評論
外山滋比古
起床→朝食→仕事→就寝というように、一日の生活を構成している要素はみんな変わらないのに、ものの見方や感じ方などのまとまった全体の結果はひどく違う。その理由を考えるのがこの評論の目的である。
我々の人生=雑誌編集である。雑誌も同じ原稿を使っても違う誌面になる。その原因は編集者の勘=エディターシップである。それは料理の腕のようなものである。
自分の一日も外部から与えられたり他人のものを借りたりした部分の一つ一つを、編集者である我々が、順序づけて一日の中に収めている。その意味で、独創的であり個性的である。第一段の理由はこれである。
何か大きな発見をしたり発明をしたりした人だけが創造的なのではなく、何一つ新しいことをしなかったと思っても、人生を編集することで、立派な創造をしているのである。一つ一つの部分を外部から与えられたり他人のものを借りて模倣しているだけに見えるが、そうした一次的創造物から、二次的創造をしているのである。
解釈=料理と同じである。テクストを解釈するように、材料を料理するのである。解釈は、そのままでは理解できない、いくつかの理解の仕方が考えられる時に大きな役割を持つ。原典やテクストは第一次創造物であり価値があるが、解釈は二次的意義しかないという考え方が一般である。しかし、解釈次第で、原典やテクストがどのようにもなる。
たとえば、江戸時代や徳川家康に対する評価も、解釈によって大きく変化した。時代や人物は歴史的に不変であるが、解釈によって歴史は書かれる。したがって、解釈は高度に創造的である。
その意味で、学者や批評家も知的料理人といえる。もともとある事実を適当に解釈して、独創的なものにする。そういう仕事が、歴史を変えてきた。
人間すべてが、解釈によって二次的創造をしている。この二次的創造は一次的創造に劣らず創造的である。
0.学習プリントを配布し、読みと意味を宿題にする。
1.読みと意味を確認する。
10 創造=新しいものを初めてつくり出すこと。
11 エディターシップ=編集者の能力。
独創=他人の真似をせず、自分一人の考えで物をつくり出すこと。
12 模倣=他のものをまねること。
解釈=言葉や文章の意味・内容を解きほぐして明らかにすること。
13 半死半生=死にかかっていること。もう少しで死にそうなようす。
疎ましい=好感がもてず遠ざけたい。
2.形式段落で交代して音読させる。
・形式段落に番号を付ける。1〜15。
3.段落の切れ目を考える。
1)話題やよく出てくる言葉(キーワード)の変化に注意する。
・2〜 「人生」「編集」
8〜 「解釈」「料理」
・「料理」は前の段落にも出てくることに注意する。
2)結論の段落は。
・15
3)結局4つの段落に分けられる。
・第一 1
第二 2〜7
第三 8〜14
第五 15
・第一と第四は、一つの形式段落しかない変則的な構成になっている。
第一段落
4.音読する。
5.「生活を構成している要素」について
1)具体的には。
・起床→食事→仕事→就寝。
・ほとんどの人が似たりよったりの新聞を読む。
・変わりばえのしないテレビを見る。
2)特徴は。
・違いがない。
6.「まとまった全体の結果」について
1)具体的には。
・ものの見方や感じ方。
2)特徴は。
・ひどく違う。
7.「全体」「結果」の対義語は。
・全体−要素
・結果−(原因)
8.まとめる。
・「生活を構成している要素」をAとする。
・「まとまった全体の結果」をBとする。
9.問題点を整理する。
・違いがない生活をしているのに、考え方に大きな違いが生じる。
・その原因に当たるものをCとする。
・このCを考えるのがこの評論の主題である。
第二段落
1.2〜3を音読する。
2.「人生=雑誌編集」であることを確認する。
3.「雑誌編集」における「A生活を構成している要素」「Bまとまった全体の結果」は何か。
・A生活を構成している要素=同じ原稿
・Bまとまった全体の結果=違った誌面
・同じ原稿を使っても、違う誌面になる。
4.Cその理由は何か。
・エディターシップ。
・編集者の勘。
5.エディターに求められるものは。
・原稿を全体にまとめる能力。
6.例えると。
・料理の腕。
7.「ノリとハサミの仕事」とは。
・原稿をハサミで切って、機械的に誌面にノリで貼り付ける。
・創造性のない仕事。
8.雑誌『アエラ』の目次を編集する。
・元の目次をバラバラにしたものを配布する。
・ハサミで切って、自分の思うような順に、ノリで紙に貼り付ける。
9.4〜5を音読する。
10.「A生活を構成している要素」に当たるものは。
・外部から与えられたものや、押しつけられたものや、他人から借りたもの
・自分で作ったり、選んだりしたものでない。
・代わりばえのしないもの。
11.「Bまとまった全体の結果」に当たるものは。
・自分の一日。
・独創的,個性的。
12.「Cエディターシップ」に当たるものは。
・順序をつけて、一日の中に収める。
13.料理に例えると。
・A=材料。
・B=料理。
・C=料理の腕。
14.自分の一日をシュミレーションする。
1)教師の一日を紹介する。
2)生徒の最近の一日の出来事をできるだけ細かく、一枚の紙に書き出す。
3)切ってカードにする。
4)並び方を変えて、紙に貼る。
5)気づいたことをまとめる。
15.6〜7を音読する。
16.「A生活を構成している要素」に当たるものは。
・本を読んで優れた思想や新しい知識に触れる。
17.「Bまとまった全体の結果」に当たるものは。
・人生。
18.「Cエディターシップ」に当たるものは。
・我がものにして、日常に生かす。
19.その意味は。
・二次的創造。
20.その反対語は。
・模倣。
第三段落
1.8〜11を音読する。
2.解釈=料理であることを確認する。
3.解釈と料理の共通点について。
1)解釈の必要なものは。
・そのままでは理解できない、いくつかの解釈の仕方が考えられるテクスト(原文)
2)料理の必要なものは。
・そのまま食べられないか、食べてもおいしくない材料。
4.解釈の重要性を料理に例えて説明する。
・一次的意義のあるテクストや原典が重要であり、解釈は二次的意義しかない。
・しかし、いくら材料が良くても、料理の腕が下手なら、まずい料理しかできない。
5.次の事実をどう解釈するか。
・タクヤは窓口に三、六〇〇円を出した。シズカは一、八〇〇円を渡そうとしたが、彼は受け取らなかった。中でまず席を取ると、シズカはジュースを二つ買ってきて一つ を彼に渡した。彼は喜んでそれを受け取った。
6.TATの絵を見せて、話を作らせる。
7.12〜14を音読する。
8.江戸時代について
1)イメージを問う。
2)評価の変化は。
・おもしろくない時代
↓
・文化的、歴史的にも興味深い時期
9.徳川家康について
1)イメージを問う。
2)評価の変化は。
・嫌なタヌキ爺
↓
・経営の天才
10.「時代や人物は歴史的に不変である」
「歴史は後世の書くものである」
「後世の解釈で料理された事実が歴史になる」について
1)矛盾を明らかにする。
1)「時代」や「人物」は「事実」である。
2)「事実」は「歴史」的に「不変」であると言っている。
3)しかし、「事実」は「解釈」によって初めて「歴史」になる。
4)ということは、「事実」は「不変」ではない。
5)また、「歴史」の使い方に矛盾がある。
2)矛盾を解明する。
1)初めの「歴史的」は「客観的」という意味である。
2)ということは、「解釈」は「主観的」である。
3)「解釈」で「料理」するとは、「事実」を「主観的」に「評価」することである。
4)「解釈」とは、「事実」を「主観的」に「評価」して「歴史」を「創造」することである。
11.学者や批評家について
1)彼らは何と言うことができるか。
・知的料理人。
2)学者や批評家は料理しないのに、なぜそういえるのか。
・料理=解釈。
・知的に解釈する。
3)「口に合う」とはどういうことのたとえか。
・一般の人にも理解しやすい形に変える。
4)「新しい材料を発見したり、作り出したり」とはどうすることか。
・新しい理論やテクストを作り出す。
5)「すでにある材料」「新しい味付け」とは何をたとえているか。
・すでにある材料=テクスト
・新しい味付け=解釈
6)そのことによって、独創的になることを確認する。
7)「そういう仕事」とは。
・すでにある材料に新しい味つけをする仕事。
第四段落
1.音読する。
2.学者や批評家の一次的創造と二次的創造とはなにか。
・一次=テクスト
・二次=解釈
3.映画監督、指揮者の一次的創造と二次的創造とはなにか。
・映画監督 一次=脚本 二次=演出
・指揮者 一次=楽譜 二次=演奏
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