光源氏の誕生(桐壺)  藤壺の入内  若紫との出会い(若紫) 藤壺の里下がり(若紫) 藤壺の出産(紅葉賀) 柏木と女三宮(若菜上) 柏木、女三宮に迫る(若菜下) 御法


光源氏の誕生(桐壺)


 源氏物語の冒頭の部分である。いつの時代であったかと、式部はとぼけているが、現在進行形であることは当時の読者には見え見えであった。古典となってしまえば、妙に文学性云々の議論ができるが、当時のスキャンダル連載小説である。
 ヒロインは桐壺の更衣。更衣というのは女御のワンランク下の身分。その更衣ランクの桐壺の更衣が帝の寵愛を独占したのだから、宮中は大騒ぎである。みんながみんな帝の寵愛を受けようと自信満々に入内してきた女性ばかり、しかも女性だけの社会は感情の渦が激しく渦巻く。ランクの上の女御は内心穏やかではないがそれを表情に出すのははしたないので、彼女を蔑むことで憂さを晴らすこともできる。しかし、同ランクや下のランクの更衣たちは嫉妬心の塊となる。朝夕彼女が出勤してくるたびに恨みの感情が宮中に充満し、彼女に非常な重圧としてのしかかる。とうとう病気になり、欠勤がちになる。すると彼女に会えない帝の寵愛は却って強くなり、無理やりに呼び出して一層の愛情を注ぐ。人の非難もなんのその、宮中の秩序を破壊する前例になってしまいそうな寵愛ぶりである。非難は、女御や更衣たち女性に止まらず、彼女らの保護者である、そして彼女らを出世の手段にしている貴族たちにも広がる。さらには世間でも、唐の玄宗皇帝と楊貴妃の例のように世の中の乱れを危惧する声が高まってくる。しかし、桐壺の更衣にとっては、帝の寵愛にすがるしか生きていく術はない、悲しい女の境遇である。
 彼女の父である大納言は死んでしまい、古風で由緒のある母の北の方だけが、両親が揃っていて、社会的にも華々しい活躍をしている貴族たちに負けないように、どな儀式でも取り仕切っていた。現在でも、母子家庭は何かにつけてハンディを背負っているのに、当時の男性中心の貴族社会で、金と名誉が優先される交際を、女手一つで遣り繰りしていくのは至難の業である。しっかりしたパトロンがいないので、大きな儀式などがあって莫大な費用がかかるときなどはどうしようかと思うと心細い。
 そんな折り、前世からの因縁が深かったのだろうか、桐壺更衣は「世になく清らなる玉の男皇子」を出産する。帝の子を産むだけでも幸運であるのに、ましてや男の子である。皇太子になることさえ可能である。とすれば桐壺の更衣は一気に皇后になり、その一族は栄華を極めることができる。帝は最愛の桐壺の更衣との間にできた子どもを早く会いたくて催促してご覧になると、非常に可愛いので大満足される。右大臣の女御との間にすでに男の子が生まれているので、その子が皇太子になることは世間も認知している。公の地位はその子に譲るとして、この子は自分のものとして特別な愛情をお注ぎになる。

 作品的にも文学史的にも重要な部分であるので精読していきたい。語釈や文法事項を押さえながら正確な現代語訳をつけていく。語釈は重要語句に限り、原義などにも触れ語のネットワークを広げていく。文法は解釈に必要ものと入試に出題されそうなものについて考える。敬語が多用されているので解釈と合わせて主語を考えていきたい。また、当時の宮中の仕組みなど有職故実についても説明し、人々の心理について理解を深めていく。


0.学習プリントを配布し、書写と意味調べを宿題にする。
1.宿題を点検する。
2.教師が音読する。
3.生徒と音読する。
4 登場人物を整理する。
 ・桐壺更衣 女御 更衣 帝 上達部 上人 父の大納言(死亡)・母北の方

5.いづれの御時にか、女御・更衣あまた候ひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。
 1)書き出しについて説明する。
  ・「今は昔」「昔」で始まる作品が多い。
  ・時代を曖昧にしているのは、スキャンダルな内容なのでカモフラージュしている。
 2)「御時」「やむごとなし」「際」「時めく」の意味を確認する。
  ・やむごとなし=原義はそのまま捨てておけないの意。そこから、捨てておけないような重々しく扱うべきもの、大切な物の意味。(1)捨てておけない。(2)たいせつだ。(3)高貴だ。(4)学識や世評が高い。(5)格別だ。
 3)女御・更衣の身分について説明する。
  ・女御は大臣の娘、更衣は大納言以下の娘。后は女御の中から選ばれるのが普通であった。
  ・大臣とは、摂政・関白・太政大臣・左大臣・右大臣・内大臣、大納言以下は、中納言・参議・左弁官・少納言・右弁官。
 4)「御時にか」の結びの省略を考える。
  ・あらむ。
 5)「いと〜打消語」の意味を確認する。
  ・あまり〜ない。
 6)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・さぶらひ(「仕ふ」の謙譲語。→帝)たまひ(尊敬の補助。→女御更衣)
   お仕え申し上げなさった。
  ・時めき+たまふ(尊敬の補助。→桐壺更衣)
 7)「いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めきたまふ(人)」とは誰かを説明する。
  ・この巻のヒロインである、源氏の母親である桐壺更衣。

6.初めより、我はと思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。
 1)「めざまし」「おとしむ」「そねむ」「下臈」「安し」の意味を確認する。
  ・めざまし=身分の高い人から低い人を見て、目が覚めるほど、よい意味にも悪い意味にも用いる。(1)思いのほか素晴らしい。(2)気に食わない。
 2)ウ「我は」の後の省略を考える。
  ・時めかむ
 3)「初めより我はと思ひあがりたまへる御方々」とは誰かを考える。
  ・女御たち。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・そねみ+たまふ(尊敬の補助。→女御)
 5)女御や更衣の気持ちと、当時の后の決め方を説明する。
  ・誰が中宮や皇后の座につくかが、後宮最大の関心事であった。娘の生んだ男皇子が皇太子になり、天皇になれば、一族は外戚として権力を掌握できる。自家の権勢拡充のために後宮に娘を送り込み、娘たちも家の繁栄のために帝の寵愛を受けようと必死であった。
  ・この時代は、帝が幼年で中宮さえ決まっていない。
  ・後宮の秩序が保たれるためには、帝は女御の親の身分に応じて寵愛しなければならない。寵愛を受ける身分でない更衣を寵愛したことは、帝が秩序への反乱を企てたことになる。
  ・女御は、自分より身分の低い更衣が寵愛を独占するこど目障りで癪に思うが、身分の低い者がと軽蔑することでまだ気が納まる。
  ・更衣は、ライバルに先を越されただけに、嫉妬心がいっそう強い。

7.朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、いと篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえ憚らせたまはず、世の例にもなりぬべき御もてなしなり。
 1)「篤し」「里がち」「飽かず」「そしり」「憚る」「例」「もてなし」の意味を確認する。
 2)「恨みを負ふ積もりにやありけむ」の係り結びを考える。
  ・や(疑問)→けむ(過去推量・体)
 3)「世の例にもなりぬべき」の助動詞を確認する。
  ・ぬ(強意)べき(当然)
 4)主語を考える。
  ・(桐壺更衣は)朝夕の〜(帝は)いよいよ〜。
 5)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・思ほし(「思ふ」の尊敬。→帝)
  ・憚ら+せ(尊敬の助動詞)たまは(尊敬の補助。→帝)
 6)「人の心をのみ動かし」の「人」とは誰か、どのように動かしたのかを考える。
  ・人=女御や更衣。
  ・動かし=嫉妬心をかきたて、恨みを買う。

8.上達部・上人などもあいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。「唐土にも、かかる事の起こりにこそ、世も乱れ悪しかりけれ。」と、やうやう、天の下にも、あぢきなう人のもて悩みぐさになりて、楊貴妃の例も引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心ばへの類なきを頼みにて交らひたまふ。
 1)「あいなし」「そばむ」「まばゆし」「おぼえ」「あぢきなし」「はしたなし」「かたじけなし」の意味を確認する。
  ・まばゆし=(1)光がまぶしい。(2)まぶしいほど美しい。(3)恥ずかしい。(4)はなはだしい。
  ・おぼえ=(1)評判。(2)寵愛を受けること。(3)記憶。(4)自信。
  ・かたじけなし=(1)みっともない。(2)恐れ多い。(3)ありがたい。
 2)「上達部」「上人」の説明をする。
  ・上達部=三位以上と四位の参議。公卿。
  ・上人=四、五位または六位の蔵人。殿上人(清涼殿の殿上の間に昇殿を許された者。
 3)「起こりにこそ」の係り結びを考える。
  ・こそ→悪しかりけれ
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・交らひ+たまふ(尊敬の補助。→桐壺更衣)
 5)「かかる」の指示内容を考える。
  ・帝が身分の高くない更衣を独占的に寵愛すること。
 6)楊貴妃の例について説明する。
  ・唐の玄宗皇帝が、楊貴妃を溺愛して政治を顧みなかったために、安禄山の乱を招き、唐が滅びる遠因になった。楊貴妃は逃亡途中で処刑された。
  ・現代なら皇室の話題はマスコミで取り上げられるが、当時はそのようなことはないのに、皇室のスキャンダルが一般の人々にまで噂になったの異例である。ここでは中国の例を引いて誇張している
 7)「まじらひたまふ」と「さぶらふたまふ」の違いを考える。
  ・「さぶらふ」ならば対象は帝である。
  ・「まじらふ」ならば対象は女御や更衣である。
  ・後宮では帝よりも女御や更衣との交際である。それだけに、女御や更衣から嫉妬されることは厳しい状況である。
 8)桐壺更衣の境遇を考える。
  ・帝の寵愛を独占するから、恨まれ、他人も自分もストレスが溜まる。
  ・しかし、身分が低いので帝の寵愛にすがらなくては生きていけない。
  ・悪循環のジレンマ。
  ・にもかかわらず、帝の寵愛を選ぶあたりは芯の強さを感じる。

9.父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人の由あるにて、親うち具し、さしあたりて世のおぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何ごとの儀式をももてなしたまひけれど、取り立てて、はかばかしき後見しなければ、ことある時は、なほ拠りどころなく心細げなり。
 1)「いにしへの人」「由」「具す」「おぼえ」「もてなす」「はかばかし」の意味を確  認する。
  ・おぼえ=ヌ評判。ネ寵愛を受けること。ノ記憶。ハ自信。(「御」がつけば帝の寵   愛、つかないと評判)
  ・いたう〜ず=あまり〜ない。
 2)「いにしへの人の由ある」の「の」の用法を考える。
  ・同格。
 3)「後見しなければ」の「し」の文法的意味を説明する。
  ・間投助詞(強意)
 4)「母北の方なむ」の結びを考える。
  ・「もてなしてまひける」となるはずであるが、接続助詞「ど」があるので、消滅している。
 5)「世のおぼえはなやかなる御方々」とは。
  ・女御たち。
 6)「後見」の説明。
  ・当時は経済的に支えてくれる後見がなければ宮仕えができない。入内は個人の問題 ではなく、一族の繁栄につながる。
 7)当時の儀式をとりしきる費用の説明。
  ・何かの儀式に参列するとなれば、衣装のコンクールになる。季節や身分や年齢に相応しい衣装を、本人だけでなく列席する女房すべてのために整えなければならないので、非常な経済的負担になる。
  ・父親を亡くして母親一人でこれをまかなうことは大変なことである。

10.前の世にも御契りや深かりけむ、世になく清らなる玉の男皇子さへ生まれたまひぬ。
 1)「契り」「清ら」の意味を確認する。
  ・契り=前世からの因縁。
  ・清ら=気品があって美しい。(最高の美しさ。高貴な理想的な人物限定)
 2)「玉の」について説明する。
  ・崇高な美の形容。
  ・源氏物語では、源氏と冷泉帝にのみ用いられる。
 3)「御契りや深かりけむ」の係り結びを考える。
  ・や(疑問)→けむ(過去原因推量の連体)
 4)「前の世」の説明をする。
  ・当時は仏教思想が強く、前世、現世、来世があると信じ、現世の出来事は前世の宿縁によるものであり、現世の行いが来世につながると考えた。
 5)「さへ」は添加の副助詞で、ある物にさらに物事を加わる意味を表すが、ここでは、何に何が加わったのか。
  ・帝の寵愛+男皇子の出産。
  ・男皇子は皇位継承権があり、皇后になるチャンスも出てきた。

11.いつしかと心もとながらせたまひて、急ぎ参らせて御覧ずるに、めづらかなる児の御容貌なり。
 1)「いつしか」「心もとなし」「めずらか」の意味を確認する。
  ・いつしか=早く〜したい。
  ・心もとなし=ヌ待ち遠しい。ネ気がかりだ。ノぼんやりしている。
 2)「いつしか」の後の省略を考える。
  ・見む。
 3)主語と目的語を明らかにして訳す。
  ・(男皇子を)早く見たいと(帝が)待ち遠しくお思いになって、(男皇子を)(帝の所に)急いで参上させて御覧になると、(男皇子は)めったにない素晴らしい子どもの顔だちである。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・心もとながら+せ(尊敬の助動詞)たまひ(尊敬の補助。帝)
  ・参らせ(「来」の謙譲。→帝)て御覧ずる(「見る」の尊敬。→帝)

12.一の皇子は、右大臣の女御の御腹にて、寄せ重く、疑ひなき儲けの君と、世にもてかしづききこゆれど、この御匂ひには並びたまふべくもあらざりければ、おほかたのやむ ごとなき御思ひにて、この君をば、私ものに思ほしかしづきたまふこと限りなし。
  1)「腹」「寄せ」「儲けの君」「かしづく」「匂ひ」「おほかた」「やむごとなし」の 意味を確認する。
   ・腹=(1)おなか。(2)その女性から生まれた子。(3)心の中。(4)中程の部分。
   ・匂ひ=(1)色が美しいこと。(2)つややかな美しさ。(3)香り。(4)栄華
   ・おほかた=普通の。
   ・やむごとなし=(1)やむをえない。(2)大切な。(3)高貴だ。(4)学識や世評が高い。(5)格別だ。
 2)「この御匂ひ」「この君」の指示内容を考える。
  ・光源氏。
 3)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・かしづき+きこゆれ(謙譲の補助。→一の皇子)
  ・並び+たまふ(尊敬の補助。→一の皇子)
  ・思ほし(「思ふ」の尊敬。→帝)
  ・かしづき+たまふ(尊敬の補助。→帝)
 4)源氏と一の皇子の比較。
  ・系図を確認する。
  ・一の皇子は右大臣の娘弘徽殿に女御の子どもで、身分も高く最初に出来た男の子な ので、当然皇太子候補である。だから、公的にそれ相応の可愛がり方をする。
  ・源氏は身分の低い更衣の子どもで、しかも帝にとっては次男にあたるので皇太子に はなれない。しかし、非常に可愛く、また最も寵愛していた更衣を子どもなので、私的に可愛がる。

13.冒頭の部分の近現代の作家の訳のプリントを配付して比較する。

14.マンガを配布する。


藤壺の入内(桐壺)


 桐壺更衣が亡くなってから何年立っても帝は桐壺の更衣が忘れられない。代わりを何人か入内させるが、桐壺更衣に匹敵する人はいない。そんな折、前帝の四女で美人の評判の高い人がいた。前帝にも前々帝にも仕えていた内侍が幼いころから知っていて、桐壺更衣に似てめったいない美しい方ですと保証するので、帝は本当かと思って心を込めて入内をお勧めになった。
 四女の母親は皇太子の母親の女御は意地が悪く、桐壺更衣も粗末に扱われた」と許可をなさらなかったが、亡くなってしまったので、四女も心細く思っていると、帝は、私の皇女と同列に扱いましょうとおっしゃるので、四女にお仕えしていた人々も後見人たちも兄も、四女が心細く思っているよりは入内したほうが心も慰むだろうと思って、入内させた。この方を藤壺という。本当に桐壺更衣にそっくりである。藤壺は身分も高く、皇女として扱われていくので見下す人もいないので、帝は桐壺更衣以上に遠慮なく振る舞っても文句を言われることはない。桐壺更衣の場合は囚衣が許さなかったので寵愛があいにくの結果になった。桐壺更衣を忘れることはないが、心は次第に藤壺に移っていくのも人情である。
 源氏も帝の側にいることが多いので、帝の所へ来る女御や更衣は顔をみられることを恥ずかしく思っていられない。どの方も自分は劣っていると思っておらず、それぞれ素晴らしいけれども、やふ年をとっている。その点藤壺は若くて可愛らしいので、一生懸命隠れても源氏に姿を見られてしまう。源氏は母の桐壺更衣の顔をしっかり覚えていないのだが、藤壺が桐壺更衣に似ていると典侍が言うので、幼心にもそうかと思って、藤壺と親しくしたいものだと思った。


0.学習プリントを配布し、書写と意味調べを宿題にする。

1.桐壺(一)から(二)までの粗筋を確認する。

2.年月にそへて、御息所の御事をおぼし忘るるをりなし。慰むやと、さるべき人々参らせたまへど、なずらひにおぼさるるだにいとかたき世かなと、うとましうのみよろづにおぼしなりぬるに、
 1)主語は。
  ・帝
 2)「御息所」とはだれか。
  ・桐壺
 3)係助詞「や」の意味と結びは。
  ・疑問。「あらむ」が省略。
 4)「さるべき人々」とは。
  ・帝の后としてふさわしい人々
 5)「参らせたまへど」の敬語と助動詞の意味は。
  ・謙譲→人々+使役+尊敬→帝
 6)「なづらひ」の意味は。
  ・(桐壺と)匹敵するもの
 7)副助詞「だに」の意味は。
  ・類推。〜さえ。
 8)「かたし」の意味は。
  ・難し。難しい。
 9)「うとまし」の意味は。
  ・嫌だと思う。
 10)副助詞「のみ」の意味は。
  ・限定。〜だけ。
 11)訳す。
  ・年月が経つに連れて、桐壺をお忘れになる時がない。慰むことがあるだろうかと、帝の后としてふさわしい人々を参上させなさるが、(桐壺と)匹敵するものとお思いになることさえ難しい世の中だと、すべ+35て嫌だとだけお思いになるところに、

2.先帝の四の宮の、御容貌すぐれたまへる聞こえ高くおはします、母后世になくかしづききこえたまふを、
 1)「先帝の四の宮」を藤壺とする。
 2)主語の変化は。
 3)格助詞「の」の用法は。
  ・同格。〜で。
 4)「聞こえ」の意味は。
  ・噂。
 5)「かしづく」の意味は。
  ・大切に育てる。
 6)「きこえたまふ」の敬語の種類と対象は。
  ・謙譲→藤壺+尊敬→母
 7)訳す。
  ・前の帝の四女で、顔だちが優れていらっしゃる噂が高くていらっしゃる方で、母が大切に育て申し上げあさっているなさっている方が

3.上にさぶらふ典侍は、先帝の御時の人にて、かの宮にも親しう参り馴れたりければ、いはけなくおはしましし時より見たてまつり、今もほの見たてまつりて、
 1)主語は。
  ・典侍
  ・天皇に仕え、女官の監督をした。
 2)「御時」の意味は。
  ・ご治世。治めている時代。
 3)「かの宮」とは誰か。
  ・藤壺。
 4)「いはけなく」の意味は。
  ・幼い。
 5)「いはけなくおはしましし」の主語は。
  ・藤壺。
 6)「ほの」の意味は。
  ・接頭語。かすかに。
 7)訳す。
 ・帝にお仕えする典侍は、前の帝の後治世の人であって、藤壺にも親しく参上して馴 れていたので、(藤壺が)幼くいらっしゃった時から見申し上げて、今もかすかに 見申し上げて

4.「うせたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を、三代の宮仕へに伝はりぬるに、え見たてまつりつけぬを、后の宮の姫宮こそ、いとようおぼえて生ひ出でさせたまへりけれ。ありがたき御容貌人になむ。」
 1)主語の変化は。
 2)「うす」の意味は。
  ・亡くなる。死ぬ。
 3)助動詞「に」の識別は。
  ・たまひに(完了)し
  ・御容貌人に(断定)なむ
 4)副詞「え」の意味は。
  ・可能。下に打消語を伴う。ここでは「ぬ」。
 5)係助詞の結びは。
  ・后の宮の姫宮こそ→けれ
  ・御容貌人になむ→(あらむ)
 6)「おぼえ」の意味は。
  ・似ている。
  ・@自然と思う。A思い出される。B似る。C人から思われる。E思い出す。F記憶   する。G思い出して語る。

 7)助動詞「させ」の意味は。
 ・尊敬。
 8)訳す。
  ・「お亡くなりになった桐壺の顔だちに似申し上げる人を、三代の宮仕えを続けてい  る間に見申し上げなかったのが、后の宮の姫君(藤壺)は、たいへんよく似て成長  なさった。めったいない美しい方である。

5.と奏しけるに、まことにやと御心とまりて、ねんごろに聞こえさせたまひけり。 
 1)主語の変化は。
 2)「に」の識別は。
  ・断定。
 3)係助詞「なむ」の結びは。
  ・(あらむ)
 4)「ねむごろに」の意味は。
  ・心を込めて。
 5)「聞こえさせたまひ」の敬語の種類と対象、助動詞の意味は。
  ・謙譲→藤壺+尊敬→帝。
 6)訳す。
  ・と(帝に)申し上げると、(帝は)本当であろうかと心に留まって、心を込めて   (藤壺に入内するように)申し上げなさる。

6.母后、「あな恐ろしや、春宮の女御のいとさがなくて、桐壺の更衣の、あらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしう。」と、おぼしつつみて、すがすがしうもおぼし立たざりけるほどに、后もうせたまひぬ。
 1)主語を確認する。
  ・母后
 2)「春宮の女御」は(一)で何と呼ばれていたか。
  ・右大臣の女御
 3)形容詞「さがなし」「はかなし」「ゆゆし」「すがすがし」の意味は。
  ・意地が悪い
  ・粗末に
  ・恐ろしい
  ・あっさりと
 4)助動詞「れ」「に」「し」の意味、「ぬ」の識別。
  ・れ(受身)に(完了)し(過去)
  ・ぬ(完了)
 5)訳す。
  ・母后は、「ああ恐ろしい。皇太子の母である女御はたいへん意地悪く、桐壺更衣が露骨に粗末に扱われた例も恐ろしい。」と用心なさって、あっさりと思い立ちなさらないうちに、后もお亡くなりになった。

7.心細きさまにておはしますに、「ただわが女御子たちの同じつらに思ひきこえむ。」と、いとねんごろに聞こえさせたまふ。
 1)主語の変化は。
 2)「ねんごろ」の意味は。
  ・心を込めて
 3)「聞こえさせたまふ」の敬語と助動詞は。
   ・謙譲→藤壺+尊敬+尊敬→帝
 4)訳す。
  ・(藤壺は)心細い様子でいらっしゃるので、(帝は)「ただ私の女皇子と同列に思  い申し上げよう」と、心を込めて申し上げなさる。 

8.さぶらふ人々、御後見たち、御兄の兵部卿の親王など、かく心細くておはしまさむよりは、内裏住みせさせたまひて、御心も慰むべくなどおぼしなりて、参らせたてまつりたまへり。藤壺と聞こゆ。
 1)主語の複数と変化は。
 2)「内裏住み」の意味は。
  ・宮中で生活すること。
  ・中宮になること。
 3)「参らせたてまつりたまへ」の敬語と助動詞は。
  ・謙譲→帝+使役+謙譲→藤壺+尊敬→人々など
 4)中宮になり藤壺の部屋を与えられて「藤壺」と呼ばれるようになった。
 5)訳す。
  ・(藤壺に)お仕えする人々、後見たち、兄の兵部卿などは、(藤壺が)このように心細くていらっしゃるよりは、中宮におなりになって、心も慰むだろうとお思いになって、(帝のもとへ)(中宮を)参らせ申し上げなさった。(その方を)藤壺と
申し上げる。

9.げに御容貌ありさま、あやしきまでぞおぼえたまへる。これは、人の御きはまさりて、思ひなしめでたく、人もえおとしめきこえたまはねば、うけばりてあかぬことなし。
 1)主語の変化は。
 2)「あやし」「おぼえ」「きは」「思ひなし」「うけばり」「あく」の意味は。
  ・不思議な
  ・似ている
  ・身分
  ・世間の評判
  ・遠慮することなくふるまう
  ・満足する
 3)係助詞「ぞ」の結びは。
  ・る(完了体)
 4)「これ」の指示内容は。
  ・藤壺
 5)副詞「え」の意味は。
  ・可能。下に打消語「ね」を伴う。
 6)「ぬ」の識別は。
  ・打消
 7)訳す。
  ・(藤壺は)本当に顔だちや姿は、不思議なほど(桐壺に)似ていらっしゃる。藤壺は、ご身分は勝っていて、世間の評判も素晴らしく、人が見下し申し上げることができないので、(帝は)遠慮することなくふるまい満足しないことはない。

10.かれは、人の許しきこえざりしに、御心ざしあやにくなりしぞかし。おぼしまぎるとはなけれど、おのづから御心うつろひて、こよなうおぼし慰むやうなるも、あはれなるわざなりけり。
 1)主語の変化は。
 2)「かれ」の指示内容は。
  ・桐壺更衣
 3)「心ざし」「あやにく」の意味は。
  ・寵愛
  ・あいにくだ。
 4)訳す。
  ・桐壺の場合は、周囲の人が許し申し上げなかったので、(帝の)ご寵愛もあいにく  になったのだ。(帝は)(桐壺を)思い紛れなさることはないけれども、自然と心  が(藤壺)に移っていって、この上なくお慰みになるのも、趣き深いことである。

11.源氏の君は、御あたり去りたまはぬを、ましてしげく渡らせたまふ御方は、え恥ぢあへたまはず。いづれの御方も、我、人に劣らむとおぼいたるやはある。とりどりにいとめでたけれど、うち大人びたまへるに、いと若ううつくしげにて、せちに隠れたまへど、おのづから漏り見たてまつる。
 1)主語の変化は。
 2)「しげし」「大人ぶ」「せち」の意味は。
  ・頻繁に
  ・年をとっている
  ・一生懸命に
 3)係助詞「や」の意味と結びは。
  ・反語。ある(ラ変体)
 4)訳す。
  ・源氏は、帝の側をお去りにならないので、まして頻繁に(帝に)お渡りになる方々  は、恥ずかしがっていることはできず、どの方も、私は人に劣っているだろうとお  思いになるだろうか、いやならない。それぞれ素晴らしいが、年をとっていらっいるので、(藤壺は)たいへん若く可愛らしいので、一生懸命にお隠れになるけれど  も、(源氏が)自然と漏れ見申し上げる。

12.母御息所も、影だにおぼえたまはぬを、「いとよう似たまへり。」と典侍の聞こえけるを、若き御心地に「いとあはれ。」と思ひきこえたまひて、常に参らまほしく、「なづさひ見たてまつらばや。」とおぼえたまふ。
 1)主語の変化は。
 2)副助詞「だに」の意味。
  ・類推。〜さえも。
 3)「ぬ」の識別。
  ・打消
 4)「なづさふ」「おぼゆ」の意味は。
  ・馴れ親しむ
  ・おぼえている。自然と思われる。
 5)訳す。
  ・母桐壺も、面影さえおぼえていらっしゃらないのを、典侍が「(藤壺は)(桐壺 に)たいへんよく似ていらっしゃる」と申し上げるのを、(源氏は)幼い心に「趣深いものだ」と思い申し上げて、(藤壺の所へ)常に参上したく、「親しく見申し上げたい」と自然とお思いになる。


若紫との出会い(若紫)


 源氏は夕顔を失った心労もあって病気にかかる。その治療のために北山の聖の所へやってくる。その間に、話し相手もなくすることもない時に、日中見つけた、可愛らしい女の子や若い女性がいる僧坊を覗いてみる。さすが女好きの源氏である。山奥に療養に来ても女性に臭いには敏感である。日中は目立ったが夕方なので霞に紛れて、ポン友の惟光ともう一度のぞきに行く。そこで源氏は生涯の出会いをする。
 まず、見えたのは尼君。僧坊に女性がいるのも尼がいてその関係だと納得する。四十を越えた現在では七十にもなる老女に対しても品定めをする辺りはさすがである。上品な所がただ人には見えなかったが、その正体が後で若紫との関係によって明らかになるが、源氏の直感はさすがである。それにこざっぱりした年配の女房と女の子も見える。源氏の恋愛の対象になる若い女性は見えない。
 そこに登場するのが、源氏が生涯愛した女性、若紫である。一目見ただけで、普通の子供でなく、成長した後の姿が想像できる可愛らしさである。十歳の若紫にひかれたのではなく、大人になった若紫にひかれたのであり、源氏はロリコンではない。ただ、尼君との関係を親子と見たのはお粗末である。尼君はしんどそうに脇息にもたれているのだから若く見えることもない。若紫は雀の子を友だちが逃がしてしまったので泣いている。十歳にしては幼い。女房も監督責任が問われるので不愉快である。源氏はその様子を見ながら、人間関係を想像している。
 尼君は自分の余命がいくばくもないのに、あまりに幼い若紫が気がかりでしょうがない。
源氏は叱られている若紫を見ていて、思慕している継母藤壺の女御のことを思い出す。若紫の成長した想像の姿が藤壺にあまりにも似ているのである。それもそのはずで、若紫は藤壺の姪に当たるのである。そう思うと自然に涙が出てくる。
 尼君は自分の娘の故姫君と比較して、若紫があまりに幼いことを嘆いている。ましてや、
自分も余命いくばくもなく、死後のことを思うと気が気でない。死んでも死にきれない心情を歌にして読む。聞いていた大人も泣いて、そう弱気にならないようにと歌を読む。


学習プリントを配布して宿題にする。
1.源氏物語について、教科書を参考にまとめる。(詳しくは図説を見るように指示)
 成立=十一世紀初頭。
 作者=紫式部。
 巻数=五十四帖。
 構成=第一部(『桐壺』〜『藤裏葉』の三十三巻)
       源氏の誕生から栄華を極めるまで。
    第二部(『若菜上』〜『幻』の八巻)
       源氏の死までの晩年。
    第三部(『匂宮』〜『夢浮橋』十三巻。『橋姫』〜を「宇治十帖」と呼ぶ)
       源氏の子供の薫と匂宮の宇治の姫君をめぐる物語。
2.『若紫』の本文までのあらすじを教科書に沿って説明する。
3.教師が音読する。
4.生徒と音読する。
5.状況設定を考える。
 ヌ場所 かの小柴垣
 ネ時間 夕暮れ
 ノ季節 春(霞)
6.登場人物を考える。
 ・源氏・惟光朝臣・尼君・おとな二人(少納言の乳母)・童・女子(若紫)・[犬君]
 ・授業では女子を若紫と呼ぶことを確認しておく。
 
 

5.日もいと長きに、つれづれなれば、夕暮れのいたう霞みたるにまぎれて、かの小柴垣のほどに立ち出でたまふ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・つれづれ=することがない。
  ・小柴垣=細い雑木の枝を編んで作った丈の低い垣根。
 2)【L2】「夕暮れの」の「の」の用法は。
  ・同格。
  ・夕暮れでたいへん霞がかかっている夕暮れ。
  ・薄暗くなって、有名人の源氏が外出しても目立たない。
 3)【指】訳させる。
  ・(源氏は)日も長くすることがないので、夕暮れでたいへん霞がかかっている夕暮れに紛れて、あの小柴垣のところにお出かけになる。
 4)【L1】敬語の種類・主体・対象は。
  ・たまふ=尊敬、作者→源氏
 5)場面設定について
  1)【L1】だれが。主語は。
   ・源氏
  2)【L1】時間帯は。
   ・夕暮れ
  3)【L3】季節は。
   ・春
   ・「霞たるに」
  4)【L1】どこへ。
   ・かの小柴垣のもと
   ・小柴垣がある家。
  5)【L3】なぜ「かの」が使われているのか。
   ・初めてではない。
   ・日中、散歩していた時、小柴垣のある僧坊に目を付けていた。
   ・僧坊には珍しく女性が出入りしているので、女好きの源氏の興味を引いた。
  6)【L1】どうしたのか。
   ・出かけた。

6.人々は帰したまひて、惟光の朝臣とのぞきたまへば、ただこの西面にしも、持仏すゑたてまつりて行ふ尼なりけり。
 1)【説】惟光について説明する。
    ・源氏の乳母子で、源氏の側近。心を許せる幼友達であり遊び仲間であり、色好みの趣味もあっていた。
 2)【説】「西面」を説明する。
  ・西方浄土思想で、仏は西から来るので、西向きの部屋に仏を安置する。
 3)【説】「持仏」を説明する。
  ・自分の居間に安置し、いつでも身から離さず進行している仏像。
 4)【説】語句の意味を説明する。
  ・行ふ=仏道の修行をする。念仏を唱えたりする。勤行(ゴンギョウ)をする。
 4)【L2】助動詞の意味は。
  ・なり=断定の連用。(接続が体言)。
  ・けり=詠嘆の終止。(普通文中だが文脈から)
 5)【指】訳させる。
  ・(源氏は)人々はお帰しになって、惟光の朝臣とおのぞきになると、ちょうど目の前の西向きの部屋に、持仏を据え申し上げて勤行する尼ではいるではないか。
 6)【L1】敬語の種類・対象は。
  ・たまひ、たまふ=尊敬、作者→源氏
  ・たてまつり=謙譲、作者→持仏。
 7)【説】「のぞき」について説明する。
   ・成人した女性はみだりに人前に姿を見せない。部屋の奥にいるのが作法。見ることができるのは、着物と髪の先、顔は扇で隠している。
  ・物語の発端によく用いられる。
    ・『源氏物語』に出てくる「のぞき」の部分は3か所。
   1)「若紫」
   2)「野分」では、源氏の子の夕霧が台風の時に紫の上を。
   3)「若菜上」では、柏木が猫を追いかける源氏の妻の女三宮を。
   ○「末摘花」では、「のぞき」を怠ったために失敗をしている。
 8)【L2】のぞきの条件は。
  ・夕方で霞がたてこめ目立たなかった。
  ・惟光と二人きりだった。
  【説】源氏は有名人なので、特に人目を忍ばなければならなかった。
 9)【説】日中、なぜ僧坊に女性がいるのか不思議であったが、尼君があるのでその世話のために女性がいることが納得できた。

7.簾少し上げて、花奉るめり。中の柱に寄りゐて、脇息の上に経を置きて、いとなやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。
 1)【説】「簾」の説明をする。
  ・割り竹、細板、あしなどを並べて、糸で粗く編みつづったもの。
  ・粗く編んだものの総称が「す」で、敷物には「簀」、部屋を仕切るものには「簾」の字を当てる。
  ・現代のカーテン。ブラインド。
 2)【説】中の柱、脇息の説明をする。
 3)【説】語句の意味を説明する。
  ・なやましげ=気分が悪そうに。
  ・ただ人=並の身分の人。
 4)【L1】助動詞「めり」の意味は。
  ・視覚的な推量。
  【説】遠くから覗いているので断定できない。
 5)【指】訳させる。
  ・(尼君は)簾を少しあげて(持仏に)花を差し上げているようだ。中の柱に寄り掛かって、脇息の上にお経を置いて、たいへん気分が悪そうに(お経を)読んでいる尼君は、普通の身分の人には見えない。
 6)【L1】主語は。
  ・尼君
 6)【L3】敬語の種類・主体・対象は。
  ・奉る=謙譲(与ふ)、作者→持仏。

8.四十余ばかりにて、いと白うあてに、やせたれど、つらつきふくらかに、まみのほど、髪のうつくしげにそがれたる末も、「なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかな。」と、あはれに見たまふ。
 1)【説】語句の意味を説明する。
  ・あて=上品で美しい。
  ・うつくしげ=かわいらしく、きれいに。
  ・なかなか=かえって。
  ・今めかし=現代風な。
  ・あはれに=しみじみと感じる。
 2)【L3】「に」の識別は。
  ・四十余ばかりに=断定助動詞連用
  ・あてに=形容動詞連用形語尾
  ・ふくらかに=形容動詞連用形語尾
  ・うつくしげに=形容動詞連用形語尾
 3)【指】訳させる。
  ・(尼君は)四十過ぎで、たいへん色白で上品で、やせているけれども、頬のあたりがふっくらとして、目元、髪がきれいにそがれた末も、かえって長いよりも今風であるなぁと、(源氏は)しみじみとご覧になる。
 4)【L1】主語の変化は。
 5)【L2】敬語の種類と対象は。
  ・たまふ=尊敬、作者→源氏。
 6)【L1】尼君の様子をまとめる。
  ・年齢は四十歳ぐらい。(当時の四十才は今の七十才)
  ・色白で上品。
  ・痩せているが、頬の当たりはふっくらしている。
  ・髪は短く切り揃えられている。
 7)【L2】なぜ「今めかしく」感じたのか。
  ・当時の大人の女性は髪が長かったから新鮮に見えた。

9.清げなる大人二人ばかり、さては童部ぞ、出で入り遊ぶ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・きよげ=1)さっぱりして美しい2)きちんと整っている3)理想的だ
  ・おとな=年配の女房。
 2)【説】訳す。
  ・さっぱりとして美しい年配の女房が二人ほど、それに子どもたちが出入りして遊んでいる。

10.中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などの萎えたる着て、走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えてうつくしげなる容貌なり。髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。
 1)【説】「山吹」を説明する。
  ・襲の色目。表は薄朽葉色で、裏は黄色。春の色。
 2)【説】語句の意味を確認する。
  ・萎ゆ=糊が落ちて柔らかくなる。
  ・うつくしげなる=かわいらしい。小さなものや弱いものに対する愛情。
     かなし=肉親や恋人に対して用い、いたわるような切実な気持ち。
   らうたし=弱いものに対して、苦労をいとわずにいたわりかばう気持ち。
   いとほし=他者に同情し、かわいそうだとか、いじらしく可愛いと思う気持ち。
 3)【L2】「にやあらむ」の品詞分解。
  ・に(断定の助動詞の連用)や(疑問の係助詞)あら(ラ変の動詞の未然)む(推量の助動詞の連体。係り結び)
 4)【L2】「山吹などのなえたる」の「の」の用法は。
  ・同格。
 5)【L2】助動詞の意味は。
  ・べう=「べく」のウ音便。当然。
 6)【指】訳させる。
  ・その中に、十歳ぐらいであろうと見えて、白い衣服の上に、山吹襲ねの上着などで糊が落ちて柔らかくなった上着を着て、走ってきた女の子は、多く見える子供に似るはずもなく、たいへん成長していく先が想像されてかわいらしい顔かたちである。髪の毛は扇を広げたようにゆらゆらとして顔は赤くこすって立っていた。
 7)【説】この「女子」を「若紫」と呼ぶ。
 8)【L2】若紫の様子は。
  ・十歳→今の十四歳ぐらい。
  ・走り来る→お転婆
  ・将来美人になる。
  ・髪は扇を広げたようにゆらゆらしている。
  ・顔はこすって赤くなっている。
  【注】前置きが終わって、いよいよヒロインの登場である。
 9)【L2】なぜ、顔をこすって赤くしているのか。
  ・泣いた後である。
 10)【L3】源氏は十八歳であるが、ロリコンなのか。
  ・成長していく先を想像しているのだからロリコンではない。
  【注】後で成長した後が藤壺に似ているからであることがわかる。

11.「何ごとぞや。童部と腹立ちたまへるか。」とて、尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子なめりと見たまふ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・腹立つ=喧嘩する。
  ・おぼゆ=1)思われる。感じられる。2)思い出される。思い起こされる。3)似る。似ている。4)思い出す。5)思い出して語る。
 2)【L3】助動詞の意味は。
  ・る=完了連体。
  ・なめり=な(る)=断定連体+めり(推定終止)
 3)【指】訳させる。
  ・(尼君が)「何事ですか。(若紫は)子どもたちと喧嘩なさったのですか」と言って、尼君が見上げると、(若紫が)(尼君に)似ているところがあるので、
   (若紫が)(尼君の)子供だろうと、(源氏が)ご覧になる。
 4)【L1】「何ごとぞや〜」の会話の主は。
  ・尼君。
 5)【L2】主語と目的語を補う。
 6)【L2】敬語を考える。
  ・腹立ちたまへ=尊敬の補助。尼君→若紫)
  ・見+たまふ=尊敬の補助。作者→源氏)
 7)【L1】尼君と若紫の関係は。
  ・親子。
  ・しかし、四十歳(今の七十歳)の女性に、十歳(今の十五歳)の子供がいるのはおかしい。
  【説】後で孫であることがわかる。

12.「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠の内に籠めたりつるものを。」とて、「いとくち をし。」と思へり。
 1)【説】「犬君」「伏籠」の説明をする。
  ・犬君=この家に仕える少女の名前。
  ・伏籠=伏せてその上に衣服を掛け、香を焚き占めたり、暖めたりするもの。
 2)【説】「ものを」の意味。
    ・終助詞 1)(逆接的な意に詠嘆の気持ちを込めて表す)〜のになぁ 
       2)(順接的な意に詠嘆の気持ちを込めて表す)〜のだからなぁ
  ・接続助詞1)(逆接の確定条件)〜のに 
       2)(順接の確定条件)〜ものだから
 3)【説】語句の意味を確認する。
  ・くちをし=残念な。
 4)【指】訳させる。
  ・「雀の子どもを犬君ちゃんが逃がしてしまったの。伏籠の中に閉じ込めておいたのに」と言って、「とっても残念だわ」と思った。
 5)【L1】誰の会話か。
  ・若紫。
 6)【L2】年齢的に見て若紫の行動は。
  ・十歳にしては幼い。

13.このゐたる大人、「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづ方へかまかりぬる。いとをかしう、やうやうなりつるものを。烏などもこそ見つくれ。」とて立ちて行く。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・例の=いつものように。
  ・心なし=うっかり者。
  ・さいなむ=叱る。
  ・心づきなし=いやだ。
  ・をかし=かわいらしい。
 2)【L2】助動詞の意味は。
  ・るる=受身。
 3)【L2】3つの係助詞の結び。
  ・さいなまるるこそ→こころづきなけれ
  ・いづくへか→ぬる
  ・となりどもこそ→見つくれ
 3)【説】「もこそ」の意味を説明する。
  ・〜したら大変だ。将来起こりうる悪い事態を予測して、危ぶんだり、心配したりする気持ちを表す。
 4)【指】訳させる。
  ・そこに座っていた年配の女房が、「いつものように、うっかり者が、このようなことをして叱られることは、嫌だ。(雀は)どこへ行ったのか。たいへんかわいく、だんだんなってきたのに。烏などが見つけたら大変だ」と言って立って行く。
  5)【L1】「心なし」とは誰か。
  ・犬君
  6)【L1】「かかるわざ」の指示内容は。
  ・雀の子を逃がしつる
 7)【L3】誰が誰になぜ「さいなま」れるのか。
  ・大人が、尼君に、犬君の監督不行き届きで叱られる。
 8)【L2】なぜ、大人は「心づきなし」と思っているか。
  ・犬君が叱られると自分たちの管理責任を問われるから。
  ・すずめの子をからすが見つければ大変だから。
 9)【L2】「例の」はどこにかかるか。
  ・さいなまるる。
 10)【L2】敬語の種類と対象は。
  ・まかり=謙譲(行く)、大人→若紫。雀が若紫の元からどこかへ行く。

14.髪ゆるるかにいと長く、目安き人なめり。少納言の乳母とこそ、人言ふめるは、この子の後見なるべし。
  1)【説】語句の意味を確認する。
  ・目安し=感じがよい。
  ・後見=年少者の後ろ楯となって補佐をする人。
 2)【L2】助動詞の意味は。
  ・なめり=な(る)(断定連体)めり(推定)
  ・める=婉曲
  ・なるべし=なる(断定連体)べし(推量終止)
 3)【L3】「乳母とこそ」の結びは。
    ・流れている。
  ・「める」と結んでいるように見えるが、次に係助詞「は」に続いて「、」があるので「こと」が省略されているので連体形になっている。
 4)【指】訳させる。
  ・髪がゆるやかにたいへん長く、感じのよい人であるようだ。少納言の乳母と人がいうのは、この子の後見人であるのだろう。

15.尼君、「いで、あな幼や。言ふかひなうものしたまふかな。おのがかく今日明日におぼゆる命をば、何ともおぼしたらで、雀慕ひたまふほどよ。罪得ることぞと、常に聞こゆるを、心憂く。」とて、「こちや。」と言へば、ついゐたり。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・言ふかひなし=幼稚な。
  ・心憂し=つらい。
 2)【説】「あな幼や」の意味。
  ・あな+形容詞の語幹+や=感動。
 3)【指】訳させる。
  ・尼君は、「(若紫は)まぁ、なんと幼いことよ。なさけなくものをなさっているなぁ。私が、このように今日明日と思われる命を、なんともお思いにならないで、雀を慕っていらっしゃることよ。罰が当たりますよといつも申し上げているのに、つらい」と言って、「こちらへ来なさい」と言うと、膝をついて座った。
 4)【L2】主語の変わり目は。
 5)【L1】敬語の種類と主体と対象は。
  ・ものしたまふ、おぼし、慕ひたまふ=尊敬、尼君→若紫
  ・聞こゆる=謙譲(言ふ)、尼君→若紫
 6)【L2】「かく」の指示内容は。
  ・いとなやましげに
 7)【説】「罪得る」について説明する。
  ・仏教では生き物を捕らえておくことは罪である。
  ・五戒=不殺生(せっしょう)・不偸盗(ちゅうとう)・不邪淫・不妄語(もうご)・不飲酒(おんじゅ)の五つ。
 8)【L2】尼君が「心憂く」と思っている理由は。
  ・自分の命が今日明日なのに余りに幼いから。
  ・生き物を捕らえておくことは罪業だから。

16.頬つきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき、 髪ざし、いみじううつくし。「ねびゆかむさまゆかしき人かな。」と、目とまりたまふ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・らうたし=かわいらしい。弱い者に対して労り庇う気持ち。
  ・いはけなし=幼く。子供っぽい。
  ・かいやる=かきわける。
  ・ねぶ=成長する。
  ・ゆかし=(興味や関心がひかれる)知りたい。見たい。聞きたい。
 2)【指】訳させる。
  ・頬の辺りがかわいらしく、眉の辺りがほんのりして、幼くかき分けた額の辺り、髪の様子、大変かわいらしい。成長していく様子を見たい人だなぁ」と目をお止めに   なる。
 3)【L2】敬語の種類と主体と対象は。
  ・目とまりたまふ=尊敬、作者→源氏
 4)【説】平安時代の化粧法について説明する。
    ・引き眉。成人後は眉を引く。眉墨をやや上にヘラで伸ばして眉を書く。細く三日月に引く。後世は剃り落としたまま。
    ・歯黒め。鉄を酒に浸して酸化鉄を作る。上代では結婚した婦人の証。平安時代は成人になった女性がした。中世は公家や武士をした。
    ・白粉。鉛を酢で蒸して作る。女性が三十才未満で死亡することが多かったのは鉛毒のせい。小野小町の美貌が落ちたり和泉式部がらい病にかかった。
  ・紅。顔面(頬)用と唇用。
 5)【L2】「ねびゆかんさまゆかしき」と同じ内容の部分は。
  ・いみじくおひ先見えて、うつくしげなる

17.「さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれるが、まもらるるなりけり。」と思ふにも、涙ぞ落つる。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・さるは=それにしても
  ・まもる=じっと見つめる
 2)【L2】「まもらるるなりけり」の助動詞は。
  ・るる(自発)なり(断定)けり(詠嘆)
  ・「るる」は知覚動詞に接続している。
  ・「けり」は伝聞過去で訳するはおかしい。
 3)【L1】係り結びは。
  ・ぞ→つる
 4)【指】訳させる。
・「それというのも実は、(私が)限りなく深くお慕いしている人に、(若紫が)たいへんよく似申し上げているので、(私は)自然とじっと見つめているのであるなぁ」と思うと、涙が落ちる。
 5)【L2】主語を補う。
 6)【説】「限りなう心を尽くしきこゆる人」とは。
  ・藤壺女御
  ・藤壺女御は源氏の継母。
  ・藤壺女御の兄の兵部卿の宮と故姫君との間の子が若紫。
  ・つまり、若紫は源氏の姪に当たる。
  【注】一三〇ページの系図を見る。
 7)【説】源氏が若紫にひかれた理由を説明する。
  ・若紫が藤壺に良く似ているからから。
  ・若紫が成長していく様子が見てみたいから。
  【注】けっしてロリコンではない。
 8)【L2】敬語の種類と主体と対象は。
  ・きこゆる=謙譲、源氏→藤壺。源氏が自分を低めて藤壺に敬意。
  ・似+たてまつれ=謙譲、作者→藤壺。源氏が若紫を低めて藤壺に敬意。
1.【指】学習プリント〜〜若草と露〜を配布し、本文を写すことと語句調べを宿題にす る。
2.【L1】漢字の読み方を問う。
 御髪  僧都  齢  消息  歩き

3.尼君、髪をかきなでつつ、「けずることをうるさがりたまへど、をかしの御髪や。いとはかなうものしたまふこそ、あはれにうしろめたけれ。かばかりになれば、いとかからぬ人もあるものを。
 1)【説】意味を確認する。
  ・けずる=髪をとく。
  ・うるさがる=1)めんどうに思う。2)うるさく思う。3)嫌味に思う。4)立派だ。5)親切にする。
  ・をかし=すばらしい。
  ・はかなし=1)頼り無い。2)あっけない。3)なんということない。4)ちょっとしたことである。5)幼稚である。
  ・あはれ=かわいそう。
  ・うしろめたし(後ろ目痛し)=(背後が気になるが原義)気がかりだ。
 2)【L2】「かからぬ」の助動詞は。
  ・打消連体。未然形「あら」に接続する。
 3)【L1】係り結びは。
  ・こそ→うしろめたけれ。
 4)【指】訳させる。
  ・尼君は、(若紫の)髪をなでながら、「(若紫は)髪をとくことをめんどうにお思いになるけれども、すばらしい髪の毛です。たいへん頼りなくものをなさっているのは、かわいそうで気がかりだ。これだけ(の年齢)になれば、あまりそうでない(幼くない)人もいるのに。
 5)【L1】主語を補う。
 6)【L1】敬語を考える。
 7)【L2】「かばかり」の指示内容は。
  ・これぐらいの年齢。
  ・十才ぐらい
 8)【L2】「かからぬ」の指示内容は。
  ・幼くない。すずめの子を捕らえたりしない。


4.故姫君は、十ばかりにて殿におくれたまひしほど、いみじうものは思ひ知りたまへりしぞかし。ただ今、おのれ見捨てたてまつらば、いかで世におはせむとすらむ。」
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・おくる=1)後になる 2)残される 3)先立たれる 4)遅くなる5)劣る
  ・いかで=1)(疑問の意を表す)どのようして 2)(反語の意を表す)どうして〜か、そんなことはない 3)(願望の意を表す)どうにかして
 2)【L2】「思ひ知りたまへりしぞかし」の品詞分解をする。
  ・思ひ知り(四用)たまへ(補助動詞已)り(完了用)し(過去体)ぞかし(終助詞。念を押す)
 3)【L2】「いかで世におはせむとすらむ」の品詞分解する。
  ・いかで(副詞)世(名詞)に(格助詞)おはせ(サ変未)む(意志止)と(格助
   詞)す(サ変止)らむ(現在推量体)
    ・どうしてこの世を生きていらっしゃろうとするのだろう、いやできない。
 4)【指】訳させる。
  ・故姫君は十歳ぐらいで父親に先立たれなさったが、たいへんものを知っていらっしゃいました。ただいま(私が)(若紫を)見捨て申し上げたならば、(若紫は)どのようにして生きていらっしゃろうとするのでしょうか。
 5)【L2】主語を補う。
 6)【L2】敬語を考える。
  ・おくれたまひ=尊敬。→故姫君
  ・知りたまへ=尊敬。→故姫君
  ・見捨てたてまつら=謙譲。→若紫
  ・おはせ=尊敬。→若紫
 7)【L2】十才の頃の故姫君と若紫を比較する。
  故姫君                  若紫
・しっかりしていた      
・父(殿)には先立たれたが、母(尼 君)は生きている。       
・幼い
・父(兵部卿の宮)は別居で、母(故姫 君)は死んでいる。





 8)女の一生について説明する。
  ・ ─┬─ 0         
   14─┼─ 9 髪を伸ばし始める
   20─┼─12 喪着(成人)
   22─┼─14 │適齢期
     27─┼─16 ↓       
     │
   55─┼─30 初老
   70─┴─40 老女

5.とて、いみじく泣くを見たまふも、すずろに悲し。幼心地にも、さすがにうちまもりて、伏し目になりてうつぶしたるに、こぼれかかりたる髪、つやつやとめでたう見ゆ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・すずろ=わけもなく。
  ・さすがに=やはり。
  ・まもる=じっと見つめる。
  ・めでたし=すばらしい。
 2)【指】訳させる。
・と言って(尼君が)泣くのを(源氏が)ご覧になると、わけもなく悲しい。(若紫は)幼心にも、やはりじっと見つめて、伏し目になってうつ伏している所に、こぼれかかった髪が、つやつやとすばらしく見える。
 3)【L2】主語の変化は。
 4)【L1】敬語を考える。
 5)【L1】なぜ、尼君がいみじく泣くのか。
  ・自分の余命はあまりないのに、若紫があまりに幼いので不安だから。

6.おひ立たむありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えむそらなき
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・おひ立つ=成長する。
  ・おくらす=後に残す。
 2)【L2】助動詞は。
  ・立たむ=婉曲。
  ・知らぬ=打消。
  ・消えむ=婉曲。
 3)【L1】係り結びは。
  ・ぞ→なき
 4)【指】訳させる。
  ・成長していく先もわからない若草を後に残す露は消えていく空もない。
 5)【L2】比喩を考える。
  ・若草=若紫。
  ・露=余命いくばくもない尼君。
 6)【L2】歌の主旨は。
  ・尼君は、若紫の将来が心配で、自分は安心して死んでいけない。

7.また、ゐたる大人、「げに。」とうち泣きて、
 初草の生ひゆく末も知らぬ間にいかでか露の消えむとすらむ
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・ゐる=座っている。
  ・げに=本当に。
  ・いかで=どうして。
 2)【L2】助動詞は。
  ・知らぬ=打消。
  ・消えむ=意志。
  ・すらむ=現在推量。
 3)【L2】
  ・か(反語)→らむ
 4)【指】訳させる。
  ・また、そこに座っていた年配の女房が、「本当に」と泣いて、
   初草が成長していく先もわからない間に、どうして露は消えていこうとするのですか、いえ消えていってはいけません。
 5)【L1】比喩を考える。
  ・初草=若紫。
  ・露=尼君。
 6)【L2】歌の主旨は。
  ・大人が、尼君が死ぬなど弱気にならないでほしいと励ましている。

8.と聞こゆるほどに、僧都あなたより来て、「こなたはあらはにやはべらむ。今日しも、端におはしましけるかな。この上の聖の方に、源氏の中将の、わらは病みまじなひにものしたまひけるを、ただ今なむ聞きつけはべる。いみじう忍びたまひければ、知りはべらで、ここにはべりながら、御とぶらひにもまうでざりける。」とのたまへば、
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・あなた=あちら。
  ・こなた=こちら。
  ・あらは=丸見えである
  ・わらはやみ=周期的に発熱する熱病。
  ・まじなふ=病気が治るように神仏に祈る。加持祈祷。
  ・とぶらひ=見舞い。
 2)【L3】助動詞を考える。
  ・まうでざりける=打消+詠嘆。連体形になっているのは余韻を表す。
 3)【L1】係り結びは。
  ・や(疑問)〜む(推量体)
  ・なむ(強調)〜はべる(ラ変体)
 4)【指】訳させる。
  ・と(大人が)(尼君に)申し上げると、僧都があちらから来て、「こちら丸見えではございませんか。(尼君は)今日は端にいらっしゃいますね。この上の聖の所に、源氏の中将が、病気の加持祈祷に来ていらっしゃるのを、(私は)たった今聞きつけました。(源氏は)たいへんお忍びでいらっしゃるので、(私は)知りませんので、ここにおりながら、(源氏を)お見舞いにもうかがっていません。」と(僧都が)おっしゃったので、
 6)【L2】主語の変化を考える。
  ・僧都は、尼君の兄。
 7)【L2】敬語を考える。
  ・聞こゆる=謙譲、作者→尼君。
  ・はべら=丁寧、僧都→尼君
  ・おはしまし=尊敬、→尼君
  ・したまひ=尊敬、→源氏
  ・侍る=丁寧、→尼君
  ・忍びたまひ=尊敬、→源氏
  ・はべら=丁寧、→尼君
  ・侍り=謙譲、僧都→源氏
  ・まうで=謙譲、僧都→源氏
  ・のたまへ=尊敬、→僧都

9.「あないみじや。いとあやしきさまを、人や見つらむ。」とて、簾下ろしつ。「この世にののしりたまふ光源氏、かかるついでに見たてまつりたまはむや。世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の憂へ忘れ、齢延ぶる人の御ありさまなり。いで、御消息聞こえむ。」とて立つ音すれば、帰りたまひぬ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・いみじ=1)程度がはなはだしい。2)優れている。3)ひどい。
  ・あやし=1)不思議だ。2)珍らしい。3)疑わしい。4)身分が低い。5)見苦しい。
  ・ののしる=1)大声で騒ぐ。2)評判となる。3)勢力を振るう。4)大声で非難する。
        5)大げさに「する。
  ・憂へ=つらさ。
  ・齢=寿命。
  ・消息=1)手紙。2)取り次ぎを頼むこと。3)挨拶。
 2)【L2】助動詞を考える。
  ・み(上一連用)つ(強意終止)らむ(現在推量)
  ・たまはむ=適当終止。
  ・聞こえむ=意志終止。
  ・ぬ=完了終止。
 3)【L1】係り結びを考える。
  ・や(疑問)→らむ
 4)【指】訳させる。
  ・(尼君は)「ああたいへん。たいへん見苦しい様子を、人が見ていたのだろうか」と言って簾を下ろした。「この世で評判が高くていらっしゃる光源氏を、(尼君
が)このついでに見申し上げなさいませ。世を捨てた法師の心にも、たいへん世の中のつらさを忘れ、寿命が伸びる人のご様子である。さぁ、(源氏に)ご挨拶申し上げよう」と(僧都が)立つ音がしたので、(源氏は)お帰りになった。
 5)【L1】会話の主を考える。
 6)【L2】敬語を考える。
  ・ののしりたまふ=尊敬、僧都→源氏
  ・たてまつり(謙譲、→源氏)たまは(尊敬、→尼君)
  ・消息きこえ=謙譲、→源氏
  ・たまひ=尊敬、作者→源氏

10.「あはれなる人を見つるかな。かかれば、このすき者どもは、かかる歩きをのみして、よくさるまじき人をも見つくるなりけり。たまさかに立ち出づるだに、かく思ひのほかなることを見るよ。」と、をかしうおぼす。「さても、いとうつくしかりつる児かな。何人ならむ。かの人の御代はりに、明け暮れの慰めにも見ばや。」と思ふ心深うつきぬ。
 1)【説】語句の意味を確認する。
  ・かかれば=だから。
  ・すき者=風流な男たち。
  ・歩き=散歩。
  ・さるまじき=みつけられそうもない。
  ・たまさか=たまに。
  ・さても=それにしても。
 2)【L2】助動詞を考える。
  ・みつくるなり(断定連用)けり(詠嘆終止)
  ・な(る)(断定連体)らむ(現在推量終止)
  ・ぬ=完了終止。
 3)【指】訳させる。
  ・「かわいらしい人を見つけたなぁ。だから、この風流な男たちは、このような散歩だけをして、よく見つけられそうもない人を見つけたものだなぁ。たまに出かけただけでも、このように思わない人を見つけるよ。」と、面白くお思いになる。「それにしても、たいへんかわいい子どもだなぁ。何ものだろう。あの人の代わりに、朝夕の慰めに見たいものだ」と思う心が深くなった。
 4)【L2】「かの人」とは誰か。
  ・藤壺女御。
 

26.「源氏物語年表」と「源氏物語人物系図」を配布し、第二部までのあらすじを説明する。
  桐壺 0歳 @桐壺帝とA桐壺更衣の間にB源氏が誕生する。
      3歳 桐壺更衣が死ぬ。
      4歳 桐壺帝とC弘徽殿女御の子D朱雀帝が立皇太子する。
      7歳 人相見に見てもらい源氏が臣籍に下る。
      11歳 E藤壺女御(5歳上)が入内する。
      12歳 F葵の上(4歳上)と結婚する。
          藤壺女御を思慕する。
  帚木 17歳 葵の上の兄G頭中将らと雨夜の品定めをする。
  空蝉     H空蝉と関係を持とうとするが逃げられる。
  夕顔     I夕顔(2歳上)と関係を持つが、J六条御息所(7歳上)に呪い殺される。
  若紫18歳 北山で藤壺女御の姪のK若紫(8歳下)に出会う。
         藤壺女御と密通する。
         藤壺女御が源氏の子を懐妊する。
         若紫を引き取る。
  末摘花   L末摘花と関係を持つ。
  紅葉賀19歳 藤壺女御が源氏との子M冷泉院を出産する。
  花宴 20歳 弘徽殿女御の妹で朱雀帝に入内予定のN朧月夜の君と出会う。
  葵  21歳 朱雀帝が即位する。
      22歳 葵の上がO夕霧を出産し、六条御息所に車争いの恨みで呪い殺される。
          若紫と結婚する。
  賢木 25歳 朧月夜の君との関係が露顕する。
  須磨 26歳 須磨へ退去する。
  明石 27歳 明石に移り、P明石の上(9歳下)と出会う。
      28歳 源氏が政界に復帰する。
  澪漂 29歳 源氏の子Q冷泉院が即位する。
          明石の上がR明石の中宮を出産し、若紫が引き取り育てる。
          六条御息所が死ぬ。
  薄雲 32歳 藤壺女御が死ぬ。
          冷泉院が出生の秘密を知る。
  玉蔓 35歳 源氏が頭中将と夕顔の子S玉蔓(14歳下)を引き取る。
  常夏 36歳 夕霧と頭中将の子21柏木が玉蔓に求婚する。
  真木柱37歳 玉蔓が頭中将の子であることを知り22髭黒の中将と結婚する。
  藤裏葉   夕霧が頭中将の子で柏木の妹の23雲居の雁と結婚する。
  若菜上39歳 源氏が朱雀帝の子24女三の宮(26歳下)と結婚する。
       41歳 柏木が女三の宮を垣間見る。
  若菜下47歳 女三の宮が柏木と密通し懐妊する。
  柏木 48歳  女三の宮が25薫を出産する。
           柏木が源氏にいびり殺される。
  御法 51歳  若紫が死ぬ。
  雲隠 53歳  源氏が死ぬ。


藤壺の里下がり(若紫)


 源氏の出生については、2年で『桐壺』の巻で学習した。源氏は桐壺帝と桐壺更衣の間に生まれるが、更衣は身分が低いのに帝の寵愛を一身に受けたために、他の女御や更衣の嫉妬の対象になり、心労が重なり、源氏が3歳の時に他界する。源氏は亡き母を慕う。これが、源氏の女性像の原型になる。源氏が十一歳の時、藤壺女御が入内する。藤壺女御は桐壺更衣そっくりでしかも源氏と五歳しか離れていなかった。藤壺女御は源氏の理想の女性になる。二年で学習した『若紫』の少女に目をつけたのも、藤壺の姪で藤壺にそっくりであったからである。ところが、藤壺は源氏の継母にあたり、いくら恋しくてもかなわぬ恋のはずであった。
 藤壺が体調がすぐれず里帰りする。体調不良の原因は後でわかることだが妊娠である。帝は最愛の藤壺が宮中にいないので寂しがるが、源氏にとっては絶好のチャンスである。宮中にあっては近寄れないが、里ならチャンスはある。源氏は一切の女性関係をキャンセルして藤壺に密会することに全精力を注ぐ。夕暮れになると、藤壺の女房の王命婦に密会のお膳立てをするように迫る。命婦とは皇族の末孫で宮仕えする五位以上の女房。王命婦は藤壺の入浴の世話をするほど親しかった。当時、姫君に近づくには側近の女房を手なずけるのが近道だった。姫君は主体性のないのが美徳で、女房の言うがままに動く。女房の胸先三寸で密会も可能だった。男は女房に物を贈ったり身内の者の昇進の口利きをしたりして、互いの利益があった。また、女房にとって姫の繁栄は自分たちの名誉でもある。できるだけ身分の高い男を姫に近づけようとする。ただ、藤壺と王命婦の場合は、帝の女御であるだけにスケールが違う。
 王命婦はなんとか場をセッティングする。しかし、源氏は気が動転して落ち着かない。実は藤壺は以前にも王命婦の手引きで源氏に密会している。それは『源氏物語』の中に明記されていないが、『夕顔』に「秋にもなりぬ。人やりならず、心づくしに思い乱るることありて」とある。とすれば今回の体調不良は妊娠のせいであることが薄々分かるが、ここではまだ触れていない。藤壺は前回の密会を思い出し、再び逢わなければよかった、これは一生背負わねばならないと後悔する。源氏はそんな藤壺の可愛らしく心を許さず思慮深くこちらが恥ずかしくなるような様子にまたまた新たな魅力を感じてしい、藤壺の完全な美を恨めしくさえ思う。源氏は何を言っていいかわからない。いつまでも夜が明けないような山に籠もりたいと思うが、あいにく夏で夜も短い。すぐに別れなければならないと思うと、なまじっか逢わなければよかったと思い、歌を詠む。
  お逢いしてももう二度と逢うことのない、現実になることのない夢の中に、そのまま消えてしまいたい。
とむせび泣きながら詠む源氏の姿が、藤壺にはやはり素晴らしく見え、歌を返す。
 世間の噂に人々は語り伝えるだろうか。この上なくつらいこの身を、覚めない夢にしても。
藤壺の思い乱れる様子はもっともで、藤壺を悲しませることは恐れ多い。源氏が裸のままなので王命婦は直衣を集めて持ってきて、早く帰るように催促した。
 源氏は自宅に籠もって泣き暮らしている。藤壺に手紙を出しても全く返事がない。放心したまま宮中にも参内しない。帝も心配なさるだろうけど、藤壺との過ちを考えるとなおさら罪深く感じる。
 藤壺も我ながら情けなく感じている。体調も悪化し、帝からの参内の催促にもなかなか決断できない。気分もすぐれず今後のことを考えると思いが乱れる。六月の暑い時には起き上がることもできない。妊娠三カ月になり、お腹も大きく目立つようになり、人々が見て怪しむので、源氏との過ちをいまさらながら後悔する。女房たちにとっては藤壺の妊娠は思いがけないことだった。王位継承可能性のある男児をはらんで、おめでたいことなのに三カ月になっても帝に奏上なさらなかったことに驚いている。藤壺もお腹の子が誰の子であるかはっきりとわかってきた。藤壺の入浴の世話をしている御乳母子の弁や命婦などは怪しいと思うけれども、お互いに話すこともできないので、王命婦は逃れることのできなかった源氏との宿縁を嘆かわしく思う。とりあえず宮中への言い訳には、物の怪のせいにしておいた。当時は物の怪がとりつくことが多いと考えられ、特に出産期には多いと考えられていた。周囲の人もそう思っていて、一応の場は納まっている。帝も大層心配されひっきりなしに使者を送られるが、藤壺には却って負担になっている。
 源氏は恐ろしく異様な夢を御覧になり、夢合わせをする者を呼んで夢を占わせた。占い師は到底あり得ない思いもかけないこと、つまり御子が帝に即位することを占った。さらに、「その中に源氏の意に反することもあって慎まれた方がよいでしょう」と言う。後に須磨へ流されることを予言される。源氏は面倒なことになるかもしれないと思い、「これは人の夢だ、他言するな」と繕っておいた。心の中は穏やかでなく、藤壺の懐妊を聞くと夢との一致が気になって、ますます王命婦に言葉を尽くして藤壺に逢いたいむねを伝えるが、王命婦は恐ろしくなりどうしていいかわからなくなった。藤壺からは一行の返事すらなくなった。
 七月になって藤壺が宮中へ参内なさった。帝は久しぶりであるし懐妊もあるし、一層のご寵愛ぶりはこの上なかった。藤壺は妊娠しているので体つきはふっくらしているが、心労のために顔はげっそりしている。それがまた却って美しい。秋になって管弦の遊びも盛んになり、源氏も帝に呼ばれることが多くなった。源氏はたいそう慎んでいらっしゃるが、堪えきれず漏れ出してしまう時は、藤壺も源氏のことを思い続けるのだった。


藤壺の里下がり1

0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.源氏物語の人物関係を復習する。
 ・源氏は桐壺帝と桐壺更衣の間に生まれる。
 ・更衣は身分が低いのに帝の寵愛を一身に受けたために、他の女御や更衣の嫉妬の対象  になり、心労が重なり、源氏が3歳の時に他界する。
 ・源氏は亡き母を慕う。これが、源氏の女性像の原型になる。
 ・源氏が十一歳の時、藤壺女御が入内する。藤壺女御は桐壺更衣そっくりでしかも源氏  と五歳しか離れていなかった。藤壺女御は源氏の理想の女性になる。
 ・藤壺は源氏の継母にあたり、いくら恋しくてもかなわぬ恋のはずであった。
2.「はじめ〜かき集めてもて来たる」を音読する。

3.藤壺宮、なやみたまふことありて、まかでたまへり。上のおぼつかながり嘆ききこえ たまふ御気色も、いといとほしう見たてまつりながら、
 1)主語の変化は。
  ・藤壺宮→なやみたまふ、まかでたまへり。
  ・上→嘆ききこえたまふ
  ・(源氏)→見たてまつり
 2)「なやむ」の意味は。
  ・悩みではなく、身体の不調。
  ・後でわかるが、妊娠である。
 エ「まかでたまへ」の二方面の敬語は。
  ・まかで(謙譲→帝)たまへ(尊敬→藤壺)
 3)「まかづ」の対表現は。
  ・まいる
 4)「きこえたまふ」の二方面の敬語は。
  ・きこえ(謙譲→藤壺)たまふ(尊敬→帝)
 5)「見たてまつり」の敬意は。
  ・謙譲→帝

4.かかる折だにと心もあくがれ惑ひて、いづくにもいづくにもまうでたまはず、内裏にても里にても、昼はつれづれと眺め暮らして、暮るれば王命婦を責めありきたまふ。
 1)主語を確認する。
  ・源氏
 2)「かかる折」とは。
  ・藤壺が里に帰っている時
 3)「だに」の意味は。
  ○最小限(せめて〜だけでも)
   類推(〜さえ)
 4)「心もあくがれ惑ひ」の理由は。
  ・藤壺が宮中にいる間は逢えないが、里にいると逢うことができるから。
 5)「まうでたまは」の二方面の敬語は。
  ・まうで(謙譲→他の女性)たまは(尊敬→源氏)
 6)王命婦を説明する。
  ・藤壺付きの女房で、五位以上の女性。
 7)「王命婦を責めありき」の内容は。
  ・藤壺に逢わせること。
  ・当時、姫君に近づくには側近の女房を手なずけるのが近道だった。
  ・姫君は主体性のないのが美徳で、女房の言うがままに動く。女房の胸先三寸で密会も可能だった。
  ・男は女房に物を贈ったり身内の者の昇進の口利きをしたりして、互いの利益があった。
  ・また、女房にとって姫の繁栄は自分たちの名誉でもある。できるだけ身分の高い男を姫に近づけようとする。
  ・ただ、藤壺と王命婦の場合は、帝の女御であるだけにスケールが違う。

5.いかがたばかりけむ、いとわりなくて見たてまつるほどさへ、うつつとはおぼえぬぞわびしきや。
 1)主語の変化は。
  ・(王命婦)→たばかり
  ・(源氏)→見たてまつる、おぼえぬ
 2)「見たてまつる」の敬意は。
  ・謙譲→藤壺
 3)「うつつとはおぼえぬ」理由は。
  ・藤壺に逢いたいという望みがかなったが、許されない密会なので落ち着かない。

6.宮もあさましかりしを思し出づるだに、世とともの御もの思ひなるを、さてだにやみなむと深う思したるに、いと心憂くて、いみじき御気色なるものから、
 1)「あさましかりし」の出来事は。
  ・以前にもあった密会。
  ・『夕顔』に「秋にもなりぬ。人やりならず、心づくしに思い乱るることありて」とある。
 2)「さて」の指示内容は。
  ・以前の密会。
 3)「なむ」の識別は。
  ・な(強意未)む(意志止)
 4)「いと心憂くて」の理由は。
  ・一回だけの密会で終わろうと思っていたのに、再び逢ってしまったこと。

7.なつかしうらうたげに、さりとてうちとけず心深う恥づかしげなる御もてなしなどのなほ人に似させたまはぬを、などかなのめなることだにうち交じりたまはざりけむと、 つらうさへぞ思さるる。
 
1)主語の変化は。
  ・(藤壺)→似させたまはぬ、交じりたまはざりけむ
  ・(源氏)→思さるる
 2)「るる」の意味は。
  ・自発。
 3)「つらうさへぞ思さるる」の理由は。
  ・藤壺に多少なりとも不足な点があればこれほど恋い焦がれないから。

8.何事をかは聞こえ尽くしたまはむ、暗部の山に宿りもとらまほしげなれど、あやにくなる短夜にて、あさましうなかなかなり。
 1)「何事をかは聞こえ尽くしたまはむ」を係り結びの意味に注意して訳させる。
  ・何を申し上げ尽くしなされようか、いやなされない。
 2)「聞こえ尽くしたまは」の敬意は。
  ・聞こえ(謙譲→藤壺)、たまは(尊敬→源氏)
 3)「まほしげなれ」「あやにくなる」「なかなかなり」の識別は。
  ・まほしげなれ(断定)、あやにくなる(語尾)、なかなかなり(語尾)
 4)「暗部の山」の説明。
  ・暗い山で、そこに宿れば明るくなることはないということから、いつまでも夜が明けないで欲しい。
 5)「短夜」の説明。
  ・夏の短い夜で、すぐに夜が明けてしまう。
 6)「あさましう」の理由は。
  ・夏の夜は短いのですぐに明けてしまい、藤壺と別れなければならないから。

9.見てもまたあふよまれなる夢の中にやがて紛るるわが身ともがな」とむせ返りたまふさまも、さすがにいみじければ、
 1)「あふよ」の掛詞を説明する。
  ・「逢ふ夜」と「合う世」。「合う」は夢占いが当たること。
  ・お逢いしても再び逢うことがめったにない夜、夢のようにはめったにいかない世の中なので、
 2)主語の変化は。
  ・(源氏)→むせ返りたまふ
  ・(藤壺)→いみじければ
 3)「さすがにいみじければ」の理由は。
  ・源氏の一途さに同情しているから。

10.世語りに人や伝へむたぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても」思し乱れたるさまも、いと理にかたじけなし。命婦の君ぞ、御直衣などはかき集めもて来たる。
 1)「人や伝へむ」を係り結びの意味に注意して訳させる。
  ・人が伝えるだろうか。
 2)この和歌の藤壺の心情は。
  ・浮名が後世に伝わることへの苦悩。
 3)「理に」の理由は。
  ・源氏と密会した罪の意識があるから。
 4)「かたじけなし」の理由は。
  ・帝の后である藤壺を悲しませたから。
 5)「御直衣などはかき集めもて来たる」の状況と意味は。
  ・源氏が着物を脱ぎ散らかして、裸でいる。藤壺と交わっている。
  ・早く帰れという意味がある。


藤壺の里下がり2

0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.「殿におはして〜ものを思すことひまなし」を音読する。

2.殿におはして、泣き寝に臥し暮らしたまひつ。御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば、常のことながらも、つらういみじう思しほれて、内裏へも参らで二、三日 籠りおはすれば、また、いかなるにかと御心動かせたまふべかめるも、恐ろしうのみおぼえたまふ。
 1)敬語の種類と対象は。
  ・おはし、暮らしたまひ、思しほれ、おはすれ、おぼえたまふ=尊敬→源氏。
  ・御覧じ=尊敬→藤壺。
  ・参ら=謙譲(源氏)→帝。
  ・動かせたまふ=尊敬→帝。
 2)「例の」の「の」の用法は。
  ・比喩。
 3)「御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば」の状況を説明する。
  ・王命婦が藤壺の返事がないことを源氏に伝えている。
 4)「恐ろしうのみおぼえたまふ」理由は。
  ・源氏が藤壺との密会が帝にばれないかと恐れている。

3.宮も、なほいと心憂き身なりけりと思し嘆くに、なやましさもまさりたまひて、とく参りたまふべき御使ひしきれど思しも立たず。まことに御心地例のやうにもおはしまさ ぬはいかなるにかと、人知れず思すこともありければ、心憂く、いかならむとのみ思し乱る。
 1)「なりけり」の助動詞の意味は。
  ・断定用+詠嘆止。
 2)「参りたまふ」の敬意は。
  ・参り(謙譲→藤壺)たまふ(尊敬→帝)。
 3)「べき」の意味は。
  ・命令。

4.暑きほどはいとど起きも上がりたまはず。三月になりたまへば、いとしるきほどにて、人々見たてまつりとがむるに、あさましき御宿世のほど心憂し。
 1)「三月」の意味は。
  ・妊娠三カ月。
 2)「見たてまつり」の敬意は。
  ・謙譲(女房)→藤壺。

5.人は思ひ寄らぬことなれば、この月まで奏せさせたまはざりけることと驚ききこゆ。わが御心一つには、しるう思し分くこともありけり。
 1)「奏せさせたまは」の敬語は。
  ・奏せ(謙譲→帝)させ(尊敬→藤壺)たまは(尊敬→藤壺)。
 2)「驚ききこゆ」の敬語は。
  ・謙譲(女房)→藤壺。
 3)「驚ききこゆ」の理由は。
  ・普通帝の子どもを身ごもることは女性にとって最高の幸せであるのに、三カ月になるまで報告しなかったから。
 4)「しるう思し分くこと」とは何か。
  ・お腹の子が帝の子ではなく源氏の子であること。

6.御湯殿などにも親しうつかうまつりて、何事の御気色をもしるく見たてまつり知れる御乳母子の弁、命婦などぞ、あやしと思へど、かたみに言ひあはすべきにあらねば、なほ逃れ難かりける御宿世をぞ、命婦はあさましと思ふ。
 1)「あやしと思へ」の内容は。
  ・藤壺のお腹の子が帝の子ではないこと。
  ・命婦は源氏を手引きしたので思い当たるところがあった。
 2)「かたみに言ひあはすべきにあらねば」の理由は。
  ・王位継承にも関わる一大事だから。

7.内裏には御物の怪の紛れにて、とみに気色なうおはしましけるやうにぞ奏しけむかし。見る人もさのみ思ひけり。いとどあはれに限りなう思されて、御使ひなどのひまなきも そら恐ろしう、ものを思すことひまなし。
 1)「さのみ」の指示内容は。
  ・御物の怪の紛れにて、とみに気色なうおはしましける
  ・当時は物の怪がとりつくことが多いと考えられ、特に出産期には多いと考えられて   いた。
 2)「いとどあはれに〜思すことひまなし」の主語の変化は。
  ・(帝が)限りなう思されて、(藤壺が)思すことひまなし。


藤壺の里下がり3

0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.「殿におはして〜ものを思すことひまなし」を音読する。

2.中将の君も、おどろおどろしうさま異なる夢を見たまひて、合はする者を召して問はせたまへば、及びなう思しもかけぬ筋のことを合はせけり。
 1)夢合わせについて説明する。
  ・物語にはよく用いられる。以後の展開を暗示する。
  ・夢が見たい時には衣を裏返しにして寝る。
  ・他人のよい夢を買ったり、自分の見た悪い夢の結果を避けるために夢違(ゆめたが   え)をした。
 2)「及びなう思しもかけぬ筋のこと」とは。
  ・源氏が帝の父になること。
  ・『桐壺』では源氏について、帝になると国が憂うる予言した。

3.「その中に違ひ目ありて、つつしませたまふべきことなむはべる。」と言ふに、煩はしくおぼえて、
 1)「その中」の指示内容は。
  ・源氏の見た夢。
 2)「違ひ目」とは。
  ・源氏の将来にとって意に反すること。
  ・このあと、朧月夜の君との密会がばれて須磨に流されることを暗示している。
 3)敬語の種類としたいと対象は。
  ・つつしませたまふ(尊敬、占い師→源氏)べきことなむはべる(丁寧、占い師→源   氏)
 4)「つつしませたまふべき」の「べき」の意味は。
  ・当然。

4.「自らの夢にはあらず、人の御ことを語るなり。この夢合ふまで、また人にまねぶな。」とのたまひて、

5.心の中には、いかなることならむと思しわたるに、この女宮の御こと聞きたまひて、もしさるやうもやと思し合はせたまふに、いとどしくいみじき言の葉尽くしきこえたま へど、
 1)「この女宮の御こと」とは。
  ・藤壺が解任したこと。
 2)「さるやう」とは。
  ・占い師が言ったこと。
 3)何と何を「思し合は」たのか。
  ・「及びなう思しもかけぬ筋のこと」と「この女宮の御こと」
 4)「尽くしきこえたまへ」の敬語の種類と対象は。
  ・尽くしきこえ(謙譲→藤壺)たまへ(尊敬→源氏)

6.命婦も思ふに、いとむくつけう煩はしさまさりて、さらにたばかるべき方なし。はかなき一行の御返りのたまさかなりしも絶え果てにたり。
 1)「たばかるべき」の「べき」の意味は。
  ・適当。
 2)「果てにたり」の「に」の識別は。
  ・完了の助動詞連用形。

7.七月になりてぞ参りたまひける。めづらしうあはれにて、いとどしき御思ひのほど限りなし。少しふくらかになりたまひて、うちなやみ面痩せたまへる、はた、げに似るも のなくめでたし。
 1)主語の変化は。
  ・(藤壺が)参りたまひける。(帝は)思ひのほど限りなし。(藤壺は)めでたし。
 2)「参りたまひ」の敬語の種類と対象は。
  ・参り(謙譲→帝)たまひ(尊敬→藤壺)
 3)「あはれ」と感じた理由は。
  ・藤壺が久しぶりに参内したことと、藤壺が懐妊したこと。

8.例の、明け暮れこなたにのみおはしまして、御遊びもやうやうをかしき空なれば、源氏の君もいとまなく召しまつはしつつ、御琴、笛などさまざまにつかうまつらせたまふ。
 1)「例の」の「の」の用法は。
  ・比喩。
 2)「こなた」とは。
  ・藤壺の局。
 3)「御遊びもやうやうをかしき空」の季節は。
  ・秋。
 4)「つかうまつらせたまふ」の敬語と助動詞は。
  ・つかうまつら(謙譲→帝)せ(使役)たまふ(尊敬→帝)

9.いみじうつつみたまへど、忍び難き気色の漏り出づる折々、宮もさすがなることどもを多く思し続けけり。
 1)主語は。
  (源氏は)漏り出づる折々、宮も〜思し続けけり。


藤壺の出産 (紅葉の賀)


 藤壺は源氏と密通し子どもを孕む。当然帝には秘密である。秘密を守るために出産の予定を早めて十二月にしているが、一月になっても生まれないので帝や周囲の人々は物の怪の仕業であると噂をしている。それを聞くにつれて藤壺は身の破滅になるのではないかと嘆いている。源氏も夢占いで自分の子が帝になると言われたことを思い出し、藤壺の子が自分の子であるのではないかと気づく。そして密かに藤壺の安産祈願をする。藤壺が死んでしまうのではないか、二人の関係がばれて二度と会えなくなるのではないかと嘆いている。ようやく本来の予定日である二月十日過ぎに男児を無事誕生なさる。皆は喜んで心配の跡形もなくなってしまう。藤壺は罪の意識に苛まれ長生きするのはつらいと思うが、弘徽殿の女御が自分を呪っていると聞いて、ここで自分が死んでしまっては笑い者になるだけだと気持ちを強くして、次第に元気を回復していく。
 帝はいつ皇子に会えるのかと思って待っている。源氏もたいへん待ち遠しくて、こっそり藤壺邸を訪れ、「帝に代わって自分が会って帝に報告申し上げましょう」と言うが、藤壺は「まだ子どもの顔が見苦しいので」と頑に断る。その理由は赤子は誰の目にも源氏にそっくりである。きっと私と源氏の過ちに気づくに違いないと良心の呵責に苛まれる。ちょっとしたことでも噂になるのに、これがばれたららどんな噂が流れるかと思うとたいへん憂鬱である。
 若宮は四月にようやく参内する。標準よりは少し大きめで、寝返りなどをしている。帝は若宮を見て、源氏によく似ているので、卓越したものはよく似るのだろうと思っているが、源氏の子であることに気づかない。帝は源氏を大変愛しながらも皇太子にできなかったことを今でも後悔し、臣下として立派に成長した源氏を見るに付けても心苦しく思っていたので、この子は母親である藤壺は身分が高く、源氏と同じように可愛らしく生まれてきたので、宝物のように大切に育て、源氏にはしてやれなかったことをしてやりたいと思う。藤壺は帝の子への愛情が増すにつれて心が休まらない。
 帝は藤壺の局で遊ぶ時も、源氏の前で若宮を抱いて、「皇子はたくさんいたが、幼い時から源氏だけをこのように一日中見て暮らしたものだった。だから余計に連想するのかもしれないが、たいへんよく似ている。小さいころは皆よく似ているのだろうか」と言う。源氏は密事がばれることが恐ろしくもあり、帝からのお褒めに対してはかたじけなくもあり、親としては嬉しくなんともいえぬ気持ちであり、様々な感情が交錯して涙を流す。若若宮が片言を言ったりして笑うのもあまりにも可愛いく、自分に似ているのならば自分は大切なものなのだなどど身勝手なことを考えている。藤壺はたいへんはらはらし、冷や汗を流している。源氏はなまじっか会わない方がよかったと心が乱れて退出する。


藤壺の出産1

0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.「はじめ〜いと心憂き」を音読する。

2.この御事の、十二月も過ぎにしが心もとなきに、この月はさりともと宮人も待ちきこえ、内裏にもさる御心まうけどもある、つれなくてたちぬ。
 1)「この御事」とは。
  ・藤壺の出産。
 2)「この月」とは何月か。
  ・一月。
 3)「さる御心まうけ」とは。
  ・出産を迎える心づもり。
 4)「待ちきこえ」の敬語は。
  ・謙譲、→若宮
 5)「過ぎにしが」「心もとなきに」の「に」の識別は。
  ・過ぎにしが=完了の助動詞
  ・心もとなきに=接続助詞
 6)「たちぬ」の識別は。
  ・完了の助動詞。

3.御物の怪にやと世人も聞こえ騒ぐを、宮いとわびしう、このことにより身のいたづらになりぬべきことと思し嘆くに、御心地もいと苦しくてなやみたまふ。
 1)「御物の怪にや」の「里下がり」との関連は。
  ・懐妊の報告が遅れた理由も物の怪のせいにしていた。
 2)「このこと」の指示内容は。
  ・源氏との密通。
 3)「御物の怪にや」の結びは。
  ・「あらむ」が省略されている。
 4)「御物の怪にや」「このことに」「いたづらに」「思し嘆くに」の識別は。
  ・御物の怪に=断定
  ・このことに=格助詞
  ・いたづらに=形容動詞語尾
  ・思し嘆くに=接続助詞
 5)「なりぬべき」の識別。
  ・強意

4.中将の君は、いとど思ひあはせて、御修法など、さとはなくて所どころにせさせたまふ。世の中の定めなきにつけても、かくはかなくてややみなむと、とり集めて嘆きたまふに、
 1)「思ひあはせ」は何と何を合わせるのか。
  ・藤壺の出産と、夢占い師が源氏の子が帝になると予言していたこと。
 2)「御修法」を「さとはなく」させた理由は。
  ・藤壺が無事に出産するようにさせた。
  ・自分の子どものためだといえないので密かにさせた。
 3)何が「かくはかなくてややみなむ」のか。
  ・自分と藤壺との関係。
 4)「とり集めて」とは何を集めるのか。
  ・藤壺が死んでしまうのではないか。
  ・密通がばれて二度と会えなくなるのではないか。
 5)「かくはかなくてややみなむと」の品詞分解は。
  ・かく(副詞)はかなく(ク用)て(接続助詞)や(係助詞疑問)やみ(四用)な(強意)む(推量体=結び)

5.二月十余日のほどに、男皇子生まれたまひぬれは、なごりなく内裏にも宮人も喜びきこえたまふ。
 1)出産までの経緯を説明する。
  ・出産予定は実際は二月であったが、それで計算すると三月下旬から四月にかけて妊娠したことになる。しかし、その頃は里に下がっていたので、帝の子でないことになる。そこで、出産予定を十二月にしていた。予定通りの出産である。
 2)「喜びきこえたまふ」の敬意は。
  ・きこえ=謙譲→若宮、たまふ=尊敬→帝

6.命長くもと思ほすは心憂けれど、弘徽殿などのうけはしげにのたまふと聞きしを、空しく聞きなしたまはましかば人笑はれにやと思しつよりてなむ、やうやうすこしづつさ はやいたまひける。
 1)主語は。
  ・(藤壺が)心憂けれど、弘徽殿がのたまふと、(藤壺が)聞きしを、(弘徽殿が)聞きなしたまはましかば、(藤壺が)人笑はれ〜さはやいたまひける。
 2)「思ほす」「のたまふ」「聞きなしたまは」「さはやいたまひ」の敬意は。
  ・思ほす、さはやいたまひ=藤壺
  ・のたまふ、聞きなしたまは=弘徽殿
 3)「人笑はれにや」「思しつよりてなむ」の結びは。
  ・(ならむ)が省略。
  ・ける
 4)「命長くもと思ほすは心憂けれ」の理由は。
  ・源氏の子を生んでしまった罪の深さから。
 5)「弘徽殿などのうけはしげにのたまふ」は具体的にどういうことをおっしゃるのか。
  ・桐壺更衣がされたのと同じように、色仕掛けなどさまざまな方法で帝に取り入って子どもを授かった。
  ・源氏の子どもであることではない。
 6)「思しつより」て思い止まった理由は。
  ・自分が死ねば弘徽殿の女御の思いどおりになる。
  ・子どもの行く末が心配である。

7.上のいつしかとゆかしげに思しめしたること限りなし。かの人知れぬ御心にも、いみじう心もとなくて、人間に参りたまひて、
 1)「いつしか」の結びは。
  ・「会はむ」が省略。
 2)「参りたまひて」の敬意は。
  ・参り(謙譲、藤壺)たまひ(尊敬、源氏)

8.「上のおぼつかながりきこえさせたまふを、まづ見たてまつりて奏しはべらむ」と聞こえたまへど、「むつかしげなるほどなれば」とて、見せたてまつりたまはぬもことわりなり。
 1)敬意は。
  ・おぼつかながりきこえ(謙譲、源氏→若宮)させたまふ(尊敬、源氏→帝)
  ・見たてまつり(謙譲、源氏→若宮)
  ・奏し(謙譲、源氏→帝)はべら(丁寧、源氏→藤壺)
  ・聞こえ(謙譲、作者→藤壺)たまへ(尊敬、作者→源氏)
  ・見せたてまつり(謙譲、作者→源氏)たまは(尊敬、作者→藤壺)
 2)源氏の申し出の意図は。
  ・帝の気持ちより、自分が先に見たい。
  ・自分の子どもである可能性が強いから。
  ・源氏にとっては初めての子ども。生涯唯一の男の子ども。
 3)「むつかしげなるほどなれば」という理由の真意は。
  ・生まれたての子は見苦しいものであるから。
  ・それ以上に、罪の子をその相手の源氏に見せたくはなかった。
  ・しかも、その子が源氏にそっくりなのでなおさらである。

9.さるは、いとあさましうめづらかなるまで写し取りたまへるさま、違ふべくもあらず。宮の、御心の鬼にいと苦しく、人の見たてまつるも、あやしかりつるほどのあやまりをまさに人の思ひ咎めじや、さらぬはかなきことをだに疵を求むる世に、いかなる名のつひに漏り出づべきにかと思しつづくるに、身のみぞいと心憂き。
 1)敬意は。
  ・写し取りたまへ(尊敬→若宮)
  ・人の見たてまつる(謙譲→藤壺)
 2)「あやしかりつるほどのあやまち」とは。
  ・源氏との密会。
 3)「まさに人の思ひ咎めじや」
  ・どうして人が気づかないだろうか、いや気づく。
  ・「まさに〜や」で反語。
 4)「さらぬはかなきことをだに」の類推は。
  ・つまらない些細なことでも噂になる。まして、藤壺と源氏の密通という大きな事は 当然噂になる。
 5)係り結びは。
  ・漏り出づべきにか→(あらむ)
  ・身のみぞ→心憂き


藤壺の出産2

0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.「四月に内裏へ〜おわり」を音読する。

2.四月に内裏へ参りたまふ。ほどよりは大きにおよすげたまひて、やうやう起きかへりなどしたまふ。
 1)若宮の様子を説明する。
  ・二月に生まれて四月だから、生後二カ月になる。
  ・
 2)敬意は。
  ・参り(謙譲→帝)たまふ(尊敬→若宮)

3.あさましきまで紛れどころなき御顔つきを、思しよらぬことにしあれば、また並びなきどちはげに通ひたまへるにこそはと思ほしけり。いみじう思ほしかしづくこと限りな し。
 1)若宮が源氏に似ていることに対する帝の解釈を確認する。
  ・卓越したものは似ているという当時の言い習わしがあった。
  ・帝にとって、いつも源氏が基準にある。
 2)「通ひたまへるにこそ」の敬語と係り結びは。
  ・たまひ=尊敬→若宮。
  ・こそ→(あらめ)が省略。

4.源氏の君を限りなきものに思しめしながら、世の人のゆるしきこゆまじかりしによりて、坊にもえ据ゑたてまつらずなりにしを、あかず口惜しう、ただ人にてかたじけなき 御ありさま容貌にねびもておはするを御覧ずるままに、心苦しく思しめすを、
 1)「坊」「ただ人」の意味を確認する。
  ・坊=皇太子。
  ・ただ人=臣下。
 2)敬意は。
  ・思しめし(尊敬→帝)
  ・ゆるしきこゆ(謙譲→源氏)
  ・据ゑたてまつら(謙譲→源氏)
  ・ねびもておはする(尊敬→源氏)
  ・御覧ずる(尊敬→帝)
  ・思しめす(尊敬→帝)
 3)帝が源氏を皇太子にしなかった経緯を説明する。
  ・源氏の母の身分が低く、先に弘徽殿女御との間に男皇子も誕生していたので、源氏を皇太子にできなかった。
  ・また、占い師によると、源氏が帝になると世の中が乱れると言われた。
  ・このことを帝はずっと後悔している。

5.かうやむごとなき御腹に、同じ光にてさし出でたまへれば、瑕なき玉と思ほしかしづくに、宮はいかなるにつけても、胸の隙なくやすからずものを思ほす。
 1)「かうやむごとなき御腹」とは誰か。
  ・藤壺女御
 2)「同じ光」とは。
  ・源氏と同じく光り輝いている美質。
 3)「瑕なき玉」と思った理由は。
  ・若君は源氏にそっくり美しい。
  ・母親も身分が高く後見がしっかりしている。
 4)藤壺の心境は。
  ・帝が若君を可愛がれば可愛がるほど、罪の意識が強くなり苦しむ。

6.例の、中将の君、こなたにて御遊びなどしたまふに、抱き出でたてまつらせたまひて、「皇子たちあまたあれど、そこをのみなむかかるほどより明け暮れ見し。されば思ひわたさるるにやあらむ、いとよくこそおぼえたれ。いと小さきほどは、みなかくのみあるわざにやあらむ」
 1)主語は。
  ・源氏が御遊びなどしたまふ、(帝が)(若宮を)抱き出でたてまつらせたまひ
 2)「例の」とどこに掛かるか。
  ・したまふに
 3)「こなた」とはどこか。
  ・内裏の藤壺の部屋。
 4)「そこ」とは誰か。
  ・源氏。
 5)「かかるほど」とはいつか。
  ・若宮と同じ幼い頃。
 6)状況を確認する。
  ・源氏と藤壺がいる所に、帝が若宮を抱いて入ってきた。
  ・オールキャスト。
 7)ク「思ひわたさるる」の意味は。
  ・自発
 8)係り結びは。
  ・なむ→し
  ・にや→あらむ
  ・こそ→たれ

7.とて、いみじくうつくしと思ひきこえさせたまへり。中将の君、面の色かはる心地して、恐ろしうも、かたじけなくも、うれしくも、あはれにも、かたがたうつろふ心地して、涙落ちぬべし。
 1)敬意は。
  ・思ひきこえ(謙譲→若宮)させたまへ(尊敬→帝)
 2)源氏の心境は。
  ・恐ろし=藤壺との密会がばれるの手はないかと思うから。
  ・かたじけなく=帝が自分を皇太子にしたいと思っていたことに対して恐れ多く思っ  ている。
  ・うれしく、あはれ=自分の子を褒められたことを親としてうれしく思っている。
  ・涙落ちぬ=さまざまな思いが重なって、感極まって泣いてしまった。

8.物語などして、うち笑みたまへるがいとゆゆしううつくしきに、わが身ながらこれに似たらむは、いみじういたはしうおぼえたまふぞあながちなるや。宮は、わりなくかた はらいたきに、汗も流れてぞおはしける。中将は、なかなかなる心地のかき乱るやうなれば、まかでたまひぬ。
 1)「似たらむ」の意味は。
  ・仮定。似ているとしたら。
 2)「あながち」は誰の誰に対するどういう評価か。
  ・作者が源氏に対して。
  ・不義の子であるのに、その可愛さが自分に似ていることをまんざらでもなく思って いることに呆れて非難している。


柏木と女三宮(若菜上)


 源氏が紫の上と余生を送ろうとしていた矢先、女三の宮というお荷物を背負うことになる。
 女三宮の女房たちは男好きで、本来なら、御簾のこちらに几帳を立てて中が見えないように用心しなければならないのに、庭で蹴鞠をしている夕霧や柏木を、柱の近くで見ている。その時、大切に飼っていた唐猫が飛び出し、首につけていた紐が御簾にからまりめくれ上がる。それを直そうとする女房もいない。
 本来なら部屋の奥に坐っていなければならない女三宮も、几帳の側で立っていたので、外から丸見えになってしまった。着物から髪から姿から横顔まで、あらわである。その容貌は上品で可愛らしい。しかし、女房たちは若君達の蹴鞠に熱中して気づかない。猫が鳴くので振り返ったその顔は、おっとりしていて、幼く、可愛らしい人であった。
 夕霧はそれに気がついたが、近寄って直すのは軽々しい態度と見られるので、咳払いをして知らせると、ようやく女三宮も気がついて中に入った。猫の綱も弛んだので御簾が下がってしまった。夕霧は残念に思ったが、それよりも以前から女三宮に思いを寄せていた柏木は、しっかりと目に焼きついた。柏木は平生を装っていたが、夕霧はしっかり目に止めたものと思い、夫以外の男性に顔を見られた女三宮を気の毒に思った。柏木は女三宮のことが忘れられず、さっきの猫を抱いて、女三宮を忍んでいるのは何とも色好みなものである。
 源氏はその様子に気づいて、上達部たちの座を寝殿から遠い東の対に移す。


0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.音読する。

2.御几帳どもしどけなく引きやりつつ、人気近く世づきてぞ見ゆるに、唐猫のいと小さ くをかしげなるを、少し大きなる猫追ひ続きて、にはかに御簾のつまより走り出づるに、 人々おびえ騒ぎてそよそよと身じろきさまよふけはひども、衣の音なひ、耳かしがまし き心地す。
1)「世づきてぞ」の結びは。
 ・「見ゆる」で結んでいるように見えるが、下に接続助詞があるので流れている。
2)「御几帳」の説明をする。
 ・土居という四角い台を上に、日本の細柱を立て、その上に横木を渡し、それに帷子を結び付ける。帷子の合間を「ほころび」と言い、ここから風を通したり覗き見したりする。
 ・昼間は格子を上げて開放しているので、外から部屋の中が見えないように几帳で仕切っている。
3)女房たちの行動について説明する。
 ・普通は御簾に平行して几帳を置いて,中が絶対に見えないようにする。
 ・しかし、この女房たちは男好きで、几帳を片側に寄せてしまって、外を見やすいようにしている。
4)唐猫の説明をする。
 ・中国から渡来した猫。朝廷が中国と貿易していたので手に入る貴重品。
5)女房たちの動きで、「衣の音なひ、かしがましき」の様子を説明する。
 ・普通は、衣擦れの音はかすかであるのに、ここではやかましいほどの衣擦れの音がしているというのは、たいへんはしたないことである。

3.猫は、まだよく人にもなつかぬにや、綱いと長く付きたりけるを、物に引き掛けまつ はれにけるを、逃げむと引こじろふほどに、御簾のそばいとあらはに引き上げられたる をとみに引き直す人もなし。この柱のもとにありつる人々も心あわたたしげにて、もの怖ぢしたるけはひどもなり。
1)「引き上げられ」の助動詞の意味は。
 ・受身。
2)御簾がまくれあがるまでの状況を説明する。
 ・大きな猫に追いかけられた唐猫が御簾の端から飛び出し、大切にと首に結んであった  長い綱が御簾にひっかかって、めくれ上がった。
3)女房たちの反応をまとめる。
 ・すぐに直す人がいない。
 ・異常事態に気づき、あわてふためいて、怖がっている。
 ・本来なら、女三宮のことを第一に考えなければならないのに、職務怠慢である。

4.几帳の際少し入りたるほどに、袿姿にて立ちたまへる人あり。階より西の二の間の東のそばなれば、紛れどころもなくあらはに見入れらる。
1)敬語の対象は。
 ・主語の確認を兼ねる。
2)「袿」の説明をする。
 ・図を参照する。
3)母屋の説明をする。
 ・図を参照にして、「階より西の二の間の東のそば」を確認する。
4)「見入れらる」の助動詞の意味は。
 ・可能。
5)高貴な身分の女性を立ち居振る舞いはどうあるべきか。
 ・部屋の真ん中に坐っているのが普通である。
 ・しかし、女三宮は、御簾の近くに立っていた。
 ・幼い様子がわかる。

5.紅梅にやあらむ、濃き、薄き、すぎすぎにあまた重なりたるけぢめ華やかに、草子のつまのやうに見えて、桜の織物の細長なるべし。御髪のすそまでけざやかに見ゆるは、 糸をよりかけたるやうになびきて、すそのふさやかにそがれたる、いとうつくしげにて、七、八寸ばかりぞ余りたまへる。御衣のすそがちに、いと細くささやかにて、姿つき、髪のかかりたまへるそばめ、言ひ知らずあてにらうたげなり。
1)女三宮の容貌についてまとめる。
 ・服装
  ・紅梅の襲の袿。(紅梅の色目を図説で見る)
  ・桜の襲の細長。(桜の色目、細長を図説で見る)
 ・髪
  ・先までくっきりと見える。
  ・糸を縒りかけたように靡いている。
  ・先がふさやかにそがれているのが可愛らしい。
  ・七八寸ほど背丈に余っている。
 ・体つき
  ・裳の裾を引きずるほど小柄。
 ・横顔
  ・上品で、可愛らしい。

6.夕影なれば、さやかならず奥暗き心地するも、いと飽かず口惜し。鞠に身を投ぐる若君達の、花の散るを惜しみもあへぬ気色どもを見るとて、人々、あらはをふともえ見つけぬなるべし。猫のいたく鳴けば、見返りたまへる面もちもてなしなど、いとおいらかにて、若くうつくしの人やとふと見えたり。
1)蹴鞠について説明する。
 ・図を参照する。
2)「花の散る」とはどんな様子か。
 ・花に鞠が当たって、花びらが落ちるのを惜しむ気持ちもなく奮戦している。
3)「飽かず口惜し」「ふと見えたり」の主語は。
 ・夕霧。
 ・柏木とも考えられるが、次の段落の主語が夕霧であるから。
4)女三宮が振り返って顔が見えたのも猫が原因であることを確認する。
5)性格についてまとめる。
 ・おっとりしている。
 ・顔だちもそうであるが、高貴な身分であるのに顔を見られることもそうである。

7.大将、いとかたはらいたけれど、はひ寄らむもなかなかいと軽々しければ、ただ心を得させてうちしはぶきたまへるにぞ、やをら引き入りたまふ。さるは、わが心地にも、 いと飽かぬ心地したまへど、猫の綱ゆるしつれば心にもあらずうち嘆かる。
 1)大将について説明する。
  ・夕霧のこと。
  ・以前、朱雀帝に女三宮を勧められたが、愛妻の雲居の雁の為に辞退したが、まだ少   し未練が残っている。
 2)「しはぶきたまふ」理由は。
  ・女三宮に見られていることを知らせるため。
  ・近づくには身分が違うのでできない。
 3)「得させ」の助動詞の意味は。
  ・使役。
  ・単独で用いられている。
 4)「しはぶきたまへるぞ」の結びは。
  ・たまふ。
 5)「嘆かる」の助動詞の意味は。
  ・自発。
 6)夕霧の矛盾する気持ちを考える。
  ・継母が人から見られているに気づいて、はらはらしている。
  ・継母といえども滅多に顔を見られないので、物足りなく思っている。

8.ましてさばかり心を占めたる衛門督は、胸ふとふたがりて、誰ばかりにかはあらむ、ここらの中にしるき袿姿よりも人に紛るべくもあらざりつる御けはひなど、心にかかりておぼゆ。さらぬ顔にもてなしたれど、まさに目とどめじやと大将はいとほしく思さる。
1)衛門の督について説明する。
 ・柏木のこと。
 ・女三宮の婿選びの時に立候補する。しかし、家柄はいいが本人の位が低く釣合いがとれないと判断された。将来性はあるが、朱雀帝が重病で早く相手を見つけたかったこともある。
 ・当然、今でも好意を寄せている。
2)「誰ばかりにか」の結びは。
 ・む(推量体)
3)「まさに目とどめじや」を反語に注意して主語と目的語を補って訳す。
 ・柏木が女三宮にどうして注目しないだろうか、いやする。
4)「さらぬ顔」を装った理由を考える。
 ・女三宮をかいま見たことを、夕霧に気づかれまいとした。
5)「思さる」の敬意の対象と助動詞の意味は。
 ・夕霧。
 ・自発。
6)夕霧が女三宮を「いとほし」と感じた理由を考える。
 ・継母の女三宮と柏木との関係を心配している。

9.わりなき心地の慰めに、猫を招き寄せてかき抱きたれば、いと香はしくて、らうたげにうち鳴くもなつかしく思ひよそへらるるぞ、すきずきしきや。
 1)主語は。
  ・柏木。
 2)柏木が猫を抱いている気持ちは。
  ・女三宮を垣間見せてくれた猫を抱くことで、女三宮の残り香があるような気がした。
 3)「すきずきしや」が作者の評価であることを確認する。
 4)「思ひよそへらるる」の助動詞の意味は。
  ・自発。
 5)「思ひよそへらるるぞ」の結びは。
  ・すきずきし。

10.大殿御覧じおこせて、「上達部の座、いと軽々しや。こなたにこそ。」とて、対の南面に入りたまへれば、皆そなたに参りたまひぬ。宮も、ゐなほりたまひて御物語したまふ。次々の殿上人は、簀子に円座召して、わざとなく、椿餠、梨、柑子やうの物ども、さまざまに、箱のふたどもに取り交ぜつつあるを、若き人々そぼれ取り食ふ。さるべき干物ばかりして、御土器参る。
 1)源氏が「御覧じおこせ」の場所は。
  ・寝殿の東南の隅。
 2)源氏が上達部を移動させた理由は。
  ・中庭から東の対へ移動させた。
  ・場所を寝殿造の図で確認する。
  ・寝殿の中の様子が見えない位置に移動させた。
 3)「こなたにこそ」の結びは。
  ・「来れ」が省略されている。
 4)宮の説明をする。
  ・蛍兵部卿。源氏の弟。 
 5)「召す」の意味に注意する。
  ヌご覧になる。ネお治めになる。ノお呼び寄せになる。ハお取り寄せになる。ヒ召し  上がる。お召しになる。フお乗りになる。
 6)「参る」の意味に注意する。
  ヌ参内する。ネ入内する。ノお参りする。ハ参る。(「行く」「来」の謙譲・丁寧)
  ヒさしあげる。フ〜し申し上げる。ヘお上げ(下げ)する。ホ召し上がる。
 7)敬語は。
  ・ご覧じ(尊敬→源氏)、入りたまひ(尊敬→源氏)、参り(謙譲→源氏)たまひ(尊敬→上達部)、ゐなほりたまひ(尊敬→蛍宮)、物語したまふ(尊敬→蛍宮)、円座召し(尊敬→上達部)、参る(尊敬→上達部)
 
11.衛門督は、いといたく思ひしめりて、ややもすれば、花の木に目をつけてながめやる。大将は、心知りに、「あやしかりつる御簾の透影思ひ出づることやあらむ。」と思ひたまふ。いと端近なりつるありさまを、「かつは軽々し。」と思ふらむかし。
1)【語】語句の意味。
2)【文】係助詞の意味。
3)【文】敬語。
4)【訳】
 ・柏木は、たいへん思い沈んで、ともすれば桜の花の木を見つけてぼんやり物思いにふけっている。夕霧は、(柏木の)心中を知って、「(柏木は)不思議であった御簾を通して女三宮の姿を見たことを思い出しているのだろうか。」とお思いになる。
5)【説】「あやしかりつる御簾の透影」とはなんだったのか。
 
12 「いでや、こなたの御ありさまのさはあるまじかめるものを。」と思ふに、「かかればこそ世のおぼえのほどよりは、内々の御心ざしぬるきやうにはありけれ。」と思ひあはせて、「なほ内外の用意多からずいはけなきは、らうたきやうなれどうしろめたきやうなりや。」と思ひおとさる。
1)【語】語句の意味。
2)【文】係助詞の意味。
3)【文】助動詞。
 ・「まじかめる」は「まじか(る)める」で、打消当然の連体形の語尾が省略されたも   のに推定の助動詞が付いている。
 ・「けれ」は詠嘆。
4)【訳】
・「いやもう、こちら(紫の上)のご様子は、そのようではあるはずがないだろうけれども」と思うと、「そうだからこそ世の中の評判よりは内心の愛情は薄いそうであるなぁ」と思い合わせて、「やはり自分や他人への気配りが多くなく幼いことは、かわいらしいようだけれども、気がかりであるようだ」と自然と評価を落としてしまう。
5)【L2】「こなた」の指示内容は。
 ・紫の上。
6)【L1】「さ」の指示内容は。
 ・いと端近うなりぬる
7)【L1】「かかれば」の指示内容は。
 ・いと端近うなりぬる
8)【説】「内々の御心ざし」とは。
 ・源氏の内心での女三宮への愛情。
9)【説】夕霧が、どちらも義母にあたる紫の上と女三宮を比較し、父である源氏の心中で の愛情も推測している。
 
13.宰相の君は、よろづの罪をもをさをさたどられず、おぼえぬ物の隙より、ほのかにも、それと見たてまつりつるにも、わが昔よりの心ざしのしるしあるべきにやと契りうれしき心地して、飽かずのみおぼゆ。
1)【語】語句の意味。
 ・契り=前世での宿縁。
2)【文】助動詞。
 ・「れ」は下に打消の助動詞を伴うので可能。
3)【文】係り結び。
4)【訳】
 ・柏木は、女三宮のあらゆる欠点もほとんど考えることができず、思わぬものの隙間からの、ぼんやりとではあるが、それと見申し上げたことにつけても、私の昔からの思いが実現する前兆であるのだろうかと前世の宿縁が嬉しい気がして、物足りなく思う。
5)【L1】「それ」の指示内容は。
 ・女三宮。
6)【説】「我が昔よりの心ざし」とは。
 ・柏木が女三宮の婿に立候補して断られたこと。


柏木、女三の宮に迫る (若菜下)


 あれから6年後、その間、柏木はひたすら女三の宮のことを思い続けていた。そして、自分の乳母の妹の子供である女三の宮の侍従に頼み続けて、宮との密会の場面を設定しようとする。侍従はそんな柏木の熱意に負けて、わざわざ手紙をよこした。柏木は喜び勇んで、しかし目立たないように粗末な服装でこっそりと宮のいる源氏の六条邸へ出掛ける。今をときめく源氏の正妻に密会しようなどと大それたことをしようとしているとはわかっている。でも、近くに行くといっそう恋慕の情が募るとまでは思いもしなかった。ただ、六年前の夕暮れにちょっとだけ見た着物の裾が忘れられず、近くで一目見て、自分の気持ちを伝え、一行の返事でもいただければ、不憫と思ってもらえたらそれで十分、色好みも満足するとだけ思っていた。
 四月の十日過ぎ、ちょうど加茂の祭りの禊の前日に、斎院に仕える女房は仕方ないにしても、それ以外の身分の低い若い女房は祭見物の用意に夢中になって裁縫したり化粧したりしている。年に何度もないビッグイベントで、オシャレに余念がなく、宮のことは放ったらかしである。全くもって職務怠慢、教育ができていない。あの六年前と全く変わっていない。しかも、女房の監督役の按察の君まで恋人の源中将に誘われて自分の部屋に下がっている。部下が部下なら上司も上司である。その上、もう一人の上司である侍従はその隙に柏木を招き入れようというのだから言語道断である。宮の側には誰もいない。絶好のチャンスとばかり、柏木を宮の寝室に入れる。本来なら、几帳を挟んで間に自分が立って面会させてもよいはずである。それなのに几帳の中に入れて、宮と直接対面させてしまった。その方が、外から発見されにくいと考えたからであるが、そこまでするだろうか。
 宮は何も知らずに寝ているが、男の気配がするのに気づく。自分の寝室に入ってくるのは源氏しかいないと思っている。しかし、男はいきなり浜床まで抱き下す。宮はこんなじゃれたようなことをするのは源氏ではないと気づき、ものに襲われたような気がしてやっとのことで目を開けると、やっぱり源氏ではない。男は何か訳のわからないことを言っている。というより、宮の気が動転しているので男が何を言っているのか理解できない。宮は一人では何もできない。人を呼ぶが誰のいないのでやってこない。恐怖心に震え汗を流すその様子がまた気の毒やら可愛いやら。
 柏木は口説き始める。「自分など物の数ではないが、こんなにも嫌われる身だとは思いもしなかった。身分不相応だとは思っていたが、この恋心を無理矢理に胸にしまっておけば心の中で朽ち果ててしまただろう。それなのに、なまじっか自分の気持ちを出してしまい、上皇もお聞きになって問題外だとはおっしゃらなかったので少し期待していた。源氏より一段身分が劣っているので、人より深い愛情を無にしてしまったと残念に思ったことは、今となっては無駄なことであったと思い返すが、それでもなお心に染みついていたようで、年月が経つに連れて、無念さや辛さや恐ろしさや懐かしさやいろいろな気持ちが強くなることを抑えきれず、このように身の程知らずに見られるのも、一方では思慮がなかったことを恥ずかしく思うので、これ以上の罪深さは重ねないでおきましょう」と言った。宮はようやく柏木であると気がつくが、声が出ない。さらに柏木が言う。「返事がないのは無理もないが、このような密通は世の中でないことではない。世にも珍らしい思いやりのない性格なら、つらくなって無理矢理襲いかかることもあるでしょう。思いやりを持ってかわいそうにと言ってもらえれば、その言葉で十分に満足して帰りましょう。」当初の目的である、自分の気持ちを伝え、不憫と思ってもらえたらそれで十分という気持ちを伝えたのである。
 柏木は宮は帝の娘で源氏の正妻でもあるので、さぞかし威厳のある、親しくお会いするのも気が引ける人だと想像していたので、自分の思いを伝えてお言葉をいただければ十分で、色恋めいたことなどできるはずがないと思い込んでいた。しかし、実際の宮は威厳のある人ではなく、親しみやすく可愛い人であった。手の届く普通の女だったのだと思うと、柏木は自分を抑えることができず、このままどこかに連れていって隠してしまい、自分も貴族の身分を捨ててしまいたいとまで思い乱れた。何もかも捨てて独占したいほど、恋心が燃え上がってきた。
 柏木は思いを遂げる。少しまどろんだ時に見た夢に、あの宮を見せてくれた猫を宮に返して差し上げようと連れてきたが、何のために連れてきたのかと思っているところで目が覚めた。何故そんな夢を見たのだろう。昔から、獣の夢を見ると妊娠するという。
 貴婦人は力で対抗することはできなかった。それを防ぐために源氏は女房を配置しておいたのだが、役立たずばかりであった。しかも、当の本人にしてからが頼り無い。宮は過ちを犯して呆然としている。柏木はここぞとばかり、「これは逃れることのできない前世からの宿縁が浅くはなかったという証拠だ。自分でも正気ではなかったと思っている。」あの六年前の猫が御簾の端を引き上げた夕方のことも話す。宮はこれも宿縁かとあっさりあきらめ、源氏にどのような顔で会えばいいのか。悲しくて心細くて、子どものように泣いてしまう。柏木にはその姿がまたもったいなく心にしみる。自分の涙をぬぐった袖で、宮の涙も拭ったので、袖はいっそう濡れる。この時、柏木は源氏に勝ったと思っただろう。


1.いかにいかにと日々に責められ困じて、さるべきをりうかがひつけて、消息しおこせたり。喜びながら、いみじくやつれ忍びておはしぬ。
1)ここまでのあらすじを説明する。
 ・柏木は女三宮の侍従に、宮と逢わせるように執拗に依頼する。侍従は柏木に根気負けして、手引きを約束する。
2)「小侍従」の説明をする。
 ・女三の宮の乳母の子ども。女三の宮の乳母は柏木の乳母の妹であった。
 ・つまり、柏木の乳母の妹の子なので、柏木とは親しい関係にあった。
3)主語は。
 ・(侍従が)〜消息しおこせたり。(柏木は)忍びておはしぬ。
4)オ「責められ」の助動詞の意味は。
 ・受け身。
5)「さるべきおり」とは。
 ・柏木と宮が密会させる機会。
6)「消息しおこせたり」について説明する。
 ・わざわざ手紙で密会を日を知らせるのは、少しやり過ぎである。
7)「やつれ忍びておはしぬ」理由は。
 ・人目につかないように粗末な服を着て、粗末な牛車に乗って行った。

2.まことに、わが心にもいとけしからぬことなれば、け近く、なかなか思ひ乱るることもまさるべきことまでは思ひもよらず、ただ、いとほのかに、御衣のつまばかりを見たてまつりし春の夕が飽かず世とともに思ひ出でられたまふ御ありさまをすこしけ近くて見たてまつり、思ふことをも聞こえ知らせてば、一行の御返りなどもや見せたまふ、あはれとや思し知るとぞ思ひける。
1)「わが心にもいとけしからぬ」の柏木の気持ちを説明する。
 ・柏木には理性があるので、善悪はわきまえている。
2)「思ひ乱るることもまさりぬべし」の作者の意図を説明する。
 ・柏木の心情ではあるが、恋ゆえに、予想外の方向に展開することを予感させる。
3)「春の夕」とはいつか。
 ・若菜上の柏木が宮を見た場面。六年前になる。
4)「思ひ出でられたまふ」助動詞の意味と敬意の対象は。
 ・自発。
 ・柏木。
5)「思ふこと」とは。
 ・自分がずっと宮を思っていたこと。
6)「知らせてば」の識別はと接続助詞の意味は。
 ・完了の未然形。
 ・順接の仮定条件。
7)一行の御返りなどもや見せたまふ、あはれとや思し知るとぞ思ひける。」の係り結び は。
 ・や→たまふ
 ・や→知る
 ・ぞ→ける
8)この部分の柏木の気持ちを説明する。
 ・かねて自信のあった自分の口説きのテクニックを試したかった。
 ・少しでも心を動かしたならば、それで満足して、何もしないで帰るつもりであった。
9)時制を整理する。
 ・まことに〜なれば(現在)、け近く〜思ひもよらず(未来)、ただ〜春の夕(過去)が 飽かず〜御ありさまを(現在)すこし〜思し知ると(未来)ぞ思ひける(現在)。

3.四月十余日ばかりのことなり。御楔、明日とて、斎院に奉りたまふ女房十二人、ことに上臈にはあらぬ若き人童べなど、おのがじし物縫ひ化粧などしつつ、物見むと思ひまうくるも、とりどりに暇なげにて、御前の方しめやかにて、人しげからぬをりなりけり。
1)「御禊」の説明をする。
 ・加茂の祭は四月中の酉の日。その三日前の午の日、または、二日前の未の日に、斎院が加茂川で禊ぎをする。
2)「奉りたまふ」の敬意の対象は。
 ・奉り(謙譲→斎院)たまふ(尊敬→女房)
3)「若き人」の様子を説明する。
 ・斎院に奉る女房は身分の高い女性、それ以外の人は、物見にいこうとしてオシャレに余念がない。本来なら宮のお世話をしなければならないのに、自分が若い者は遊ぶことを優先させる。女房の教育は六年前と全く変わっていない。

4.近くさぶらふ按察の君も、時々通ふ源中将せめて呼び出ださせければ、下りたる間に、ただ、この侍従ばかり近くはさぶらふなりけり。よきをりと思ひて、やをら御帳の東面の御座の端に据ゑつ。さまでもあるべきことなりやは。
1)「按察の君」「源中将」について説明する。
 ・按察の君は女房たちの監督役。その按察の君までも恋仲であった源中将に呼び出され  て自分の部屋に帰っている。
 ・部下が部下なら上司も上司である。
2)「よきをりと思ひて」を説明する。
 ・侍従はこのように宮の身辺の警護が薄くなることを予想して、柏木に手紙を書いて呼  び出した。
 ・計画的犯行である。
3)「御帳」の説明をする。
 ・ベッド。
 ・板敷きの上に浜床という黒漆の台を四つ置き、その上に畳二畳を敷いた。四隅にL字型の土居という台を置く。その上に六尺の細い柱を三本ずつ立てる。天井に塗滑の白絹を張った明かり障子をのせる。周囲に美しい絹の帳を垂らして中を見えなくし、上部には帽子額(もこう)という短い幕をかける。帳の中には東・西・南に几帳を置いた。
4)「御帳の東面の御座の端に据ゑつ」について説明する。
 ・いきなり寝室の中に入れてしまった。
 ・御帳台の帷のこちらに几帳を立て、間に小侍従が坐ってもよかった。しかし、見つかれば大変なことになるので、柏木を御帳台の中に入れて、外から見張るほうが安全だと考えた。
 ・ありえないことである。

5.宮は、何心もなく大殿籠りにけるを、近く男のけはひのすれば、院のおはすると思したるに、うちかしこまりたる気色見せて、床の下に抱きおろしたてまつるに、物におそはるるかとせめて見開けたまへれば、あらぬ人なりけり。あやしく聞きも知らぬことどもをぞ聞こゆるや。
1)「近く男のけはひのすれば、院のおはすると思したる」について説明する。
 ・寝室に来る男といえば、源氏しか考えられない。
2)「思したるに」の接続助詞の意味による後の解釈の違いは。
 ヌ順接。
  ・夫が寝室に来るのにかしこまった態度をとるのは、親密さがない様子を表している。
  ・宮は源氏に対して緊張している。
 ネ逆接。
  ・「院にはあらで」が省略されている。
  ・源氏以外の男だと気づいて警戒して緊張している。
3)「床の下に抱きおろしたてまつるに、物におそはるるかと」の主語の変化は。
 ・(柏木が宮を)おろしたてまつるに、(宮は)物におそはるるかと
4)「おそはるる」の助動詞の意味は。
 ・受身。
5)「あらぬ人なりけり」の助動詞の意味は。
 ・あらぬ(打ち消し)人なり(断定)けり(詠嘆)
6)「あやしく聞きも知らぬこと」を説明する。
 ・柏木は恋心を告白している。
 ・しかし、宮は気が動転しているので、誰が何を話しているかわからない。

6.あさましくむくつけくなりて、人召せど、近くもさぶらはねば、聞きつけて参るもなし。わななきたまふさま、水のやうに汗も流れて、ものもおぼえたまはぬ気色、いとあはれにらうたげなり。
1)「召す」の意味は。
 ・「呼ぶ」の尊敬語。
2)「人を召せど」の宮の行為について説明する。
 ・貴族は自分ではなにもできない。
3)「あはれにらうたげなり」という宮の様子について説明する。
 ・気の毒であるが、困惑している様子がまた愛らしい。

7.「数ならねど、いとかうしも思しめさるべき身とは、思うたまへられずなむ。昔よりおほけなき心のはべりしを、ひたぶるに籠めてやみはべりなましかば、心の中に朽して過ぎぬべかりけるを、
1)「かう」の指示内容は。
 ・宮が柏木を避けていること。
2)「思しめさるべき身」の助動詞の意味は。
 ・思しめさ(四未)る(尊敬)べき(当然)
3)「思うたまへられずなむ」について
 ヌ「思う」の音便は。
  ・「思ひ」のウ音便。
 ネ「たまへ」の敬語は。
  ・謙譲→宮。
  ・助動詞「られ」の接続は未然形で、「たまへ」が未然形になっているので下二段活   用。下二段活用の場合は謙譲。
 ノ「たまへられ」の助動詞の意味は。
  ・可能。
 ハ「なむ」の識別は。
  ・係助詞。「ある」が省略されている。
4)「やみはべりなましかば」の品詞分解と敬語と助動詞の意味は。
 ・やみ(四用)はべり(丁寧、柏木→宮)な(完了未)ましか(反実仮想未)ば(順接  仮定)
 ・言いださなかったならば、心のなかで埋もれてしまっただろう。しかし、現実は、言  いだしてしまったので、心のなかに納まらなくなった。

8.なかなか漏らし聞こえさせて、院にも聞こしめされにしを、こよなくもて離れてものたまはせざりけるに、頼みをかけそめはべりて、身の数ならぬ一際に、人より深き心ざしをむなしくなしはべりぬることと動かしはべりにし心なむ、よろづ今はかひなきことと思うたまへ返せど、
1)「漏らし聞こえさせ」「聞こしめさ」の謙譲語の対象は。
 ・宮。
 ・院。院とは朱雀院。
2)「聞こしめされにし」の助動詞の意味は。
 ・聞こしめさ(四未)れ(尊敬)に(完了)し(過去)
3)「こよなくもて離れても」の具体的な内容は。
 ・それほど離れてもいない。
 ・宮の婿としてふさわしくない。
4)「身の数ならぬ」の柏木の気持ちは。
 ・身分が低いことを理由にしている。
5)「人より深き心ざし」の内容は。
 ・宮への愛情。
6)「思うたまへ」の敬語の種類は。
 ・謙譲。
7)「心なむ」の結びは。
 ・流れている。
 ・「返せ」で結ぶはずが、接続助詞「ど」があるので流れている。

9.いかばかりしみはべりにけるにか、年月にそへて、口惜しくも、つらくも、むくつけくも、あはれにも、いろいろに深く思うたまへまさるにせきかねて、かくおほけなきさまを御覧ぜられぬるも、かつはいと思ひやりなく恥づかしければ、罪重き心もさらにははべるまじ」
1)柏木の複雑な心中を考える。
 ・(宮に逢えないことが)残念で、つらく、(源氏の目が)恐ろしく、(宮が)懐かし  くも、
2)「思うたまへ」の敬語の種類は。
 ・謙譲語。
 ・下に動詞が接続しているので連用形で、「たまへ」が連用形であるのは下二段。
3)「かくおほけなきさま」とは。
 ・宮の寝室まで入り込むこと。
4)「御覧ぜられ」の助動詞の意味は。
 ・尊敬→宮。
5)「罪重き心もさらにははべるまじ」の柏木の気持ちは。
 ・これ以上の関係には至らないでおこうと自制している。
 ・自分の行為を罪深いことだと判断できる理性を保っている。

10.と言ひもてゆくに、この人なりけりと思すに、いとめざましく恐ろしくて、つゆ答へもしたまはず。
1)「この人」とは誰か。
 ・柏木。
 ・ここまで話を聞いてようやく柏木であることを知る。
2)「なりけり」の助動詞の意味は。
 ・なり(断定)けり(詠嘆)
3)「いとめざましく恐ろしくて」の宮の気持ちは。
 ・相手が柏木なら、自分を目的に来たのだと知って恐ろしくなった。

11.「いとことわりなれど、世に例なきことにもはべらぬを、めづらかに情なき御心ばへならば、いと心憂くて、なかなかひたぶるなる心もこそつきはべれ。あはれとだにのたまはせば、それをうけたまはりてまかでなむ」とよろづに聞こえたまふ。
1)誰の会話か。
 ・柏木。
 ・宮は恐ろしくて言葉が出ない。
2)何が「いとことわり」なのか。
 ・宮が恐ろしく思うこと。
3)「世に例なきこと」とは何か。
 ・罪深い関係になること。
 ・人の妻と密通すること。
 ・当時はよくあったのか?
4)柏木の要求をまとめる。
 ・宮の声を聞きたい。
 ・一言、同情の言葉を言ってもらえれば十分である。
 ・返事もくれないような薄情な仕打ちをなさる人ならば、却って欲情も募って何をしで  かすかわからない、と脅しをかけている。
 ・しかし、可哀相にと言って、おとなしく帰るだろうか?
5)敬語は。
 ・はべれ(丁寧)
 ・のたまはせ(尊敬)
 ・うけたまはり(謙譲)
 ・まかで(謙譲)
6)「なむ」の識別は。
 ・強意+意志。

12.よその思ひやりはいつくしく、もの馴れて見えたてまつらむも恥づかしく推しはかられたまふに、ただかばかり思ひつめたる片はし聞こえ知らせて、なかなかかけかけしきことはなくてやみなむと思ひしかど、
1)「推しはかられ」の助動詞の意味は。
 ・受身。
2)「なむ」の識別は。
 ・強意+意志。
3)柏木の気持ちを整理する。
 ・威厳があって側にいるのも恐れ多い人ならば、自分の思いを伝えるだけで色めかしい  ことをしないで帰るつもりであった。

13.いとさばかり気高う恥かしげにはあらで、なつかしくらうたげに、やはやはとのみ見えたまふ御けはひの、あてにいみじく思ゆることぞ、人に似させたまはざりける。さかしく思ひしづむる心も失せて、いづちもいづちも率て隠したてまつりて、わが身も世に経るさまならず、跡絶えてやみなばやとまで思ひ乱れぬ。
1)柏木の気持ちの変化を整理する。
 ・気高く恐れ多くもなく、親しみが感じられて可愛く、ふわふわしていたので、征服欲  や独占欲が高まった。
 ・自分の身分も地位も捨ててもよいとまで思い入れている。
2)「なばや」の文法的説明は。
 ・な(強意)ばや(願望の終助詞)

14.ただいささかまどろむともなき夢に、この手馴らしし猫のいとらうたげにうちなきて来たるを、この宮に奉らむとてわが率て来たると思しきを、何しに奉りつらむと思ふほどにおどろきて、いかに見えつるならむと思ふ。
1)柏木が過ちを犯してしまった後であることを確認する。
2)「手馴らしし猫の」の格助詞の意味は。
 ・同格。
3)猫について説明する。
 ・御簾を引き上げて宮を見せてくれた唐猫である。
 ・宮の猫を明石の女御を介して東宮が所望された。その猫を柏木が拝借したきりになっ  ていた。
 ・その猫を宮に返しにくる夢を見た。
 ・獣の夢を見れば妊娠すると信じられていた。
4)夢らしい表現に注意する。
 ・猫を宮に返そうとしに来たのだが、何のために返そうとしたのかわからない時に、目  が覚めて、どうしてあんな夢を見たのだろうと思っている。

15.宮は、いとあさましく、現ともおぼえたまはぬに、胸ふたがりて思しおぼほるるを、「なほ、かく、のがれぬ御宿世の浅からざりけると思ほしなせ。みづからの心ながらも、うつし心にはあらずなむおぼえはべる」。
1)誰の会話か。
 ・柏木。
2)「のがれぬ御宿世」の根拠は。
 ・六年前の夕方に姿を見たことから二人の運命は決まってしまった。
3)柏木の気持ちを考える。
 ・自分の意志による行為であるのに、運命のように言って、宮に諦めさせようとしてい  る。
 ・開き直った男の恐ろしさがある。
4)「なむ」の識別は。
 ・係助詞。「はべる」で結ぶ。

16.かのおぼえなかりし、御簾のつまを描の綱ひきたりし夕のことも、聞こえ出でたり。げに、さはたありけむよと口惜しく、契り心憂き御身なりけり。院にも、今は、いかでかは見えたてまつらんと悲しく心細くていと幼げに泣きたまふを、いとかたじけなく、あはれと見たてまつりて、人の御涙をさへ拭ふ袖は、いとど露けさのみまさる。
1)主語の変化は。
 ・(柏木は)かの〜聞こえ出でたり。(宮は)実に〜泣きたまふを、(柏木は)いと〜。
2)「幼げに泣きたまふ」理由は。
 ・過ちを犯してしまった後悔よりも、源氏が恐ろしくて泣いている。
3)「人」とは。
 ・宮。
4)「いとど露けさのみまさる」理由は。
 ・自分の涙を拭いて濡れている上に、宮の涙まで拭ったのでびしょ濡れになっている。


御法


 源氏は、異母兄の朱雀帝から、最愛の娘である女三宮と結婚させられる。正妻である紫の上は後ろ楯もなく、源氏の愛情だけが頼りである。源氏も紫の上を最愛の女性としているが、紫の上は絶望的な心境に追いやられる。明石の上の娘である明石の姫君を中宮になるまで育て上げるが、不安な晩年を送る。やがて発病し、病状は日増しに悪くなる。そんな中で気分のよい日、明石の姫君と二人でいる所に、源氏が来あわせる。源氏五十一歳、紫の上四十三差異の時のことである。
 源氏は紫の上が起きていることを喜び、明石の中宮のお蔭だろうかと軽口を叩く。紫の上はこれぐらいの元気さを喜んでくれる源氏を心苦しく思い。もし自分が死んでしまったら源氏はどうなるだろうと心配して、次の歌をよむ。
  「起きている私は置いている露と同じではかないものです」
本当に萩の枝が風に吹かれて折れ曲がって露が落ちそうになっているのを見ると、紫の上のたとえに耐えられなくなって、次の歌を詠む。
  「露のように消えていくあなたと一緒に死んでいきたい」
明石の中宮の次の歌を詠む。
  「露のようにはかない世の中は他人事とは思えない」
歌を交わし合っている紫の上と明石の中宮は、容姿も理想的な美しさであり、見る価値があるが、千年も一緒に過ごすことはあるはずもなく、引き止めようがない。
 紫の上は、病気で衰えたとはいえ、こんな姿を見せるのは失礼だからといって、帰ってもらうように言う。明石の中宮は手をとって励ますが、臨終が近いことが明らかになって、祈祷師などを手配させ騒ぐ。以前にも生き返ったことがあったので、その経験で物の怪のせいだと疑って、一晩中祈祷させるが、甲斐なく明け方にお亡くなりになった。


御法  学習プリント
点検  月  日
学習の準備
1.次の語の読み方を書け。
 内裏  隙  来し方  前栽  脇息  御前  御心  御気色  萩  容貌 千年  御几帳  臥す  御誦経  御物の怪  夜一夜
2.次の語句の意味を調べよ。
 さはやぐ  かごとがまし  露けし  さかし  わずらはし  あなた かたはらいたし  こなた  しつらひ  あて  なまめかし  めでたし にほひ  あざあざと  なかなか  よそふ  らうたし  かりそめ  すずろ 前栽  つひ  あらまほし  かけとむ  なめげ
3.訳を本文プリントの左側に書きなさい。

学習のポイント
1.紫の上の病状の変化を気持ち理解する。
2.紫の上と明石の中宮の関係について理解する。
3.紫の上の今と昔の美しさの違いを理解する。
4.源氏の紫の上の病状に対する気持ちを理解する。
5.紫の上と源氏と中宮の「萩」を題材にした和歌を理解する。
6.紫の上の最期を理解する。
7.主語の変化に注意する。
8.敬語に注意する。


0.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
1.漢字の読み方の確認をする。
 内裏  隙  来し方  前栽  脇息  御前  御心  御気色  萩  容貌 千年  御几帳  臥す  御誦経  御物の怪  夜一夜

【中宮と紫の上】
3.秋待ちつけて(単純)、世の中少し涼しくなりては(単純)御心地もいささかさはやぐやうなれど(逆接)、なほともすればかごとがまし。さるは、身にしむばかりおぼさるべき秋風ならねど(逆接)、露けき折がちにて過ぐしたまふ。
1)【語】語句の意味。
 ・さはやく=さわやかになる。
 ・かことがまし=恨みたくなる。
 ・さるは=そうはいっても。逆接。
 ・露けし=露に濡れて湿っぽい。涙がちである。
2)【文】文法事項
 @接続助詞の意味。
  ・ど(逆接)。
 A助動詞の意味。
  ・る(自発止))べき(当然体)
  ・ね(打消已)
3)【訳】
   秋を待ちかねて、世の中が少し涼しくなって、(紫の上の)気分もすこしさわやかになったようだが、やはりともすれば(病状が悪くなって)恨みがましくなる。そうはいっても、身にしむほどと思われるはずの秋風ではないがが、(紫の上は)涙がちになってお過ごしなさる。
4)【L1】「過ぐしたまふ」の主語は。
 ・紫の上。
 ・たまふ(尊敬、作者→紫の上)
5)【L2】なぜ秋を待ちかねていたのか。
 ・紫の上の病状が悪いのは夏の暑さのせいで、秋になって涼しくなれば病状も良くなる  と期待していたから。
6)【L2】なぜ「かことがまし」なのか。
 ・秋になって快方に向かっているが、時として病状が悪化することもあるから。
7)【説】「身にしむばかり」について。
 ・和泉式部の歌のように、秋はあはれなので涙がちになる。それと同じように、紫の上 の病状も回復しないので涙がちになる。

4.中宮は参りたまひなむとするを、いましばしは御覧ぜよとも聞こえまほしうおぼせど も、さかしきやうにもあり、内裏の御使ひの隙なきもわづらはしければ、さも聞こえた まはぬに、あなたにもえ渡りたまはねば、宮ぞ渡りたまひける。
1)【語】語句の意味。
 ・宮=明石の中宮。紫の上の養女。
 ・さかし=さしでがましい。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。
  ・な(強意未)む(意志止)
  ・まほしう(希望用)
  ・ぬ(打消体)
  ・ね(打消已)
 A係り結び。
  ・ぞ(強意)→ける(過去体)
 B接続助詞。
3)【説】「御几帳」「御簾」の説明をする。
4)【訳】
   中宮が(帝のもとに)参内なさろうとするを、(紫の上は)もう少し(私を)御覧になっていてほしいと申し上げたくお思いになるが、差し出がましいようであり、宮中からお使いが途絶える間もないのも煩わしいので、そのように申し上げにならずにいると、そちら(中宮のいる二条院の東の対)へもお渡りになることができないので、中宮が(紫の上の所へ)お渡りになった。
5)【説】紫の上の、養女中宮に会いたいが、遠慮している気持ちを表現している。
6)【L2】主語の変化。
7)【文】敬語の種類と対象。
 ・参り(謙譲→帝)たまふ(尊敬→中宮)
 ・御覧ぜよ(尊敬・紫の上→中宮)
 ・聞こえ(謙譲→中宮)まほしうおぼせ(尊敬→紫の上)ども
 ・聞こえ(謙譲→中宮)たまは(尊敬→紫の上)ぬ
 ・渡りたまは(尊敬→紫の上)ね
 ・渡りたまひ(尊敬→中宮)ける
8)【L2】「さ」の指示内容。
 ・いましばしは御覧ぜよ。
9)【L2】「あなた」の指示内容。
 ・中宮の所。
10)【L2】中宮はどこへ渡ったのか。
 ・紫の上の所。

5.かたはらいたけれど、げに見たてまつらぬもかひなしとて、こなたに御しつらひをこ とにせさせたまふ。「こよなう痩せ細りたまへれど、かくてこそ、あてになまめかしき ことの限りなさもまさりてめでたかりけれ。」と、
1)【語】語句の意味。
 ・かたはらいたし=恐れ多い。
 ・御しつらひ=御座所。
 ・あて=上品な。
 ・なまめかし=優雅である。
 ・めでたし=すばらしい。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。係り結び。
  ・見たてまつらぬ(打消体)
  ・せさせ(使役用)たまひ
  ・こそ(強意)→けれ(詠嘆已)
3)【訳】
 恐れ多いことであるが、本当に見申し上げないのも失礼だと思い、こちら(紫の上のいる二条院の西の対)に中宮を迎えるための座席の準備を特別にさせなさる。(中宮は)(紫の上を見て)「この上なく痩せ細りになさったが、この方が(若い頃より)上品で優雅であることのこの上なさも優れてすばらしいものだ」と
4)【L1】会話の主は。
 ・中宮。
5)【文】敬語の種類と主体と対象は。
 ・見たてまつら(謙譲→中宮)
 ・せさせたまひ(尊敬→紫の上)
 ・ほそりたまへ(尊敬・中宮→紫の上)

6.来し方あまりにほひ多く、あざあざとおはせし盛りは、なかなかこの世の花の薫りにもよそへられたまひしを、限りもなくらうたげにをかしげなる御さまにて、いとかりそめに世を思ひたまへる気色、似るものなく心苦しく、すずろにもの悲し。
1)【語】語句の意味。
 ・にほひ=華やか美しさ。
 ・あざあざと=華やかな。
 ・なかなか=かえって。
 ・よそふ=たとえる。
 ・らうたげ=かわいらしい。
 ・をかし=美しい。
 ・かりそめ=はかなく 
 ・すずろに=何となく。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。
  ・来し(過去体)方
  ・おはせし(過去体)
  ・よそへられ(受身用)たまひし(過去体)
  ・たまへる(存続体)
 A接続助詞
  ・よそへられたまひしを(逆接)
3)【訳】
 以前はあまりにも美しく、華やかでいらっしゃった女盛りは、かえってこの世の花の香りにも譬えられていらっしゃったが、(今は)限りなく可愛らしく美しいご様子で、たいへんはかなく世の中をお思いになっているら様子は、似るものもなく心苦しく、何となく悲しい。
4)【文】
 ・敬語はすべて尊敬で作者→紫の上。
5)【説】「この世の花の香りによそへられたまひ」の説明。
 ・紫の上は「野分」の巻で「樺桜」に譬えられている。
6)【L3】以前の美しさと今の美しさを比較する。
 ・以前の女盛りの時の美しさは、「にほひ多く」「あざあざと」「花の香り」と、生命感にあふれたそくっきりした鮮やかな美しさである。
 ・今の美しさは、「あてに」「なまめかしく」「らうたげ」「をかし」と、女盛りをす  ぎ、生命が衰え、気品があり奥ゆかしく、少女のような可愛らしさである。

【露の命】
7.風すごく吹き出でたる夕暮れに、前栽見たまふとて、脇息に寄りゐたまへるを、院渡 りて見たてまつりたまひて、
1)【語】語句の意味。
 ・前栽=庭の植え込み。
 ・院=源氏。
2)【訳】
 風がすごく吹き出した夕暮れに、庭の植え込みを御覧になろうとして、脇息の寄り掛かっていらっしゃるのを、源氏が渡ってきて見申し上げなさると
3)【文】敬語の種類と対象。
 ・見たまふ、ゐたまへ(尊敬→紫の上)
 ・見たてまつり(謙譲→紫の上)たまひ(尊敬→源氏)
3)【L3】前栽を見ている紫の上の気持ちは。
 ・少し気分が少し良くなって、見納めかと思っている。

8.「今日は、いとよく起きゐたまふめるは。この御前にては、こよなく御心もはればれ しげなめりかし。」
1)【訳】
   「今日は、たいへんよくお起きでいらっしゃるようなのは、明石の中宮の御前では、  この上なく心も晴々しているようですね。」
2)【L1】「御前」とは誰の前か。
 ・中宮。
 ・養女と親子水入らずである。

9.と聞こえたまふ。かばかりの隙あるをも、いとうれしと思ひきこえたまへる御気色を 見たまふも、心苦しく、「つひに、いかにおぼし騒がむ。」と思ふに、あはれなれば、
  おくと見るほどぞはかなきともすれば風に乱るる萩のうは露
1)【語】語句の意味。
 ・つひ=臨終の時。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。
  ・騒がむ(推量体)
 A係り結び。
  ・ぞ→はかなき。
3)【訳】
 と申し上げなさる。これぐらい気分の晴れた時があるのを、たいそううれしいと(源氏が)思い申し上げなさるご様子を(紫の上が)御覧になるのも、心苦しく、「(私の)臨終の時に(源氏は)どのようにお嘆きなさるだろう」と思うと、しみじみと悲しいので、起きていると見える間もはかないことだ。ともすれば風に乱れる萩の上の露(のような私の命)
4)【L2】「かばかり」の指示内容。
 ・前栽見たまふとて、脇息に寄りゐたまへるを
5)【L2】紫の上の源氏を見る気持ちは。
 ・ちょっとした快方にこれだけ喜んでくれるのだから、私が死んだらどれだけ悲しむだろうと心配している。
6)【L2】和歌の区切りは。
 ・二区切れ。
7)【L2】和歌の掛詞は。
 ・「おく」が、「紫の上が起きる」と「露が置く」。
8)【L2】和歌が譬えているものは。
 ・「萩のうは露」が紫の上の命に譬えられている。
9)【L2】和歌の心は。
 ・露のようにはかなく消えていく自分の命を受け入れている。

10.げにぞ、折れかへりとまるべうもあらぬ、よそへられたる折さへ忍びがたきを、見いだしたまひても、
  ややもせば消えをあらそふ露の世に後れ先だつほど経ずもがな
 とて、御涙を払ひあへたまはず。宮、
1)【語】語句の意味。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。
  ・止まるべう(可能用)もあらぬ(打消体)
 A終助詞の意味。
  ・もがな(願望)
3)【訳】
 本当に、(萩の葉は風に)翻って(露が)とどまることもできない。(紫の上の命が露に)譬えられている時でさえ我慢できないのを、(庭を)御覧になるにつけても、ややもすれば消えていくのを争う露のような世の中に、死に遅れたり先立った  りせず(一緒に消えたい)ものです。
   と、涙をお拭いになることができない。
4)【L3】和歌の心は。
 ・紫の上の死を止められないものと覚悟し、死ぬ時も一緒に死にたいと願う気持ち。

11. 秋風にしばしとまらぬ露の世を誰か草葉のうへとのみ見む
 と聞こえ交はしたまふ御容貌どもあらまほしく、見るかひあるにつけても、「かくて千 年を過ぐすわざもがな。」とおぼさるれど、心にかなはぬことなれば、かけとめむ方な きぞ悲しかりける。
1)【語】語句の意味。
 ・あらまほし=理想的な。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。係り結び。
  ・とまらぬ、かなはぬ(打消体)
  ・か(反語)→む(推量体)
  ・かけとめむ(婉曲)
  ・おぼさるれ(尊敬)
  ・ぞ(強意)→ける(詠嘆体)
 A終助詞の意味。
  ・もがな(願望)
3)【訳】
   秋風にしばらくの間も止まらない露のような(はかない)世を、誰が草葉の上  のことだけと見るだろうか、いや見ない。と申し上げ交わしなさる(紫の上と中宮の)容貌は理想的で、見る価値があるにつけても、「このように千年も過ごす方法があればなぁ」と(源氏は)お思いになるが、叶わないことなので、(紫の上の命を)引き止める方法がないのが悲しいものだ。
4)【L2】主語の変化。
5)【文】敬語の種類と対象。
 ・交わしたまふ(尊敬→紫の上と中宮)
 ・おほさ(尊敬→源氏)
6)【L3】和歌の心は。
 ・この世ははかないものである。

【紫の上の死】
12.「今は渡らせたまひね。乱り心地いと苦しくなりはべりぬ。言ふかひなくなりにける ほどと言ひながら、いとなめげにはべりや。」
1)【語】語句の意味。
 ・なめげ=相手に非礼と感じさせる様子。
2)【文】文法事項
 @助動詞の意味。
  ・せ(尊敬用)たまひね(完了命)
  ・はべりぬ(完了止)
  ・なくなりに(完了用)ける(過去体)
 A接続助詞の意味。
  ・言ひながら(逆接)
3)【訳】
 (紫の上が)(中宮に)「今はお帰りなさいませ。気分がたいへん悪くなってきました。どうしようもないほどになってしまったと言いながら、たいそう非礼でございます。」
4)【L2】誰から誰への会話か。
 ・紫の上から中宮へ。
5)【文】敬語の種類と主体と対象は。
 ・渡らせたまひ(尊敬、紫の上→中宮)
 ・なりはべり(丁寧、紫の上→中宮)ぬ

13.とて、御几帳引き寄せて臥したまへるさまの、常よりもいと頼もしげなく見えたまへ ば、「いかにおぼさるるにか。」
1)【文】文法事項
 @助動詞の意味。
  ・おぼさるる(尊敬体)に(断定用)か(係助詞疑問)
2)【訳】
 と言って、御几帳を引き寄せて横におなりになる様子が、いつもよりたいへん頼りなさそうにお見えになるので、(中宮は)「どうなさったのですか」
3)【L2】「御几帳引き寄せ」の動作の理由は。
 ・衰えた姿を見せたくないので隠した。
4)【L2】誰から。だれへの会話か。
 ・中宮から紫の上へ。
5)【文】敬語の種類と主体と対象。
 ・臥したまひ、見えたまへ(尊敬→紫の上)
 ・おぼさ(尊敬、中宮→紫の上)

14.とて、宮は御手をとらへたてまつりて、泣く泣く見たてまつりたまふに、まことに消えゆく露の心地して限りに見えたまへば、御誦経の使ひども数も知らずたち騒ぎたり。
1)【語】語句の意味。
 ・限り=最期。
2)【訳】
 と言って、中宮は(紫の上の)手をお取り申し上げて、泣きながら見申し上げなさると、本当に消えていく露の気持ちがして最期と御覧になると、御誦経の使い達が数も知らず騒いでいた。
3)【文】敬語の種類と対象。
 ・たてまつり(謙譲→紫の上)

15.先ざきも、かくて生き出でたまふ折にならひたまひて、御物の怪と疑ひたまひて、夜一夜さまざまのことをし尽くさせたまへど、かひもなく、明け果つるほどに消え果てたまひぬ。
1)【説】「かくて生き出でたまふ折」の説明。
 ・四年前に六条御息所が物の怪になり、とりついていた。
2)【訳】
 以前にも、(紫の上が)(危篤状態から)蘇生なさる時に(源氏は)お習いになって、物の怪の仕業とお疑いになって、一晩中さまざまのことをし尽くしなさったけれども、甲斐もなく、夜が明けきる頃にお消えになった。
3)【文】敬語の種類と対象。
 ・ならひたまひ、し尽くさせたまへ(尊敬→源氏)
 ・消え果てたまひ(尊敬→紫の上)
4)【L3】「消え果て」という表現の効果は。
 ・死ぬという直接表現でなく、あくまで「露」に譬えた。
 ・愛する中宮に手を握られながら死ぬのは幸せである。



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