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その3 絶滅に瀕する在来馬
日本の馬の総飼育頭数が8万5000頭まで減っている中で、在来馬はまさに絶滅の危機に瀕しています。現在生き残っているのは8種類1860頭に過ぎません。このうち北海道和種馬(通称ドサンコ)が1254頭と半数以上を占めています。
l 北海道北海道和種馬 1254頭 北海道
l 木曽馬 149頭 長野県
l 野間馬 81頭 愛媛県
l 対州馬 171頭 長崎県
l 御崎馬 115頭 宮崎県
l トカラ馬 115頭 鹿児島県
l 宮古馬 31頭 沖縄県
l
与那国馬 85頭 沖縄県
(2009年 日本馬事協会資料)
それぞれの馬種について関係者は保存と増殖のために懸命の努力を続けていますが、きわめて困難な状況にあるようです。比較的数が多いドサンコも近親交配の弊害を避けながら増殖を図るには限界に近い数字ではないでしょうか。(写真:函館どさんこファーム)
日本にはこの他にも明治期まで、南部馬、薩摩馬、土佐馬など各藩の誇る名馬が沢山いました。しかし今は絶滅してその姿を見ることができません。なぜこうなったかについてはこれも日本だけの特殊ないきさつがあります。旧日本陸軍の軍馬養成政策、それに基づく在来馬の生産統制です。
旧陸軍は日清戦争(1894)、日露戦争(1904年)を通じて多くの和種馬を軍馬として動員しましたが、これが相手側の洋系の大型馬に比べて馬体が小さく非力であることを痛感しました。欧米諸国の軍人たちから「馬の格好をした猛獣」と酷評されたというエピソードもあります。
軍馬としての整然とした行進もろくできないという意味だったようですが、日本の在来馬は近代的騎兵隊としての集団行動の訓練など受けたことがなかったのですからこれは当然です。むしろ「猛獣」という表現には小さな身体に秘められた力強さを認めるニュアンスさえあるように思います。
それはとにかく旧陸軍はしゃにむに馬種の改良に乗り出しました。大規模で徹底した馬事政策でした。アラブ種、アングロアラブ種、ハクニー種など多くの外国馬を輸入し、これを在来馬と掛け合わせて短期間に150万頭もの混血種を作り出したのです。最後には種オス馬をすべて国有化し、在来馬については全馬に去勢を断行する徹底振りでした。(写真:木曾馬の里)
木曽馬など戦後に神馬としてたった1頭神社に残っていたいた種オス馬が発見され、その後交配・増殖の努力が続けられた結果ようやく150頭まで回復しているようです。ドサンコの場合は、当時まだ続いていた北海道開拓の働き手として必要で、何らかの形で軍部の統制をすり抜けて交配を続け、今に至っているものと思われます。しかしそのドサンコも世間の馬そのものに対する無関心からここ10年減り続け、今は1200頭余りに過ぎません。(写真:木曾馬の里)
以上が日本の在来馬が絶滅に瀕している主な理由です。日本の近代国家建設という激動の歴史の中の出来事とはいえ、私たちの先人が犯した過ちであることは間違いありません。今一度日本の在来馬に眼を向けるべき時期に来ているのではないでしょうか。そしてせめてドサンコだけでも近い将来順調に数が増えて、日本が世界に誇る名馬に成長してほしいというのが私の願いです。
もしドサンコが世界の馬たちに比べて客観的に資質が劣るのなら、他の希少生物と同じように天然記念物などとして種の保存を図る以外に方法はないでしょう。しかしドサンコは、「どさんこの資質」のページに詳しく書きましたが、そのやや小柄な馬体に素晴らしい能力を秘めてます。立派にその資格を持っていると思うのです。(写真左:どさんこ 河原毛)
なおこの記事は資料の大半を次の二書から借用しています。
「馬の動物学」 近藤誠司著 東京大学出版会
「日本の在来馬〜その保存と活用〜」日本馬事協会編
このうち「日本在来馬…」は1984年に日本馬事協会が出した学術調査報告で、14人の学者が共同執筆しています。素晴らしい資料です。30年も前の報告ですが、私の見る限り、日本の在来馬を巡る状況はあまり変わっていないように思います。日本馬事協会のホームページに全文が掲載されていてプリントも可能です。関心のある方は是非一読されることをお奨めします。
ただしこの報告には一つだけ大きな難点があります。経済的側面からの分析が欠けていることです。ドサンコをめぐる取引(需要の種類、売買頭数、価格など)の実態とその推移についての分析があれば、ドサンコの活用の方途を探る上でより具体的な指針になり得たのではないかと惜しまれます。 日本馬事協会 在来馬保存会 http://www.bajikyo.or.jp/umapdf/zairaiba.pdf
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