行く川の流れ
川の流れは全体としてみた時は、永遠に変わらないように見えるが、部分としてみた時は絶えず変化している。淀みに浮かんでいる水の泡もできたり消えたりして、長くとどまっている例はない。人と住いの関係も同じである。
都の中で家の大きさや立派さを争っている、身分の高い人や低い人の住いも、全体として見た時はいつも誰かの家が建っているが、部分的に見た時は昔からずっとある家は少ない。住んでいる人も、全体として見た時は数は変わらないが、昔からいる人はわずかである。朝に死んで夕方に生まれ、また次の朝に生まれ夕方に死ぬという繰り返しは、水の泡に似ている。
人はどこから来てどこへ去るのかわからないし、住いは誰のために苦心し誰の目を喜ばせるためのものかわからない。
住いと人がどちらが先に滅びるかは、朝顔と露の関係と同じである。露が先に消えて朝顔が残る場合もあるが、朝顔も朝日に当たると枯れてしまう。また、朝顔が先にしぼんで露が残る場合もあるが、露も夕方まで残ることはない。どちらが遅い早いはあるものの、まもなくどちらも滅びていくのだ。そんな住いに汲々としてとして心を悩ませるのは人生の浪費である。
ここでは内容的には長明の無常観を理解させる。平安末期、1年生の現代文で学習した『羅生門』のような時代を体験した長明がこのような人生観にたどり着いたのは理解できるだろう。そして、東稜高校の近くの日野の方丈(三メートル四方)の草庵で書き記したものである。
文体として目立つのは、人と住いの比喩である。人は、川の水、うたかた、露に例えられる。住いは、川の流れ、淀み、朝顔に例えられる。それをつなぐのが指示語である
また、人と住いに関する対句の多用である。その順序が交互になっているのも、無常を争っている様子を表現している。
1.教師が範読する。
2.生徒と一緒に音読する。
3.学習プリント配布する。
3.行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
1)「しかも」の接続は順接か逆接かを考える。
2)内容を理解する。
4.淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。
1)「かつ〜、かつ〜」の意味を確認する。
2)内容を理解する。
5.世の中にある、人と栖と、また、かくのごとし。
1)「世の中にある」がかかる部分を考える。
2)「かくのごとし」の指示内容を考える。
住か=川の流れ(入れ物)
6.たましきの都の内に、棟を並べ、甍を争へる、高きいやしき人の住まひは、世々を経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。
1)「棟を並べ、甍を争へる」とは何を競っているのかを考える。
2)「高き、いやしき」は何が高い低いのかを確認する。
3)「尽きせぬものなれど」の助動詞の意味を確認する。
4)「これをまことか」の指示内容を考える。
5)「ありし」の助動詞の意味を確認する。
7.あるいは、去年焼けて今年作れり。あるいは、大家滅びて小家となる。
1)「大家滅びて、小家になる」の様子を考える。
2)自分の家の周りを考える。
8.住む人もこれに同じ。
1)「これに同じ」の指示内容を考える。
9.所も変はらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二、三十人が中に、わづかに一人 二人なり。
1)「見し人」の助動詞の意味を確認する。
2)生まれてからずっと同じ家に住んでいる人が何人いるか聞いてみる。
10.朝に死に、夕べに生まるるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける。
1)「水の泡にぞ似たりける」の係り結びを確認する。
2)a)「朝に死に、夕べに生まるる」とb)「朝に生まれ、夕べに死ぬる」の違い。
11.知らず、生まれ死ぬる人、いづ方より来たりて、いづ方へか去る。
1)修辞法は。
2)「いづかたへか去る」の係り結び。
3)生まれる人はどこから来て、死んだ人はどこへ行くのかを考える。
12.また知らず、仮の宿り、誰がためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる。
1)「たがためにか心を悩まし、なにによりてか目を喜ばしむる」の係り結びと助動詞の意味を確認する。
2)人は何のために自分の家を持とうとするのかを考える。
13.その、主と栖と、無常を争ふさま、いはば朝顔の露に異ならず。
1)「その」は何に掛かるかを考える。
2)「朝顔の露に異ならず」の「の」の訳し方。
3)「あるじとすみか」と「朝顔と露」の関係。
4)「無常」の意味を確認する。
14.あるいは、露落ちて花残れり。残るといへども、朝日に枯れぬ。あるいは、花しぼみて露なほ消えず。消えずといへども、夕べを待つことなし。
1)「枯れぬ」の助動詞の意味を確認する。
2)朝顔と露が「無常」を争っている様子を確認する。
15.主題を表す言葉。
16.各段落での比喩と内容を整理する。
┌─川の流れ=絶えずして、もとの水にあらず。
└─うたかた=久しくとどまりたるためしなし。
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