アクティブ・ラーニング
 
ネットワーク上のコミュニケーション14
 
江下雅之


 ネットワーク上のコミュニケーションの問題点は、感情を増幅するメカニズムである。その理由は、表面的には「文字だけ」という特徴に還元される。一方、ネットワーク上のコミュニケーションとは反対の対面状況でのコミュニケーションでは、非言語的コミュニケーションの役割が大きい。それは、マレービアンの法則でも示されている。しかし、本質的な問題は実時間を共有していないという前提にある。文字だけではなく時間の共有に本質があるということは、ビデオカメラを使っても感情を増幅するという問題点は解消できないことでも分かる。

 対面状況のコミュニケーションとは、言葉を相互に投げ合い身振りを示し合うだけの単純なキャッチボールではない。〈わたし〉と〈あなた〉の対面状況のコミュニケーションの第一段階(出発点)は、〈わたし〉が〈あなた〉のメッセージを受け取った時点である。第二段階で、〈わたし〉の意識に〈あなた〉が出現し、〈わたし〉の心象風景に変化が生じる。第三段階で、〈わたし〉が〈あなた〉にメッセージを発する。第二段階を物理学の用語で「場が歪む」と言う。それはバーロも指摘している。例えば、〈わたし〉が心地よさを覚えて(反応)頬をゆるめる(修正)。〈あなた〉は冷笑と受取り(反応)声を荒らげる(修正)。〈わたし〉が声の変化に違和感を覚え(反応)眉をしかめる(修正)。〈あなた〉はしまったと思い(反応)声の調子をおさえる(修正)。〈わたし〉は「歪み」がくつろぎ(反応)あたりさわりない返事をする(修正)。対面状況のコミュニケーションとは、〈予測−反応−修正〉が絡み合った複雑な過程である。対面状況のコミュニケーションの本質は、話者相互が発信・受信の過程すべてに影響を及ぼし合っていることであり、その前提条件が、同一の時間軸にいることである。


 
マクルーハンは、ネットワーク上のコミュニケーションを「クールなメディア」と言った。受け手は自分の想像力を動員して、相手の表情、感情の動き、雰囲気などのメッセージを行間から読み取ろうとする。対面状況コミュニケーションなら、表情等の非言語的なメッセージを含め大量の情報と常時接することができる。
 
同じく文字を読む小説とネットを比べると、小説は登場人物の感情の動きや表情が形容されているのに対して,ネットは相手の感情の動きや表情を自分で想像しなくてはならない。これを自己循環過程と言う。
 
また、対面状況とネットを比べると、対面状況は解釈の対象である表情は相手が発するものであるのに対して、ネットは相手の表情自体が想像の産物である。そこに、ハウリング現象が発生する。

 
対面状況のコミュニケーションが万全ではないが、ネット上のコミュニケーションは、ハウリング現象によって、相手の表情を一方的に想像し誤解を重ねる。また、その速度は非常に速い。
 
これらの問題は、対面状況のコミュニケーションによって改善できる。対面状況のコミュニケーションの特徴は、1)思ったことを実時間で相手に伝えられること、2)こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされること、3)非言語情報がより多くのメッセージを伝えることである。この特徴を踏まえて、対面状況のコミュニケーションの悪い面を改善する方法として、相手の言い分をよく聞いてから答えろという知恵がある。それは、ネットで、感情が高ぶっている時は一晩寝かせてから読み返すや、行間読まずに書いてあることだけに反応するという教訓につながる。
 
手紙や雑誌は文字だけのコミュニケーションであるという点でネットに似ているが、ネットは交換頻度がきわめて高いという点では対面に近い。手紙や雑誌でも感情が高まると頻度が高まるので、ネットではなおさらである。

完全型のアクティブラーニングの授業をする。毎時間、次のパターンで授業を展開する。
@4組を作る。ベースになる4人組があり、毎回ホストが代わり、他の3人は他のチームに移動する。
A4人で相談しながら協同学習プリントを完成する。時間は20〜25分でできるように問題の量が調整してある。
B教師が、解答を兼ねて構造的板書をして、説明する。
C最後の要約問題を各自が解答する。
D模範例を示して、回収する。採点して、次回に返却する。
 
従来、教師が質問したり説明したりすることをプリントして生徒に配布して解答させることによって、ものごとを論理的に考える筋道を理解させる。質問に関しては、論理的な段階を踏まえたもので、質問と質問の間は説明でつなげるような配慮をする。それを人と相談してすることによって交流が生まれる。ただ、個人作業で終わろうと思えば終われる。それをチームでするには仕掛けが必要になる。考える面白さを感じる質問や自分で例を考える質問は、他者との交流が一層活発になる。その工夫がアクティブラーニングの成否を決定するだろう。教師との対話によってか深まる内容についてはアクティブラーニングでは扱いきれない。それは特化して一斉授業形態の中で扱う。


全体
1.【指】1〜26まで段落番号を打たせる。
2.【指】全文を黙読させる。(8分)
3.【L2】対比されているものは。
 ・ネットワーク上のコミュニケーションと対面状況でのコミュニケーション。
4.使われている論法を説明する。
 1)対比 Aについて考えるために、反対のBと対比させる。
 2)換言 わかりやすく、詳しく、端的にするために言い換える。
 3)キーワード 自説の鍵になる重要な語句。
 4)例示 わかりやすくするために、抽象的なことを具体的なものに置き換える。
 5)引用 自説を補強するために、他の権威あるものを引用する。
 6)仮説 真説を追及するために、一旦答えを出してそれを検証していく。
 7)反証 自説を証明するために、反対の例を持ち出す。
 8)譲歩 自説の正当性を証明するために、一旦反対意見を取り入れすぐに否定する。

第一段落(1〜7)
11)【L1】ネットワーク上のコミュニケーションがテーマであるが、その問題点は何か。
  ○感情を増幅すること。
22)【L1】仮説1)の問題点の原因と考えられるものは何か。
  ○「文字だけ」という特徴
33)【L1】対比ネットと何を対比しているか。
  ○対面状況コミュニケーション
34)【L1】3)の特徴は何か。
  ○非言語コミュニケーション(ボディ・ランゲージ)
45)【L1】引用何を引用しているか。
  ○マレービアンの実験
566)【L1】譲歩「もちろん」2)と考えるのも無理はない。「しかし」3)の前提にあるものは何か。
  ○実時間を共有していること
67)【L1】反証6)と考えると、2)が1)の本質的な原因であるとは言いきれない。その反対事例として何を挙げているか。
  ○ビデオカメラの動画像
78)【L1】仮説2)が表面的な原因にすぎないとすれば、本質的な原因は何か。
  ○実時間を共有していないこと。
 9)【W】1)について、自分の体験を語り合え。
 10)【L2】この段落を60字以内で要約せよ。
  ○ネット上のコミュニケーションで感情が増幅する原因は、「文字だけ」ではなく、実時間を共有していないことである。(54字)
 
第一段落(1〜7)
ネット上のコミュニケーション 対面状況のコミュニケーション
・感情の増幅
 ↑原因
×文字だけ
○実時間を共有していない


○非言語コミュニケーション
  (引用)マレービアン

○実時間を共有している
  (反証)ビデオカメラ

第二段落(8〜16)
81)【L1】対比ネットと対面交流は対立関係であるが、共通する本質的な特徴もある。それは何か。
  ○実時間という要素
82)【L1】換言この段落を「論」の部分と「例」の部分に分けて考える。まず論の部分で、1)「キャッチボール」の言い換えを1つ、2)「フィードバックおよびフィードフォワード過程による制御を加えた複雑な局面」の言い換えを2つ抜き出せ。
  1)言葉を相互に投げ合う
  2)発する時点で受信者からの作用を受けている
   〈予測−反応−修正〉が絡み合った複雑な過程
143)【L1】引用バーロの言説は  どんな論を補強するための引用か。
  ○発する時点で受信者からの作用を受けていること。
 4)対比【L3】「フィードバック」と「フィードフォワード」の違いを説明せよ。
  ○フィードバックは、相手の反応を受けて、自分の反応を修正するが、
  ○フィードフォワードは、相手の反応を予測してメッセージを発信する。
165)【L1】結論対面状況の1)本質、2)前提条件は何か。
  1)話者相互が発信・受信の過程すべてに影響を及ぼし合うこと。
  2)実時間の共有
10116)【L1】例示対面状況の会話の例で、コミュニケーションの出発点はどの時点か。
  ○〈わたし〉が〈あなた〉のメッセージを受け取った時点。
117)【L1】換言物理学の用語を使えば、「場が歪む」とはどういうことか。
  ○〈わたし〉の意識に〈あなた〉が出現し、〈わたし〉の心象風景に変化が生じる。
12138)【L3】例示次の、心象風景に変化が生じる「場が歪む」例で、予測に  、反応に  、修正に   を引け。(  )にフィードバック(B)かフィードフォワード(F9)を入れよ。
    〈わたし〉は心地よさを覚えて頬をゆるめたが(B)、〈あなた〉は冷笑と受け取って声を荒らげたのに対して(B)、〈わたし〉が違和感を覚えて眉をしかめてしまったのを(B)、〈あなた〉は「しまった」と思って声の調子をおさえたので(B)、〈わたし〉の「歪み」がくつろいであたりさわりのない返事をするが(B)、〈あなた〉の表情に失望の色が浮かんだかのような印象を受けて(B)、こういう内容をこういう口調でしゃべれば波紋がおさまるだろうと話を始める(F)。
 9)【L4】「フィードバック」「フィードフォワード」の体験を語り合え。
1610)【L2】16の第一文を、「対面コミュニケーションの本質は」を主語にして70字以内で書き換えよ。
  ○対面コミュニケーションの本質は、実時間の共有を前提条件にして、話者相互が発信・受信の過程すべてに影響をおよぼしあっていることである。

第二段落(8〜16)
 ・ネット
   ⇔実時間という要素
 ・対面交流
  ×キャッチボール
   ・言葉を相互に投げ合う
   ・身振りを示しあう
  ○フィードバック・フィードフォワード過程
   ・発する時点で受信者からの作用を受けている
   ・ 〈予測−反応−修正〉
   ↓
 ・対面状況
  ・本質=話者相互が発信・受信の過程すべてに影響を及ぼし合うこと。
  ・前提条件=実時間の共有
  (例)メッセージを受け取る=出発点
      ↓
     心象風景に変化が生じる=場が歪む


第三段落((17〜21)
171)【L3】引用マクルーハンはどの言葉を引き出すために引用したのか。
  ○「クールなメディア」
172)【L1】根拠「クールなメディア」とは情報量が少ないメディアという意味であるが、だから、ネットはどうしようとするのか。
  ○受け手が自分の想像力を動員して、相手の表情、感情の動き、雰囲気などのメッセージを行間から読み取ろうとする。
183)【L1】対比一方、「ホットなメディア」である対面状況はどんな状態にあるか。
  ○大量の情報と常時接する状態。
  ○フィードバックが介在する。
184)【L2】対比「その過程はネットワークの場合といささか異なる」とあるが、対面状況はネットと何がどのように異なるのか。「その」の指示内容に注意して。
  ○対面交流は、表情などの大量の情報と常時接し、フィードバックを介在させながら感情が高ぶる。
  ○ネットは、相手の表情などを自分で想像しようとして感情が高ぶる。
19205)【L1】対比ネットと小説を対比して、1)共通点は何か。2)相違点は何か。3)自己循環過程とは何か。
  1)文字列が並ぶだけ。
  2)小説は、登場人物の感情の動きや表情が形容されている。
   ネットは、性格設定に至るまで、読む人が自分で想像しなければならない。
  3)書かれた文章から判断した雰囲気を基準に、書かれた文章のニュアンスを決める。
216)【L1】対比ネットと対面状況を対比して、1)共通点と何か。2)相違点は何か。3)ハウリング現象とは何か。
 1)究極的には自己対話である。
 2)対面は、解釈の対象たる表情は相手が発するものである。
  ネットは、「相手の表情」自体が想像の産物である。
 3)自分で想像した相手の表情に、自分自身が反応する。
 7)【L2】キーワードネット上のコミュニケーションの特徴について、「ネット上のコミュニケーションは」を主語にして、3つのキーワードを使って50字以内でまとめよ。
  ・ネット上のコミュニケーションは、クールなメディアなので、自己循環過程やハウリング現象が発生する。
第三段落(17〜21)






   
ネット                対面状況              
・クールなメディア=情報量が少ない ・自分の想像力で、相手のメッセージを 読み取ろうとする
 ↓
・感情が高ぶる
・ホットなメディア
・大量の情報と常時接する
・                   ↓
・感情が高ぶる









ネット
小説                
               文字列が並ぶだけ
・相手のすべてを想像
・自己循環過程           
・登場人物の様子が文中に描写

  






  
    
ネット
対面状況
                自己対話
・相手の表情自体を想像する     ・ハウリング現象           表情は相手が発する                           
     
 
  第四段落(22〜26)

231)【L1】ネットの問題点である「感情のハウリング」とはどうすることか。
  ○相手の表情そのものを一方的に想像し、そこに誤解を重ねること。
252)【L1】譲歩対面交流は万能ではない。しかし、ネットの問題点が対面交流の悪い面の強調であるとするならば、対面交流の特徴的な現象を拒否することで、ネットの問題点を解決することができる。対面交流の3つの特徴的な現象とは何か。
  ○思ったことを実時間で相手に伝えられること。
  ○こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされること。
  ○非言語情報がより多くのメッセージを伝えること。
253)【L1】2)から得られる教訓は何か。
  ○相手の言い分をよく聞いてから答えろ。
244)【L1】対比3)の教訓をネットに当てはめるとどうなるか。
  ○メッセージは一晩寝かせてから読み返すこと。
  ○メッセージの行間を中途半端に推測せず、書いてあることだけに反応すること。
255)【L1】換言2)3)を言い換えると。
  ○実時間で伝わる非言語情報を遮断すること。
266)【L1】対比ネットと手紙や雑誌を対比して、1)共通点、2)相違点は何か。
  1)文字だけのコミュニケーションである。
  2)ネットワークは交換頻度がきわめて高い。
 7)【L2】この段落を70字以内で要約せよ。
  ○相手の表情そのものを一方的に想像し誤解を重ねる感情のハウリングを抑制するためには、実時間で伝わる非言語情報を遮断することが重要である。
第四段落(22〜26)
ネット 対面状況
・感情のハウリング
・相手の表情そのものを一方的に想像し、そこに誤解を重ねること。
  ↓
・メッセージは一晩寝かせてから読み返す
・書いてあることだけに反応する
・特徴的な現象
 ・思ったことを実時間で相手に伝えられる。
 ・こちらの反応が相手の発信行為にもフィードバックされる。
 ・非言語情報がより多くのメッセージを伝える。
    ↓
・相手の言い分をよく聞いてから答えろ。
                                                  ・実時間で伝わる非言語情報を遮断する。
 
・ネットと手紙や雑誌
  
・共通点=文字だけのコミュニケーション
  
・相違点=交換頻度