アサーション・トレーニング 指導案


 私は実際にアサーショントレーニングを受けたことはないが、何冊かの書籍と今までの経験値で授業を組み立ててみた。書籍を読んでいて最も感じたことは、アサーションとは自己主張と訳されることが多いが、いかにもアメリカナイズされた方法で、日本の風土にはそのまま当てはまらないのではないかということである。もちろん原義も一方的に自己を主張することがアサーションではないのだが、日本の場合、相手への配慮がよりウエイトを占めてくる。という中で、ある書籍で「自己主張をしないこともアサーションである」という行を読んだ時、我が意を得たりと感じた。

 今回のプログラムは、自己主張をする立場だけでなく,相手の立場も理解してもらいたいので、ロールプレイという手法を選んだ。ただ、特に高校生の場合、ロールプレイはいきなりするとうまくいかないので、そこへ持っていくためのプログラムが重要である。そこで、チェックシートから入るという工夫をした。また、バースデーラインなど構成的グループエンカウンターでも使われている技法も取り入れた。

ねらいを説明する。 1)今まで、動作法や自律訓練法を学んできたことを確認する。
2)それらは、ストレスを解消する方法であった。
3)最も良い方法は、ストレスを発生させないことである。
4)ストレスの多くは、対人関係の中から発生する。
5)今日は、対人関係においてストレスの発生しにくい対応を考える。
1)2)前回までの学習とそのポイントを確認をする。
3)〜5)今回のねらいを明確にする。ねらいの不明確な学習は効果が薄い。
15 アサーションチェックをする 1)まず、日頃の対応をチェックする。
2)「アサーション・チェックシート」を配布する。
3)評定の付け方を説明する。
4チェック項目を読み上げながら、チェックをさせる。
5)集計をさせる。
6)どのタイプが何人いるか手を挙げさせる
2)モチベーションが低いことが予想される場合有効である。
4)チェックシートの場合、進度がまちまちになるのを防ぐ。
10 アサーションを説明する。 1)「アサーション・インストラクションシート」を配布する。
2)対応の3つのパターンを説明する。
a.攻撃的
 自分の事だけを考えて,相手を無視して自分を押し通す。
b.受け身的
 自分を抑えて相手を優先し,自分の事を後回しにする。
c.アサーション
 自分を大切にすると同時に,相手の事も配慮する。
3)2つのケースについて、3つの対応の違いを説明する。
4)言葉以外の、視線や姿勢や身振りや表情や声の調子も、対応によってによって異なることを説明する。
2)自己主張にも、いろいろなパターンであることを理解させる。また、自己主張しないことを自分で決断することも一つの自己主張である。
3)ケース2は言葉以外の対応も含んでいる。 指名して対応の部分を読ませると、面白 い。
ロールプレイの説明をする。   1)アサーションを体験するために、ロールプレイをすることを説明する。
2)「アサーション・シナリオシート」「アサーション観察シート」を配布する。
3)ロールプレイの役割を説明する。
a)自己主張役は,アサーティブに主張す る。
b)相手役は,簡単に妥協しないようにす る。しかし,最後は妥協する。
c)観察役2人は,時間を計り,自己主張役のプレイを観察して「アサーション観察シート」を記入する。
4)ロールプレイの進め方を説明する。
a)出だしはシナリオの会話で始め,後は自分なりに進める。
b)プレイする時間は2分間。時間は観察役が計る。
c)残り30秒で解決するようにする。時間は観察役が告げる。
1)自分が自己主張することの意義と難しさを体験する。また、自己主張される相手の立場も体験する。
2)シナリオは6つあ り,状況と最初の会話が指示してある。
35 ロールプレイをする。 1)ネームライン(苗字でなくて名前のアイウエオ順に並ぶ)で、4人組を作る。
2)「アサーション・シナリオシート」から自分がロールプレイするシナリオを選ばせる
3)順番を決めさせる。
4)2分間ロールプレイをさせる。最後の30秒で観察役に合図させる。
5)2分間で今のロールプレイをふりかえらせる。観察者→相手役→自己主張役の順で気づいたことや改善点を言う。
6)交代して、全員が自己主張役をするように、ロールプレイとふりかえりを繰り返させる。
1)うまく4人組にならない時は、5人の組を作る。
2)男言葉、女言葉は適当に変えさせる。
3)全員が1回は自己主張役と相手役を体験するようにさせる。ジャンケンで右回りをするとうまく決まる。
4)巡視してうまく進まないグループの助言をする。
5)時間が足りないようだと3分間にする。
6)5人組ができた場合は他の組は全体のふりかえりに入らせる。
15 ふりかえりをする。  1)4人組で、ロールプレイ全体を通じて、振り返って話し合う。
2)全体で、いくつかの組のふりかえりを発表させる。
1)出てきた感想や意見を用紙に記入させる。
2)OHPで記録用紙を映しながら。 
ロバート・E・アルベルティ/マイケル・L・エモンズ『自己主張トレーニング』東京図書1994  
平木典子『アサーション・トレーニング』日本精神技術研究所1993
河野貴代美『女性のためのグループ・トレーニング』学陽書房
諸富祥彦『学校現場で使えるカウンセリング・テクニック上』誠信書房1999 
窪内節子『楽しく学ぶこころのワークブック』学術図書出版社1997

「高校生にもどってアサーション」

 まず、研修会に参加していただいた方々に、非礼の数々を深くお詫び申し上げます。
 アサーション・トレーニングの実践報告をする、というのが当初私に与えられた企画でした。そして、宮脇先生から、「『つかみ』が大事だから、面白いキャッチコピーを考えてね」と指示を受けました。コピーを考えている内に、それじゃ中身自体を面白くしてやろうと思いついて、「高校生になってもどってアサーション」に決めました。
 今まで何度か実践報告をしてきましたが、教師として授業している自分と、講師として研修会で報告している自分がうまく噛み合わないで、臨場感が欠けてのめり込めないもどかしさを感じていました。そこで、自己一致を図るために、教師として授業している自分に徹しよう、とすれば参加者は必然的に高校
生になってもらうしかない。いや、「高校生になってもらう」のでは参加者も自己一致しにくいだろうから、「高校生にもどってもらう」のがいいだろうという結論に達した次第です。
 で、私自身のテンションを上げるために、司会の方に紹介していただく隙も与えず、「ハイ、みんな席について」といつもの授業と同じようなシチュエーションで始めさせていただきました。すると、私自身はかなり落ち着きましたが、参加された方は戸惑われた方が多かったのではなかったでしょうか。高校生に戻るのにン十年の歳月を越えなければならない方、普段高校生に接していらっしゃらない方は、馴染むのに時間がかかったかもしれませんが、次第に順応していただけたように思いました。先生口調で話しながら、心の中では手を合わせて感謝していました。メインのロールプレイはみなさん熱心に取り組んでいただき、中には白熱しすぎているグループもありました。 そんな調子で間に少し休憩を挟んで90分間、「授業」をさせていただき、その後、種明かしの授業案について説明しまし
た。
 実際のアサーション・トレーニングの授業は、2年前、3年生の週1回2時間連続の選択授業「国語表現」の1時間を使って実践したグループワークの1つです。11月頃に3回に渡って実施しました。
 アサーション・トレーニングをするには、ロール・プレイをして体験するのが一番です。でも、ロール・プレイをするには難しいことがいくつかあります。まず、モチベーションを高めることです。実際の授業ではそれまでにもロール・プレイを何度かしていたり、11月で生徒も親密になっていたのでやりやすかったのですが、今回は見ず知らずの人を相手にいきなりです。そこで、ロール・プレイに至るまでにウォーミング・アップを十分にしなければなりません。
 1つ目の仕掛けとして、チェック・シートです。自分の対応をチェックすることによってジブンゴトとして興味を持ってもらう。実際高校生は、心理ゲームブームもあって、自分を知ることが好きです。結果を解説しながら、アサーションとは何かについて理解してもらう、一石二鳥です。
 2つ目の仕掛けは、ネーム・ラインです。これは構成的グループエンカウンターではよく使うエクササイズで、普通はバースデー・ラインといって、誕生日順に並ぶのですが、少し「ひねり」を加えて(苗字でなく)名前で並んでもらいました。名前というのは誕生日以上に親の気持ちが込められているので、意味があることです。
 ロール・プレイのもう一つの難しさは、シナリオです。自分が体験した場面を想定してやってもいいのですが、そういう体験を思いつかなかったり、生々しくなったりするので、あらかじめシナリオを用意しました。それも、高校生ならありがちな場面を想定しました。そして、複数用意してできそうなものを選べるようにしました。
 さらに、ロールプレイの時間を何分にするかも思案のしどころです。長く設定すると乗らないグループが手持ち無沙汰になるし、短すぎると体験にならない。今回は「さわり」なので、どんなものか少し体験してもらうために短めに設定しました。本格的にアサーション・トレーニングをするなら、もう少し長い時間で、何度か設定する必要があるでしょう。
 アサーションの説明で、「自己主張しないのもアサーションです。」と言ったことに対して、ふりかえりの時に少し議論になりました。そう言ってしまえば、トレーニングにならない恐れもあります。でも、自分も相手も安定するのがアサーションとすれば、現実 と場面では自己主張しないこともあり得るのではないかと思います。元々アメリカで開発されたものなので、日本に合うようにアレンジすることも必要だと思います。
 研修後の反省会では、みなさん口が滑らかでした。それは、アルコールのせいだけでなく、アサーション・トレーニングの成果だと言っていただき、お役に立てたかなと安堵した次第です。また、宮脇先生からも、適切な指摘をしていただき、本当に発表してよかったと思いました。ありがとうございました。



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