馬の生涯   

   1 愛しき老馬

 馬をはじめて1年半になります。ようやく何とか駆歩の真似事ができるようになったところです。練習はまじめにやってきましたが、その傍ら馬に馴染むにつれて考えることが多くなりました。とりわけ馬は一体どんな生涯を送るのかということについてです。

 駆歩に移ってからは比較的若い馬に乗ることが多いのですが、初めの頃は高齢の馬に乗ることが多かったように思います。人間と同じで年老いた馬は動きが緩慢で、その分慣れない初心者には安全なようです。そんな配慮もあってクラブ側があえて初心者に高齢の馬をあてがっていたのかも知れません。

 しかし概して老いた馬はあまり動きたがらない傾向があります。馬場を回っていても途中でふと立ち止って「進め」の合図を送っても肢を踏ん張って動き出そうとしません。原因の第一は乗り手の合図の間違いですがそうでないこともあります。  

オールド・マン(仮名)という23歳(ここでは満年齢))の馬に乗ったときのことです。馬場をくるくる回っていて、あるところに来ると決まって立ち止まり動こうとしません。何度か繰り返してやっと気がつきました。馬が止まるのは馬場の出入り口でした。つまり、「もう歩くのはいやだ、厩舎に戻って休みたい」という意思表示だったのです。(写真上:大山トレッキング−この馬はオールド・マンとは無関係)

 そんなとき指導の先生からは「鞭!」という厳しい指示が飛んできます。それは分かります。馬になめられては乗馬になりませんから。しかし気の弱い私はためらわざるを得ませんでした。馬の年齢は4倍すると人の年齢に近くなるとよく言われます(後述)。23歳といえば私よりはるかに年上です。肩に鞭を当てる真似だけして「きついよな、けどもう少しだけ頑張ってくれよ!」と首をたたいてやりました。

そんなことがあって以来、馬はいったいどんな生涯を送るのかと気になり始めました。「この馬はあと何年こうして下手な初心者を背に乗せて馬場をくるくるま廻っていられるのか、いずれ打たれても蹴られても動けなくなったときどうなるのか」と。同情と言うより老いへの共感でしょうか。

ところで馬の生涯を考えるためには馬の年齢についての知識が欠かせません。最近は人間も外見から年齢を見分けるのはかなり難しくなりました。特に女性についてその感が強いのですが、それでも年寄りか若いかくらいの区別はつきます。ところが馬の場合は簡単ではありません。(写真:練習サークル)

無論専門家は馬を一目見て大体の見当はつくようです。また背骨の落ち込み具合や歯の状態を調べることでかなり正確に年齢を知ることができるといいます。しかし素人には眼の前にいる馬が年寄りか若いのかの区別さえつかないのが普通ではないでしょうか。

私の経験では馬も20歳を過ぎると何となく尻のあたりが尖ってくるような印象を持っています。尻の肉が落ちて背骨の末端、尻の部分が三角形に浮き上がって見えるのです。また毛並みのつやがなくなり、モシャモシャとした感じになってくるような気がします。しかしやせた馬は皆尻が尖って見えるかもしれないし、毛並みも毛色や品種によって見え方が違うでしょうからまったく自信がありません。

そこでページをあらためて次に馬の年齢について少し整理して考えてみたいと思います。

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