふる物を奉ら む。」とて、

 1)「奉る」「まめまめし」「まさなし」の意味を確認する。
  ・奉る=〔謙譲語〕1)差し上げる 2)行かせる 3)奉仕する〔尊敬語〕4)召し上がる5)お召しになる6)お乗りになる
  ・まめまめし=実用的な
  ・まさなし=つまらない。
 2)「まさかりなむ」の識別を質問する。
  ・な(強意未)む(意志止)
 3)係り結びを指摘させる。
  ・か(疑問)→む(意志体)
 4)訳させる。
 5)敬語を抜き出し、種類、主体、対象を質問する。
  ・奉らむ=謙譲(与ふ)、をば→私
  ・ゆかしくしたまふ=尊敬、をば→私
 6)私の物語好きは親戚中に知れていたことを説明する。

12.「源氏」の五十余巻、櫃に入りながら、「在中将」「とほぎみ」「せり河」「しらら」「あさうづ」などいふ物語ども、一袋取り入れて、得て帰る心地のうれしさぞ、い みじきや。

 1)訳させる。
 2)をばはこれだけ多くの物語をわざわざ櫃に入れて田舎から持ってきたこと、当時手に入れるのが難しい「源氏物語」の全巻を持っているのは菅原一族だからこそであることを説明する。
 3)待望の源氏物語を手に入れた私の気持ちを想像させ、似たような体験が質問する。
 4)「在中将」は「伊勢物語」であること、他の物語は現存しないことを説明する。

13.はしるはしる、わづかに見つつ、心も得ず心もとなく思ふ「源氏」を、一の巻よりし て、人も交じらず几帳の内にうち臥して、引き出でつつ見る心地、后の位も何にかはせむ。

 1)「はしるはしる」の意味を確認し、「心もとなし」の意味を復習する。
  ・胸をわくわくさせながら。
  ・じれったい。
 2)「何にかはせむ」を品詞分解させる。
  ・何(名詞)に(格助詞)か(係助詞反語)は(係助詞)せ(サ変)む(意志体)
 3)訳させる。
 4)当時の女性の憧れは皇后の位に就くことであった。しかし、私の最上の憧れは物語を読むことであった。

14.昼は日暮らし、夜は目の覚めたる限り、灯を近くともして、これを見るよりほかのことなければ、おのづからなどはそらにおぼえ浮かぶを、いみじきことに思ふに、

 1)「日暮らし」の意味を確認する。
  ・一日中
 2)訳させる。
 3)「これ」の指示内容を質問する。
  ・源氏物語

15.夢に、いと清げなる僧の黄なる地の袈裟着たるが来て、「『法華経』五の巻を、とく習へ。」と言ふと見れど、人にも語らず、習はむとも思ひかけず、物語のことをのみ心にしめて、

 1)「いと清げなる僧の黄なる地の袈裟着たるが来て」を品詞分解させる。
  ・いと(副詞)清げなる(形動ナリ体)僧(名詞)の(格助詞同格)黄(名詞)なる(断定体)地(名詞)の(格助詞連体)袈裟(名詞)着(上一)たる(存続体)が(格助詞)来(カ変)て(接続助詞)
 2)「清げ」の意味を確認する。
  1)さっぱりとして美しい様子 2)きちんと整っている様子 3)理想的な様子
 3)訳させる。
 4)法華経について説明する。
  ・大乗仏教の経典の一つ。八巻二十八品(ホン)(=章)から成り、最も流布した最もすぐれた経典とされる。平安時代初期から「法華(ホツケ)八講」が行われ、一般には、悪人や女人でも成仏できることが説かれる第五巻が重んじられた。天台  ・華厳 (ケゴン)・法相(ホツソウ)・日蓮などの各宗で尊ぶ。

16.「我は、このごろ悪きぞかし。盛りにならば、容貌も限りなくよく、髪もいみじく長くなりなむ。光の源氏の夕顔、宇治の大将の浮舟の女君のやうにこそあらめ。」と思ひける心、まづいとはかなくあさまし。

 1)「わろし」「ぞかし」「はかなし」「あさまし」の意味を確認する。
  1)よくない。2)美しくない。3)へただ。4)不適当だ。5)貧しい。
   ★「悪し」は「容貌も限りなくよく」から類推する。
   ・終助詞。念を押す
  1)長持ちせずあてにできない 2)むなしい 3)今に も絶えそうで弱々しい 4)大したことではない
  1)意外だ 2)興ざめだ 3)ひどい 4)貧しい 5)心がいやしい
 2)「なむ」の識別を質問する。
  ・強意「ぬ」未+推量止
 3)係り結びを指摘させる。
  ・こそ→め(推量已)
 4)訳させる。
 5)美しくなりたい、あの人のようになりたいという少女の願いは今も昔も共通である。  ことを確認し、今あの人のようになりたいと目標になる人を質問する。
 6)作者はそれをなぜ「はかなくあさまし」と思っているのか質問する。
  ・仏教のお勤めもしないで、源氏物語ばかり読んでいたり、容姿ばかり気にしている少女時代を罪深いものと振り返る。
   同時に、それほど源氏物語にひかれていた自分をいとおしく思っている。



コメント

ホーム