馬の生涯

  馬の年齢と人換算  

 競馬ファンには常識なのでしょうが、それ以外の方のためにはじめに馬の年齢の数え方についてまとめておきます。日本では2000年末まで数え年で表していました。生まれた瞬間に1歳になり、次の年の元旦には2歳になるわけです。何故満年齢でないかについては理由があります。

馬の繁殖期は春だけで、大多数の母馬は春(3~6月)に身ごもり、11ヶ月の妊娠期間を経て翌年の春先に出産します。従って3歳馬とか4歳馬とか馬齢を制限する競馬レースが春に開催された場合、実年齢では1年近く違う馬が、1日誕生日が違うだけで、同じ条件で出走する不合理が生じます。この点数え年なら同じ年の春に生まれた馬は皆同じ条件で参加できるわけです。

ところがこの数え方は日本だけで、外国では通例生まれた年を0歳とする方式を採用していて馬齢が1歳ずれていました。これが競走馬の取引やレースの国際化が進むにつれて不便になり、JRA(日本中央競馬会)は2001年に馬齢表記を改めました。生まれた年を0歳としてこれを「当歳と」呼び、次の正月元旦に1歳になる方式です。なお外国では国によって正月ではなく7月とか8月に1歳づつ増える数え方もあるようです。

さて本題に戻ります。馬齢を4倍すると人の年齢なるとよく言われます。シンプルで分かりやすいのですが、この説にはかなり疑問を持たざるを得ません。先に登場してもらったオールド・マンの場合、満23歳で4倍すると92歳です。体重は450キロですから私の体重(65キロ)の約7倍です。オールド・マンは自分の体重の7分の1の重量物を背に乗せて45分間歩き続け、しかもこれを短い休憩時間を挟んで1日3~4回繰り返すのです。(イラスト:馬とお昼寝)  

私は75歳ですが、10キロの米袋を抱えてスーパーから家まで(約10分)運ぶのがやっとです。92歳になって45分間耐えられるとは思えません。私の通っている乗馬クラブには他にも何頭も働いていますから馬の20歳はもっと若いのではないでしょうか。

もう一つ大きな問題があります。馬の繁殖年齢は3歳(現行の数え方)から20歳頃までとされています。そうする人間で言えば80歳の女性が普通に子供を産むことになります。牡馬の生殖機能は雌馬より永保ちしてイギリスの有名な種オス馬は30歳で雌馬2頭を妊娠させたといいます。人間で言えば120歳です。これはちょっとおかしいと誰もが思うでしょう。

ただしこの疑問には有力なというか、ちょっと耳を傾けるべき反論があります。馬は命ある限りギリギリまで子孫を残すための神聖な行為にいそしむのであって、人間のようにお役御免になってから何十年ものうのうと生きることはしないのだというのです。なるほど馬の側に立って考えればそれこそ自然の摂理にかなった生き方で、人間の方が不自然だということになるかも知れません。

しかしそれにしてもと、誰もが首を傾げます。私もそう思いました。そこで色々調べるうちにネットで面白い記事を見つけました。馬の最初の1年(2歳)は成長が早いので人間の10年とし、以後は1年毎に3歳ずつ加算していくというのです。式にすると 

  (年齢−2)×3+10

となります。 (→面白い記事 へ)

これでいくとオールド・マンは (23−2)×3+10=73 となって私より少し若くなります。馬力といわれるように力の強い馬のことでもあり、また日ごろ鍛えられているのですから一日の過酷な労働にも耐えられるかなという気がします。繁殖年齢も馬の20歳は64歳となって何とか理解できる線に近づきます。

 上の換算式考えた人は頭のいい人だと思いますが、そのご本人がコメントでにおわしているように、それでも何かすっきりしないところが残ります。何故なのかと考えているうちにふと気がつきました。馬齢4倍説にもこの換算式にも実は根本的な数字が欠けている点です。馬はいったい何歳まで生きるのか、馬の平均寿命がないのです。

 これが分かれば人間のそれとの比較が可能になり、色々な要素を加味して馬と人の成長・老化の様子を曲線グラフに描くことができます。そうなれば馬の年齢を聞けばそれが人の何歳に当たるかがほぼ明らかになるはずです。実はこの馬の寿命については昔から議論が繰り返されてきたのですがいまだに定説がありません。何故なのでしょうか。

 馬の生涯 その3 でこの問題を考えてみます。
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