今回は私の体験談、函館の「どさんこファーム」で初めてドサンコに乗った感動の記録です。旅の日誌の一節をほとんど手を加えずにそのまま披露します。当時私は乗馬暦1年ほどの初心者でまだ<駆歩>ができませんでした。半年後の今はこのときの特訓が利いて真似事くらいはできるようになっています。少し長いので2回に分けてアップします。

        (2010年冬 北海道乗馬旅行の日誌から)

  出会い
   その1 <駆歩>
 (*1)

 12月○○日、関空から函館へ、湯の浜温泉のホテルに1泊。翌朝、妻と二人予約しておいた「函館どさんこファーム」へ。オーナーのIさんが車で迎えに来てくれた。
 ファームは住宅地を離れて少し山道を入った谷間にあった。幅
5メートルほどの砂利道の両側に山が迫っている。うっすらと雪をかぶって美しい。左側に10頭分くらいの洗い場の建物があり数頭の馬がつながれている。その背後の山の斜面にも10頭ほどの馬が放たれてのんびりと草を食んでいる。ドサンコだ!写真では何度も見てきたがこの眼で実物を見るのは初めてだ。

河原毛(全体に乳白色で、鼻先と肢先、鬣と尻尾が黒)がいる。佐目毛(全身がきれいな白色で目が青い)がいる。青毛も鹿毛もいる。
 奥まったところにある簡素な事務所小屋で打ち合わせの後、まずは妻と二人「お散歩コース」(約
30分)を選んで試乗することになった。私は河原毛、妻は佐目毛に騎乗、オーナーのIさんとその息子さんで牧場長のKさんが付き添ってくれた。贅沢な外乗・トレッキングである。(写真:お散歩コース出発)

オーナーから基本的な注意を受けて出発。少し歩いたところから山に入る。「お散歩」というがかなりの山道。林間の急な起伏を昇り降りして進む。びっしりと笹が茂って地面は見えない。しばらく行くと急に視界が開けて高台に出た。コースの宣伝ポイントの展望台だ。丁度雲が切れて、函館湾の青い海が美しかった。

午後からは妻とは別行動で、妻は函館観光に出かけていった。私はファームに残って「林間コース(1時間半)」に挑戦。険しい山岳コースで林の中の急な斜面の上り下りを繰り返す。ところによっては45度を超えているように見える。クラブの馬場のレッスンでは考えられない経験だ。馬が下草の笹をはじいて進む音だけが林間に響いて静寂そのもの。晴れてきた空からの木漏れ日が美しい。気分は最高。だがさすがに疲れていたらしい。尾根道を戻ってファームの事務所小屋が見えたときはほっとした。

翌日は、予報では雪だったがきれいに晴れ望外の幸運に恵まれた。この日は貸切コース(約5時間)を予約していたが、Iさんのアドバイスで海岸コースになった。妻は私より先に江差観光に出かけ、私は池田さんに迎えられて宿のすぐ近くにある浜に向かった。着ついてみるとすでに息子のKさんの運転で馬運車が来ていた。

川原毛のドサンコ3頭を車から降ろして海に出る。砂浜が遠くまで続いている。2〜3キロもあろうか。途中何ヶ所か温泉からの湯が流れ出ていて白い湯気を上げていた。3人で騎乗、私の馬は「金次郎」だ。いよいよ親子二人がかりの特訓だ。常歩から速歩へ(注2)と歩様が移る。ドサンコ特有の側対歩をはじめて経験した。上下動をまったく感じない。(写真:函館 湯の浜海岸で)
 しばらくして慣れたところでIさんから「走るよ」と声がかかり、間髪を入れずに砂を蹴って走り出した。私も負けずに馬腹を蹴る。不思議なことに一瞬で歩様が変わり金次郎は勢いよく走り出した。クラブで何ヶ月もさんざん苦労してきた駆歩発進だ。しかも前進気勢がすごい。クラブの練習では馬がなかなか駆歩に移ってくれない。一瞬駆歩になっても脚や騎座での前進扶助(*注2)を怠るとすぐ止まってしまう。だがそんな気配はまるでない。

どんどんスピードが上がる。金次郎は一歩も遅れずに走る。速い!クラブの駆歩とは別の走りだ。馬体が小さいから速く感じられる面もあろうが、客観的に見ても時速20キロはかなり超えていたのではないか。怖さはまったくない。金次郎の動きに身体が自然に順応していて、まるで空飛ぶ絨毯に乗って空中を滑っていくような錯覚にとらわれる。生まれて初めてまともに駆歩に成功した一瞬だった。
 オーナーに代わった息子のKさんの指導で数百メートルの砂浜を何度も往復するうちに、意識的にも金次郎の動きのリズムが掴めてきて、手綱を操作するゆとりが持てるようになった。ほんの少し左右に手綱を開くだけで金次郎は見事に方向を変えてくれた。馬で走るとはこういうことなのだと納得した特訓だった。Iさん父子にただ感謝である。

注1
  馬には「常歩(なみあし)」「速歩(はやあし)」「駆歩(かけあし)」の三つの歩様  がある。速さはそれぞれ1分間110メートル、220メートル、330メートルくらい。このう  ち速歩に「斜対歩」と「側対歩」の二種類がある。

   斜体歩:右前肢と左後肢、左前肢と右後肢(対角線の肢)が対になって交互に動く。   サラブレッドをはじめ多くの馬がこの歩様
   側対歩:右前肢と右後肢、左前肢と左後肢(同じ側の肢)が対になって動く。人間    で言えばナンバ歩きで上下動が少ない。モンゴル馬やドサンコに多い。 

注2
   
脚(キャク)−騎乗者の足全体
   騎座−鞍に接する腰 
   扶助−馬への合図

 
つづく(ドサンコとの出会い 2名馬「金次郎」へ) 

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どさんことの出会い