舞姫09


第一段落(執筆動機)
第二段落(生い立ち)
第三段落(自我の目覚め)
第四段落(エリスとの出会い)
第五段落(免官と母の死)

第六段落(エリスの妊娠)
第七段落(相沢との約束)
第八段落(エリスの妊娠)
第九段落(相沢との約束)
第十段落(エリスの発狂と豊太郎の帰国)
全体のまとめ


導入
 
あらすじを身の上相談風にまとめた、主人公はどうするべきかを考える。

1.【指】「仕事か恋愛か」を配布する。
2.【W】補足しながら読み、仕事か恋愛かを選択し、その理由を5分間で書かせる。
 ・自分ならどうするかでなく、超エリートであるTならどうするべきか考えて選択する。
 ・机間巡視しながら、書くように促す。
3.【交】4人組になって、どちらを選んだか、その理由を話す。
4.【交】何人かを指名して発表させる。
5.【説】教科書を開かせ、これが「舞姫」の前半のあらすじであることを説明する。
 ・「舞姫」は擬古文で書かれていて読みにくいが、内容的には現代的なテーマを取り上げている。
 ・いずれの場合でも、明治中期の日本と現在の日本では、国が置かれている状況も人の考え方も違う。その点を考慮しながら考えさせる。
 ・仕事か恋愛かを考えると同時に、明治の日本や日本人が何を考えていたかを学習することを目的に、授業を進めることを予告する。


第一段[はじめ〜文につづりてみん。]復路の船中での豊太郎の様子
 
  小説の枠組みの部分である。五年前の往路では多くの文章が書けたのに、復路では全く書けない。その理由は、ドイツで無感動の習性がついてしまったからでもあり、自分自身を信じられなくなったからでもあるが、最も大きな理由である「人知らぬ恨み」について、その正体について書いてみたものが「舞姫」である。
 概略を押さえる程度で軽く扱う。

1.【指】「学習プリント」を配布し、宿題にする。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 78 今宵 骨牌 五年 任せて 記し 幾千言 独逸 79 憂き 是 故あり 経ぬ  生面 微恙 80 瑞西 山色 伊太利 厭ひ 腸 惨痛 凝り固まり 懐旧 銷せん
3.【確】意味を確認する。
 ・いたづらなり=無意味である。役に立たない。
 ・放言=思ったままに言うこと。無責任な発言。
 ・ニル−アドミラリィ=何事にも驚いたり感嘆したりしないこと。
 ・気象=生まれつき持っている性質。
 ・憂し=思うようにならずつらい。苦しい。
 ・是=道理に合っていること。正しいと認めていること。
 ・生面=初対面。
 ・微恙=ちょっとした病気。
 ・ことよせる=かこつける。口実にする。
 ・山色=山の景色
 ・腸九回す=激しく苦しみを負わせる。
 ・惨痛=ひどく心をいためること。ひどく苦しむこと。
 ・懐旧=むかしのことを、なつかしく思い出すこと。
 ・概略=おおよその内容。あらまし。
4.【指】1文ずつ交代してペアリーディングさせる。

5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで「舞姫チェック」を解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
1)船は燃料補給のために停泊している。○
2)中等室は明々と電灯がついており、4人でトランプをしていた。(私一人だけがいた)
3)洋行の官命を受けたのは7年前である。(5)
4)主人公は今、サイゴンにいる。○
5)主人公は往路では、紀行文を書きまくって新聞に連載し、好評だった。○
6)復路でも日記を書きまくった。(書けなかった)
7)主人公はドイツで無感動になってしまっていた。○
8)主人公の性格は、往路と復路では激変していた。○
9)主人公は留学先での学問には満足していた。(満足していなかった)
10)主人公は他人も自分も信じられなくなってしまっていた。○
11)イタリアを出発して一箇月たっている。(二十日余り)
12)船中ではちょっとした病気を理由に初対面の客と交際しなかった。○
13)主人公は、人知れぬ恨みに悩んでいる。○
14)この恨みは、何をするにつけても主人公の心を楽しませた。(苦しませた)
15)主人公が日本へ帰る船中でドイツであったことを書いたのが『舞姫』である。○

8.【指】要点プリントを配布する。
9.【L1】空欄を問う。
10.【説】「人知れぬ恨み」が「舞姫」のテーマになっている。
11.【指】漫画1を配布する。
12.【指】確認テストをする。


第二段(余は幼きころより〜行きて聴きつ。)豊太郎の生い立ちと留学直後の様子
 
 母の存在の大きさ、その期待に答えようとする豊太郎が所動的器械的な性格を形成する生い立ちと行動を追う。エゴグラムを利用して、豊太郎の性格を理解する。

1.【指】「学習プリント」を配布し、宿題にする。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 80 訓へ 甲斐 荒み 某省 81 三年 殊なり 興さん 模糊 欧羅巴 色沢  菩提樹 幽静 臨める 巴里 82 楼閣 噴井 凱旋 神女 目睫 遮り 鈴索 謁  普魯西 快く 仏蘭西 簿冊
3.【確】語句の確認をする。
 ・庭の訓へ=家庭教育。
 ・出仕=官庁に勤めること。
 ・覚え=信任。
 ・模糊=ぼんやりしていてはっきりしないようす。
 ・功名=手柄をたてて有名になること。
 ・検束=自己規制。
 ・幽静=奥深く物静か。
 ・楼閣=高くて立派な構えの建物。
 ・目睫の間=極めて短い距離のこと。
 ・うべなり=いかにもその通りである。
 ・あだなる=無駄だ。
 ・謁を通ず=面会の取り次ぎを頼む。
 ・簿冊=ノート。
4.【指】1文ずつ交代してペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで「舞姫チェック」を解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
1)主人公は幼い頃からスパルタ教育を受けた。○
2)主人公は母子家庭に育った。○
3)主人公は商人の家の子どもである。(武士)←藩校に行けるのは武士の子息だけ。
4)主人公は大学の医学部に入学した。(法学部)
5)主人公の名は、森林太郎である。(太田豊太郎)←森林太郎は鴎外の本名。
6)トヨは藩校から大学までいつもナンバー1だった。○
7)主人公は九人兄弟の四男である。(一人っ子)
8)母は息子の勉強振りに満足していた。○
9)トヨは二十二歳で大学を卒業した。(十九歳)←当時も普通は二十二才で卒業。
10)トヨは国家公務員になった。○
11)トヨは親孝行といえば親孝行、マザコンといえばマザコンである。○
12)トヨは官長のお気に入りだった。○
13)トヨが洋行の官命を受けたのは二十一歳の時であった。(二十二歳)←十九+三。
14)トヨは家と自分の名誉の為に洋行した。○
15)その時、母親は四十九才だった。(五十過ぎ)
 16)トヨが洋行した先は、欧羅巴の新大都の巴里である。(ベルリン)
 17)トヨは欧羅巴の美観に感動したが、仕事に専念した。○
 18)トヨはプロシアの官員にドイツ語やイタリア語を絶賛された。(フランス語)
 19)トヨは幼い頃から小説家になりたかった。(政治家)
 20)トヨは半年後、仕事の暇に大学で政治学を学んだ。(一、二カ月後、法学)

8【説】板書しながら、詳説する。
 1)武士の家の一人子で、幼い頃から厳しい庭の訓へ(家庭教育)を受けた。
    ・旧藩の学館ということは士族の子息で、しかも一人っ子である。
    ・主人公は太田家の跡取りなので、幼い頃から家の期待を一身に担って育った。
  ・現代人顔負けの超幼児英才教育を受けた。
 2)早くに父を失い、母の手一つで育てられる。
    ・母子家庭である。
    ・男性中心社会であり、現在以上に厳しい環境であった。
  ・その中で、母にかかるプレッシャーは重い。
  ・父親の遺志を継いで、父親や太田家の名誉ために母親が自分のすべてを犠牲にして育てた。
 3)主人公の名は大田豊太郎で、学校では常に首席を通した。
    ・豊太郎も期待を裏切らず努力した。
 4)十九才で、大学法学部を卒業する。
    ・普通は二十二才位で卒業。
  ・当時は飛び級が認められ、優秀であれば進級できる。
    ・日本の最高学府である東京大学を最年少で首席で卒業するのであるから、同年代だけでなく3歳上の青年を含めて日本一優秀な青年であった。超エリートである。
 5)某省に就職して国家公務員になる。
    ・当時の憧れの職業である上級国家公務員になった。
    ・日本のために働き、日本を動かすことができる、やりがいのある仕事であった。
  ・現在の安定志向ではなく、大きな志があった。
 6)三年間、母を都に呼んで楽しい生活を送る。
  ・女手一つで育ててくれた母への恩返しである。
    ・親孝行と見るか、マザコンと見るか。
 7)官長の評判がよく、留学の命令を受ける。
  ・就職しても、勤勉な生活を送った。
    ・官費留学生は最高の名誉であった。
  ・ドイツは当時の日本の目標であった。
  a)我が名と我が家の名誉のために留学する。
      ・母の期待を一身に負って、自分のためだけでなく、太田家の再興のために立身出世する。
  b)五十才を越えた母を日本に残していく。
      ・当時の女性の平均寿命は四十四才。今で言えば九〇才位の年令。
   ・洋行中に死ぬかもしれない。
 8)あいまいな功名の念と検束に慣れた勉強力でベルリンの都に留学する。
  ・母や官長の言いなりで勉強してきたので、自分でも功名の目的がわからない。
  ・しかし、言いつけは忠実に守ってきたので自己規制は得意である。
 9)美くしい景色に心を動かされず、仕事に専念する。
  ・せっかくの美しい景観に関心を示さないのは、感情をもった人間として正常でない。
 10)大学で法家の講義を聴く。
  ・国家を動かすための学問をしようとしていた。

9.【W】「トヨの中の5つのこころ1」をする。
 1)質問紙を配布する。
 2)「自」に、自分に当てはめて回答させ、グラフを書かせる。
 3)「1」に、この時の豊太郎に当てはめて回答させ、色を変えてグラフを書かせる。
 4)エコグラムの見方を説明する。
  ・母に育てられたので、NPが高い。
  ・父を知らないのでCPは低い。
  ・母に従順だったのでACが高い。
  ・遊びを知らなかったのでFCは低い。
  ・受動的機械的な人間だったのでAも低い。
 5)一般的なパターンを配布する。
10.【指】漫画1を配布する。
10.【指】確認テストをする。


第三段(かくて三年〜媒なりける。)自我の目覚め
 
留学して3年後、豊太郎は二十五歳にして自我に目覚める。そして自由を勘違いして官長に反抗する。かといって羽目を外すことができず、留学生仲間とも付き合えない。母に育てられた性格が豊太郎を支配している。これらが今後の豊太郎に艱難をもたらす。
  自我の目覚めの前後の豊太郎の変化についてまとめる。所動的器械的人間から自由人間へ、法学から歴史文学へ、官長への反抗、そして母への疑問について、サラッと考える。

1.【指】「学習プリント」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
  83 褒むる 勤めし 84 雄飛 堪ふ 瑣々 紛々 蔗 覆す 伯林 85 猜疑 讒誣 麦酒 嘲り 嫉み 合歓 仕へ 欺き 顧みぬ 縛せし 86 有為 豪傑 珈琲店 就かん 挟ませ 疎き 冤罪 暫時 艱難 閲し
3.【確】語句の確認をする。
 ・好尚=好み。本性。
 ・所動的=受動的。
 ・雄飛=意気盛んに勇ましく活躍すること。
 ・獄を断ずる=判決を下す。
 ・瑣々=こまごましているようす。
 ・破竹のごとく=勢いが激しく、押さえきれないこと。
 ・広言=無責任なことをあたりはばからずにいうこと。口にまかせて大きなことをいうこと。
 ・庶をかむ=佳境。面白味がわかる。
 ・猜疑=疑ったりねたんだりすること。
 ・讒誣=(他人をおとしいれるため)事実でないことを言ってそしること。
 ・かたくな=頑固なこと。
 ・長者=年上または目上の人。
 ・有為=事を行う才能があること。役にたつこと。
 ・冤罪=おかしたおぼえのない罪。無実の罪。ぬれぎぬ。
 ・暫時=しばらくの間。すこしの間。
 ・艱難=困難なことに出あって苦しみなやむこと。つらく苦しいこと。

4.【指】1文ずつ交代してペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで「舞姫チェック」を解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
1)トヨは二十七才になった。(二十五才)
2)これまでのトヨは受動的、器械的な人物であった。○
3)トヨは大学の自由なムードの中で自我に目覚めた。○
4)トヨは自分の職業適性は、政治家にも外交官にも向いていないと思った。(法律家)
5)母はトヨをウォーキング・ディクショナリーにしようとしていた。○
6)官長はトヨをWALKING−ROPPOUにしようとしていた。○
7)トヨは母親に対して大口をたたくようになった。官長
8)トヨは政治学や経済学に興味を持つようになった。(歴史や文学)
9)官長は独立した思想を持ったトヨを喜ばなかった。○
10)トヨの当時の地位は安定していた。(危うかった)
11)留学生仲間は、トヨを尊敬したりほめたりした。(嫉妬したり悪く言ったりした)
12)それには理由がなかった。(あった)
13)トヨは留学生と麦酒を飲んだり麻雀をしたりしなかった。(ビリヤード)
14)トヨは物が触れば避けようとする大胆な人物だった。(臆病な)
15)年長者の教えを守り、学問の道に進み、役所に勤めたのも、すべて嘘の自分であった。〇
16)トヨは故郷を出る時、自分は有能で我慢強い人物だと、自信満々だった。○
17)トヨが神戸の港を出る時に笑っていたのは、トヨの本性である。(横浜、泣いて)
 18)トヨはこの本性は姉の手で育てられたから生じたと思っている。(母)
 19)ドイツの売春婦や道楽者と遊ばなかったのは、金がなかったからである。(勇気)
 20)留学生仲間と遊ばなかったことが、今後無実の罪で苦しみを体験する原因になる。○

8.【説】板書しながら、詳説する。
 1)それまでの豊太郎は、所動的、器械的な人物だった。
  ・母は生きた辞書にしようとしていた。
   【説】西洋文明を取り入れる日本の動きを敏感に察知し、語学の力を付けようとした。
  ・官長は生きた法律にしようとしていた。
   【説】自分の仕事に便利なように法律を勉強させた。
  ・辞書になるのはいいが、法律にはなりたくない。
 2)3年後、二十五歳で自我に目覚める。
  ・まことの我──我ならぬ我
  【説】今では30歳代後半。働き盛りで、自我に目覚めるには遅く、危険である。
  ・大学の自由な雰囲気に触れたから。
  ・官長に自分の意見を主張するようになる。
   【説】国費留学生である豊太郎に反抗する権利はない。反抗することが、どういう意味かを理解していない。
   ・大学では、歴史や文学を学ぶ。
   【説】法学は非人間的な学問であるが、歴史・文学は人間的な学問である。
 3)地位が危うくなる
  ・官長の評判が悪くなる。
   【説】自分の思う通りに動く有能な部下が必要なのであって、いくら有能でも自分の意見を主張する人物は有害である。これは今の官僚についても言える。
  ・留学生仲間とのつきあいが悪く、嘲られ妬まれる。
  【説】遊ぶために留学していた。
 4)本性に気づく。
  ・有為の人物、豪傑。
   ↓
 ・弱くふびんな心
   ↑原因
 ・早くに父を亡くして、母の手で育てられたから。
・責任転嫁。
9.【説】これらの出来事が、今後の豊太郎の不幸の原因になることを予告している。

10.【指】漫画を配布する。
12.【指】確認テストをする。


第四段(ある日の夕暮れ〜背につつぎつ。)エリスとの出会い
 
留学当初、あだなる美観に見向きもしなかった豊太郎がはまっていた古い教会の前で恍惚となっていた時に起こった運命の出会い。憐憫とか言っているが、要するに一目惚れ。のこのこエリスの家に付いていき、金を貸してやる。しかし考えてみれば、エリスが人通りの多い教会の前で泣いていたり、初め激しく戸を締めた強欲な母親がエリスの一言で手の平を返したように丁寧な対応になったり、いきなりエリスの方から借金の申し込みをしたり、留めは否とは言わせぬ媚態を含んだ目で悩殺したり、不自然なことが多い。この出会いは、豊太郎にとって吉なのか凶なのか。
エリスに声をかけた豊太郎の状態や気持ち、豊太郎に声をかけられた(させた)エリスの気持ちについて、裏読みをして追及する。

1.【指】「学習プリント」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 87 獣苑 漫歩 僑居 巷 襦袢 頬髭 猶太 翁 梯 楼 凹字 恍惚 洩れ 垢 88 愁ひ 睫毛 一顧 憐憫 係累 真率 涸れ 葬る 貯へ 欷歔 震ふ 項 89 鎮め 欠け損じ 錆 老嫗 悪しき 額 悪し 獣綿 会釈 90 茫然 油燈 漆 慇 懃 無礼 詫び 廚 右手 左手 煉瓦 臥床 梁 氈 陶瓶 価高き 傍ら 羞 91 座頭 二年 憂ひ 割き 媚態 92 背
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・獣苑=動物園。
 ・漫歩=散歩。
 ・僑居=下宿
 ・恍惚=うっとりする様子。
 ・一顧=一目見ること。
 ・憐憫=あわれむこと。
 ・係累=両親・妻子など面倒を見なければならない家族。
 ・真率=真面目な気持ち。
 ・欷歔=すすり泣き。
 ・会釈=軽くおじぎをすること。
 ・慇懃=ていねいなこと。
 ・厨=台所。
 ・媚態=男にこびようとする、女のなまめかしい態度。

4.【指】「ある日の夕暮れ〜我がそばを飛びのきつ。」をペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで「舞姫チェック1)〜16)」を解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
1)運命の出会いは、昼過ぎに起こった。(夕方)
2)トヨはクロステル巷にある下宿に帰ろうとしていた。(モンビシュウ街)
3)運命の出会いは、ウンテル・デン・リンデンの動物園の前で起こった。(クロステル巷の古寺)
4)トヨは少女と会った場所には初めて来て、うっとりしていた。(何度も来て)
5)少女は閉ざされた教会の門の前で声をあげて泣いていた。(声をのんで)
6)少女の年令は十二、三才である。(十六、七才)
7)少女はメッシュの茶髪でネッカチーフをしていた。(うすい黄金色)
8)振り返った少女の顔は、絵にも描けない超美少女だった。○
9)少女はもの問いたげに憂いを含んで、涙に濡れた長い睫毛の黒い瞳をしていた。(青い)
10)トヨは少女に一目惚れした。○
11)臆病なトヨだが、ナンパしようという下心あって少女に声をかけた。(憐憫の情)
12)少女はトヨを一目見て悪人だと思った。(善人)
13)少女は自分の母親をむごい母親だと言った。○
14)少女は遊ぶ金がなくて泣いていた。(父の葬式代)
15)トヨは少女を自分の下宿に連れ込もうとした。(少女の家に送って行った)
16)少女はいつの間にかトヨに肩を寄せていた。○

8.【説】地図を見ながら豊太郎が歩いた教会までの道を説明する。
・動物園→ウンテルデンリデン通り→クロステル通り→マリエ教会
 ・下宿はモンデシュウ街にあるので、クロステル通りの教会は寄り道になる。
 ・クロステル通りは狭く、道に面して洗濯物が乾してあり、夕方から酒を飲んでいる者もたむろしているような、貧民窟である。
 ・三百年前の遺跡をみて恍惚となるのを楽しんだ。
9.【説】板書しながら、詳説する。
 1)ある日の夕方、古い教会の前で恍惚としている。
 2)教会の前ですすり泣きしている少女と出会う。
  【説】留学直後は、あだなる美観に心を動かされまいとしていたが、自我の目覚めによって美しいものを心をひかれるようになった。
  【説】「恍惚」が一つのキーワードになるので注意する。
  ・年は十六、七才。
  ・超美少女。
  ・青く清らにてもの問いたげに愁ひを含める目
   【説】彼女のチャームポイントは目である。
 3)憐憫の情から大胆にも声をかける。
  ・「外国人のほうが力を貸しやすいこともある」
   【注】臆病な、商売女とも遊べなかった豊太郎が「憐憫の情」にしては大胆すぎる。
      真の理由については後で質問する。
   【注】力を貸すと言っているが、金を貸すとは言っていない。
     ↓
  ・父の葬式の金がないので泣いていた。
   【説】この時初めて泣いている理由がわかる。
  ・彼も母もむごい。
   【説】何がむごいかは後でわかる。

10.【指】「人の見るがいとはしさに〜背にそそぎつ」をペアリーディングさせる。
11.【指】4人チームで「舞姫チェック17)〜31)」を解答させる。
12.【説】訳しながら正解を確認する。
17)トヨは、教会の隣にある十四階の屋根裏部屋の少女の家まで送って行った。(筋向かい・四階)
18)部屋から出てきたのは、白髪まじりの貧しい服装をした少女の祖母であった。(母)
19)少女の名前はエリザベスである。(エリス)
20)亡くなったエリスの父は、エルンスト・ワイゲルトと言う詐欺師だった。(仕立物師)
21)家の中ではエリスと母が激しく言い争っていた。○
22)エリスの母は、大声でののしったことを謝って、部屋の中に招き入れた。(戸を荒々しく締め切ったこと)
23)エリスの家は貧しい屋根裏部屋だったが、高価な花が生けてあった。○
24)エリスは顔黒(ガングロ)でポテッとした少女だった。(色白でスリムな)
25)エリスは地方出身者である。○←「少し訛りたる言葉」とある。
26)エリスはモンビシュウ座の座頭のバウムクウヘンと言うスケベな中年男の愛人になれ と迫られていた。(ビクトリア座、シャウムベルヒ)←「身勝手な言い掛け」とは、愛人になることである。
27)母はエリスが座頭の愛人になることに反対していた。(賛成)←「それもならずば母の言葉に」
28)エリスは初対面のトヨに借金を申し込んだ。○
29)エリスの目は、MUGOん・色っぽいものだった。○←「人に否とは言はせぬ媚態」
  ★「MUGOん・色っぽい」のCDをかける。「青い瞳のエリス」も。
30)トヨはポケットの中にあった二、三マルクの銀貨を貸した。(時計)
31)エリスのよだれがトヨの手の甲を濡らした。(涙)

13.【説】板書しながら、詳説する。
 4)少女の家へ付いていく。
  【説】まだ名前は出て来ない。名前も聞かずに送っていく。
  ・寺の斜め向かいにある建物の4階のマンサルドという貧しい部屋。
   【説】屋根裏部屋。天井がなくいきなり屋根である。従って、外気と直接触れるので、夏は暑く冬は寒い。条件が悪いので安アパートの中でもさらに家賃が安い。
  ・少女の名前はエリス。
   【説】「エリス帰りぬ」と自ら名乗ったことによって名前が分かる。
 5)母が母は荒々しく戸を締める
   ↓
  エリスと口論
   ↓
  戸を開け無礼を謝る。
   【説】老婆とあるが母である。貧乏の苦労で老けて見える。
   【注】母の態度の急変は後で考える。
 6)エリスが借金を申し込む。
  ・明日は父の葬式。
  ・座頭が身勝手なる言いかけをする。
      金を貸す代わりに愛人になれ
  ・母も賛成している。
   【説】「母の言葉に」の後に、従わなければならないが省略されている。貧しさのためとはいえ、娘を売り渡そうとする。
  ・見上げた目には、人には否とは言わせぬ媚態があった。
   【説】エリスのチャームポイントの目の魔力。
 7)豊太郎は時計を質に入れて金を調達するように言う。
  【説】質屋に持って行って質草にし、金を借りる。金を貸してもらえるような、ロレックスかオメガかブランドの時計をしていた。

14.豊太郎がエリスに声をかけた理由について
 1)【L1】なぜ、エリスに声をかけたのか。
  ・憐憫の情にかられて。
 2)【L2】なぜ、憐憫の情が起こったのか。
  ・父が死んで葬式代がないので泣いていたから。
 3)【L3】しかし、それは声をかけてからわかったことである。本当の理由は。
  ・一目惚れした。
  ・「何故に一顧したるのみにて、用心深き我が心の底まで徹したるか」
 4)【L2】エリスの何に惹かれたのか。
  ・憂いを含んでもの問いたげに愁いを含んだ目。
  ・魔性の目。
 5)【L2】この時の精神状態は。
  ・自我に目覚めで自由になっていた。
  ・当時の地位が危うく不安定な精神状態であった。
  ・教会の前で恍惚としていた。

15.エリスが教会の前で泣いていた理由について
 1)【L1】なぜ、泣いていたのか。
  ・父の葬式の金が工面できない。
  ・座頭の愛人にならなければならない。
 2)【L2】なぜ、教会の前なのか。
  ・教会は家の筋向かいにある。
  ・教会に救いを求めようとしたが閉まっていた。
 3)【L3】教会は表通りにあり人目につくのに、なぜ泣いていたのか。
  ・少女なので感情を押さえられなかった。
  ・誰かが声を掛けてくれるのを待っていた可能性もある。
  【注】ここでエリスのことは一旦置いておいて、母について考える。

16.母の態度の急変について
 1)【L2】なぜ、荒々しく戸を閉めたのか。
  ・どこの馬の骨かわからない日本人と一緒にいたから。
  ・座長に売り渡そうとしていたのに、どこをほっつき歩いていたのかと思ったから。
 2)【L1】なぜ、直ぐに戸を開けて慇懃に無礼を謝罪したのか。
  ・エリスが母に話したから。
  ・「内には言ひ争ふごとき声聞こえし」
 3)【L3】エリスが言った、母の態度を短時間で変える言葉とは。
  ・豊太郎が金銭的に援助してくれる。
  【説】娘を座頭に売るような母親だから、金銭に執着している。
 4)【説】豊太郎は金を貸すとは一言も言っていないのに、エリスの方から金を貸してくれと言ってきた。
  ・「力を貸しやすきこともあらん」とは言っている。
 5)【L3】なぜ、エリスは教会の前で泣いていたのか。
  ・金を貸してくれるカモを探していた可能性が強い。

17.豊太郎がエリスに金を貸した理由について
 1)【L3】なぜ、金を貸したのか。
  ・自分も父を亡くした同じ境遇だったから。
  ・エリスの人には否とは言わせない媚びを含んだ目があったから。
 2)【L2】エリスの目は意識的か無意識か。
  ・意識的。
  【説】「この目の働きは知りてするにや、また自らは知らぬにや」と書いてある時点で、意識的であった疑いを残している。
 3)【説】このように考えると、エリスは若く可愛い顔をしているが、小悪魔のような女性である。

18.【W】「トヨの中の5つのこころ2」をする。
 1)前に配しておいた質問紙を出させる。
 2)この時の豊太郎ならどうかで、「2」に記入させる。
  ・自由になったので、FCが高くなった。
  ・エリスの面倒をみているので、NPも高くなった。

19.【指】漫画1を配布する。
20.【指】確認テストをする。


第五段(ああ、なんらの悪因〜読まぬがあるに。)

エリスとの交際と人生の岐路
豊太郎はエリスとの出会いが不幸の始まりであると考えている。このことが留学生を通じて官長の耳に入り免官になる。また、母の死を知らせる手紙を受け取る。帰国か残留か、いずれにしても学問がならないことを迷う。そんな自分のために泣いてくれるエリスと離れ難い仲になる。相沢とエリスの助けで貧しいが楽しい生活を送る。

1.【指】「学習プリント第五段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 99 終日 兀座 漁する 速了 痴  00 岐路 仰ぐ 猶予 請ひて 煩ふ 某  募り 業 01 粧ひ 辛苦 剛気 卑しき 不時 免官 疎んぜん 詳しく 愛づ 危急存亡 秋 数奇 鬢 02 悲痛感慨 脳髄 説きて 午餐 思案 寄寓 珈琲 03 若人 商人 臂 掌上 崩  04 流布 一隻
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・悪因=悪い結果をもたらす原因。
 ・終日=一日中。
 ・兀坐=きちんと座る。
 ・速了=早合点。
 ・漁する=探し歩く。
 ・痴 =幼稚な。
 ・事を好む=事を荒だてる。
 ・岐路=分かれ道。
 ・猶予=決められた日時を延ばすこと。
 ・温習=けいこ。
 ・剛気=屈しない強い意志。
 ・不時=思いがけない時。
 ・免官=クビになること。
 ・色を失う=驚いて顔色が青くなる。
 ・危急存亡=人生の大きな危機。
 ・数奇=不運。
 ・悲痛感慨=激しい悲しみを感じること。
 ・浮かぶ瀬=出世する機会。
 ・思案=どうしたらよいか考えること。
 ・寄寓=他人の家に住んで世話になること。
 ・掌上の舞=掌でするような軽やかな舞。
 ・見識=確かな考えや意見。
 ・流布=世間に広まること。
 ・高尚=上品なこと。

4.【指】「ある日の夕暮れ〜我がそばを飛びのきつ。」をペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで、@〜30を解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
@「舞姫」を書いているトヨはエリスとの出会いを後悔している。○
  ★「なんらの悪因ぞ」とある。
Aエリスはトヨと交際するためにトヨの下宿にやってきた。(トヨにお礼を言うため)
Bトヨは下宿で一日中音楽を聞いていた。(本を読んでいた)
C「一輪の名花を咲かせたり」とは、エリスが美しい花を持って来てくれたことである。(エリスのこと)
Dトヨはエリスといきなり大人の関係になった。(幼ない関係)
Eフ留学生はトヨが舞姫をナンパしていると官長にチクくった。○
Fトヨを憎んでいた官長は慎重に調査した。(直ぐに公使館に報告した)
Gトヨはクビになり、直ぐに帰国すれば旅費は出すが、ドイツに残留するなら一切の援助を断ち切ると言い渡された。○
Hトヨは、返事を三日間待ってもらった。(一週間)
Iトヨは、母の自筆の手紙と、母の死を知らせる親戚の手紙を、同時に受け取った。○
Jムトヨは、母の手紙を読んでニンマリした。(泣いた)
Kこの時、トヨとエリスはHな関係になっていた。(清らかな関係)
Lエリス、十二才で舞姫になった。(十五才)
Mエリスは、ハックスレンデル座のナンバー1である。(ビクトリア座、ナンバー2)
N舞姫は、舞台の華やかさとは反対に、ワーキングプアで、 売春する者もいた。○
Oエリスが売春しなかったのは、おとなしい性格と強い意志を持った母のおかげである。 (父)
Pトヨはエリスに読書や言葉や文字を教える、親子の関係になった。(師弟)
Qトヨは、クビになった原因がエリスにあることをエリスに話した。(隠した)
Rエリスは、トヨのクビにショックを受け、すぐに母に伝えた。(内緒にした)
20エリスの母は、金の切れ目が縁の切れ目と思っていた。○
  ★「余が学資を失ひしを知りて余を疎んぜんを恐れてなり」とある。
21この時、トヨとエリスは男と女の関係になった。○
 ★「離れ難き仲」になった。
22トヨはこの時初めてエリスに愛を感じた。(初めて見た時から)
23トヨは、自分のために泣いてくれるエリスの乱れた髪の美しさに、恍惚となり欲情を抑えられなかった。○
24トヨは、帰国してエリスと別れたことを後悔する生活をするか、ドイツに残って生活費も得られない生活するか、究極の選択を迫られた。(学問ができない、学資)
25山県大臣の秘書である親友の相沢鎌吉が、新聞社の配達員の仕事を紹介してくれた。(謙吉、通信員)
26 エリスが母親を説得して、トヨの下宿で同棲するようになった。(エリスの家)
27豊太郎は貧しく苦しい生活をしていた。(楽しい)

8.【説】「朝のカッフェー果つれば〜」は省略し、28〜31はすべて○。
28トヨは、喫茶店でドイツの新聞を読み、翻訳して日本の新聞社に記事を送った。○
29昼過ぎには練習が終わったエリスが喫茶店により、二人で手をつないで帰った。○
30トヨは、政治や文学や美術の記事を書き、雑学には強くなった。○
31大学に行くこともなくなり、学問ができなくなったことを強く後悔している。○

9.【説】板書しながら、詳説する。
 1)エリスと幼い交際が始まる。
  【説】一緒に話をしたりする。
  【注】これが「悪因」である理由について後で考える。
 2)留学生が官長に密告する。
  【説】付き合いの悪い豊太郎をうっとおしく思っていた。
 3)官長が直ぐに公使館に報告する。
  【説】本来なら調査をしてから報告するはず。自分に口答えする豊太郎をうっとおしく思っていた。
 4)免官になる。
  ・冤罪
   【説】第三段の「冤罪」とはこのことである。
   【説】出世の道が閉ざされた。父の遺志、母の願いが実現しなくなった。
 5)公使館の条件
  a)日本に帰国する→旅費を支給する。
  b)ドイツに残留する→援助を断ち切る。
   【説】税金で留学しているのだから、厳しい条件も当然である。温情を残している。
    ↓ 
  フ一週間の猶予をもらう。
  【注】悩んだ理由について後で考える。
 6)母の自筆の手紙と母の死を知らせる手紙を受け取る。
  【説】「舞姫」の中の3通の手紙が、豊太郎の運命を左右する重要な役割を果たす小道具である。
  【説】船便は月に一便しかないので、別々の日に出したが、豊太郎の手元には同時に届いた。
  ・我がまたなく慕う母。
  ・我が生涯にて最も悲痛を覚える。
  ・2年後の今読んでも涙が止まらない。
   【注】手紙の内容について後で考える。
 7)エリスと離れ難い仲になる。
  【注】理由について後で考える。
 8)ドイツに残留する。
  ・相沢→新聞社の通信員の仕事を世話してくれる。
  ・エリス→エリスの家に同居できるように母を説得してくれる。
   【説】金目当ての母に、豊太郎の免官を内緒にし、同居できるように説得した。
 9)貧しいが楽しい生活を送る。
  【説】日本で母は暮らした三年間以来の安息の日々。
  【注】ドイツでの生活の問題点について後で考える。

10.【L2】エリスとの交際がもたらす「悪因」(悪い結果)とは。
 ・免官なった。
 ・母の死はエリスのせいではない。
 【注】最後まで読めば、エリスの発狂も考えられる。

11.豊太郎が帰国か残留に悩んだ理由について
 1)【説】公使館の条件を確認する。
  a)日本に帰国する→旅費を支給する。
  b)ドイツに残留する→援助を断ち切る。
 2)【説】悩んでいる部分を確認する。
  a)このままにて郷に帰らば、学成らずして汚名を負ひたる身の浮かぶ瀬あらじ。
   (このまま日本に帰っても、学問も成就せず、免官になった不名誉は取り戻せず、出世の可能性はない)
  b)とどまらんには、学資を得べき手だてなし。
   (ドイツに残留しても、学問を続けるために学資を手に入れる手段がない)
 3)【L2】何に悩んでいるのか。
  ・いずれにしても、亡父や母の願いが実現できない。
  ・学問ができるかどうか。
   【説】「学成らず」「学資を得る」とある。
   【説】豊太郎は学問大好き人間である。
 4)【説】エリスのことが問題ではない。
  ・この時はまだエリスと離れ難い仲になっていない。

12.母の自筆の手紙の内容について
 1)【L2】初めての手紙か。
  ・親孝行の豊太郎だから、近況を報告するために、何度も手紙をやりとりしている。
 2)【L1】この手紙を読んだ豊太郎の様子は。
  ・二年後の今でも涙が止まらない。
  ・それほど強烈な内容だった。
 3)【指】手紙の内容をノートに書かせる。
 4)【交】4人チームで交流する。
 5)【交】いくつかの意見を発表させる。
 6)【L3】母は豊太郎の免官を知っていたか。
  ・恐らく知っていた。
   【説】豊太郎が官長への反抗やエリスのことを手紙に書いていた。
   【説】日本の官報に出ている。
   【説】相沢も官報で豊太郎の免官を知った。
 7)【L2】豊太郎の免官を知った気持ちは。
  ・情けない。
  ・亡夫に申し訳ない。
  ・可哀相とか、帰っておいでとは言わない。
 8)【L3】なぜ、母は自筆の手紙の直後に死んだのか。
  ・五十歳を越えていたので寿命。
  ・病気がちだった。
  ・夫や太田家に豊太郎の免官の責任をとって自殺する。
   【説】二年後に読んでも涙が止まらない。

13.【L3】母の死が今後の豊太郎に与える影響は。
  ・心の支えを失った。喪失感。
  ・急いで帰国する必要がなくなった。
   【説】いずれは帰国するにしても、ドイツでやり直す時間が与えられた。

14.エリスと離れ難い仲になった理由について
 1)【L1】この時の豊太郎の状況は。
  ・免官と母の死が重なり、人生最大の危機である。
  ・エリスに一目惚れしていた。
   【説】女にうつつをぬかしている場合ではない。
 2)【L2】なぜ、エリスは豊太郎の免官が分かったのか。
  ・女の勘。
   【説】この後も、エリスの女の勘が発揮される。
 3)【L2】なぜ、エリスは免官を母に内緒にしようとしたのか。
  ・母に免官を知らせると、別れさせられるから。
  【説】この時点で、エリスは豊太郎を愛していることが分かる。
 4)【L3】なぜ、離れ難い仲になったのか。
  ・不幸のどん底の豊太郎のために涙を流してくれた。
  ・深い悲しみで恍惚としていた。
   【説】教会の前でエリスと出会った時も、恍惚としていた。エリスとの重要な局面では、いつも恍惚としている。
 5)【L3】豊太郎にとってエリスの存在は。
  ・年下ではあるが、母に代わる母的存在。
   【説】師弟の関係が逆転している。

15.ドイツでの生活について
 1)【L1】ドイツでの生活をどう思っているか。
  ・憂きが中にも楽しい生活。
 2)【L1】学問についてはどうか。
  ・我が学問は荒みぬ。
   【説】学問大好き人間にとっては、最大の苦痛。

16.【指】漫画1とハーレクインロマンスを配布する。
17.確認テスト5をする。


第六段(明治二十一年の冬〜車を見送りぬ。)

エリスの妊娠
明治二十一年、豊太郎はエリスの妊娠を知り、将来に不安を覚える。そんな時に相沢から大臣に会うようにという手紙が来る。第二の手紙である。豊太郎、大臣ではなく旧友に会いに行くのだと言って出かける。エリスは捨てられるのではないかと予感する。

1.【指】「学習プリント第六段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 98 蒔く 凸凹 朝 飢ゑ凍え 雀 哀れ 卒倒 悪阻 99 臥す 由 昨夜 汝 疾く 便り 00 上襦袢 襟飾り 不興 幾年 外套 接吻 凍れる 朔風
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・凸凹坎 =デコボコして平でないこと。
 ・卒倒=急に意識を失って倒れること。
 ・さらぬだに=そうでなくてさえ
 ・おぼつかなし=不安定なこと。
 ・いぶかる=うたがわしく思う。
 ・とみ=急ぎのこと。
 ・上襦袢=ワイシャツ。
 ・襟飾り=ネクタイ。
 ・不興=気分的におもしろくないこと。
 ・富貴=富や地位。
 ・朔風=北風。

4.【指】ペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで、解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
 @明治二十三年の夏の出来事である。(二十一年の冬)
 Aエリスは一週間前の夜、台所で倒れた。(二、三日前、舞台)
 Bエリスが気分が悪く物を食うと吐くのは食べ過ぎであると気づいたのは豊太郎である。(妊娠・母)
 Cトヨはエリスの妊娠を知って将来に希望を感じた。(不安)
 Dその日は火曜日だった。(日曜日)
 Eエリスはストーブの傍に座ってよく話した。(言葉少なだった)
 Fエリスも豊太郎が喜んでいないのを知って気まずかったのか、単にしんどかったのか。
 G手紙は相沢の筆跡で日本から出したものである。(ベルリン)
 H相沢は今朝、山縣(やまがた)大臣に付いてベルリンに来ていた。(昨夜・天方)
 I手紙には、相沢が会いたいから来いと書いてあった。(大臣)
 J相沢はトヨに名誉挽回のチャンスを与えようとしていた。○
 Kトヨは相沢の手紙を読んでうれしそうな顔をした。(茫然とした)
 L突然のことなので茫然としていた。
 Mエリスは、新聞社の報酬を打ち切られる手紙だと思った。○
 Nトヨは手紙の内容を正直に伝えた。○
  ・一応○にしたが、名誉回復のことは言わなかった。
 O母はトヨが相沢に会うと思い、身支度を手伝った。(エリス・大臣)
 Pエリスは女の勘で自分の不幸な行く末を直感した。○
 Qトヨは富貴になることや出世することをキッパリ否定した。○
 Rトヨは大臣に会うため行くと言って上等の馬車に乗って出かけた。(相沢)
 Sエリスは部屋の中で見送った。(窓を開けて)

8.【説】「明治二十一年の冬」と時を明記した理由を説明する。
 ・年代が明記されているのはここだけである。
 ・緊張感と新たな展開を感じさせる。
 ・時代を明記して現実味を帯びさせる。

9.【説】板書しながら、詳説する。
 1)明治二十一年の冬、エリスが妊娠する
  【説】同棲して離れ難い仲になったなら当然のことである。
 2)相沢の手紙を受け取る
  ・名誉を回復するために大臣に会いに来い。
  【説】相沢は出世して、天方大臣の秘書になっている。
  【説】豊太郎の運命を左右する2通目の手紙である。
  【説】相沢が大臣に豊太郎の才能を話し、面会の約束を取り付けた。
 3)相沢に会いに行く

10.豊太郎はエリスの妊娠をどう思っているのか?
 1)【説】「もしまことなりせばいかにせまし」を訳す。
  ・もし(妊娠が)本当ならば、どうしよう。
   【説】反実仮想で、事実に反することを仮定してその結果を想像する。
 2)【L2】事実に反することとは。
  ・エリスが妊娠していないこと。
 3)【L2】豊太郎の気持ちは。
  ・妊娠していることを信じたくなかった。
 4)【L2】なぜ、信じたくないのか。
  ・経済的に不安定になる。
  ・学問ができなくなる。
   【説】自分の収入も不安定でエリスも働けなくなれば、出産費や育児費だけでなく、生活費にも困ることになる。
   【説】やはり、豊太郎にとって、学問ができなくなるのが最大の問題である。

11.相沢に会いに行くことについて、豊太郎とエリスの気持ちは?
 1)【指】「たとひ富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ。我が病は母ののたまふごとくならずとも」を訳す。
  ・もし出世なさる日が来ても、私をお見捨てにならないでください。私の病が母のおっしゃるようでなくても。
 2)L1】母の言う病とは。
  ・妊娠。
 3)【L2】この言葉の意図は。
  ・妊娠していなくても、見捨てないでほしい。
  ・まして、妊娠しているなら、見捨てるはずがないでしょうね。
  ・豊太郎が出世すれば、見捨てられることを予感している。
  ・女の直感。
  ・子どもによって豊太郎をつなぎ止めようとしている。
 3)【L1】豊太郎の返事は。それを一言で言うと。
  ・富貴も出世もとっくに諦めた。
  ×大臣に会いに行く=出世
  ○相沢に会いに行く=友情
 4)【W】豊太郎が相沢に会いに行くと言ったのは本当か、4人組で自分の立場と理由を述べ、メンバーの意見を聞く。

12.【指】漫画1とハーレクインロマンスを配布する。

13.【指】確認テスト6をする。


第七段(余が車を降りしは〜寒さを覚えき。)

相沢との約束
大臣は豊太郎の力を試そうと独逸語の翻訳の仕事を依頼する。その後、相沢は豊太郎を昼食に誘う。親友は離れていても豊太郎の臆病な心を見抜いていた。そして、語学の才能を示して自力で大臣の信用を得ることを勧める。これは自分の推薦責任のリスクを回避する高級官僚の保身術でもある。また、スキャンダルは出世の妨げになるのでエリスと別れることを忠告する。豊太郎にとって出世は遠い彼方、また自分が出世を望んでいるかも不確実である。確実なのは、エリスへの愛である。愛と友情と出世の狭間で、とりあえず目の前にいる相沢の忠告に従い、エリスと別れると約束するが、心の中でエリスへの罪悪感を感じる。

1.【指】「学習プリント第七段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 00 門守 覆へる 踟  01 細叙 謁し 委託 文書 午餐 02 生路 轗軻数奇 胸臆 閲歴 凡庸 罵り 諫むる 生活 成心 曲庇者 朋友 薦むる 若かず 舵  舟人 03 抗抵 玻璃 陶炉 外套 膚 粟立つ
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・踟 =ためらうこと。
 ・品行方正=だんのおこないが正しいこと。
 ・気象=性格。
 ・意に介す=気にする。
 ・生路=人生航路。
 ・轗軻数奇=不幸。
 ・胸臆=心の中。
 ・閲歴=今まで経験してきたこと。
 ・凡庸=平凡なこと。
 ・色を正す=あらたまった表情をする。
 ・成心=先入観。
 ・曲庇者=道理を曲げてかばう者。
4.【交】ペアリーディングさせる。
5.【指】【説】「チェックプリント」をさせ、解説する。
 @トヨは、初めてエンペラーホオフホテルに来た。(久しぶりに、カイゼルホオフ)
 Aカイゼルはドイツ語で皇帝。それを英語で。
 Bトヨが相沢に会うのを一瞬ためらったのは、落ちぶれた自分を相沢に見られるのが恥ずかしかったからである。○
 C相沢は、痩せたクラ〜い男であった。(太った明るい)
 D相沢は、トヨの失敗を非難した。(しなかった)
 E相沢は、昔話に花を咲かせた。(挨拶の暇もなく大臣に会わせた)
 F大臣は、トヨに仏蘭西語の翻訳を依頼した。(独逸語)
 G相沢は、トヨを夕食に誘った。(昼食)
 H二人は、食卓で互いに語り合った。(相沢が質問し、豊太郎が答えた)
 I相沢は、トヨの不幸な過去を責めず、官長を責めた。(留学生仲間)
 J相沢は、トヨの失敗の原因は生まれながらの臆病な心のせいだと見抜いていた。○
 K相沢は、トヨがエリスと同棲していることを知らなかった。(知っていた)
 L大臣は、トヨの独逸語の才能を利用しようとしていた。○
 M大臣は、トヨが女でクビになったことを知らなかった。(知っていた)
 N相沢は、トヨに法律の才能を示して大臣の信用を得るように勧めた。(語学)
 O相沢が大臣の信用を得るように勧めた理由は、自分自身の身の安全も計算している。 ○
 P相沢がトヨにエリスと別れるよう忠告した理由は、年令の差がありすぎるからである。 (身分)
 Qトヨにとって、相沢の出世話は五里霧中であった。○
 Rトヨは、出世ができる、出世が幸せに結びつくと信じていた。(かわからなかった)
 Sトヨは、今の生活やエリスの愛を捨て難かった。○
 21トヨは、相沢のエリスと別れることをキッパリ断った。(約束した)
 22トヨは、友に対してはNO!と言えない性格だった。○
 23トヨが相沢と別れたのは、午後七時である。(四)
 24トヨの心は、さぶ〜かった。○

6.《板》ヌ相沢と再会する。
 1)【L1】なぜ、会うことをためらったのか。
  ・相沢 =大臣の秘書官
   豊太郎=超エリート→免官。
  ・劣等感。羞恥心。

7.《板》ネ大臣から独逸語の翻訳を依頼される。
 1)【L2】どんな意味があったか。
  ・豊太郎の才能を試す。
  ・採用試験。

8.《板》ノ相沢と昼食する
 1)【L1】なぜ、相沢が質問し豊太郎が答えたのか。
  ・相沢の人生 =平滑
   豊太郎の人生=轗軻数奇
 2)【L2】なぜ、豊太郎を責めなかったのか。
  ・この一段のことは、「弱き心」のせいだと見抜いていたから。
   【説】さすが親友である。豊太郎の強みも弱みを知り抜いている。
   【L2】「この一段のこと」とは。
    ○エリスと深い関係になったこと。
     ・一目惚れや恍惚の間に起こった。
     ・後で相沢がエリスと別れるように言っている。
    ×官長に逆らったこと。
     ・自分の意志でしたこと。
    ×留学生とつきあわなかったこと。
     ・留学生と遊ばないのは良いこと。
   【説】弱き心の豊太郎を助けることも、利用することもできる。

9.《板》ハ相沢が、語学の才能を示すように勧める。
 1)【L1】なぜ、語学の才能を示すように勧めたのか。
  ・才能のある豊太郎に出世の機会を与える。=友情。
   【説】再チャレンジである。
   【説】豊太郎の才能が惜しい。
   【説】当時の人材にかける費用の大きさを考える。
  ・優秀な人物を紹介して自分の評価を上げる。=利己心
 2)【L3】なぜ、直接紹介しなかったのか。
  ・曲庇者と思われたくない。=保身
   【説】「己に損あればなり」と、自分の立場が不利にならない配慮をしている。
   【説】官僚的な用心深さ。
  ・大臣は豊太郎の免官の理由を知っている。
   【L1】免官の理由とは。
    ・女性関係。

10.《板》ヒ相沢にエリスと別れるように忠告される。
 1)【L2】なぜ、相沢がエリスと別れるように忠告したのか。
  ・女性問題は出世の妨げ(スキャンダル)になる。
  ・身分が違う。
   ・豊太郎は、元超エリート。
   ・エリスは、卑しい仕事の舞姫。
  ・仕事に専念させる
   ・弱い心。
   【説】豊太郎の弱い心がエリスを選ぶことがないようにする。
   【説】予想される問題を排除しておくのは、官僚的思考である。

11.《板》フ豊太郎の心境。
 1)【L2】「大洋〜」の比喩は。
  ・大洋=ヨーロッパ
  ・舵を失ひし舟人=免官になった豊太郎
  ・はるかな山=出世
 2)【L1】出世に対する気持は。
  ・果たして行き着きぬとも=大臣の信用を得て出世できるかどうかわからない。
   我が中心に満足を与へんも=出世しても、満足できるかわからない。
  ・不確実。
 2)【L1】エリスに対する気持ちは。
  ・貧しいが楽しい生活。
  ・捨てがたいエリスの愛。
  ・確実。
   【説】確実性からいえば、エリスの愛を取るはずである。

12.《板》相沢にエリスと別れると約束する。
 1)【L1】なぜ、エリスと別れると約束したのか。
 ○親友の意見には逆らえないから。
 ×エリスを捨てようと決断したわけではない。
  【説】出世の可能性は低い。
     とりあえず、友の前で、友の意見に従っただけ。
  ・優柔不断、主体性の欠如。
 2)【L2】なぜ、心に一種の寒さを感じたのか。
  ・エリスへの罪悪感。
   【説】エリスは別れる気はない。

13.【指】漫画とハーレクインロマンスを配布する。
14.【指】確認テスト7をする。


第八段(翻訳は一夜に〜涙満ちたり。)

豊太郎は大臣の信用を得ていく自分に気づかない。一月後、ロシア行きを打診され、信頼する人の依頼を断れず承諾する。ロシアではエリスのことも忘れてしまいそうになるほど通訳の仕事に生き甲斐を感じる。そんな中、エリスの手紙で自分の地位に気づく。軽率にもエリスと別れる約束をしたことを後悔するが、出世と帰国の可能性に心中穏やかではない。自我の目覚めが偽物であったことに気づく。ベルリンに帰り、エリスと再会するまでは出世に心が傾いていたが、エリスに会うと一気に愛に傾く。エリスは旅行中に準備していたおむつを見せて認知を迫る。

1.【指】「学習プリント第八段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 04 魯西亜 卒然 咄嗟 直ちに 虚ろ 賜り 費え 性 05 魯廷 舌人 拉し 囲繞 驕奢 黄  燭 点す 幾枝 彫鏤 06 賓主 周旋 寝ねつ 生計 族  07 袂 苦艱 08 云々 公事 09 寂然 稜角 馭丁 頸 刹那 低徊踟  鑼 10 一瞥 木綿 襁褓
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・卒然=突然。
 ・咄嗟=わずかの間。 
 ・うべなふ=承知する。
 ・鉄路=鉄道
 ・舌人=通訳。
 ・拉す=むりに連れて行く。
 ・囲繞=取り囲む。
 ・驕奢=贅沢。
 ・彫鏤=彫ったり散りばめたりしたもの。
 ・賓主=客と主人。
 ・周旋=にはいって取り持つこと。
 ・袂を分かつ=別れる。
 ・順境=物事がつごうよく運び、幸なことなどのない境遇。
 ・逆境=苦労の多い不幸せな境遇。
 ・職分=その職にいてなすべき事がら。
 ・寂然=寂しい様子。
 ・刹那=わずかな間。
 ・低徊踟 =迷いためらうこと。
 ・一瞥=ちらっと見ること。
 ・あだし名=他人の苗字。

5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで「舞姫チェック」ヌ〜モを解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
 @翻訳には3日かかった。(一夜) 
 A大臣は、次第にトヨの意見を聞いたり冗談を言って笑うようになった。 ○
 B1週間後、大臣はトヨに数日後の佛蘭西への同行を打診した。(一カ月、明日、魯西亜)
 Cトヨは、その話を相沢から事前に聞いていなかった。○
 Dトヨは、その打診を予測したので、即座に断った。(予測していなかったが、引き受けた)
 Eトヨは、信頼している人に突然依頼された場合、あまり考えずに即座にOKを出して、後悔することがよくあった。○
 Fトヨは、翻訳代と旅費をエリスに渡した。(「旅費」を消す)
 Gエリスは、正式に新型インフルエンザと診断された。(妊娠)
 Hエリスは、一週間しか休んでいないのに、休みが長引けばクビにすると宣告した。(一カ月)
 Iその厳しい処置は、エリスが相沢の愛人になることを断ったからである。(座頭)
 Jエリスは、トヨの愛を信じていたので、ロシア行きに不安を感じていなかった。○
 Kトヨは、停車場でエリスが泣くと困るので、エリスと母を知人の家にやり、一人で旅 立った。○
 Lトヨは、巴里絶頂の贅沢を尽くした魯西亜のペエテルブルグの宮殿で、得意の仏蘭西 語で通訳の役目を忠実に果たした。○

8.《板》ヌ大臣の信用を得つつある。
 1)【L1】なぜ大臣の信用を得つつあると分かるのか。
  ・意見を問う。笑い話をする。
   【説】笑い話をするのは、信用の証拠。
 2)【説】しかし、豊太郎は気づかない。

9.《板》ネ1カ月後、大臣からロシア同行を打診され、承知する。
 1)【L1】大臣の依頼の仕方は。
  ・「従ひて来べきか」
   (付いてくるか)
  ・疑問であるが、実は命令である。
 2)【L1】豊太郎の返事は。
  ・「いかで命に従はざらん」
   (どうして命令に従わないことがありましょうか、絶対に従います)
  ・反語。即断。
 3)【L1】なぜ、驚いたのか。
  ・最近相沢に会っていないので、情報も入って来なかった。
 4)【L1】なぜ、即断したのか。
  ・信頼している人の依頼はすぐに引き受ける。
  ・答えの影響をよく考えない。
  ・我慢して実行する。
   【説】自我に目覚める前の豊太郎に戻っている。
 5)【L2】「答への影響」とは。
  ・大臣の信用を得て、再び出世する。
  ・エリスとしばらく別れて暮らす。
 6)【L1】送り出すエリスの気持ちは。
  ・偽りのない豊太郎の心を厚く信じている。

10.《板》ノロシアで通訳をする。
 1)【L2】豊太郎の気持ちは。
  ・充実している。

11.【指】「この間、余はエリスを〜天方伯の手中にあり」をペアリーディングさせる。
12.【指】4人チームで「チェックプリント」14〜32を解答させる。
13.【説】訳しながら正解を確認する。
 Mトヨは、この間すっかりエリスのことを忘れていた。(忘れることができなかった)
 N「忘れざりき」ではなく、「え忘れざりき」とある。
 Oエリスの1通目の手紙は、一人で暮らすことの心細さが切々と書いてあった。○
 Pエリスの2通目の手紙は、「ディアー、トヨ」で始まっていた。(否)
 Qトヨは、日本に身寄りがないので、独逸で生活できるなら留まると言っていた。○
 Rエリスは、金の力でトヨを独逸につなぎ止めるつもりだと書いた。(愛)
 Sもしトヨが日本に帰るなら、母と付いていきたいが、飛行機代がないと書いてあった。 (船)
 21独逸でトヨが出世するのを期待していると書いてあった。○
 22トヨが旅立って一カ月後、別れの寂しさは日増しに強くなると書いてあった。(二十 日)
 23食べ過ぎでお腹が大きくなったので、絶対絶対捨てないでと書いてあった。(妊娠)
 24母はエリスの成長を見て、独逸の片田舎の親戚の所に身を寄せることになったと書いてあった。○
 25相沢の信用を得たなら、エリスの旅費は出してくれるだろうと書いてあった。(大  臣)
 26トヨは、エリスの1通目の手紙で、初めて自分の地位に気づいた。(2通目)
 27トヨの決断力は、順境で働いたが、逆境では働かなかった。○
 28トヨは、大臣の信用が出世につながることを計算して、翻訳の仕事を忠実に果たした。(せずに)
 29トヨは、自分の地位を知ってヤッターと思った。(冷静でいられなかった)
 30相沢は、トヨが大臣の信用を得つつあることを知っていたが、公の事なので言うに言えず、ヒントを出していたが、トヨは気づかなかった。○
 31「言葉の端々に「本国に帰りて後もともにかくてあらば云々と言ひ」とある。
 32相沢は、トヨがエリスと別れると約束したことを、速攻で大臣に伝えていた。○
 33トヨは、自我の目覚めが本物であることに気づいた。(偽物)
 34トヨの自由を束縛していたのは、昔は母、今は相沢である。(官長、大臣)

14.《板》ハエリスから手紙を受け取る。
 1)【説】豊太郎の運命を左右する3通目の手紙である。
 2)【説】手紙の内容
  ・愛の力でドイツにつなぎ止める。
    ↓それができなければ
  ・母と一緒に日本へ付いて行く。
    ↓旅費がない。
  ・どんなことをしても、ドイツで出世してほしい。
  ・お腹が目立つようになったので絶対見捨てないでほしい。
  ・私一人で日本に付いていく。
  ・大臣に重く用いられたら、私の旅費は出してもらえる。
 3)【L2】エリスの気持ちは。
  ・豊太郎の出世の可能性に気づいている。
   【説】現実的である。
  ・一緒に帰国できると思っている。
   【L2】一緒に帰国できるか。
    ・できない。
    ・甘さ、幼さ。
    ・日本社会がそれを許さないことは知らない。
 4)【L1】エリスの手紙を読んだ豊太郎の気持ちは。
  ・今までは出世を考えずに仕事をしてきた。
  ・出世の可能性に初めて気づく。
   【説】初めて気づいたことは、神に誓って本当である。
  ・冷静ではいられなくなった。
   【L2】どう思ったのか。
    ・出世したい。
 5)【L1】大臣の信用をどのような比喩でたとえているか。
  ・屋上の鳥。
  【L2】第7段落では。
   ・はるかなる山。
 6)【L1】なぜ、大臣の信用を得たのか。
  ・語学の才能が認められたから。
  ・女性関係を清算した思っているから。
 7)【L1】なぜ、大臣は女性関係が解決したと思っていたのか。
  ・エリスと別れる約束を、相沢が大臣に伝えていたから。

15.《板》ヒ自我の目覚めが偽物であったことに気づく。 
 1)【L1】自分を何にたとえているか。
  ・足を縛して放たれし鳥。
 2)【L1】足を縛っていたものは。
  ・先は、官長。
  ・今は、大臣。

16.【指】「余が大臣の一行とともに〜涙満ちたり。」をペアリーディングさせる。
17.【指】4人チームで「チェックプリント」33〜39を解答させる。
18.【説】訳しながら正解を確認する。
 33トヨがベルリンに帰ったのは、大晦日の夜である。(元旦の朝)
 34エリスは、悲しみの余り、人目をはばからずトヨに抱きついた。(喜び)
 35トヨは、エリスと再会する前は、望郷の念と出世欲の方が、愛情より強かった。○
 36トヨは、エリスと再会した後も、望郷の念と出世欲は強かった。(消えた)
 37エリスがトヨに喜んで見せたのは、白い木綿のハンカチーフだった。(おむつ)
  ・太田裕美の懐かしい歌である。
 38エリスはトヨにお腹の子の認知を迫った。○
  ・「よもあだし名をば名のらせたまはじ」と言っている。
 39エリスは、赤ん坊が教会で洗礼を受けることが悲しくて泣いていた。(うれしく)

19.《板》フ元旦の朝、ベルリンでエリスと再会する。
 1)【L1】再会の前と後の豊太郎の気持ちの変化は。
  ・前=故郷を思う気持ち(帰国)と栄達を求むる心(出世)。
  ・後=エリスへの愛。
 2)【L3】なぜ、変わったのか。
  ・目の前の状況に左右される。
  ・優柔不断。
 3)【L1】エリスの気持ちは。
  ・「よもあだし名は名のらせまはじ」
   (まさか別の姓は名のらせないでしょうね)
  ・子どもの認知を迫る。
 4)【L4】それに対する豊太郎の気持ちは。
  ・負担に感じているのかどうか。

20.【指】漫画1とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。


第九段(二、三日の間は大臣をも〜そのまま地に倒れぬ。)

大臣から帰国の命令が下る。エリスのことを理由に帰国をを断ることは相沢の顔を泥を塗ることになる。もしこのチャンスを逃せば日本に帰ることも出来なくなり、名誉を回復することもできなくなる。このドイツでうだつの上がらぬまま死んでいくのかというかつてのエリート意識が頭のそこから突き上げてきて、帰国を承知してしまう。しかし、エリスにどのように説明すればよいのか。雪の街を一晩中彷徨った挙げ句、家にたどり着くと同時に高熱で倒れてしまう。

1.【指】「学習プリント第九段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 10 待遇  滞留  係累 11 心頭  特操  承り  額  叱せられ  傍ら  槌  庇 12 瓦斯灯  寝ねず  鷺  覆はれ  這ふ  庖厨  13 蒼然
3.【確】語句の意味を確認する。
 滞留=旅先などで長くとどまること。
 特操=終始一貫して変わらない自分の志。
 黒がねの額=恥知らずで厚かましいこと。鉄面皮。
 蒼然=色が黒ずんで青々としているようす

4.【指】ペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで、解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
 @トヨは、一週間後の昼過ぎ、大臣を見舞いに訪れた。(二、三日後の夕方、招待された)
 A大臣の扱いは、冷たかった。(厚かった)
 Bその理由は、大臣がトヨの法学を評価したからである。(語学)
 Cもう一つの理由は、トヨのエリスと別れるという約束を、大臣が相沢から報告を受けたからである。○
 D大臣は、一緒に帰国するように半ば強制的に伝えた。○
 Eトヨは、相沢との約束は嘘だったと言った。(言えなかった)
 F断れば帰国や名誉回復の機会は二度となく、ベルリンでフリーターになると思った。 ○
 Gトヨは、一週間の猶予をもらった。(すぐに承諾した)
 Hトヨは、帰ってエリスに帰国することをキッバリと伝えようと決意した。(何と言おうか迷った)
 Iホテルを出た時のトヨの気持ちは落ち着いていた。(錯乱していた)
 Jトヨは、すぐに家に帰った。(街をさまよった)
 Kトヨは、古い教会の近くのベンチに長時間座り込んでいた。(動物園)
 Lトヨは気がつくと外套や帽子は夜露に濡れていた。(雪が積もっていた)
 M十時五十三分頃に再び歩き始め、〇時十七分頃にブランデンブルグ門に到着した。(十一時過ぎ、クロステル巷)
 N一月上旬の夜だったので、空には上弦の月が出ていた。(雪が降っていた)
 O周囲の居酒屋や喫茶店はひっそりしていた。(賑わっていた)
 Pトヨの頭の中はエリスへの罪悪感でいっぱいだった。○
 Qトヨが家にたどりついた時、エリスはすでに寝ていた。(まだ起きていた)
 R降りしきる雪の間に見えるエリスの家の窓の明かりは、まるでエリスの運命のようだ った。○
 S家に帰ったトヨに、エリスは「おかえりなさい」と言った。あっ、その姿はどうした  のか)
 21トヨの顔色は青白く死人のようで、髪は乱れ、服は汚れ破れていた。○
 22トヨは帰宅と同時に、帰国を承知したことをエリスに伝えた。(倒れた)

8.《板》ヌ大臣から一緒に帰国を命じられる
 1)【L1】大臣が帰国を勧めた理由は。
  ・豊太郎の語学の才能を認めた。
  ・豊太郎がエリスと別れたと、相沢から報告を受けていた。
  【説】エリスと別れることが帰国の条件であった。
 2)L1】豊太郎が承知した理由は。
  ・「承りはべり」
   ・相沢の信用を傷つけられない。
   ・この機会を逃せば、帰国も出世もできない。
 3)【L3】エリスと別れていないことを言えば、相沢はどうなるか。
  ・相沢が嘘を言っていたことになれば、相沢の信用がなくなる。
  ・相沢が嘘をついていないとすれば、人を見る目がないことになり、やはり信用がな   くなる。
 4)【L2】エリスと別れると約束した時や、ロシア行きを承諾した時との違いは。
  ・エリスと別れる時は、友だちの言うことに否と言えない。
  ・ロシア行きの時は、信用している人の依頼を断われない。
  ・帰国の承諾は、帰国や出世がしたいから。
  【説】確信的な意志。

9.《板》ネエリスを裏切った罪悪感に苦しむ
 1)【説】苦しむ様子。
  ・雪の降る中を一晩中歩き回った。
  ・自業自得である。
 2)【L3】いい解決方法があるか。
  a正直に話せばどうなるか。
   ・エリスに激しく非難される。
   ・帰国をあきらめるかもしれない。
  b黙って帰国できるか。
   ・豊太郎の弱い心は隠しきれない。
   ・勘の鋭いエリスは必ず気づく。
  c黙ったまま残留すればどうなるか。
   ・帰国や出世のチャンスは二度とない。
   ・相沢の信用を傷つける。
   【説】どの場合も行き詰まることに気づかせる。
   【説】今まで問題を先延ばしにしていた報いが来た。

10.《板》帰宅と同時に倒れる。
 1)【L2】どんな意味があるか。
  ・一時的にしろ、エリスに帰国を説明しなくてすむ。
  ・再び問題の先延ばし。

11.【指】漫画1とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。


第十段(人事を知るほどに〜おわり)

 豊太郎が倒れている数週間の間に、相沢がエリスに真実を伝え、エリスが発狂する。相沢も自分の身分を守るのに必死だったろう。卑しい職業のエリスがどうなろうとかまわなかったのだろう。意識が戻った豊太郎は発狂したエリスを抱きしめて涙を流す。そして、エリスと子どものことをエリスの母親に頼んで帰国する。豊太郎の心には相沢に対する人知らぬ恨みが残る。

1.【指】「学習プリント第十段」を配布する。
2.【確】漢字の読みを確認する。
 13 懇ろ  顛末  繕ひ  窪み  14 一諾  躍り上がり  欺き   み   赤児  治癒  癲狂院  欷歔  癒え  屍  15 帰東  脳裏
3.【確】語句の意味を確認する。
 ・人事=意識。
 ・顛末=はじめから終わりまで。一部始終。
 ・つばら=くわしいこと。
 ・一諾=承諾。
4.【指】ペアリーディングさせる。
5.【指】「チェックプリント」を配布する。
6.【指】4人チームで、解答させる。
7.【説】訳しながら正解を確認する。
 @トヨは、数日間意識不明だった。(数週間)
 A看病していたのは、エリスの母だった。(エリス)
 Bその間に、大臣が見舞いに来た。(相沢・様子を見に)
 C「余が彼に隠したる顛末」とは、意識不明になっていたことである。(エリスと別れ ていないこと)
 D相沢は大臣に、病気のことと、トヨがエリスと別れていないことを報告した。(だけ を)
 Eトヨの意識が回復した時、エリスは丸々と太り、精神的に死んでいた。(やせ細り)
 F「余が相沢に与へし約束」とは、エリスを相沢に譲るという約束である。(エリスと 別れる)
 G「かの夕べ大臣に聞こえ上げし一諾」とは、ロシア同行を承知したことである。(帰 国を承諾したこと)
 Hエリスは相沢から真実を聞き、初めてだまされたことに気づいて叫び、寝ている豊太 郎につかみかかった。(倒れた)
 I目を覚ましたエリスは暴れ回ったが、よだれかけを与えると、涙を流して泣いた。  (おむつ)
 J「過激なる心労」とは、流産したことである。(豊太郎に騙されたこと)
 Kエリスの病気は一種の精神病で、回復の見込みはなかった。○
 Lエリスは、ダルドルフの精神病院に入院した。(しなかった)
 Mエリスは、時々「シャブをくれ、シャブをくれ」と言った。(豊太郎に薬をあげなく ては)
 N病気から回復したトヨは、エリスを抱いて何度も涙を流した。○
 Oトヨは、エリスの母に慰謝料を渡して帰国した。(生活費)
 Pトヨは大臣を恨んでいる。(相沢)
 Qこの時、トヨは二十九才である。(二十七才)[22歳で留学して5年間]

8.《板》ヌ相沢が訪問する
 1)【L2】なぜ来たのか。
  ・ホテルに来ないので様子を見に来た。
  ・見舞いではない。
 2)【L3】相沢の気持ちは。
  ・豊太郎がエリスと別れていないことに驚く。
  ・約束を破った豊太郎を恨む。
 3)自分の詰めの甘さを後悔する。
  ・保身のために、どう対処するかを考える。
 4)【L1】相沢の取った行動は。
  ・エリスに真実を伝える。
  ・大臣には病気のことだけを報告する。
 5)【L2】大臣には病気の事だけを伝えた理由は。
  ・豊太郎がエリスと別れていないことが大臣に知れれば、自分の地位も危ない。
 6)【L1】エリスに伝えた真実とは。
  ・相沢にエリスと別れる約束をしたこと。
  ・大臣に帰国の承諾をしたこと。
 7)【L2】相沢がエリスに真実を伝えた理由は。
  ・今からでもエリスと別れさせねばならない。
  ・豊太郎の弱き心から考えると、豊太郎の口から真実を伝えるのは難しい。
  ・エリスがどう思うか、どうなるかは考えていない。

9.《板》ネエリスが発狂する
 1)【L1】エリスが相沢から真実を聞かされた時の気持ちは。
  ・「過激なる心労」
    ・豊太郎に裏切られたショック。
  ・「我が豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺きたまひしか。」
 2)【L2】発狂後の様子は。
  ・赤ん坊のことを忘れられない。
  ・まだ、豊太郎は意識不明だと思っている。
  ・裏切られる前で時間が止まっている。
 3)【L1】豊太郎の行動は。
  ・エリスを抱いて涙を流す。
 4)【L2】その時の豊太郎の気持ちは。
  ・エリスを愛している。
  ・エリスに謝罪している。
 5)【L4】もしエリスが発狂していなければ、エリスを抱けたか。
  ・怒りにふれて近づくこともできない。
  ・豊太郎にとっては好都合。

10.《板》ノエリスを残して帰国するについて
 1)【L3】豊太郎のエリスに対する気持ちは。
  ・罪悪感。
  ・少し安心している。
   ・発狂したのだから強引に引き止められなくてすむ。
 2)【L1】豊太郎の相沢に対する気持ちは。
  ・相沢を憎む心が今日まで残っている。
  【説】これが「人知らぬ恨み」である。
 3)【L4】なぜ、豊太郎は相沢を憎んでいるのか。
  a.エリスを発狂させたから。
   ・相沢が言わなければ、いずれ豊太郎が言わなければならなかった。
   ・相沢に自分の責任を転嫁していることになる。
  b.再び出世の道を開いたから。
   ・エリスが妊娠した時に将来に不安を覚えていた。
   ・エリスとの破局はいずれやって来たはずである。
  c.エリスと別れる約束をさせたから。
   ・いずれ、現実に負けて愛は冷めるかもしれない。
   ・結果的には、豊太郎はエリスから直接非難されなくてすむ。
   ・にもかかわらず、責任転嫁である。
11.【指】漫画1とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。


全体を振り返って


1.「舞姫」と現実の異同を考える。
 1)【指】「『舞姫』の真実」を配布する。
 2)【指】音読する。
 3)【L2】「舞姫」と真実の異同は。
  ・エリスが実在した。
  ・エリスは発狂しておらず、来日した。
  ・エリスとは深い関係ではなく、妊娠もしていない。
  ・父も母も健在で、母は森家の中心的存在である。
  ・一人っ子でなく、妹がいる。

3.太田豊太郎と森鴎外を比較する。
 1)【指】「太田豊太郎と森鴎外」を配布する。
 2)【L1】「太田豊太郎」の年齢と出来事を記入する。
 3)L2】年号を記入する。
  ヌエリスの妊娠が明治21年、その年に相沢の手紙があり、1カ月後ロシア行きがあり、伯林には元旦の朝に帰ったのだから、帰国は翌年の22年に   なる。
  ネ5年間留学していたのだから留学したのは17年になる。
  ノそこから3年前の14年に大学卒業、3年後の20年に自我の目覚め。
 4)【説】鴎外の経歴を説明する。
                                        
 文久二  鴎外誕生。
       4人兄弟の長男。[一人っ子](男3人女1人。長男として一家の期待を背負っている点は同じ)
       母峰子17歳。[30歳前後]
       父も健在
  七 12 東京医学校(東大医学部)入学。[法学部](入学は普通は14〜19歳。生年月日を詐称した)
 一四 19 28人中8番で卒業。[首席](卒業直前に下宿が火事になりノートが消失したり、肋膜炎になった。
       外科担当のドイツ人教師の講義を漢文で筆記していたので睨まれていた。
       文部省からの官費留学を希望したが、卒業成績が2位以内でないと資格がなかった)
       陸軍省に就職。[某省に就職](父の縁故で軍医として就職。自分の意志ではなかった。映画では陸軍軍医だった)
 一七 22 軍医として留学。[この時、母は50過ぎ](母は39歳。自分と家の名誉のためであることは同じ)
      (母は健在)
      (「独逸日記」によると留学生仲間とはうまくやる。エリスも出てこない
 二一 26 鴎外帰国。[27歳で帰国](「舞姫」より一年はやい)
 5)【説】帰国後の鴎外のプロフィールを説明する。
 二一 26 9.7 鴎外帰国。
       9・12 エリス来日。(鴎外は、エリスが自分の後を追って船に乗ったことを同船の上官石黒に報告している)
           母を中心にエリスを説得する
      10・17 エリス帰国。帰国を見送った後、石黒に報告している。陸軍でも問題になっていた)
      11・7 海軍中将赤松氏の長女登志子と婚約。(婚約は帰国前から決まっていた。)
 二二 27 1  執筆活動再開。
      3.6 登志子と結婚。(母峰子の計画通り。養子ではないが赤松家の持家に移る。
          赤松家の老女、女中、鴎外の弟二人、妻の妹と同居。赤松家主 導の生活。
          弟の魚が小さいと言って叱ったり、文学仲間と徹夜で討論したりして鬱憤を晴らす)
 二三 28 1   「舞姫」を『国民之友』に発表。
      9.13 長男於莵(オットー)誕生。
      10.4 家出。
      11・27 離婚。(性格の不一致。家柄の違い。美人でない。母も登志子を気にいっていなかったという説もある)
 三五 40    判事荒木氏の長女志げ(22)と再婚。(「美術品ラシキ妻」という程の美人)
          長女茉莉(マリ)
          次男不律(フリッツ)
          次女杏奴(アンヌ)
          三男類(ルイ)
 大11 619.7 死去。(鴎外は遺書に、「墓ハ森林太郎墓ノ外一字モホル可ラス」と書き、
          没年の「大正」と刻むことを拒否した。
          それは、「正」が「一而止」という不吉な年号であるにもかかわらず制定した日本政府への絶望の表れ。
          自分の子に欧風の名をつけたのも同じかもしれない。
          そして、「舞姫」の執筆動機も同じかもしれない)
 6)【説】補足説明をする。
   ・鴎外自身と、埼玉県秩父郡太田村出身の武嶋務(日本人で二人目の私費留学軍医)で、豊太郎と同じような経緯で同郷の谷口謙の中傷で免職となり、ベルリンに留まってドクトルをとるために頑張った。



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