雪のいと高う降りたるに  村上先帝の御時に  かたはらいたきもの  すさまじきもの  宮に初めて参りたるころ09  中納言参りたまひて09  中納言参りたまひて10 村上の御時に  この草子  うれしきもの


雪のいと高う降りたるに


 雪が多く降り高く積もっている時は、いつもなら格子を上げて雪を観賞するのだが、この日はいつもと違って格子を下ろしていた。これには中宮の思惑があった。女房たちは炭櫃を囲んで中宮に仕えていたが、中宮が清少納言を名指しして「少納言よ、香炉峰の雪はどうだろう」と問いかけた。「香炉峰の雪」とは、白楽天の『白氏文集』にある「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き、香炉峰の雪は簾を少し上げて見る」という文に掛けてあり、清少納言に簾を上げて雪が見たいと言ったのである。この文は、平安時代の知識人の常識で誰もが知っているので、清少納言も当然知っている、中宮は知っているかどうかではなく、清少納言が機転をきかして御簾を上げるかどうかを試したのである。すると、清少納言は部屋の外にある格子を女官に上げさせて、自分は部屋の中の御簾を高く上げて、雪が見られるようにした。中宮は、清少納言が期待通りの行為をしてくれたので、ニンマリと満足そうにお笑いになった。同じ場にいた女房たちも、「香炉峰の漢詩ぐらいは知っているが、実演するなど思いも寄らなかった、やはり清少納言は中宮にお仕えするのにふさわしい女性だと絶賛した。という自慢話。


1.学習プリントを配布し、宿題にする。
2.音読する。

3.雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子参りて、炭櫃に火おこして、物語などして、集まり候ふに、
 1)「雪が高く降る」とはどういう状況か考える。
  ・雪が多く降って高く積もっている。
 2)「例ならず」とあるが、「例」はどうなのか考える。
  ・雪が降れば、雪景色を見るために格子を上げる。
 3)「御格子参りて」の意味を説明する。
  ・格子は、柱と柱の間の上下開閉式の窓兼戸。
  ・「参る」は「御格子」について、格子の上げ下げをするという意味になる。
  ・ここでは、「例ならず」なので、格子を下げる。
  ★なぜ下げたのかは後で考える。
 4)「降りたる」の接続助詞「を」の意味を考える。
  ・順接にも逆接にも使われる。
  ・「雪が降った」と「格子を下ろした」ので、逆接。
 5)「炭櫃」の説明をする。
  ・角火鉢。
 6)「候ふ」の意味を説明する。
  ・「をり」の謙譲語。
  ・お仕えする。
 7)訳す。
  ・雪がたいへん降って高く積もっていたが、いつもと違って、格子を下ろし申し上げて、炭櫃に火をおこして、おしゃべりなどして、(女房が)中宮のまわりにお仕えていると、
 6)「集まり候ふ」の主語は。
  ・女房。

4.「少納言よ、香炉峰の雪、いかならむ。」と、仰せらるれば、
 1)助動詞「む」の意味を考える。
  ・推量。
 2)助動詞「らる」の意味を考える。
  ・尊敬。
  ・尊敬語に接続する場合は尊敬。
 3)「香炉峰の雪」の説明をする。
  ・平安時代の知識人の常識である。
  ・白楽天の『白氏文集』にある「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き、香炉峰の雪は簾を少し上げて見る」と漢詩から引用した。
 4)訳す。
  ・「清少納言よ、香炉峰の雪はどうでしょう」と、おっしゃったので

5.御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせ給ふ。
 1)「させ」「せ」の意味を考える。
  ・させ=使役。
  ・せ =尊敬。
 2)「御簾」の説明をする。
  ・すだれ。今で言うカーテン。
 3)訳す。
  ・(私は)(女官に)格子を上げさせて、(自分が)御簾を高く上げたので、(中宮は)お笑いになった。
 4)「上げさせ」「上げたれ」「笑はせ給ふ」の主語を考える。
  ・私が−(女官に)上げさせ
  ・私が−上げたれ
  ・中宮は−笑はせ給ふ

6.人々も、「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。なほこの宮の人には、さべきなめり。」と言ふ。
 1)「人々」とは誰かを考える。
  ・同じく中宮に仕えていた女房。
 2)「歌」の意味を説明する。
  ・ここでは和歌ではなく、漢詩を朗詠すること。
 3)「なほ」の意味を確認する。
  ・やはり。
 4)「べきなめり」を文法的に考える。
  ・べし=当然連体
  ・な =断定連体形の撥音便
  ・めり=推定終止
 5)訳す。
  ・(同じ場にいた)女房たちは、「そのようなことを知っていて、漢詩を朗詠するが、思い付かなかった。やはりこの中宮(にお仕えする)人として、適当な人であるよ   うです」と言う。
 6)「さること」の指示内容を確認する。
  ・『白氏文集』の文句。
 7)何を「思いも寄らない」のかを考える。
  ・簾を上げるという実演すること。

7.状況を考える。
 1)格子を下ろさせた理由を考える。
  ・「香炉峰の雪、いかならむ」という問いの答えを、清少納言に実演させて格子を上げるために、最初は下げさせておいた。
 2)清少納言に名指しで質問した理由を考える。
  ・清少納言が白楽天の詩を知っているかを試したのではない。
  ・実際に格子や御簾を上げるて実演するかどうかを試したかった。
 3)中宮がお笑いになった理由を考える。
  ・期待通りの行為をしてくれたので、満足して笑った。

8.この話を読んだ感想を聞く。
 ・清少納言の自己顕示欲の強さ。
 ・中宮が清少納言を本当に信頼していた。                    


村上先帝の御時に


 何代か前の天皇である村上天皇の時のことである。雪がたいへん降った時があった。宮中でも雪が降る気分が騒ぐものであるらしい。村上天皇が降り積もった「雪」を容器に盛らせて、梅の「花」を指して、「月」がたいへん明るい夜という設定を設けて、「これについて和歌を詠め」というお題を出して、女蔵人の兵衛を試した。すると彼女は、「雪・月・花の時」と『白氏文集』の漢詩の一部を言って、その続きの「最も君を憶ふ」をわざと言わなかった。彼女は、村上天皇の意図を素早く見抜く総合的な洞察力、「和歌」ではなく「漢詩」を詠む柔軟性、自分の身分で天皇であるあなたを思うという差し出がましさを抑えた控え目な気持ちを示した。これらは当時の才女の備えていなければならない条件である。
 また別の時、村上天皇の傍に同じ女蔵人の兵衛しかいない時に、火鉢から煙が立ちのぼったので、村上天皇が何の煙か確かめて来いと命じた。彼女は、「わたつ海」の縁語として「沖」「漕ぐ」「海士」「釣り」、「沖」と「燠(よく燃えて赤くなっている炭火)」、「漕ぐ」と「焦がれる」、「帰る」と「蛙」を掛けて和歌を詠んだ。考えてみると、冬の火鉢に冬眠しているはずの蛙が飛び込むはずがない。これは、鳥が庭の梅の木に刺しておいた蛙のミイラを火鉢にくべさせて状況を設定したのであろう。これも、村上天皇のちょっとした悪戯であり、そうすることで女房たちの才能を引き出していたのであろう。村上天皇はその意味で,教育者でもあったし、風流人でもあったし、教養人でもあったし、悪戯好きでもあった。


1.学習プリントを配布し、宿題にする。
2.音読する。

3.村上の先帝の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、様器に盛らせ給ひて、梅の花  さして、月のいと明かきに、
 1)語句「御時」の意味を確認する。
  ・治めている時代。
 2)助動詞「せ」と敬語「給ひ」の意味は。
  ・使役か尊敬か。
  ・単独ならば使役、下に尊敬語があれば尊敬。
  ・ここでは尊敬。
  ・二重尊敬。身分の非常に高い人に対して。
  ・ここでは村上天皇。
 3)訳す。
  ・村上天皇の治世に、雪がたいへん降ったことがあったが、(雪を)容器にお盛りになって、梅の花を差して、月が大変明るい夜に、
 4)状況を確認する。
  ・「雪」器に盛って、梅の「花」を刺して、「月」の明るい夜。

4.「これに歌よめ。いかが言ふべき。」と、兵衛の蔵人に給はせたりければ、
 1)助動詞「べき」の意味は。
  ・「べき」の意味は、す(推量)い(意志)か(可能)と(当然)め(命令)て(適当)
  ・ここでは適当。どう詠むのがよいか。
  ・連体形になっているのは、「いかが」という疑問の副詞があるから。
 2)「給はせたりければ」の品詞分解は。
  ・給は(ハ四未然)せ(使役す連用)たり(完了たり連用)けれ(過去けり已然)ば
   (接続助詞順接確定理由)
  ・助動詞「せ」は単独なので使役。
  ・接続助詞「ば」は、已然形に接続しているので、順接確定。
 3)敬語「給はす」の意味は。
  ・「与える」の尊敬語。
  ・ここでは言葉を与えるという意味で、お命じになる。
 4)訳す。
  ・「これに和歌を詠みなさい。どう詠むのがよいか」と、兵衛の蔵人にお命じになったので、
 5)兵衛の蔵人を説明する。
  ・蔵人は、宮中で清掃、配膳、裁縫などの雑役に従事した下級女官。
  ・兵衛は名前。
 6)「これ」の指示内容は。
  ・(雪を)様器に盛らせ給ひて、梅の花をさして、月のいと明かき
 7)村上天皇の要求は。
  ・雪と花と月を読み込んだ和歌を詠め。

5.「雪・月・花の時」と奏したりけるをこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。
 1)助動詞「させ」と敬語「給ひ」の意味は。
  ・尊敬。
  ・二重尊敬。
 2)係り結びは。
  ・こそ→けれ。
 3)敬語「奏す」の意味は。
  ・謙譲語。
  ・天子に申し上げる。
  ・天皇や上皇や法皇だけに使う絶対敬語。
 4)訳す。
  ・「雪・月・花の時に」とだけお答えしたのを、たいへんお誉めになった。
 5)「奏したりける」「めでさせ給ひけれ」の主語は。
  ・奏したりける=兵衛。
  ・めでさせ給ひけれ=村上天皇。
 6)「雪・月・花の時」という答えについて。
  1)出典を確認する。
   ・「白氏文集」。
  2)意味を説明する。
   ・琴や詩や酒を楽しむ友は、みな自分をさらけ出す。雪や月や花の時は、あなたのことを恋しく思う。
  3)村上天皇の要求に合っているか。
   ・村上天皇は「歌を詠め」と言っているのに、「漢詩」を詠んでいる。
   ・ただし、雪と花と月は入っている。
  4)続きの「最憶君」を読まなかった理由は。
   ・相手が天皇なので、身分が違いすぎて恐れ多いから。
  5)このことから兵衛のどんな様子がわかるか。
   ・思っていても口に出さない控えめな態度。

6.「歌などよむは世の常なり。かく、折に合ひたることなむ、言ひがたき。」とぞ仰 られける。
 1)助動詞「なり」の意味は。
  ・断定。
  ・体言に接続している。
 2)敬語「仰せ」と助動詞「られ」の意味は。
  ・「言ふ」の尊敬語。
  ・尊敬語に接続しているので尊敬。
  ・主語は村上天皇。
 3)係り結びは。
  ・なむ→がたき
  ・ぞ→ける
 4)訳す。
  ・「和歌などを詠むのはありふれている。このようにその時その場にあった言葉は、言うのが難しいものだ」とおっしゃった。
 5)村上天皇の評価について。
  1)何を褒めているのか。
   ・折に合っているから。
   ・天皇が出した条件を備えている。
  2)歌を詠まなかったことは。
   ・和歌を詠むのはありふれている。より適切なものがあれば、それを詠む方が優れている。
  3)兵衛の何を褒めているのか。
   ・状況判断の速さ。
   ・柔軟性。
   ・控えめな態度。

7.同じ人を御供にて、殿上に人候はざりけるほど、たたずませ給ひけるに、火櫃にけb閧フ立ちければ、
 1)「せ給ひ」の二重尊敬を確認する。
 2)敬語「候は」意味は。
  ・謙譲語。(身分の高い人の近くに)お仕えする。
 3)「殿上」の説明をする。
  ・天皇の居間である清涼殿の南に隣接している、蔵人等が控えている場所。
 4)訳す。
  ・同じ人をお供にして、殿上の間に人が誰も控えていない時に、(天皇が)たたずんでいらっしゃると、火鉢に煙が立ち上がったので
 5)状況を確認する。
  ・誰もいないはずなのに、火鉢から煙が出ている。誰が何を燃やしたのか。

8.「かれは何ぞと見よ。」と仰せられければ、見て帰り参りて、
 1)「仰せられ」の二重尊敬を確認する。
 2)敬語「参り」の意味は。
  ・「行く」の謙譲語。身分の高い人の所へ行く。
 3)訳す。
  ・「あれは何か、見てこい」と(天皇が)おっしゃったので、(兵衛が)見て帰ってきて、
 4)「仰せられ」「見て帰り参り」の主語は。
  ・仰せられ=村上天皇
  ・見て帰り参り=兵衛

9.わたつ海のおきにこがるる物見ればあまの釣りしてかへるなりけり
 1)助動詞「るる」「なり」「けり」の意味は。
  ・受身。断定。詠嘆(和歌の中では詠嘆)
 2)語句「わたつ海」の意味は。
  ・「わた」は海の意味。「つ」は「の」の意味。「み」は神霊の意味。
  ・海。
 3)掛詞は。
  ・おき=沖と燻く
  ・こがるる=漕ぐと焦ぐ
  ・かへる=帰ると蛙。
 4)訳す。
  ・海の沖で漕がれているものを見たら、海士が釣りをして帰るところでした。
  ・赤くおこっている炭火の燻に焦げているものを見たら、蛙でした。
 5)縁語は。
  ・「わたつ海」の縁語が、「沖」「漕ぐ」「海士」「釣り」。

10.と奏しけるこそをかしけれ。蛙の飛び入りて焼くるなりけり。
 1)係り結びは。
  ・こそ→をかしけれ。
2)訳す。
 ・と申し上げたのは本当におもしろい。実は、蛙が飛び込んで焼けたのであった。
3)蛙が飛び込んで焼けるという状況について
 1)季節は。
  ・火鉢を使うのだから冬。
 2)冬に蛙が飛び込むか。
  ・冬眠している。
 3)どういう理由が考えられるか。
  ・蛙は生きた蛙でなく、ミイラである。百舌などが庭の木に突き刺しておいた蛙がミイラになったもの。
 4)誰が火鉢に入れたのか。
  ・状況から考えて村上天皇。
 5)なぜそんなことをしたのか。
  ・兵衛の歌の才能を試すため。


かたはらいたきもの


 「かたはらいたし」の意味は、おかしくて片腹が痛いの意から、それにふさわしくなく、こっけいである。笑止千万である。ちゃんちゃらおかしい。
 かたはらいたきものは合計8つある。ヌあまり練習もしていない、しかも十分チューニングしていない琴を得意気に引き続けること。人のことは言えないが、文化祭などで発表している下手なバンドがこれに当てはまる。ネ応接間か何かで客の相手をしているのに、台所かどこかで客には聞かせられない内輪話を大声でしていて、客に丸聞こえで、注意するわけにもいかず聞いていること。たとえば、出したケーキが特売で売れ残っていた物であるとか、お持たせで出したお菓子を安物だと言い合っているとか。ノ愛する人が酔っぱらってしまって得意話なんかを何回も繰り返していること。初めはいいけれど、だんだんうんざりしてくる。酒を飲むと気が大きくなり、自慢話をしたくなるし、理性が働かなくなるで一回したことを忘れて何度もしてしまう。ハ本人が聞いているのも知らないで、その人の身の上話をしていること。話の多くは悪口が多いのでいっそうである。よいことでも聞いている方は照れくさいものである。その相手が、身分の高くない使用人であっても、決まりが悪いものだ。このあたりは、身分社会にありながら、身分の低い人のことも考えている。また、この部分は2文で一つの事柄を書いている。ヒ旅先で、自分の使用人がふざけ合っている。本来は主人の世話をしなければならないのに、彼らのミスは主人の監督責任として評価される。また、旅先の使用人だとすれば、相手の使用人に注意できないもどかしさがある。フ人から見てかわいげがなく憎たらしい子どもでも、自分の子どもだからこそ可愛く思い、その子が言ったままのことを言ったままの口調で得意気に話すこと。親バカちゃんりんである。どんな悪ガキでも、親は可愛いものである。これを非難するのは清少納言の境遇からか。ヘ才能のない人が才能のある人の前で知ったかぶりをして才能のなる有名人の名を挙げて、いかにも自分に才能があるかのように語っていること。聞いている人は、その人のそこの浅さを見抜いて薄笑いしているだろうに。ホ人から見て上手いとも思わない自分の歌を、人が褒めてくれたと自慢げに話していること。自慢話を聞かされている人は冷笑しているだろう。
 現在もありがちな「ちゃんちゃらおかしい」ものを列挙しているので、生徒にも理解しやすいだろう。最初の教材、古文の苦手な生徒も多いので、本文の写し方から、辞書の調べ方、訳の仕方、文法事項、ノートのとり方などを手取り足取り教えて、これからの教材でもできるようにしよう。


1.「枕草子」について、教科書の解説を読み、まとめる。
 ・成立=平安時代中期
 ・ジャンル=随筆
 ・作者=清少納言(中宮定子に仕える)
 ・章段の数=約三百段
 ・章段の種類=類聚章段(ある主題のもとに連想された事物を集めた)
           随想的章段(自然や人事に関する感想を叙述した)
           日記的章段(宮仕えの体験に基づいた)
 ・特徴=「をかし」の美

2.学習プリントを配布する。
3.音読する。
4.「かたはらいたし」の意味を考えることを予告する。
 ・それぞれの場面から類推できる感情を後で考える。

5.よくも音弾きとどめぬ琴を、よくも調べで、心の限り弾きたてたる。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
  ・「ハイパーマグナムプリント」を配布し、見方の説明を兼ねて復習をする。
 2)「たる」が連体形になっているが、理由は。
  ・体言「こと聞くはかたはらいたし」が省略されている。
 3)2つの「よく」を訳し分ける。
  ・よくも音=上手に。
  ・よくも調べ=十分に。
 4)チューニングしていない楽器を使った下手な演奏を聞いている気持ちは。
  ・聞いていられないけれど、やめさせられない。

6.客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にうちとけ言など言ふを、えは制せで聞く心地。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)「え〜で」の意味を確認する。
  ・〜できないで。
 3)「心地」の後の省略は。
  ・かたはらいたし。
 4)「もの言ふ」「うちとけ言など言ふ」「え制せで聞く」の主語は。
  ・もの言ふ=私。
  ・うちとけ言など言ふ=家族。
  ・え制せで聞く=私。
 5)どんな気持ちがするか。
  ・恥ずかしくてやめさせたいが、それを言えずにもどかしい。

7.思ふ人の、いたく酔ひて、同じ言したる。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)格助詞「の」の意味に注意する。
 3)「同じことす」とは。
  ・同じことを繰り返して言う。
 4)「思ふ人」とはどんな人か。
  ・恋しく思う人。恋人。
 5)どんな気持ちがするか。
  ・恥ずかしいけれど、好きな人に直接言えない。
 6)酒飲みの特徴を説明する。

8.聞きゐたりけるを知らで、人の上言ひたる。それは、何ばかりの人ならねど、使ふ人などだにかたはらいたし。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)「聞きゐたりける」の主語を考える。
  ・噂話の主人公。
 3)どんな気持ちがするか。
  ・本人を目の前にして噂話をしていることを言うに言えなくて、気が気でない。
 4)副助詞「だに」の意味に注意する。
  ・軽いものを挙げて重いものを類推させる。
  ・軽いもの=使う人、重いもの=身分の高い人。

9.旅だちたる所にて、下衆ども戯れゐたる。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)「下衆」とは誰の使用人か。また、その気持ちは。
  ・自分の使用人=主人の世話もしないでふざけている。
   普段からしつけていないのにその場で注意するのも、かえって決まりが悪い。
  ・旅先の使用人=相手の使用人なので注意できないもどかしさがある。

10.にくげなるちごを、おのが心地のかなしきままに、うつくしみ、かなしがり、これが声のままに、言ひたることなど語りたる。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)「にくげ」「かなし」「うつくしみ」の意味は。
  ・にくげ=醜い。
  ・かなし=いとおしい。
  ・うつくしむ=(小さいものや弱いものを)かわいがる。
 3)「ままに」の意味の違いは。
  ヌ〜のとおりに。ネ〜につれて。ノ〜ので。ハ〜と同時に。
  ・かなしきまま=ので。
  ・声のまま=〜のとおりに。
 4)「これ」の指示内容は。
  ・ちご。
 5)「言ひたる」「語りたる」の主語は。
  ・言ひたる=ちご。
  ・語りたる=親。
 6)「たる」の後の省略は。
  ・こと聞くはかたはらいたし。
 7)どんな気持ちか。
  ・親馬鹿なので注意できない。

11.才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に人の名など言ひたる。
 1)単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)「才」の意味を確認する。
  ・学問、教養。特に漢字の才能。平安時代の男子が身につけなければならない教養は漢学だったので、儒学や漢詩文等の学問や学識。
 3)「人の名」とはどんな人の名前か。
  ・有名人。
  ・有名人と親しいように言う。
 4)「たる」の後の省略は。
  ・こと聞くはかたはらいたし。
 5)どんな気持ちか。
  ・見えを張っていてみっともないが、直接たしなめることもできない。

11.ことによしともおぼえぬわが歌を、人に語りて、人の褒めなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。
 1)イ単語に分け、用言と助動詞をチェックする。
 2)「人に語り」と「人の褒め」の「人」の関係は。
  ・自慢している相手と、ほめてくれた人。
 3)どんな気持ちか。
  ・相手が得意になっているので、その気持ちを損なえない。

12.「かたはらいたきもの」をまとめる。
 1)下手な琴。他人。
 2)客に聞こえる内輪話。身内。
 3)酔っぱらった恋人。身内。
 4)本人の前での噂話。他人。
 5)ヒ旅先での使用人。自分。
 6)子どもの自慢話。他人。
 7)知ったかぶり。他人。
 8)和歌の自慢話。他人。

13.「かたはらいたし」の意味を考える。
 1)傍で見たり聞いたりしていて、口出しできないじれったい気持ち。
 2)はらはらする。(批判的)
 3)気の毒だ。(同情的)
 4)恥ずかしい。(他人を意識)


すさまじきもの


 すさまじきもの情窓サざめするもの、桃尻訳ではうんざりするもの。番犬が昼間から吠えたり(うちの近所にもいる)、季節外れの風物や服装や調度、本来の目的を失った牛飼いや産屋、跡継ぎのいない博士、因習に従わない人々など、第一段は列挙している。このあたりを読解するには、昔の季節感や常識が必要である。
 第二段は手紙にまつわる話。当時の手紙は贈り物を添えて付加価値を付けていた。都からの手紙ならばまだ知りたい情報もあるが、地方からの手紙には何の価値もない。このあたり、都意識というか、都人の優越感が匂う。当時の手紙の意味とはなんだったのだろう。せっかく手紙を出したのに返事がこない、と思っていたら使いの者が相手が不在や物忌みで配達していなかった。それも、汚くして持って帰って来る。せっかく楽しみにしていたのに、がっかりする。
 第三段は、来客を迎えに行ったのに、約束を破って来なかった話。迎えの使いもそっけない。せっかく楽しみにしていたのに。
 第四段は、除目の話。春の地方官吏の任命の儀式で、今は無官職だが今年は必ず任命されるだろうと思われる人の元へ期待して集まった人々。その中には、昔から今も仕えている人もいるが、昔は仕えていたが今は他に行っていた人、田舎に住んでいた人もいる。主人も官職がなければ収入もなく、多くの使用人を雇うわけにいかず、解雇した人もいるのだろう。神頼みにまで大勢が着いてきて、飲めや歌えの大騒ぎ。ところが、除目の終わる明け方まで、様子を見に行かせた使用人からの任命の報告がない。除目を終えた貴族がぞろぞろ帰って来る中に混じって使いにやった者が、気落ちした様子で歩いてくる。主人の身近なものは状況を判断して聞かないが、利害関係の薄いよそ者は、自分たちの採用があるかないかが気になっておかまいなしに聞く。使用人は、以前はどこどこの国司だったと答えるしかない。本当に当てにしていた人の落胆ぶりは大きい。余所から来た利害の薄い人々は、薄情なもので次の働き口を探しに去っていく。昔から今も仕えている人はそういう訳にもいかず、一年後の除目を考えて、来年あく国司のポストを数えながらも、がっかりしてある姿は痛ましいものである。この姿は、政治家の秘書にも当てはまる。政治家は当選しなければただの人。その政治家に雇われる人々はよりはかない浮草である。


1.「学習プリント」を配布し、学習の準備を宿題にする。
2.音読する。

第一段

3.「すさまじきもの」の理由を考える。
 1)昼ほゆる犬。
  ・犬は夜の番をするために飼われていたのに昼間に吠えるから。
 2) ウ春の網代。
  ・網代は秋から冬に氷魚や鮎などを捕るために、川瀬に網を張ったように竹や木を編み並べ魚の通路を狭める装置だが、それが春まで残っているから。
 3)三、四月の紅梅の衣。
  ・紅梅は表が紅裏が紫の襲の色目で十一月から二月に着る服色だが、それを三、四月になっても着ているから。
 4)ちごなくなりたる産屋。
  ・産屋はお産をすると汚れるというので別に建てて妊婦と乳児が住むが、その子ども死んでしまったから。
 5)博士のうちつづき女子生ませたる。
  ・博士は世襲で女性には資格がなかったが、続いて女ばかり生まれたので跡継ぎがいないから。
 6)方違へにいきたるに、あるじせぬ所。まいて節分などはいとすさまじ。
  ・「ぬ」の識別。
  ・方違いとは、陰陽道から出て、平安時代に流行した迷信。行こうとする方角が、金神や天一神などの遊行に当たっている時、その方角に向かっていくのを避ける。止むを得ぬ用事がある時は、前夜に一旦別の方角の所に泊まる。
  ・立春、立夏、立秋、立冬の前日。節分の時は「方違へ」をするのが慣例であった。
  ・方違へに行ったのに、もてなしをしないから。
4.「すさまじ」の意味を類推する。
 ・季節的に不調和な取り合わせを興ざめなものとする。
 ・期待や予想が裏切られて不快なもの。

第二段

1.人の国よりおこせたる文の、物なき。京のをもさこそ思ふらめ、
 1)「文の、」の「の」の意味。
  ・同格。
 2)当時の手紙の風習について説明する。
  ・贈り物を付ける。
 3)「物なき」の後の省略。
 4)「京/の/を/も/こそ/さ/こそ/思ふ/らめ」を単語に分解。
 5)「京の」の「の」の意味。
  ・体言の代用。
 6)「さこそ」の指示内容。
  ・すさまじ
 7)係り結び。
  ・「こそ〜已然形、」で逆接になる。

2.されどそれはゆかしきことどもをも書き集め、世にあることなどをも聞けばいとよし。 
 1)「されど」の意味。
 2)「それ」の指示内容。
  ・京の
 3)「ゆかし」の意味。
  ヌ心が強く引かれ、好奇心がもたれるさま。知りたい。見たい。聞きたい。何となく心が引かれる。懐かしい。
 4)作者の都意識に注意する。
  ・都からの手紙は贈り物がなくても中身があるから良いが、地方からの手紙は中身がないから贈り物がなければいけない。

3.人のもとにわざときよげに書きてやりつる文の返りごと、いまはもてきぬらむかし、あやしう遅きと待つほどに、
 1)「いま/は/も/て/き/ぬ/らむ/かし」を単語に分解。
 2)「あやし」の意味。
  ヌ神秘的だ。珍しい。不思議だ。不都合だ。見苦しい。身分が低い。
 3)「あやしう」の音便の種類と元の形。 

4.ありつる文、立て文をも結びたるをも、いと汚げに取りなしふくだめて、上に引きたりつる墨など消えて、「おはしまさざりけり」もしは、「御物忌みとて取り入れず」と 言ひてもて帰りたる、いとわびしくすさまじ。
 1)立文と結び文、引き墨を説明する。
  ・立てに長くたたみ上下をはしよった書状。正式の手紙。
  ・巻いて上端か中を結んだ書状。略式の手紙。
 2)「おはしまさ/ざり/けり」を単語に分解。
 3)物忌みの説明。
  ・祭の前や、穢れに触れたり、悪い目にあったり、夢見が悪かったりした時にする謹慎。飲食や行為を慎み、斎戒沐浴して穢れを忌み、心を清める風習。
 4)「わびし」の意味。
  ・がっかりである。心細い。苦しい。物足りない。貧しい。やりきれない。

5.また、必ず来べき人のもとに車をやりて待つに、来る音すれば、さななりと人々出でて見るに、
 1)「来/べき/人/の/もと/に」を単語に分解。
 2)「車」の説明。
  ・牛車
 3)「さ」の指示内容。
  ・必ず来べき人が来たこと。

6.車宿りにさらに引き入れて、轅ほうとうち下ろすを、「いかにぞ」と問へば、「今日はほかへおはしますとて渡りたまはず」などうち言ひて、牛の限り引き出でて往ぬる。
 1)「轅」の説明。
 2)「渡りたまはず」の敬語の種類・主体・対象。
  ・尊敬、使者→必ず来べき人

第三段

7.除目に司得ぬ人の家。今年は必ずと聞きて、早うありし者どものほかほかなりつる、 田舎だちたる所に住む者どもなど、みな集まり来て、出で入る車の轅もひまなく見え、ものまうでする供に、我も我もと参り仕うまつり、物食ひ、酒飲み、ののしり合へるに、
 1)「除目」の説明。
  ・公務員の人事異動。毎年春秋に行われる。春は地方官の任命で正月十一日または九日から三日間行われる。秋は内官の任命。
 2)「ぬ」の識別。
 3)「早うありしものどものほかほかなりつる」の「の」の用法。
  ・同格。
  ・彼らが薄情なのでなく、主人が官職を得られなかったのでリストラされていた。
 4)「ものまうで」の主語と目的。
  ・この家の主人が、任官の祈願のため。
 5)「参り/つかうまつり」の主語と敬語の種類・主体・対象。
  ・主語は、早うありし者どものほかほかなりつる、田舎だちたる所に住む者どもなど
  ・謙譲、作者→主人。
 6)「ののしる」の意味。
  ・騒ぐ。やかましい声で鳴く。評判になる。勢いが盛んである。口汚く言う。

8.果つる暁まで門たたく音もせず、あやしうなど耳立てて聞けば、前駆追ふ声々などして、上達部など皆出で給ひぬ。
 1)何が「果つる」のか。
  ・除目。
 2)誰が何のために門をたたくのか。
  ・除目の様子を見に行っていた召使が、任官の知らせを伝えるため。
 3)「あやし」と思った理由。
  ・今年は必ず使者が任官を知らせるはずなのに、除目が終わっても帰って来ないから。
 4)「上達部」の意味。
  ・摂政、関白、大納言、中納言、参議および三位以上の人。ここでは、除目に参加して任官を決めていた貴族たち。
 5)「出で給ひぬ」の敬語の種類・主体・対象と、助動詞「ぬ」の識別。
  ・尊敬、作者→上達目
  ・完了の終止形。

9.もの聞きに、宵より寒がりわななきをりける下衆男、いともの憂げに歩み来るを、見る者どもはえ問ひにだにも問はず。
 1)「宵」の意味。
  ヌ前の晩。ネ夕方。
 2)「いともの憂げ」である理由。
  ・主人の任官がなかったから。
 3)「え問ひにだに問はず」の理由。
  ・下衆男があまりにがっかりして歩いているので問うことが気の毒になったから。

10.ほかより来たる者などぞ、「殿は何にかならせ給ひたる。」など問ふに、いらへには、「何の前司にこそは。」などぞ必ずいらふる。
 1)「殿/は/何/に/か/なら/せ/給ひ/たる」の単語分解。
 2)「何にか」の結び。
 3)「ならせ」の助動詞の意味。
 4)「ならせ給ひ」の敬語の種類、主体,対象。
  ・尊敬、ほかより来たる者→殿
 5)ほかより来たる者が遠慮なく尋ねた理由。
  ・義理もなく、利害関係だけでつながっているから。
 6)「こそは」の後の省略。
  ・ならせたまひたれ
 7)「何の前司にこそは」の意味。
  ・前はどこかの国司になったが、今回は駄目だった。ということを遠回しに表現している。

11.まことに頼みける者は、いと嘆かしと思へり。つとめてになりて、ひまなくをりつる者ども、一人二人すべり出でて往ぬ。
 1)「つとめて」の意味。

12.古き者どもの、さもえ行き離るまじきは、来年の国々、手を折りてうち数へなどして、ゆるぎありきたるも、いとほしうすさまじげなり。
 1)「古き者どもの」の意味。
  ・同格。
 2)「さ/も/え/行き/離る/まじき/は」の単語分解。
 3)「さもえ行き離るまじき」の指示内容。
   ・すべりいでて往ぬ。
 4)「来年の国々」の意味。
   ・来年国司の任期の四年が満ちて、国司が入れ替わる予定の国々。
 5)「ほかほかなる者」と「古き者」の違いを考える。
  ・ほかほかなる者は、また他の主人への奉公を考えればよいが、古き者はこの主人への義理立てと他に移れぬ不器用さとが合って、この主人に期待せざるをえないから悲壮である。

13.清少納言がこのように除目のある家を細かに描写できた理由。
  ・父も同じような体験をしたから。



宮に初めて参りたるころ 09


 清少納言が中宮定子に仕え始めた頃、恥ずかしいことが多くあった。あの気丈夫な清少納言が信じられないことである。
 中宮定子は非常に魅力的な人で、その手だけを見ても、こんな素晴らしい人かこの世にいたのかと、宮中を知らない里人には驚きである。
 その中宮定子は、清少納言にいろいろ気をつかってくださり、絵を見せたり、格子を上げるのを止めさせたり、早く退出して夜に早く出仕するように言ったり、昼間から出仕を急かしたりする。
 それに対して、清少納言は恥ずかしく、絵を見るのに手さえ出せなかったり、灯明に露に映される姿に気が引けたり、昼間から呼ばれてもなかなか出仕しなかったりした。
 局の主人は、中宮定子がそこまで目をかけてくれるのだから出仕するように勧めてくれる。身分の高い女房が気後れすることなくゆったりと立ち居振る舞いをするのを見て、いつか自分もあのようになりたいと思う。


1.【指】学習プリントを配布し、宿題にする。
2.【検】学習プリントとノートを点検する。
3.【確】漢字の読みを確認する。
御几帳  高杯  御殿油  顕証  薄紅梅  里人  暁  仰せ  御格子  女官  御前  立蔀
4.【指】教師が範読する。
5.【読】読点で交代してペアリーディングさせる。
6.【説】清少納言が初めて中宮の所に宮仕えした時の話である。

7.宮に初めて参りたるころ、ものの恥づかしきことの数知らず、涙も落ちぬべければ、夜々参りて、三尺の御几帳の後ろにさぶらふに、絵など取り出でて見せさせ給ふを、手にてもえさし出づまじうわりなし。
 1)【L2】主語の変化は。
  ・宮に〜さぶらふに=私。
  ・絵など〜給ふに=中宮。
  ・手にも〜わりなし=私。
 2)【法】敬語を考える。
  ・参り、参り、候ふ=謙譲、作者→中宮。
  ・させ−給ふ=尊敬、作者→中宮。(二重尊敬で高い敬意を表している)
 3)【法】「落ちべければ」の助動詞の意味は。
  ・ぬ=強意、べけれ=推量
 4)【語】「参る」「恥ずかしき」「わりなし」の意味。
  ・参る=1)参上する(行く)。2)入内する。3)宮仕えする。4)参詣する。5)差し上げる(与ふ)6)〜して差し上げる(す)。7)格子をお上げ(お下げ)する。8)召し上がる(食 ふ)。9)なさる(す)
  ・恥ずかし=1)気が引ける。2)(こちらが恥ずかしいぐらい)優れている。
  ・候ふ=1)お仕えする(居り)。2)参上する。3)ございます(あり)。
  ・わりなし=1)道理に合わない。2)つらい。3)仕方がない。4)はなはだしい。5)無理にする。
 5)【説】「几帳」の説明をする。
  ・寝殿造りの建物で、室内の仕切りとして立てた、移動式の布製のついたて。土居
   (ツチイ)という小さな台に、足という二本の細い柱を立て、その上に手という横木を渡して帷子(カタビラ)という布を垂らしたもの。夏は生絹(スズシ)・綾織   (アヤオリ)に花鳥、冬は練り絹に朽ち木を描いたものを用いることが多かった。ふつう、高さは三尺(=約九一センチ)、幅六尺(=約一八二センチ)である。
 6)【訳】
  ・(私が)(中宮の御所に)初めて宮仕えした時、気が引けることは数知らず、涙も落ちてしまいそうなので、(昼間ではなく)夜に宮仕えして、三尺の几帳の後ろに   お仕えしている時に、(中宮が)絵などを取り出してお見せになるが、(私は)手さえも差し出せなくて、つらい。
 7)【L2】「わりなし」と感じた理由は。
  ・ものの恥ずかしきこと数知らず」
 8)【L2】出仕当時の私の気持ちを理解する。
  ・恥ずかしいことが多くて、涙を流すほど、うぶであった。
 9)【L3】なぜ、昼でなく夜に出仕したのか。
  ・ここでは答えが出ないので、最後にもう一度考える。

8.「これは、とあり、かかり。それか、かれか。」など、のたまはす。高坏に参らせたる御殿油なれば、髪の筋なども、なかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど、念じて、見などす。
 1)【L1】「これは〜かれが」の会話の主は。
  ・中宮。
 2)【L1】「念じて見などす」の主語は。
  ・私。
 3)【法】敬語を考える。
  ・のたまはす=尊敬、作者→中宮。
  ・まゐらせ=謙譲、作者→中宮。
 4)【法】「油なれ」の識別。
  ・断定の助動詞。
 5)【語】「まばゆ」「念ず」の意味。
  ・まばゆ=1)まぶしい。2)(まぶしいほど)美しい。3)(相手がまぶしく自分が)ずかしい
  ・念ず=1)祈る。2)我慢する
 6)「高杯」の説明をする。
  ・食器を乗せる台を逆さまにして、底の部分を灯明台にした。
  ・普通の灯台よりも低いので、近くが明るく見える。
 7)【訳】
・(中宮は)「この絵はああです、こうです。それがよいか、あれがいいか」などおっしゃる。高杯に火を灯し申し上げた御殿油なので、髪の筋なども、かえって昼よりもはっきり見えて恥ずかしいけれど、我慢して、(絵を)見たりする。
 8)【L2】中宮が「これは、とあり〜」と言った理由は。
  ・私の気持ちを少しでも楽にしようと絵を見せた。

9.いと冷たきころなれば、さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたしと、見知らぬ里人心地には、かかる人こそは世におはしましけれと、驚かるるまでぞまもり参らする。
 1)【L2】主語の変化は。
  ・さし出でさせ給へる=中宮。
  ・まもり参らする=私。
 2)【法】敬語を考える。
  ・させ−給へ=尊敬、作者→中宮。(二重尊敬)
  ・おはしまし=尊敬、作者→中宮。
  ・参らする=謙譲、作者→中宮。
 3)【法】「ころなれ」「紅梅なる」「知ら」の識別。
  ・ころなれ、紅梅なる=断定の助動詞。
  ・知ら=打消の助動詞。
 4)【法】「御手の」の「の」の用法。
  ・同格。
 5)【法】「かかる人こそ」「驚かるる」の結び。
  ・かかる人こそ→けれ
  ・驚かるる→参らする
 6)【法】「けれ」の意味。
  ・詠嘆。
 7)【法】「驚かるる」の意味。
  ・自発。
  ・知覚動詞に接続している。
 8)【語】「匂ふ」「驚く」「まもる」の意味。
  ・匂ふ=臭覚でなく、視覚的に「つややかに美しい」の意味。
  ・驚く=1)びっくりする。2)はっと気づく。3)はっと目覚める。
  ・まもる=1)じっと見つめる。2)見定める。3)守る。
 9)【説】里人。
  ・宮仕えの者で自宅にいる者。新参の女房は普段は自宅にいる。
 10)【訳】
・たいへん冷たい頃なので、(袖口から)出していらっしゃる手がわずかに見えるのが、たいへん艶やかに美しく薄紅梅であるのは、限りなく美しいと、まだ宮中のことがわからない新参者の心には、このような人がこの世にいらっしゃったのだなぁとはっとするまで、見つめ申し上げる。

10.暁にはとく下りなむと急がるる。「葛城の神もしばし。」など仰せらるるを、いかで かは筋かひ御覧ぜられむとて、なほ伏したれば、御格子も参らず。
 1)【L2】主語の変化は。
  ・暁には〜急がるる=私。
  ・「葛城〜仰せらるる=中宮。
  ・いかでか〜御覧ぜられむ〜参らず=私。
 2)【法】敬語をを考える。
  ・仰せ−らるる=尊敬、作者→中宮。(二重尊敬)
  ・御覧ぜ=尊敬、作者→中宮。
  ・まいら=謙譲、作者→中宮。
 3)【法】助動詞「な」「るる」「らるる」「られ」の意味を考える。
  ・な=強意。(推量の助動詞が接続)
  ・るる=自発。(意味の上から)
  ・らるる=尊敬。(尊敬語に接続)
  ・られ=受身。
 4)【法】「いかで」の結び。
  いかで→む
 5)【説】格子。
  ・寝殿造りの建具の一つ。細い角材を一定の間をあけて縦横に組み合わせた黒塗りの戸。建物の柱と柱の間にはめる。上下二枚に分かれていて、上だけを外側につり上げて開き、下はそのまま固定してある。開放するときは上下とも取りはずすこともある。夜に下ろし、朝に上げる。
 6)【訳】
・(私は)明け方には早く退出してしまおうと自然と気が急く。(中宮は)「葛城の神ももうしばらくいなさい」などとおっしゃるのを、どうして斜めでも(顔を)御覧に入れずにすませたいと、やはりうつ伏しているので、格子もお上げしない。
 7)【L2】葛城の神とは誰か、なぜそう呼んだか。
  ・葛城の神は、役小角(えんのおずね)から石橋を渡すように命ぜられたが、顔が醜   いので夜だけ姿を現して明け方には姿を消してしまったという神。
  ・作者も明け方までに退出したいと言ったので。
 8)【L3】顔を見られたくない理由は。
  ・疲れ切った顔を、横顔でも見られたくないから。

11.女官ども参りて、「これ、放たせ給へ。」など言ふを聞きて、女房の放つを、「まな。」と仰せらるれば、笑ひて帰りぬ。
 1)【L3】主語の変化を考える。
  ・女官ども〜など言ふ=女官。
  ・聞きて〜放つを=女房。
  ・「まな〜仰せらるれば=中宮。
  ・笑ひて帰りぬ=女官。
 2)【説】女官。
  ・「にょうかん」と読む。
  ・下級の女官。女房の用を手伝い、取り次ぎをしていた。女房とは一線を画されていた。
 3)【法】敬語を考える。
  ・参り=尊敬、作者→中宮。
  ・せ−給へ=尊敬、女官→中宮。(二重敬語)
  ・仰せ−らるれ=尊敬、作者→中宮。(二重敬語)
 4)【法】助動詞「せ」「らるれ」の意味と、「ぬ」の識別。
  ・せ=尊敬。(尊敬語の上にある)
  ・らるれ=尊敬。(尊敬語の下にある)
  ・ぬ=完了、終止。(四段連用に接続、下に句点)
 5)【L1】「これ」の指示内容は。
  ・御格子。
 6)【訳】
・女官たちが参上して、「これを開けてください」など言うのを、(女房)が聞いて、女房が開けようとするのを、(中宮が)「いけません」とおっしゃったので、(女官たちは)笑って帰った。
 7)【L3】中宮が格子を開けさせなかった理由は。
  ・本来なら明け方には女房は退出しているはずだが、中宮が引き止めていたので残っている。その女房たちが顔を見られたくないと思っているから気づかった。
 8)【L3】女官が格子を上げようとした理由は。笑った理由は。
  ・朝の支度があるので部屋に入りたかった。
  ・しかし、格子の掛け金は内から閉めるので困っている。
 9)【L3】女官が笑った理由は。
  ・中宮が女房を引き止め、女房が嫌がっているのを知っているから。

12.ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれば、「下りまほしうなりにたらむ。さらば、はや。夜さりはとく。」と仰せらる。
 1)【L1】主語は。
  ・すべて中宮。
 2)【法】敬語を考える。
  ・せ−給ひ=尊敬、作者→中宮。(二重敬語)
  ・のたまは−する=尊敬、作者→中宮。(二重敬語)
  ・仰せ−らる=尊敬、作者→中宮。(二重敬語)
 3)【法】「なりにたらむ」の品詞分解。
  ・なり(四用)に(完了用)たら(完了未)む(推量止)
 4)【訳】
  ・(中宮が)ものをお尋ねになり、お話なさる内に、長くなってしまったので、
「(あなたは)(部屋に)下がりたくなっているのでしょう。それならば、早く
(下がりなさい)。夜は早く(来なさい)。」とおっしゃる。
  1)どこへ「下りまほしう」か。
   ・自分の部屋。
  2)「はや」「とく」の後の省略。
   ・はや=下れ。
   ・とく=来よ。

13.ゐざり帰るにや遅きと上げ散らしたるに、雪降りにけり。登花殿の御前は立て蔀近くてせばし。雪いとをかし。
 1)【L1】主語は。
  ・すべて私。
 2)【法】「帰る」「降りけり」の識別。
  ・帰る=格助詞。
  ・降り=完了。
 3)【説】「ゐざり帰る」
  ・貴人の前から膝をすって退く。
 4)【説】立て蔀。
  ・細い木を縦横に組んで格子とし、裏に板を張ってついたてのように作ったもの。庭先に立てて室内の目隠しにする。
 5)【訳】
  ・膝行して帰るとすぐに、(女房が)(格子を)上げちらしていると、(外は)雪が降っていた。登花殿の御前の庭は立蔀が近くにあって狭い。雪は、たいへん赴き深い。
  1)「や遅き」の訳
  ・「やいなや」の意味の慣用句。
 6)【L2】部屋に帰る作者の気持ちは。
  ・極度の緊張と恥ずかしさから解放されてほっとしている。

14.桃尻語訳を配布する。


中納言参りたまひて 09


 中宮の弟、中納言隆家がふらっと立ち寄って、中宮に扇をプレゼントしようとした。扇は当時のオシャレアイテムである。隆家は自分の扇を自慢して、「素晴らしい扇の骨を手に入れた。素晴らしい骨にはありふれた紙ではなく、ふさわしい素晴らしい紙を張ろうと思い探している」と言った。中宮が、「どんな骨ですか」と聞くと、「完璧な骨で、今までに見たことのない骨だ、と人々が褒めてくれる。これほどの骨は見たことがない」と自慢げに大声で言う。そこで、私は皮肉を言ってやった。「人が見たことのないような骨なら、骨のないくらげの骨みたいですね」と。すると、隆家は一本取られたと思って、「そのシャレは私のシャレにしておこう」と言って苦笑いをした。こんな一人の女房がでしゃばって中納言をやりこめると言う、自分の才能を誇示するような自慢話は、そばで見ていて見苦しいことの中に入れるべきだが、人々が「一つも書き落とすな」と言うので、どうしようもなく不本意ながら書いたのである。と書いているが、実は謙遜しているようで、自分の才能をひけらかして、自分の晴れがましさを誇示する結果になっている。


1.【指】学習プリントを配布し、宿題にする。
2.【検】学習プリントとノートを点検する。
3.【確】漢字の読みを確認する。
 ・奉る 侍る 言高く 海月
4.【読】読点で交代してペアリーディングさせる。

5.中納言参りたまひて、御扇奉らせたまふに、
 1)【説】中納言の説明。
  ・大納言に続く高い官位。
  ・ここでは藤原隆家。道隆の子で、中宮定子と同腹の弟。
 2)「参りたまひ」について
  1)【法】敬語の種類は。
   ・参り=謙譲。給ふ=尊敬。
  2)【語】「参り」の意味は。
   ・(高貴な人の所に)参上する。
  3)【訳】
   ・参上なさる。
  4)【法】主語と目的語は。
   ・主語=隆家、目的語=中宮。
  5)【法】敬意の主体と対象は。
   ・参り=作者→中宮。
   ・給ふ=作者→隆家。
  5)【法】敬意の仕組みは。
   ・まず、謙譲語を使って、隆家の動作を低めて、中宮に敬意を表す。
   ・次に、尊敬語を使って、隆家の動作を高めて、隆家に敬意を表す。
  6)【訳】
   ・隆家が中宮定子の所へ参上なさって
 3)【説】扇の説明。
  ・女性の重要なアクセサリー。
  ・年中行事や儀式の時には趣向を凝らした美しい扇を新調するのが楽しみであった。
 4)「奉らせ給ひ」について
  1)【法】単語に区切ると。
   ・奉らせ/給ふ。
   【注】「奉ら/せ/給ふ」ではない。理由は後で考える。
  2)【語】「奉らす」の意味は。
   ・「与ふ」の謙譲語。
   ・差し上げる。献上する。
   【注】「奉る」より謙譲の度合いが高い。
  3)【訳】主語と目的語を補って。
   ・隆家が中宮に差し上げなさる。
  4)【法】敬意の主体と対象は。
   ・奉らせ=作者→中宮。
   ・給ふ=作者→隆家。
  5)「奉ら/せ/給ふ」ではない理由について
   a)【法】「せ/給ふ」なら敬意は。
    ・「せ」は尊敬の助動詞。「給ふ」は尊敬の補助動詞で、二重尊敬になる。
   b)【法】敬意の仕組みは。
    ・「奉ら」で、隆家を低めて、中宮に敬意を表す。
    ・「せ/給ふ」で、隆家に二段階の敬意を表す。
   c)【法】「せ/給ふ」ではない理由は。
    ・隆家を二重尊敬すると、中宮より上になるから。

5.「隆家こそいみじき骨は得てはべれ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの 紙はえ張るまじければ、求めはべるなり。」と申したまふ。
 1)【L1】誰の会話か。
  ・隆家。
 2)【法】敬語の抽出。
  ・はべれ、はべる=丁寧。隆家→中宮。
  ・参らせ=謙譲。隆家→中宮。
  ・申し=謙譲。作者→中宮。
  ・給ふ=丁寧。作者→隆家。
 3)【法】「隆家こそ」の結びは。
  ・「はべれ」。已然形で結ぶ。
 4)【法】助動詞「せ」の意味は。
  ・使役。(単独の場合は使役。)
 5)助動詞「む」の意味は。
  ・意志。
 6)【法】「え〜まじけれ」の意味は。
  ・え+打消語=不可能。呼応の副詞。
  ・〜できない。
 7)【法】格助詞「の」の用法は。
  ・連体格。
 8)【法】「なり」の識別は。
  ・断定。(連体形に接続)
 9)【語】「いみじ」の意味。
  ・すぐれている。すばらしい。
  【注】程度がはなはだしいと言う意味で、望ましい場合にも望ましくない場合にも用いる。
 10)【L1】「骨」とは何の骨か。
  ・扇の骨。
 11)【指】「それ」の指示内容は。
  ・いみじき骨。
 12)【L1】「張らせ」の目的語は。
  ・紙を。
 13)【語】「おぼろげ」の意味は。
  ・ありふれた紙。普通の紙。
 14)【L2】「求め」の目的語は。
  ・いみじき紙。
 15)【訳】
  ・「隆家は素晴らしい(扇の)骨を手に入れました。それ(いみじき骨)に(いみじき骨を)張らせて差し上げようとするのに、ありふれた紙は張ることができないので、いみじき紙を)探し求めています」と(隆家が)(中宮に)申し上げなさる。

6.「いかやうにかある。」と問ひ聞こえさせ給へば、
 1)【L2】誰の会話か。
  ・中宮
  【注】後で考える敬語で、二重尊敬が使われているので作者ではない。
 2)【法】「聞こえさせ給へ」の敬語は。
  ・きこえ=謙譲。作者→隆家。
  ・させ+たまふ=尊敬。作者→中宮。
  ・「きこえ」で中宮を下げて隆家に敬意を表し、「させ+給へ」の二重尊敬で中宮への敬意を回復している。
 3)【法】「いかように」の係り結びは。
  ・か(疑問)→ある(ラ変連体)
 4)【法】「に」の識別は。
  ・断定の助動詞の連体形。
  ・「に+係助詞」は断定の助動詞。
 5)【訳】
  ・(中宮が)「どのようであるのか」と(隆家に)お尋ね申し上げなさると。

7.「すべていみじうはべり。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり。』となむ、人々申す。ま ことに、かばかりのは見えざりつ。」と、言高くのたまへば、
 1)【L1】誰の会話か。
  ・隆家。
 2)【法】敬語の抽出。
  ・はべり=丁寧。隆家→中宮。
  ・申す=謙譲(言ふ)。隆家→隆家。
   【注】主体は話し手であるから、隆家が自分で自分に敬意を表していることになる。
  ・のたまへ=尊敬(言ふ)。作者→隆家。
 3)【法】助動詞「ぬ」「なり」の識別は。
  ・ぬ=打消の連体形。(連用形に接続)
  ・なり=断定の助動詞。(体言に接続)
 4)【語】「さらに〜打消」の意味は。
  ・全く〜ない。
 5)【法】「かばかり」の「の」の用法は。
  ・体言の代用。
  ・骨を指す。
 6)【語】「言高く」の意味と気持ちは。
  ・大きな声で言う。
  ・自慢している。
 7)【訳】
  ・(隆家が)「すべて素晴らしくございます。『全くまだ見たことがない骨の様子である』と人々が(私に)申します。本当にこれほどの骨は見当たりません。

8.「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」と聞こゆれば、
 1)【L2】誰の会話か。
  ・作者。
  【注】「聞こゆれ」に尊敬語がない。
 2)【法】「聞こゆれ」の敬語は。
  ・謙譲(言ふ)。作者→隆家。
 3)【法】「扇」「海月」の「の」の用法は。
  ・体言の代用。
  ・骨。
 4)【法】「ななり」の品詞分解は。
  ・な=断定の助動詞「なる」の連体形の無表記。
  ・なり=推定の助動詞の終止。
 5)【語】「さては」の意味は。
  ・それなら。
 6)【訳】
  ・(私が)「それなら、扇の骨ではなくて、くらげの骨でしょう」と、(隆家に)申し上げると
 7)【L3】この会話の意味は。
  ・隆家が見たことのない骨だと強調するので、クラゲの骨も誰も見たことがないので、こう言った。

9.「これ、隆家が言にしてむ。」とて笑ひ給ふ。
 1)【L1】誰の会話か。
  ・隆家。
 2)【法】「給ふ」の敬語は。
  ・尊敬。作者→隆家。
 3)【指】「これ」の指示内容は。
  ・「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」
 4)【訳】
  ・(隆家は)「これは隆家の言葉にしておこう」とお笑いになる。
 5)【L3】隆家が笑った気持ちは。
  ・一本とられたことを素直に認める。

10.かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。
 1)【指】「かやうのこと」の指示内容は。
  ・前の部分全体。
 2)【語】「かたはらいたし」の意味は。
  ・見苦しい。
 3)【法】助動詞「つ/べけれ」の意味は。
  ・つ=強意の助動詞。(推量の助動詞の上)
  ・べけれ=当然。
 4)【L2】誰の会話か。
  ・人々。
  【注】中宮の会話だと尊敬語があるはず。
 5)【語】「な〜そ」の意味は。
  ・禁止。
 6)【語】「いかがはせむ」の意味は。
  ・反語。
  ・どうしようか、いや、どうしようもない。
 7)【訳】
  ・このようなことは、見苦しいことの中に入れてしまうべきであるが、(人々が)
   「一つも書き漏らすな」と言うので、どうしようか、いやどうしようもない。
 8)【L4】この話を書いた作者の気持ちを考える。
  ・こんな一人の女房がでしゃばって中納言をやりこめると言う、自分の才能を誇示するような自慢話は、そばで見ていて見苦しいことの中に入れるべきだ。
  ・しかし、人々が「一つも書き落とすな」と言うので、どうしようもなく不本意ながら書いた。
  ・しかし、実は謙遜しているようで、自分の才能をひけらかして、自分の晴れがましさを誇示する結果になっている。
  ・清少納言が嫌われる理由でもある。


中納言参りたまひて 10


 中宮の弟、中納言隆家がふらっと立ち寄って、中宮に扇をプレゼントしようとした。扇は当時のオシャレアイテムである。隆家は自分の扇を自慢して、「素晴らしい扇の骨を手に入れた。素晴らしい骨にはありふれた紙ではなく、ふさわしい素晴らしい紙を張ろうと思い探している」と言った。中宮が、「どんな骨ですか」と聞くと、「完璧な骨で、今までに見たことのない骨だ、と人々が褒めてくれる。これほどの骨は見たことがない」と自慢げに大声で言う。そこで、私は皮肉を言ってやった。「人が見たことのないような骨なら、骨のないくらげの骨みたいですね」と。すると、隆家は一本取られたと思って、「そのシャレは私のシャレにしておこう」と言って苦笑いをした。こんな一人の女房がでしゃばって中納言をやりこめると言う、自分の才能を誇示するような自慢話は、そばで見ていて見苦しいことの中に入れるべきだが、人々が「一つも書き落とすな」と言うので、どうしようもなく不本意ながら書いたのである。と書いているが、実は謙遜しているようで、自分の才能をひけらかして、自分の晴れがましさを誇示する結果になっている。


1.【指】学習プリントを配布し、宿題にする。
2.【検】学習プリントとノートを点検する。
3.【確】漢字の読みを確認する。
 ・奉る 侍る 言高く 海月
4.【読】読点で交代してペアリーディングさせる。

5.中納言参りたまひて、御扇奉らせたまふに、
 1)【説】中納言の説明。
  ・大納言に続く高い官位。
  ・ここでは藤原隆家。道隆の子で、中宮定子と同腹の弟。
 2)「参りたまひ」について
  1)【法】敬語の種類は。
   ・参り=謙譲。給ふ=尊敬。
  2)【語】「参り」の意味は。
   ・(高貴な人の所に)参上する。
  3)【訳】
   ・参上なさる。
  4)【法】主語と目的語は。
   ・主語=隆家、目的語=中宮。
  5)【法】敬意の主体と対象は。
   ・参り=作者→中宮。
   ・給ふ=作者→隆家。
  5)【法】敬意の仕組みは。
   ・まず、謙譲語を使って、隆家の動作を低めて、中宮に敬意を表す。
   ・次に、尊敬語を使って、隆家の動作を高めて、隆家に敬意を表す。
  6)【訳】
   ・隆家が中宮定子の所へ参上なさって
 3)【説】扇の説明。
  ・女性の重要なアクセサリー。
  ・年中行事や儀式の時には趣向を凝らした美しい扇を新調するのが楽しみであった。
 4)「奉らせ給ひ」について
  1)【法】単語に区切ると。
   ・奉らせ/給ふ。
   【注】「奉ら/せ/給ふ」ではない。理由は後で考える。
  2)【語】「奉らす」の意味は。
   ・「与ふ」の謙譲語。
   ・差し上げる。献上する。
   【注】「奉る」より謙譲の度合いが高い。
  3)【訳】主語と目的語を補って。
   ・隆家が中宮に差し上げなさる。
  4)【法】敬意の主体と対象は。
   ・奉らせ=作者→中宮。
   ・給ふ=作者→隆家。
  5)「奉ら/せ/給ふ」ではない理由について
   a)【法】「せ/給ふ」なら敬意は。
    ・「せ」は尊敬の助動詞。「給ふ」は尊敬の補助動詞で、二重尊敬になる。
   b)【法】敬意の仕組みは。
    ・「奉ら」で、隆家を低めて、中宮に敬意を表す。
    ・「せ/給ふ」で、隆家に二段階の敬意を表す。
   c)【法】「せ/給ふ」ではない理由は。
    ・隆家を二重尊敬すると、中宮より上になるから。

5.「隆家こそいみじき骨は得てはべれ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの 紙はえ張るまじければ、求めはべるなり。」と申したまふ。
 1)【L1】誰の会話か。
  ・隆家。
 2)【法】敬語の抽出。
  ・はべれ、はべる=丁寧。隆家→中宮。
  ・参らせ=謙譲。隆家→中宮。
  ・申し=謙譲。作者→中宮。
  ・給ふ=丁寧。作者→隆家。
 3)【法】「隆家こそ」の結びは。
  ・「はべれ」。已然形で結ぶ。
 4)【法】助動詞「せ」の意味は。
  ・使役。(単独の場合は使役。)
 5)助動詞「む」の意味は。
  ・意志。
 6)【法】「え〜まじけれ」の意味は。
  ・え+打消語=不可能。呼応の副詞。
  ・〜できない。
 7)【法】格助詞「の」の用法は。
  ・連体格。
 8)【法】「なり」の識別は。
  ・断定。(連体形に接続)
 9)【語】「いみじ」の意味。
  ・すぐれている。すばらしい。
  【注】程度がはなはだしいと言う意味で、望ましい場合にも望ましくない場合にも用   いる。
 10)【L1】「骨」とは何の骨か。
  ・扇の骨。
 11)【指】「それ」の指示内容は。
  ・いみじき骨。
 12)【L1】「張らせ」の目的語は。
  ・紙を。
 13)【語】「おぼろげ」の意味は。
  ・ありふれた。普通の。
 14)【L2】「求め」の目的語は。
  ・いみじき紙。
 15)【訳】
  ・「隆家は素晴らしい(扇の)骨を手に入れました。それ(いみじき骨)に(いみじき骨を)張らせて差し上げようとするのに、ありふれた紙は張ることができないの   で、いみじき紙を)探し求めています」と(隆家が)(中宮に)申し上げなさる。

6.「いかやうにかある。」と問ひ聞こえさせ給へば、
 1)【L2】誰の会話か。
  ・中宮
  【注】後で考える敬語で、二重尊敬が使われているので作者ではない。
 2)【法】「聞こえさせ給へ」の敬語は。
  ・きこえ=謙譲。作者→隆家。
  ・させ+たまふ=尊敬。作者→中宮。
  ・「きこえ」で中宮を下げて隆家に敬意を表し、「させ+給へ」の二重尊敬で中宮への敬意を回復している。
 3)【法】「いかように」の係り結びは。
  ・か(疑問)→ある(ラ変連体)
 4)【訳】
  ・(中宮が)「どのようであるのか」と(隆家に)お尋ね申し上げなさると。

7.「すべていみじうはべり。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり。』となむ、人々申す。まことに、かばかりのは見えざりつ。」と、言高くのたまへば、
 1)【L1】誰の会話か。
  ・隆家。
 2)【法】敬語の抽出。
  ・はべり=丁寧。隆家→中宮。
  ・申す=謙譲(言ふ)。隆家→隆家。
   【注】主体は話し手であるから、隆家が自分で自分に敬意を表していることになる。
  ・のたまへ=尊敬(言ふ)。作者→隆家。
 3)【法】助動詞「ぬ」「なり」の識別は。
  ・ぬ=打消の連体形。(連用形に接続)
  ・なり=断定の助動詞。(体言に接続)
 4)【語】「さらに〜打消」の意味は。
  ・全く〜ない。
 5)【法】「かばかり」の「の」の用法は。
  ・体言の代用。
  ・骨を指す。
 6)【語】「言高く」の意味と気持ちは。
  ・大きな声で言う。
  ・自慢している。
 7)【訳】
  ・(隆家が)「すべて素晴らしくございます。『全くまだ見たことがない骨の様子である』と人々が(私に)申します。本当にこれほどの骨は見当たりません。

8.「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」と聞こゆれば、
 1)【L2】誰の会話か。
  ・作者。
  【注】「聞こゆれ」に尊敬語がない。
 2)【法】「聞こゆれ」の敬語は。
  ・謙譲(言ふ)。作者→隆家。
 3)【法】「扇」「海月」の「の」の用法は。
  ・体言の代用。
  ・骨。
 4)【法】「ななり」の品詞分解は。
  ・な=断定の助動詞「なる」の連体形の無表記。
  ・なり=推定の助動詞の終止。
 5)【語】「さては」の意味は。
  ・それなら。
 6)【訳】
  ・(私が)「それなら、扇の骨ではなくて、くらげの骨でしょう」と、(隆家に)申し上げると
 7)【L3】この会話の意味は。
  ・隆家が見たことのない骨だと強調するので、クラゲの骨も誰も見たことがないので、こう言った。

9.「これ、隆家が言にしてむ。」とて笑ひ給ふ。
 1)【L1】誰の会話か。
  ・隆家。
 2)【法】「給ふ」の敬語は。
  ・尊敬。作者→隆家。
 3)【指】「これ」の指示内容は。
  ・「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」
 4)【訳】
  ・(隆家は)「これは隆家の言葉にしておこう」とお笑いになる。
 5)【L3】隆家が笑った気持ちは。
  ・一本とられたことを素直に認める。

10.かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。
 1)【指】「かやうのこと」の指示内容は。
  ・前の部分全体。
 2)【語】「かたはらいたし」の意味は。
  ・見苦しい。
 3)【法】助動詞「つ/べけれ」の意味は。
  ・つ=強意の助動詞。(推量の助動詞の上)
  ・べけれ=当然。
 4)【L2】誰の会話か。
  ・人々。
  【注】中宮の会話だと尊敬語があるはず。
 5)【語】「な〜そ」の意味は。
  ・禁止。
 6)【語】「いかがはせむ」の意味は。
  ・反語。
  ・どうしようか、いや、どうしようもない。
 7)【訳】
  ・このようなことは、見苦しいことの中に入れてしまうべきであるが、(人々が)
   「一つも書き漏らすな」と言うので、どうしようか、いやどうしようもない。
 8)【L4】この話を書いた作者の気持ちを考える。
  ・こんな一人の女房がでしゃばって中納言をやりこめると言う、自分の才能を誇示するような自慢話は、そばで見ていて見苦しいことの中に入れるべきだ。
  ・しかし、人々が「一つも書き落とすな」と言うので、どうしようもなく不本意ながら書いた。
  ・しかし、実は謙遜しているようで、自分の才能をひけらかして、自分の晴れがましさを誇示する結果になっている。
  ・清少納言が嫌われる理由でもある。


村上の御時


 中宮定子が女房たちに、村上天皇の御代の宣燿殿の女御について話している。
 「女御は、若い頃に、父の大臣から当時の女性としての教養について教えを受ける。第一に、習字を習うこと。第二に、琴を人よりうまく弾くこと。第三に、古今集を暗記すること。
 その教えを聞いた村上天皇は、うれしそうに古今集を持って女御の所へやって来て、几帳を間に置いて座る。女御が不思議に思っていると、村上天皇は「何月、何の折、誰それが詠んだ歌はな〜んだ?」と次々に出題してくる。女御はあれこれ思い出しながら答えている。中宮はそれを見て大変だろうと女御の心中を察する。村上天皇のテストはさらにエスカレートする。和歌に詳しい人を呼び出し、碁石を出して女御が間違えた数を置かせようと無理強いする。そんな様子も中宮は憧れの気持ちで話す。女御もさすがで、下の句まで完璧に答えられるのだが、答えてしまうといかにも利口ぶった嫌な女だと思われると思って、ところどころぼかしながらも間違いなく答える。村上天皇は、何とかして間違いを見つけてやろうと悔しく思って出題している内に、二十巻の半分の十巻までになってしまった。このまま続けても女御と間違わないだろうし無駄だと思いながらも、続きをしようと栞を挟んで、お休みになった。目覚めた後も、勝ち負けがはっきりしないまま辞めてしまうのは悔しい。それに下の十巻を明日出題すると、女御は他の本でカンニングするかもしれないので、今日中に決着を付けようと、夜中に灯明をつけてお読みになる。つきあう女御も大変である。しかし、ついに女御は負けなかった。
 女御は、村上天皇がやってきてこんなことがあったと、使者を通じて父の大臣に話した。大臣は大変心配なさって、寺に御誦経を依頼し、内裏の方に向かって一日中祈念なさったという。これも、風流で、しみじみとした趣があることです。」
 と中宮が女房にお話になっているのを、一条天皇もお聞きになり、感嘆なさった。
 当時の、女性の教養としての習字、琴、古今集など、遊戯化した知識と教養の世界、古今集をめぐって二日間に渡る村上天皇と宣燿殿の女御の間で繰り広げられるテストなどの王朝の日常生活の様子、娘を心配する父大臣の様子。すべてに対して中宮は、「めでたし」「をかし」「すきずきし」「あはれなり」の感性的な語によって無条件に賞賛している。
 当時の王朝での日常生活の様子を鑑賞すると同時に、訳では、繰り返される主語や目的語の異動、二方面敬語や自敬敬語や謙譲語から転用された尊敬語、使役・尊敬の助動詞「す・さす」の意味など、文法的に難しい所をクリアしていく。


1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.随想的章段であることを確認する。
3.音読する。

4.「村上の御時に、宣耀殿の女御と聞こえけるは、小一条の左の大臣殿の御女におはしけると、たれかは知り奉らざらむ。
 1)誰の会話であるかを確認する。
  ・中宮。
 2)八十二頁の系図で、村上天皇、宣耀殿の女御(藤原芳子)、小一条の左の大臣殿(藤原師尹の関係を確認する。
 3)敬語を確認する。
  ・聞こえ(謙譲「言ふ」中宮→女御)
  ・おはし(尊敬「あり」中宮→女御)
  ・知り+奉ら(謙譲の補助、中宮→女御)
 4)「たれかは知り奉らざらむ」の係り結びと訳に注意する。
  ・か(反語)→む(推量)
  ・誰が知らないだろうか、いやみんな知っている。

5.まだ姫君と聞こえける時、父大臣の教へ聞こえ給ひけることは、『一つには御手を習ひ給へ。次には琴の御琴を、人よりことに弾きまさらむとおぼせ。さては古今の歌二十巻をみなうかべさせ給ふを御学問にはせさせ給へ。』となむ聞こえ給ひける、
 1)主語と目的語の変化に注意する。
  1)誰が「まだ姫君と聞こえける」のか。
   ・女御が
  2)父大臣が誰に「教え」たのか。
   ・女御に
 2)敬語を確認する。
  ・聞こえ(謙譲「言ふ」中宮→女御)
  ・教え+聞こえ(謙譲の補助、中宮→女御)+給ひ(尊敬の補助、中宮→大臣)
  ・習ひ+給へ(尊敬の補助、大臣→女御)
  ・おぼせ=尊敬(思ふ)大臣→女御
  ・浮かべ+させ(尊敬の助動詞)+給ふ(尊敬の補助、大臣→女御)
  ・せ+させ(尊敬の助動詞)+給へ(尊敬の補助、大臣→女御)
  ・聞こえ(謙譲「言ふ」中宮→女御)+給ひ(尊敬の補助、中宮→大臣)
  ★「聞こゆ」が本動詞(「言ふ」の謙譲語)でもあり、謙譲の補助動詞でもあることに注意する。
  ★大臣の会話文中の敬語の主体は大臣である。
 3)当時の女性の教養について説明する。
  ・男性の場合は、漢学。
  ・女性の場合は、習字、琴、和歌。

6.と聞こしめしおきて、御物忌みなりける日、古今を持てわたらせ給ひて、御几帳を引き隔てさせ給ひければ、女御、例ならずあやし、とおぼしけるに、草子を広げさせ給ひて、
 1)主語と目的語の変化に注意する。
  1)「聞こしめしおき」たのは誰かを考える。
   ・村上天皇が
   ★突然、村上天皇が登場するので注意する。
  2)何をしにやって来たのかを考える。
   ・父大臣が娘の女御に古今集を暗記しなさいと言ったのを聞きつけて、女御のところへやって来た。
  3)「女御」の主語はどこまでで、どこから誰が主語になるか。
   ・女御→〜とおぼしけるに、
   ・(村上天皇)→草子を広げさせ給ひて
 2)敬語を確認する。
  ・聞こしめし(尊敬「聞く」→村上)
  ・わたら+せ(尊敬の助動詞→村上)+給ひ(尊敬の補助→村上)
  ・隔て+させ(尊敬の助動詞→村上)+給ひ(尊敬の補助→村上)
  ・おぼし(尊敬「思ふ」→女御)
  ・広げ+させ(尊敬の助動詞→村上)+給ひ(尊敬の補助→村上)
  ★村上天皇には二重尊敬が使ってある。
 3)几帳を引き隔てた理由を考える。
  ・間に立てて草子を見せないようにした。
  ・古今集のテストをするつもりである。
  
.『その月、何の折、その人の詠みたる歌はいかに。』と問ひ聞こえさせ給ふを、かうなりけり、と心得給ふもをかしきものの、ひが覚えをもし、忘れたるところもあらばい みじかるべきこと、とわりなうおぼし乱れぬべし。
 1)『その月、何の折、その人の詠みたる歌はいかに。』とは何を問うているのか考える。
  ・いつ、どういう時という詞書
  ・その人が詠いだという作者。
 2)主語の変化に注意する。
  1)「問ひ聞こえさせ給ふ」の主語を考える。
   ・村上天皇
  2)その後の主語の変化を考える。
   ・(女御が)→かうなりけり〜
 3)敬語を確認する。
  ・問ひ+聞こえ(謙譲「言ふ」→女御)+させ(尊敬の助動詞→村上)+給ふ(尊敬の補助→村上)
 4)中宮の心中語を確認する。
  ・「かうなりけり」
  ・「ひが覚えもし「いみじかるべきこと」
 5)「かうなりけり」について
  1)助動詞「けり」を意味を考える。
   ・詠嘆
   ★ここでは女御の心中語であるので詠嘆の意味になる。
  2)「こうだったのだなぁ」とは、何に対してどういうことに気づいたのかを考える。
   ・村上天皇が古今集を持ってきて、几帳で間を隔てたことに対して、古今集のテストをするつもりであることに気づいた。
   ★村上天皇が来て、几帳を隔てた時に、女御は「例ならずあやし」と思っていた。
 6)「をかしきものの」と感じたのは、話し手の中宮であることを確認する。
 7)「わりなうおぼし乱れぬべし」が中宮が女御の心中を推測している事を確認する。
 8)女御の気持ちを考える。
  ・いきなりテストをされて、間違ったり、忘れたりしたら大変だという、割り切れない気持ち。

8.そのかたにおぼめかしからぬ人、二、三人ばかり召し出でて、碁石して数置かせ給ふとて、強ひ聞こえさせ給ひけむほどなど、いかにめでたうをかしかりけむ。御前にさぶ らひけむ人さへこそうらやましけれ。
 1)「そのかたにおぼめかしからぬ人」について
  1)「そのかた」とはどの方面か。
   ・和歌。
  2)「おぼめかしからぬ人」とはどんな人か。
   ・ぼんやりしていない人。記憶が不確かでない人。
   ・古今集を完全に暗記している人。
  3)この人たちに何をさせようとしたのか。
   ・女御の解答が正しいかどうかを判定させるため。
 2)「召しいでて」の主語を確認する。
  ・村上天皇。
 3)「碁石して数置かせ給ふ」について
  1)碁石は何に使うのかを考える。
   ・女御が間違った数を数える。
  2)主語が村上帝から変わっていないことを確認する。
  3)助動詞「せ」が尊敬の場合と使役の場合を訳して比べてみる。
   ・尊敬=(村上帝が)碁石で間違った数をお置きになる。
   ・使役=(村上帝が)碁石で間違った数を(女御に)お置かせになる。
    ★碁石を置くのは村上帝ではなく、間違った女御である。だから、使役である。
 4)敬語を確認する。
  ・置か+せ+給ふ(尊敬の補助→村上)
  ・強い+聞こえ(謙譲の補助→女御)+させ(尊敬の助動詞→村上)+給ひ(尊敬の補助→村上)
  ★(村上帝が)(女御に)無理強い申し上げなさる。
  ・さぶらふ(謙譲「をり」→村上)
 5)その後の主語の変化を考える。
  ・「いかにめでたう」からは、中宮の感想である。
 6)中宮の感想を考える。
  ・村上帝と女御が古今集のテストをしている状況に対して、「めでたうをかしかりけむ」と賞賛の感想を挿入している。
  ・添加の副助詞「さへ」で、村上帝や女御だけでなく、お傍に仕えていたひとさえも、
   「うらやまし」と思っている。

9.せめて申させ給へば、さかしう、やがて末まではあらねども、すべて、つゆたがふことなかりけり。
 1)「せめて申させ給へば」について
  1)主語を確認する。
   ・村上帝。
  2)助動詞「せ」が尊敬の場合と使役の場合を訳して比べてみる。
   ・尊敬=(村上帝が)無理に(女御に)申し上げになる。
    ★村上帝が女御に申し上げることはないのでおかしい。
   ・使役=(村上帝が)無理に(女御に)申し上げさせになる。
    ★女御が村上帝に答えを申し上げるということを、村上帝は女御にさせた。
  3)敬語を確認する。
   ・申さ(謙譲「言ふ」→村上)+せ+給へ(尊敬の補助→村上)
   ★どちらの敬意も村上帝に対するものである。
 2)その後の主語について考える。
  ・女御
 3)女御の返答ぶりについて考える。
  ・下の句までスラスラと答えてしまうと賢さを強調しているようで嫌味になるので、わざとつまりながらも、間違ってはいけないので正確に答えている。
  ・女御の奥ゆかしさと、聡明さを表現している。

10.いかでなほ少しひがごと見つけてをやまむ、とねたきまでにおぼしめしけるに、十巻にもなりぬ。
 1)主語を確認する。
  ・村上天皇
 2)間投助詞「を」を確認する。
  ・文中に用いられて強調の意味を表す。
 3)敬語を確認する。
  ・おぼしめし(尊敬「思ふ」→村上)
 4)村上天皇の心中語を確認する。
  ・「いかでなほ〜やまむ」
 5)村上天皇の気持ちを考える。
  ・間違いを期待して意地悪をするつもりが当てがはずれて、ムキになっている。
  ・古今集二十巻の半分の十巻まで出題した。

11.さらに不用なりけりとて、御草子に夾算さして大殿籠りぬるもまためでたしかし。
 1)村上天皇き心中語を確認する。
  ・「さらに不用なりけり」
 2)「さらに」の意味を確認する。
  ・下に打消語を伴って、「全く〜」の意味。
  ・ここでは、「不用」が打消語になる。
 3)助動詞「けり」の意味に注意する。
  ・過去ではなく、詠嘆。
  ・村上天皇の心中語として用いられている。
 4)「夾算」の意味を確認する。
  ・しおり。
 5)敬語を確認する。
  ・大殿籠り(尊敬「寝」→村上)
 6終助詞「かし」の意味を確認する。
  ・念を押す。
 7)草子に夾算をさした理由を考える。
  ・明日に続きをしようとして印を入れた。
 8)このことに対しても中宮は「めでたし」と賞賛していることを確認する。

12.いと久しうありて起きさせ給へるに、なほこの事、勝ち負けなくてやませ給はむ、いとわろしとて、下の十巻を、明日にならば、異をぞ見給ひ合はするとて、今日定めてむと、大殿油まゐりて、夜ふくるまで読ませ給ひける。
 1)「この事」の指示内容を考える。
  ・古今集のテスト。
 2)「給はむ」の助動詞「む」の意味を考える。
  ・意志や推量では、「いとわろし」につながらない。
  ・下に「こと」が省略されているとして婉曲にすると、「おやめになるようなこと」は「大変よくない」となり意味が通じる。
 3)「異」の意味を確認する。
  ・古今集の別の本。
  ・女御がカンニングのために読む。
 4)「大殿油まゐり」の意味に注意する。
  ・「大殿油」は寝殿用の灯火。
  ・「まゐり」は「用ふ」の尊敬語。
 5)主語を確認する。
  1)はじめの主語は前の続きで村上天皇であることを確認する。
  2)その後の主語の変化を考える。
   ・(女御が)→下の十巻〜
   ・(村上天皇が)→今日さだめてむ〜
  3)「読ませ給ふ」の主語を考える。
   ・村上天皇。
   ・出題するために古今集を読む。
 6)村上天皇の心中語を考える。
  ・「なほこの事〜いとわろし」
  ・「下の十巻〜見給ひ合はする」
  ・「今日定めてむ」
 7)敬語を確認する。
  ・起き+させ(尊敬の助動詞→村上)+給へ(尊敬の補助→村上)
  ・やま+せ(尊敬の助動詞→村上)+給は(尊敬の補助→村上)
   ★村上天皇の心中語だが、中宮が語っているので二重尊敬になっている。
  ・大殿籠り(尊敬「寝」→村上)
  ・見+給ひ(尊敬の補助→女御)
  ・まゐり(尊敬「用ゐる」→村上)
  ・読ま+せ(尊敬の助動詞→村上)+給ひ(尊敬の補助→村上)
 8)今日の内に続きをしようと思った理由を考える。
  ・明日まで待つと、女御が他の古今集を見てカンニングすると思ったから。
  ・女御はそんな姑息な手段をとるはずがない。
  ・たんなる悪戯から始まったことが、ムキになっている。

13.されど、つひに負け聞こえさせ給はずなりにけり。
 1)主語を確認する。
  ・女御。
 2)敬語を確認する。
  ・負け+聞こえ(謙譲の補助→村上)+させ(尊敬の助動詞→女御)+給は(尊敬の補助→女御)

14.上渡らせ給ひて、かかる事など、殿に申しに奉られたりければ、
 1)「上」「殿」とは誰かを確認する。
  ・上=村上天皇。
  ・殿=父大臣。
 2)「かかる事」の指示内容を考える。
  ・村上天皇が女御に古今集のテストをしていること。
 3)主語の変化を考える。
  ・(村上天皇が)→上渡らせ給ひて、かかる事
  ・(女御が)→殿に申し奉られたりければ、
 4)敬語を確認する。
  ・渡ら+せ(尊敬の助動詞→村上)+給ひ(尊敬の補助→村上)
  ・申し(謙譲「言ふ」→大臣)+に+奉ら(謙譲「与ふ」→大臣)+れ(尊敬の助動詞→女御)

15.いみじうおぼし騒ぎて、御誦経などあまたせさせ給ひて、そなたに向きてなむ念じ暮らし給ひける。すきずきしうあはれなることなり。」
 1)主語を確認する。
  ・大臣
 2)誦経の説明をする。
  ・寺に依頼して読経させること。依頼を受けた僧は、読んだ経の名や回数を記した目録を依頼主に送り届ける。
 3)「そなた」とはどこかを考える。
  ・内裏。娘がいる。
 4)「念じ暮らす」の意味を確認する。
  ・終日祈念する。
 5)敬語を確認する。
  ・おぼし(尊敬「思ふ」→大臣)
  ・せ+させ(使役の助動詞)+給ひ(尊敬の補助→大臣)
   ★大臣が寺に誦経をさせる。
 6)父の大臣の気持ちを考える。
  ・娘が村上天皇からテストされていると知り、何とか答えてほしいと神頼みしている。
  ・教育パパぶりを発揮している。
 7)中宮の感想を確認する。
  ・すきずきしうあはれなり。
  ・すきずきし=物事に深く執着する状態。いかにも物好きだ。村上天皇や大臣に対しての感想。
  ・あはれなり=しみじみとして素晴らしい。女御が古今集を全部覚えていたことに対する。

16.など語り出でさせ給ふを、上も聞こしめし、めでさせ給ふ。
 1)「上」とは誰かを確認する。
  ・一条天皇。
  ★中宮の話が終わり、時間が話している時に戻っている。
 2)主語の変化に注意する。
  ・(中宮が)→語り出でさせ給ふ
  ・(一条天皇が)→聞こしめし、めでさせ給ふ。
 3)敬語を確認する。
  ・語り出で+させ(尊敬の助動詞、作者→中宮)+給ふ(尊敬の補助、作者→中宮)  ・聞こしめし(尊敬「聞く」、作者→一条)
  ・めで+させ(尊敬の助動詞、作者→一条)+給ふ(尊敬の補助、作者→一条)


この草子


 枕草子の成立の経緯と流布の経緯が書いてある。
 枕草子は、作者が里帰りした時に見たことや思ったことを、人に見せないつもりで書いたものである。言い過ぎたこともあり見られると支障があるので隠しておいたのに流出してしまった。
 当時貴重品であった紙を伊周が中宮に差し上げたのを、中宮が「帝は『史記』を書き写したが何を書いたらいいか」と作者に相談したのに対して、「枕」がいいでしょうと言ったので、中宮が下さった。枕とは、身近にあっていつもメモするためのもの、歌枕を集めたもの、書籍を枕にするという意味、「史記」の音合わせで「敷物」に対する枕、馬具の敷褥(しき)の上に馬鞍を置くことから「史記」の上を行くものの意味などが考えられる。しかし、いずれにしても大したことはないのに、貴重な紙を下さったのはわからない。作者の文才を認めていたからであろうか。その紙に、作者はあれこれつまらないことを書き綴った。
 風流なものや人が素晴らしいと思うものなどを書いたならば、わざとらしいと非難されるだろうが、思いついたことをふざけて書いたので、評判も聞くことがないと思っていたのに、「立派だ」と言うってくれるへそ曲がりも居るのは変な感じがする。と謙遜しているようで、自慢たらたらな様子は、作者特有の厭らしさである。
 経房が尋ねてきた時、私がうっかり畳の上に置いて出してしまったのを、経房が持ち出して世の中に広めてしまった。と、擬人法を使って、いかにも書物に意志があって動くように書いて、自分のせいではないことを強調すればするほど、わざとらしさが見え見えである。


1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.教師が音読する。
3.登場人物を考える。
 ・宮の御前(中宮)、内の大臣(伊周)、上の御前(帝)、左中将(源経房)、作者

4.この草子、目に見え心に思ふことを、人やは見むとする、と思ひて、つれづれなる里居のほどに、書き集めたるを、
 
1)「この草子」とは。
  2)「人やは見むとする」の単語分解、係り結びと反語の訳。
  3)「里居」の意味。
   ・女房は月に一度は実家に帰った。
  4)「目に見え心に思ふことを」がどこにかかるか。
   ・書き集めたる

5.あいなう、人のためにびんなき言ひ過ぐしもしつべきところどころもあれば、よう隠し置きたりと思ひしを、心よりほかにこそ漏り出でにけれ。
 1)「あいなう」の音便。
 2)「言ひ過ぐしもしつべき」の単語分解と助動詞の意味。
 3)「あれば」「思ひしを」の接続助詞の意味。
  ・を=ヌ単純接続。ネ順接確定。ノ逆接確定。
 4)「心より外にこそ漏り出でにけれ」の係り結び。
 5)「あいなう」はどこにかかるか。
  ・言ひ過ぐしもしつべき

6.宮の御前に、内の大臣の奉りたまへりけるを、「これに何を書かまし、上の御前には、『史記』といふ文をなむ書かせたまへる。」などのたまはせしを、
 1)主語と目的語をはっきりさせる。
 2)「奉りたまへりけるを」の単語分解と敬語、「ける」の後の省略。
  ・会話の主を考える。
 3)「書かまし」の助動詞の意味。
 4)「文をなむ書かせたまへる」の敬語と係り結び。

7.「枕にこそははべらめ。」と申ししかば、「さは、得てよ。」とて給はせたりしを、
 
1)「枕にこそはべらめ」の敬語と係り結び。
  ・会話の主を考える。
 2)「枕」の説明。
  ・身近にあっていつもメモするためのもの
  ・歌枕を集めたもの
  ・書籍を枕にするという意味
  ・「史記」の音合わせで「敷物」に対する枕
  ・馬具の敷褥(しき)の上に馬鞍を置くことから「史記」の上を行くもの
 3)「申ししかば」「給はせたりしを」の接続助詞の意味。
 4)「得てよ」の品詞分解。

8.あやしきを、こよや何やと、尽きせず多かる紙を書き尽くさむとせしに、いとものおぼえぬことぞ多かるや。
 1)「こよや何や」の間投助詞。
  ヌ会話文や和歌の中で用いられて、詠嘆。
  ネ俳句の切れ字で、余韻。
  ノ人物を表す語について、呼びかけ。
  ハ物事を並列する。
 2)「書き尽くさむとせしに」の単語分解、助動詞と接続助詞。
 3)「おぼえぬことぞ多かるや」の助動詞と係り結びと間投助詞。
 4)「あやしきを」はどこにかかるか。
  ・書き尽くさむとせしに
 
9.おほかた、これは、世の中にをかしきこと、人のめでたしなど思ふべき名を選り出でて、歌などをも木・草・鳥・虫をも言ひ出だしたらばこそ、「思ふほどよりはわろし、 心見えなり。」とそしられめ、
 1)「思ふべき」の助動詞。
 2)「言ひ出だしたらばこそ〜そしられめ」の接続助詞と係り結びと助動詞。
  ・ここは順接仮定条件
  ・結びは「そしられめ」で下に読点があるので逆接。 
 3)並列の語句は。
  ・「世の中にをかしきこと」と「人のめでたしなど思ふべき名」
  ・「歌など」と「木・草・鳥・虫」
 4)「思ふほどよりはわろし」と評される理由は。
  ・わざとらしさが露骨だから。

10.ただ心一つに、おのづから思ふことを、たはぶれに書きつけたれば、ものに立ち交じり、人並々なるべき耳をも聞くべきものかは、と思ひしに、
 1)「書きつけたれば」「思ひしに」の接続助詞。
 2)「もの」とは何か。
  ・他の作品。
 3)「人並々なるべき耳をも聞くべきものかは」の「べき」の意味と係り結びと反語。
  ・一つ目は当然で、二つ目は可能(下に打ち消し語がある)。
  ・「あらむ」が省略されている。

11.「恥づかしき。」なんどもぞ見る人はしたまふなれば、いとあやしうぞあるや。
 1)「恥づかし」の意味。
  ・(相手との才能や身分などの大きな隔たりを意識して、こちらが気後れがするよう   な気持ちになるほど相手がすぐれているの意味)優れている。立派だ。
 2)「見る人はしたまふなれば」の単語分解、敬語と助動詞(伝聞)と接続助詞。
 3)「いとあやしうぞあるや」の音便と係り結びと間投助詞。
 4)「いとあやし」の理由は。
  ・いい加減に書いたと思っているのに、人々がほめるのは不思議な思いがする。

12.げにそも理、人の憎むをよしといひ、褒むるをも悪しといふ人は、心のほどこそ推し量らるれ。ただ人に見えけむぞねたき。
 1)「そ」の指示内容。
  ・「恥づかしき。」なんどもぞ見る人はしたまふ
 2)「心のほどこそ推し量らるれ」の単語分解、係り結びと助動詞(自発)。
 3)「見えけむぞねたき」の助動詞(婉曲)と係り結び。

13.左中将、まだ伊勢守と聞こえしとき、里におはしたりしに、端の方なりし畳を差し出でしものは、この草子乗りて出でにけり。
 1)主語に注意する。
 2)状況を説明する。
  ・男性が女性の所を尋ねるとき、御簾を挟んで話を交わす。
  ・「畳」は現在の敷き詰めたものでなく、上敷のようなもの。
 3)「聞こえ」「おはし」の敬語
 4)「端の方なりし」の助動詞(存在)。
 5)過去の助動詞の使い方。
  ・直接過去の「き」が使われている中で、「出でにけり」だけが伝聞過去になっている。

14.惑ひ取り入れしかど、やがて持ておはして、いと久しくありてぞ返りたりし。それよりありき初めたるなめり、とぞ本に。
 1)「もておはして」の敬語。
 2)「ありてぞ返りたりし」の係り結び。
 3)「なめり」の助動詞。
 4)「とぞほんに」の省略、意図。
  ・「ある」
  ・読者を意識した筆者の責任回避の発想で、当時の結尾形式の一つ。
 5)「この草子乗りて出でにけり」「ありき初めたる」と擬人法を使っている理由。
  ・作者の意図でなく、草子が自然に流出したことを表現する。

15.作者が「枕草子」を書いた経緯をまとめる。
 ・中宮から紙をもらったので、里に居る間に、心に思ったことをふざけて書いた。
16.「枕草子」が広まる経緯をまとめる。
 ・作者が誤って見せたのを経房が持ち出した。
17.流布したことが自分の責任でないような書き方をした理由は。
 ・第一に見ていただくはずの中宮を差し置いて、世の中で読まれたから。
 ・畳の上にうっかり置いておいたのを差し出したのは不自然である。
 ・わざと経房に渡して世の中に広めようとしたのを隠そうとした。
 ・わざとらしいものは非難されると書くことによって、自分のしていることはそうでは  ないと言おうとしている。


うれしきもの


 清少納言の挙げる「うれしきもの」の類聚章段。全部で十六個ある。
1)第一巻を見て、読みたかった続きを見つけ出したこと。ただ、読んでがっかりすること もある。
2)人が破り捨てた手紙の続きを見つけたこと。(悪趣味である。)
3)夢の意味を恐れていたが、たいしたことがないと夢判断してくれたこと。(当時は、夢 が大きな意味を持っていた。)
4)中宮が、私の方を見ながら話をされること。(自意識過剰。)
5)大切に思っている人の病気が治ったと聞くこと。
6)大切に思う人が、褒められること。
7)ちょっとした機会に作った和歌が撰集に選ばれたこと。体験談ではない。
8)余り親しくない人が言った和歌や漢詩を他の人も言ったこと。後で書物などで出典を見つけると更にうれしい。親しくなかった人が素晴らしく感じる。
9)良い紙を手に入れた時。(当時は紙は貴重品だった。)
10)立派な人に和歌の上や下の句を聞かれて、ふと思い出して答えたこと。いつも覚えてい る和歌でも、咄嗟に聞かれるとど忘れすることが多いのに。
11)急用で探していたものが見つかること。
12)物合わせ等の勝負事に勝ったこと。
13)自慢している人をだましたこと。女の人より男の人 をだました方がうれしい。相手が 仕返しをしようと狙っているのも面白いし、それをサ ラリといなすのもうれしい。
(勝負師だが、意地が悪そう。)
14)クリーニングに出していた着物が予想以上にきれいに仕上がったこと。
15)憎たらしい人がひどい目にあうのも、罰があたるかもしれないが、うれしい。
16)日頃症状がひどかった病気が治ったこと。大切な人の場合は自分のこと以上にうれしい。
17)中宮の前に多くの女房がいる中に遅れてきた私を御覧になって近くまで呼び入れてくだ さったこと。(自慢かい。)
 種類で分類すると、
A 文学的な興味。1)7)8)9)10)
B 大切な人のこと。5)6)16)
C 中宮の厚遇。4)17)
D 日常生活の事件。2)3)11)12)13)14)15)

インストラクショナル・デザイン
I 準備段階(誰に、何を、どこまで教えるか)
 1.課題分析
 類聚章段なので、一つ一つの事柄が単発で書かれている。ストーリーや人物関係を必要はないが、それらの事柄が「うれしきもの」という共通点でどのように括られているのか。作者の考える「うれしきもの」とは何かを理解する。
 短い部分の独立した読解が可能である。古語の意味を押さえて、助動詞の意味に注意して、古文常識を踏まえながら読解していく。少し敬語も出てくる。また、「の」の用法や係り結びにも留意する。しかし、助動詞の体系は頭に入っていないので、とりあえず出てきた助動詞の意味を確認し、授業の後で助動詞の総復習(総学習)をする。
 2.学び手分析
 学習意欲もそうであるが、文系と理数系では学力の差がある。理数系の中にも、元八組と七組では差がある。八組はかなり早いペースで鍛えられていたが、七組は差が激しくそれほどではない。文法について考えると、文と元七組は体系だって勉強できていないし、文については動詞も危うい。元八組は体系立てて学習している。
 3.目標行動
 1)しっかり音読する。
 2)古今異義語や多義語を古語辞典で調べる。
 3)助動詞の意味を理解する。助動詞の意味は一覧表で確認する。
 4)古語の意味と助動詞の意味を合わせて、訳を作り、内容を把握する。
 5)古文の常識を理解する。
 6)作者の「うれしきもの」を整理し、好みや性格を理解する。
 したがって、文はゆっくりと復習をしながら授業に入っていくことになる。もう一度、古文では何をどのように勉強すべきかを確認することから始める。
 理数では、三年時の授業も少ないので、二年時にかなり進めておかなければならない。導入からゆっくりやっているわけにはいかない。かといってスピードを上げると付いて来れない生徒もいる。ポイントを絞って、そこを徹底することが肝要である。そして、類題を家庭学習でさせて、量の補いをする。理系なので論理的な理解をさせていく。
 4.成功基準
 一年時の国語総合は現代文と古文で評価されたが、二年時からは古文単独になり、点数もとらなければならない。また、理数の生徒は受験にも必要である。文系の中にも必要になる生徒もいる。したがって、一年時の学習内容を思い起こすと同時に、古文では何を勉強すればいいのか、どんな力を付ければいいのかがわかるようにする。
II 開発段階(何を使って、どのように教え、どのように評価するのか)
 ・ノートに本文を写させて、横に訳を書かせる。
 ・学習プリントの読みを調べさせる。
 ・学習プリントの意味を調べさせる。
 ・助動詞の一覧表を配布する。


1.【指】学習プリントの点検をする。
2.【説】脚注で『更級日記』の概要を説明する。
 ・成立=九九五年。平安時代中期。
 ・ジャンル=随筆
 ・作者=清少納言
 ・内容=1)日記的章段
     2)随想的章段
     3)類聚的章段
2.自分の「うれしきもの」を問う。
 1)【L4】ノートに、自分にとって「うれしいもの」を5つ書き出させる。
 2)【W】ペアで交流する。
 3)【W】全体で発表させる。
3.【指】教師が音読し、漢字の読みを確認させる。
4.【W】ペアリーディングを2回させる。
5.【L1】「うれしきもの」はいくつあるか。
 ・十七個。
 ・形式段落の数を数える。
 ・但し、十二段落は「また」があるので二つにわかれる。
 ・第十六段落は一つ。

6.うれしきもの、まだ見物語の一を見て、「いみじうゆかし。」とのみ思ふが、残り見出でたる。さて、心劣りするやうもありかし
 1)【語】語句のチェックをする。
  ・ゆかし(異義語・形容詞)
    1)興味が持たれる。知りたい、見たい、聞きたい、読みたい。2)懐かしい。
  ・さて(異義語、接続詞)
    1)そこで。2)ところで。
 2)【法】文法事項のチェックをする。
  1)助動詞「ぬ」の識別。
   ・打消の助動詞の連体形。(完了の助動詞の可能性もある)
    ・「見」は上一段活用で未然、連用同形。
    ・「物語」に接続しているので連体形。
  2)終助詞「かし」の意味の確認。
   ・念押し。
 3)【訳】教師がする。
  ・うれしいもの。まだ見たことがない物語の第一巻を見て、「とても(続きが)読みたい」とばかり思っていたが、残りの部分を見つけ出したこと。そこで、。かえって失望するような事もあるのだ。
 4)【L4】似たような体験はないか。
  ・コミックの一巻を読んで、はまってしまった。
  ・何と言うコミックか。

7.人の破り捨てたる文を継ぎて見るに、同じ続きをあまたくだり見続けたる。
 1)【語】語句の意味をチェックする。
  ・文(異義語)
   1)文書。2)手紙。3)漢詩。4)学問。
 2)【訳】教師がする。
  ・人が破り捨てた手紙をつなぎ合わせて読む時、同じ(手紙の)続きをたくさんの行を読み続けたこと。
 3)【L4】この行為をどう思うか。
  ・平安時代は、現在の携帯電話のように、手紙が社交の常套手段であったので、このようなこともあったのだろう。
  ・それにしても、悪趣味である。

8.「いかならむ。」と思ふ夢を見て、「おそろし。」と胸つぶるるに、ことにもあらず合はせなしたる、いとうれし。
 1)【語】語句のチェックをする。
  ・合はす(多義語、異義語)
   1)合わせる。2)結婚させる。3)釣り合うようにする。4)比べる。5)(夢で)吉凶
   を判断する
 2)【訳】教師がする。
  ・「(夢の吉凶は)どうだろう」と思う夢を見て、「恐ろしい」と心配な時に、大したことはないと夢の吉凶を判断したことは、たいへんうれしい。
 3)【L4】正夢とかないか。
 4)【説】当時の夢について
  ・人々に大きな影響を持っていた。神の御告げのような価値があった。
  ・今でも、正夢とか、逆夢とか、初夢とか気にする。

9.よき人の御前に、人々あまたさぶらふ折、昔ありけることにもあれ、今聞こしめし、世に言ひけることにもあれ、語らせたまふを、我に御覧じ合はせてのたまはせたる、いとうれし。
 1)【語】語句のチェックをする。
  ・よし(多義語、異義語)
   1)優れている。2)美しい。3)身分が高い。4)裕福だ。5)上手だ。6)楽しい。7)ふさ   わしい。8)親しい。9)便利だ。10)適切だ。11)十分だ。
   【注】何が良いのか?を考える。
  ・さぶらふ(特有語。敬語)
   (謙譲)1)お仕え申し上げる。2)参上する。(丁寧)3)あります。4)〜ます。
  ・聞こしめす(特有語。敬語)
   (尊敬)1)お聞きになる。2)お聞き入れになる。3)召し上がる。4)お治めになる。
  ・たまふ(特有語。敬語)
   (尊敬)1)お与えになる。2)お寄越しになる。3)お〜になる。(謙譲)4)いただく。
   5)〜させていただく。
  ・御覧ず(敬語)
   (尊敬)1)御覧になる。(見る)
  ・のたまはす(特有語。敬語)
   (尊敬)1)おっしゃる。(言う)
 2)【訳】生徒がする。
  ・身分が高い人(中宮)の御前に、人々(女房)が多くお仕え申し上げている時に、昔あったということや、いまお聞きになり、世の中で話題になったことなど、(中宮が)お話しになるのを、私の方を御覧になっておっしゃっているのは、たいへんうれしい。
  1)【L1】「身分が高い人」とは誰か。
   ・中宮。
  2)【L3】「人々」とは誰か。
   ・女房。
  3)【L2】「語らせたまふ」の主語は誰か。
   ・中宮。
 3)【説】中宮について。
  ・天皇の第一位の妻。ここでは、藤原の定子。
 4)【L4】中宮は本当に私の方を見て話したのか?
  ・確かに、中宮定子は清少納言を可愛がっていた。
  ・しかし、清少納言の自意識過剰、自信過剰の面もある。


10.遠き所はさらなり、同じ都のうちながらも隔たりて、身にやむごとなく思ふ人のなやを聞きて、「いかにいかに。」と、おぼつかなきことを嘆くに、おこたりたる由、 聞くも、いとうれし。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・さらなり(特有語)
   1)いまさらいうのもおかしい。2)言うまでもない。
  ・やむごとなし(特有語)
   1)やむをえない。2)並々でない。3)高貴である。4)貴重な
  ・なやむ(異義語)
   1)困る。2)病気になる。3)思い悩む。4)非難する。
   【注】精神面ではなく身体面である。
  ・おぼつかなし(多義語)
   1)はっきりしない。2)疑わしい。3)気にかかる。4)頼りない。5)待ち遠しい。6)ごぶさたしている。
  ・おこたる(異義語)
   1)怠ける。2)うっかりする。3)病気がよくなる。4)過失を犯す。
  ・消息(異義語)
   1)便り。2)訪問すること。
 2)【訳】教師がする。
・遠い所は言うまでもないが£同じ都の中でも離れて住み、自分にとって貴重だと思う人が病気になったと聞いて、どうなるかと、はっきりしないことを嘆いていると、病気がよくなったと、便りを聞くのも、たいへんうれしい。

11.思ふ人、人にほめられやむごとなき人など口惜しからぬ者におぼしのたまふ。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・やむごとなし(10を参照。意味が違う)
  ・口惜し
   1)残念だ。2)つまらない。3)情けない。
   ・ここでは打消あるので、つまらなくない人物=なかなかの人物。
  ・おぼす(敬語)
   (尊敬)1)お思いになる。
 2)【法】文法事項をチェックする。
  1)格助詞「の」の用法の識別。
   a)主格。〜が。
   b)連体格。〜の。
   c)同格。〜で。
   d)準体格。〜のもの。
   e)比喩。〜のような。
  2)「る」の意味の識別。
   a)受身 b)尊敬 c)可能 d)自発
  3)助動詞「ぬ」の識別。
   ・打消。
 3)【訳】教師がする。
  ・大切に思う人が、人に褒められ、身分の高い人などが、(彼を)なかなかの人物で あるとお思いになりおっしゃること。
  1)【L2】誰が誰を「口惜しからぬ者」と思うのか。
   ・やむごとなき人が、思う人を。


12.ものの折、もしは、人と言ひかはしたる歌の聞こえて、打ち聞きなどに書き入れらる。自らの上にはまだ知らことなれど、なほ思ひやるよ。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・聞こゆ(多義語、異義語)
   1)聞こえる。2)評判になる。3)理解できる。4)申し上げる。5)お願い申し上げる。
   6)差し上げる。7)お〜申し上げる。
  ・打ち聞き(常識)
   1)和歌や逸話などを聞いたまま書き留めた文書。
  ・なほ(異義語)
   1)それでもやはり。2)何と言っても。3)同じく。4)さらに。
 2)【法】文法事項をチェックする。
  1)助動詞「らるる」の意味の識別。
   ・受身。
  2)助動詞「ぬ」の識別。
   ・打消。
 3)【訳】教師がする。
   ・何かの折に、あるいは、人と詠み交わした歌が評判になり、打ち聞きなどに書きいれられること。自分自身の経験としてはまだ知らないことだが、それでもやは    り(うれしいだろうと)思いやられる。


13.いたううちとけ言ひたる古き言の、知らを聞き出でたるもうれし。後に物の 中などにて見出でたるは、ただをかしう、「これにこそありけれ。」と、かの言ひたり し人ぞをかしき。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・古き言(常識)
   1)昔の和歌や漢詩。
 2)【法】文法事項をチェックする。
  1)助動詞「ぬ」の識別。
   ・打消。
  2)格助詞「の」の用法の識別。
   ・主格、同格。
  3)係助詞「こそ」の結びの確認と、助動詞「けり」の意味の識別。
   ・「けれ」は詠嘆の助動詞「けり」の已然形。
  4)係助詞「ぞ」の結びの確認。
   ・形容詞「をかし」の連体形。
 3)【訳】生徒がする。
  ・あまり親しくない人が言った昔の和歌や漢詩で、知らないのを聞き出したこともうれしい。後に書物の中などで見つけた時は、ただ愉快で、「これなんだなぁ」と、あの言った人が素晴らしく思われる。
 4)【L2】「かの言ひたりし人」とは誰か。
  ・いたううちとけぬ人。
 5)【L4】現代ではどんな当てはまるか。
  ・音楽で、耳には残っているが、曲名がわからない。

14.みちのくに紙、ただも、よき得たる。
 1)【法】「の」の用法。
  ・準体言。
 2)【訳】教師がする。
  ・みちのくに紙や、普通の紙でも、よい紙を手に入れたこと。
  1)【L1】「よき」の後に何が省略されているか。

15.はづかしき人の、歌の本末問ひたるに、ふとおぼえたる、我ながらうれし。常におぼたることも、また人の問ふに、清う忘れてやみぬる折ぞ多かる。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・はずかし(異義語)
   1)気後れする。2)(こちらが気後れするほど)立派な。
  ・おぼゆ(多義語)
   1)(自然に)思われる。2)思い出される。3)わかる。4)似る。5)(人に)思われる。
   6)思い出す。7)覚える。
 2)【訳】教師がする。
・立派な人が、歌の上の句や下の句を尋ねた時に、ふと思い出したのは、我ながらうれしい。いつも覚えていることでも、また人が尋ねた時に、きれいさっぱり忘れて終わってしまうことも多い。

16.とみにて求むる物見出でたる。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・とみ(異義語)
   1)急である。
 2)【訳】教師がする。
  ・急用で探していたものを見つけ出したこと。

17.物合はせ、なにくれと挑むことに勝ちたる、いかでかはうれしからざらむ。また、「我は。」など思ひてしたり顔なる人謀り得たる。女どちよりも、男はまさりてうれし。 「これがは必ずせと思ふらむ。」と、常に心づかひせらるるもをかしきに、いと れなく、なにとも思ひたらさまにてたゆめ過ぐすも、またをかし。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・したり顔(特有語)
   1)得意顔。
  ・どち(特有語)
   1)仲間。2)〜同士。
  ・答(多義語)
   1)返事。2)仕返し。
  ・つれなし(特有語)
   1)さりげない。2)薄情だ。3)情けない。4)何の変化もない。
  ・たゆむ(異義語)
   1)気が緩む。2)弱まる。3)手を抜く。4)油断させる。
 2)【法】文法事項をチェックする。
  1)助動詞「ざら」の意味の確認。
  2)推量の助動詞「む」「らむ」の意味の識別。
   ・「む」は意志。
   ・「らむ」は2つとも推量。
  3)受身の助動詞「る」「らる」の識別。
 3)【訳】生徒がする。
  ・物合わせや、何や彼やと勝負することに勝ったことは、どうしてうれしくないだろうか、いやうれしい。また、「我こそは(すばらしい)」と思って得意顔をしている人をだましたこと。女同士よりも、男の場合は、さらにうれしい。「この仕返しは、必ずしようと思っているのだろう」と、いつも心遣いが自然とされるのも面白いし、まったく知らない様子で、油断させてやりすごすのも面白い。
  1)【説】「物合はせ」の説明をする。
  2)【L2】「いかにうれしざらむ」の訳に注意する。
   ・反語+打消
  3)【L2】「我は」の後に省略されている語句は。
   ・すばらしい。
  4)【L1】「したり顔なる人」の後に省略されている助詞は。
   ・を
 4)【説】「したり顔なる人」のだまされた反応の複雑さに注意する。
  ・いつも仕返しをしようとしている人。
  ・だまされたことを気取らせずに油断させる人。
 5)【L2】内容によって2つに分ける。
 6)【L4】このような作者の性格をどう思うか。
  ・負けず嫌いで、男に対する対抗意識が強い。
  ・今で言う、キャリアウーマン。
18.にくき者の悪しき目見るも、「罪らむ。」と思ひながら、またうれし。
 1)【法】文法事項をチェックする。
  1)「や」の意味と結びは。
   ・疑問。らむ(推量、連体形)
 2)【訳】教師がする。
  ・憎らしい人がひどい目にあうのも、「罰が当たるだろうか」と思いながら、やはりうれしい。
  1)【L1】「罪や得らむ」は誰が罰が当たるのか。
   ・私。

19.ものの折に衣うたにやりて、「いかならむ。」と思ふに、清らにて得たる。
 1)【法】文法事項をチェックする。
  1)「す」の意味の識別。
   ・使役
 2)【訳】教師がする。
  ・何かの折に、衣を砧で打たせて、「(仕上がりは)どうだろう」と思っていたところ、美しくなったこと。
  1)【説】衣を砧で打つの説明をする。

20.日ごろ、月ごろ、しるきことありて、なやみわたるが、おこたりぬるもうれし。思ふ人の上は、わが身よりもまさりてうれし。
 1)【語】語句をチェックする。
  ・日ごろ(異義語)
   1)数日の間。2)普段。3)ここ数日。
  ・しるし(異義語)
   1)はっきりしている。2)予想通りだ。
  ・なやむ(多義語。異義語)
   1)困る。2)病気になる。3)思い悩む。4)非難する。
  ・おこたる(多義語。異義語)
   1)怠ける。2)うっかりする。3)病気が良くなる。4)過失を犯す。
 2)【訳】教師がする。
  ・何日も、何カ月も、はっきりした症状があって、病気が続いていたが、治ったのもうれしい。大切に思っている人の場合は、自分のことよりもうれしい。

21.御前に人々所もなくゐたるに、今のぼりたるは、すこし遠き柱もとなどにゐたるを、とく御覧じつけて、「こち。」と仰せらるれば、道あけて、いと近う召し入れられたるこそうれしけれ。
 1)【語】語句のチェックをする。
  ・とし(異義語)
   1)(速度が)速い。2)(時期が)早い。3)(風などが)激しい。
  ・御覧ず(敬語)
   1)御覧になる(「見る」の尊敬語)
  ・仰す(敬語)
   1)おっしゃる(「言ふ」の尊敬語)、2)命じる。
 2)【法】文法事項のチェックをする。
  1)助動詞「る」「らる」の意味の識別。
 3)【訳】生徒がする。
  ・(中宮)の御前に、女房たちが隙間もなく座っている時に、今参上した者(私)が、少し離れた柱の元などに座っていたのを、(中宮が)御覧になって、「こちらへ」とおっしゃるので、(女房が)道を開けて、(私が)たいへん近く呼び入れられたのはうれしい。
  1)【L2】誰の「御前」か。
   ・中宮。
  2)【L3】「人々」とは誰か。
   ・女房たち。
  3)【L2】「今のぼりたる」とは誰か。
   ・私。
  4)【L2】「御覧じつけて」「道あけて」「召し入れられ」の主語は。
   ・中宮。女房。私。
 4)【L3】中宮と作者の関係は。
  ・私をひいきにしてくれている。
                                     
22.「うれしきもの」の分類をする。
 1)【L2】まとめる。
  1)読みたかった本の続きを見つけたこと。
 2)人が捨てた手紙を集めて読むこと。
 3)夢判断で安心したこと。
 4)中宮が、私の方を見ながら話をされること。
 5)大切に思っている人の病気が治ったと聞いたこと。
 6)大切に思う人が、褒められること。
 7)和歌が撰集に選ばれたこと。
 8)昔の和歌や漢詩を聞いたこと。
 9)良い紙を手に入れたこと。
 10)和歌の質問に答えられたこと。
 11)探し物が見つかること。
 12)勝負事に勝ったこと。
 13)自慢している人をだましたこと。
 14)洗濯に出していた着物がきれいに仕上がったこと。
 15)憎たらしい人がひどい目にあうこと。
 16)病気が治ったこと。
 17)中宮が私を近くへ呼び入れたこと。
 種類で分類すると、
2)【L3】4つに分類する。
 A 文学的な興味。1)7)8)9)10)
 B 大切な人のこと。5)6)16)
 C 中宮の厚遇。4)17)
 D 日常生活の事件。2)3)11)12)13)14)15)




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