私が幼い頃から鏡が嫌いだった理由は、鏡にうつる跛行する現実の自分とかくあるべきと思う理想の自分がかけ離れていたからである。だから一生おしゃれをせずに、そのままの自分をさらけ出して生きるのが一番潔いと思っていた。
 鏡が嫌いだったように、自分が嫌いだった。自分は最低だと思っている人間には、自分以外の世界はすべて輝いていて好きだった。特に、言葉を組み立てることによって、精神集中を持続し、内なる混沌から言葉にできたものをすくい上げた。中でも詩作は瞑想のように、思いがけないものを浮かび上がらせてくれた。それは、未知の自分に出会う旅であった。その繰り返しが、今の自分を形作った。
 私というペルセウスは、言葉という鏡に写して、理想の自分というメドゥサを退治したのである。
 高校生も作者と同じように、理想の自分を思い描くあまり、自己嫌悪に陥りやすい時期である。自分以外のものが羨ましくて仕方がない。彼らにも、作者の言葉に当たるような、現実の自分を写してみる何かがあれば、自己嫌悪に陥らずに、未知の自分に出会える。


第1段
鏡が苦手。
 ↑理由
鏡にうつる自分←→かくあるべきと思う自分
跛行する姿
 ‖        ‖
現実の自分  理想の自分
 └┬────┘
   ↓
 そのままの自分をさらけ出す

第2段
自分が嫌い
 ‖
自己嫌悪
 ↓
自分以外の世界が好き
 ‖
言葉を組み立てること=書く
 ‖
長時間精神集中を持続する
 ‖
ものを考える
 ‖
内なる混沌から言葉にできたものをすくい上げる
 ↓
思いがけないもの
 ‖
未知の自分
 ↓繰り返し
現在の自分

第3段
ペルセウスは、に、メドゥサをうつして、退治した
 ‖
は、言葉に、現実の自分をうつして、未知の自分に出会った。

導入

1.すでに初めの部分を書写させてある。

2.音読する。

.感想をメモさせ、発表させる。
 ★ノートに自分の考えを書く練習にする。
4.黙読させる。

5.キーワードだと思う所に傍線を引かせる。

 ★全体を大づかみにする。
 ★授業で指摘した部分とどれだけ重なるか、授業後に確認させる。

6.4つの段落に分けさせ、発表させる。

 1)はじめ〜15・10
 2)15・11〜16・08
 3)16・09〜17・03
 4)17・04〜17・08
 ★もう一度黙読させることも意図している。
 ★内容によって段落を切る。



第一段落

1.音読させる。

2.鏡が苦手だった理由は。

 ・鏡にうつる自分とかくあるべき自分がかけ離れていたから。
 1)鏡にうつる自分とは、どんな姿か。
  ・ポリオで右足がマヒし跛行している姿。
  *跛行=片足を引きずって歩くこと。
 2)かくあるべき自分とは、どんな姿か。
  ・跛行せず、普通に歩く姿。
 3)鏡にうつる自分をまとまった表現で言い換えると。
  ・現実の自分
 4)かくあるべき自分をまとまった表現で言い換えると。
  ・理想の自分
 ★1)2)、特に2)は省略してもよい。
 ★4)を先に質問した方が3)が出やすいかもしれない。

3.そのままの姿をさらけ出して生きるのが潔いと考えた気持ちは。
 ・開き直り
 ・絶望
 *糊塗=一時しのぎでごまかすこと。
 *生半可=中途半端なこと。
 ★第三段落終了後、未知の自分との違いを考える。



第二段落

1.音読させる。

2.自分が嫌いだったをまとまった表現で言い換えると。

 ・自己嫌悪
 ★第一段落の鏡は伏線であることを説明する。

3.自己嫌悪している人間は、自分以外の世界が輝いていることを確認する。

4.作者にとって、自分以外の世界とは何か。

 ・文学や自然科学の本を読むこと。
 ・クラシック音楽を聴くこと。
 ・チョウやトンボを見ること。
 ・美しい少女に憧れること。

5.自己肯定度チェックをする。



第三段落

1.音読させる。

2.作者が、言葉を組み立てることが特に好きだった理由は。

 ・自分自身を知らしめる大きな力だったから。
 *夥しい=非常に多い。
 ★「自分以外の世界」の第一のものが「言葉を組み立てること」であることを前提にする。
 ★「言葉を組み立てること」=「書くこと」の言い換えを踏まえる。

3.言葉を組み立てることが、自分自身を知らしめる大きな力になる経過を詳しく。
 ・言葉を組み立てる=書く=長時間精神集中を持続する=ものを考える=内なる混沌から言葉にできたものをすくい上げる→思いがけないものが出てくる=未知の自分
 *たける=優れている。
 *混沌=入り交じって区別がつかない様子。カオス。反秩序。
 *瞑想=目を閉じて心を落ち着けてある事柄について深く考えること。

4.この繰り返しが現在の自分を形作ってきたことを確認する。



第四段落

1.音読する。

2.ペルセウス、メドゥサについて説明する。

 1)ペルセウス
 ゼウスとアクリシオス王の娘タナエーとの子。アクリシオス王は男の子を得たいと思い神託を求めたが、彼は娘の子に殺されるであろうといわれたので、娘を青銅の部屋に閉じ込めた。しかしゼウスがダナエーを見初め、黄金の雨となって屋根からタナエーの膝に注ぎ、彼女と交わってペルセウスが生まれた。ダナエーとペルセウスは父王によって箱に入れられて海に流されるが、セリボス島に流れ者く。やがて島の王ポリユデクテスがダナエーを見初めるが、すでに成人となったペルセウスがいて近づけなかった。そこで王はペルセウスに対し、その姿を見たものを石に変えてしまうメドウサの首を取ってくるように命じ、彼を亡きものにしようとした。しかし彼はアテーナーとヘルメスの助けを得て、ヘルメスの援助で翼があって空を飛べるサンダルと被れば姿が見えなくなる帽子を入手し、アテーナーに導かれて眠っている三姉妹のゴルゴンたちのところに来て、顔をそむけつつ、鏡の楯にその姿を映しながら、三姉妹のなかで一人だけ不死ではなかったメドウサの首を斬った。また彼は、帰途の途中のエチオピアで、王女アンドロメダが海の怪物の餌食に供せられているのを見て、彼女を妻にすることを条件に怪物を退治して彼女を救った。しかし彼女の婚約者の一味が彼を殺そうとしたので、ペルセウスはメドウサの首を取り出して見せ、彼らをすべて石にした。その後メドウサの首はアテーナーに捧げられ、女神はそれを自分の楯の中央に取りつけた。
 2)メドゥサ
 メドウサはゴルゴンと呼ばれる三人姉妹の怪物の一人で、「女王」の意味。ゴルゴンは丸くて大きい醜悪な顔を持ち、頭髪はヘビで、歯は猪の牙のようで、舌をだらりと垂らし、大きな黄金の翼を持ち、その眼には人を石に変える力があった。三人のうちメドウサのみが不死ではなかった。英雄ペルセウスはアテーナーの助けを借りて、メドウサの首をはねたが、それはゴルゴンたちが寝ている間に楯を鏡のように使って、直接その頗を見ることなしに行われた。首を斬り落としたときに右翼の天馬ペガサスが生まれたという。ペルセウスはメドウサの首をアテーナーに贈り、彼女はそれを自  らの楯アイギスの中央あるいは甲宵の胸の部分につけた。

3.「ペルセウスにうつしてメドゥサ退治した」ことを私の場合に当てはめて言い換えると。
 ・ペルセウス=作者
 ・鏡=言葉(を組み立てること)
 ・メドゥサ=現実の自分
 ・退治する=未知の自分に出会う
 ★「メドゥサ」と「退治する」が難しい。「現実の自分」「理想の自分」「そのままの自分」「未知の自分」「現在の自分」の五つの自分がヒントになることを補足説明する。



まとめ

1.通読する。

2.ここまでに出てきた自分についてまとめる。

 1)出できた自分を整理する。
  ・現実の自分
  ・理想の自分
  ・そのままの自分
  ・未知の自分
  ・現在の自分
 2)それぞれの関係は。
  1)「現実の自分」と「理想の自分」は
   ・反対の関係。
  2)「未知の自分」と「現実の自分」の関係は。
   ・「未知の自分」が集まったものが「現在の自分」。
  3)「そのままの自分」と「現在の自分」の違いは。
   ・「そのままの自分」はあきらめからできたもの。
   ・「現在の自分」は言葉を組み立てることによってできたもの。

3.現実の自分、理想の自分、未知の自分、現在の自分、言葉、ペルセウスの鏡を使って、90字以内で要約させる。
 ・現実の自分と理想の自分との間で悩んでいた私は、言葉によって、未知の自分と出会い、その繰り返しで現在の自分にであった。私にとってペルセウスの鏡は言葉であった。(78字)

4.「私のペルセウスの鏡」という題で、自分にとっての鏡は何かについて三百字で作文を書かせる。



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