佳代の疑問−1 信長と光秀は本当に険悪な関係だったのか? |
佳代:先生,どうしても納得がいかないことがあります。 |
疑似トーク−1 今回のゲストは大学生の真田好白さんです。 |
真田:佳代ちゃんはじめまして。 佳代:真田さん,今日はよろしくお願いします。 真田:佳代ちゃんは中学生なのに歴史に詳しいね。どうやって勉強したの? 佳代:勉強ってほどではないんですけど,テレビを見たり,本を読んだり。 真田:テレビって言うと大河ドラマかな。 佳代:そうです。両親が好きで小さい頃からみていました。 真田:すると佳代ちゃんが見た明智光秀は村上弘明かな? 佳代:ハイ,確か「秀吉」です。 真田:なるほど,あのドラマでは確かに織田信長役であった渡哲也にいじめられていた場面がたくさんあったよね。 佳代:そうです。特に,本能寺の変直前にあれだけ険悪な状態になるというのが納得できないんです。 真田:うーん,なるほどね。 佳代:もし,そんな状態ならば危なくて仕方がないわけですから,味方が全くいないときに自分の側に置くはずないと思うんです。 真田:うん,もっともだね。僕も佳代ちゃんが言う信長は光秀を最も信頼していたという意見には賛成なんだ。 佳代:エッ,ホントですか。 真田:ただ,険悪な関係についてはちょっと違う意見を持っている。 佳代:といいますと。 真田:信長は,自国の領土を拡張しているとき光秀を重宝していたんだけれども,ある時を境にあまり光秀を使うことがなくなったんだ。 佳代:ハイ。 真田:光秀にしてみれば、信長にいきなり使われなくなってしまうのは不快なことだよね。それで、いろいろ考えてみたんだと思うんだ。そう言えば,あれもそう,これもそうって思い当たることがたくさんあったんだと思うんだ。 佳代:ええ。 真田:そもそも、光秀はプライドの高い男だったと思う。だから左遷なんて耐えられない。それに考えれば考えるほど信長に対しての信頼感が失せていき,それが険悪感になっていったんだと思う。 佳代:すると険悪な関係は光秀の方に問題があるということですか。 真田:そうだね。光秀の性格に関係があるんじゃないかな。 佳代:じゃあどうして信長は光秀を使わなくなったんですか。 真田:うん,当時の信長の勢いから考えると、征夷大将軍になるのは、時間の問題だったと思うんだ。 佳代:ハイ。 真田:すると,新たな制度や組織を色々作らなければならないだろう。そうなると何事も自分でしなきゃ気が済まない信長と言えども限度がある。 佳代:分かります。 真田:そこで、そのために光秀を使おうと考えたのじゃないかな。 佳代:エッ,それじゃあ,光秀を使わなくなったのは,征夷大将軍になったときのために一時的に使わなかったということですか? 真田:僕はそう考えている。 佳代:わぁ〜,すごい。そんな話は初めて聞きました。 真田:最初にも言ったとおり,信長は光秀を信頼していた。佳代ちゃんと同じだよ。ただ,そんなわけで光秀を使わなくなった。それに対してプライドの高い光秀が悪く解釈して険悪な関係が生じた。それが本能寺の変が起きた原因だと考えている。 佳代:すっごいです。そういう視点から考えたことはありませんでした。 真田:すっきりしない点もあると思うけれども僕はそう思うな。 佳代:ハイ,本当に勉強になりました。今日はありがとうございました。 |
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疑似トーク−2 今回のゲストは歴史好きの会社員久住さんです。 |
久住:佳代ちゃん,はじめまして,久住です。 佳代:こんにちは,今日はよろしくお願いします。 久住:こちらこそ。佳代ちゃんは,どうして本能寺の変に興味を持ったの? 佳代:ハイ,本当は明智光秀が好きなんです。その光秀が,いじめを受けて,その恨みで信長を討ったなんて考えたくもないし,そんなレベルの低い武将 だったとは思えないからです。 久住:なるほど,いいところに目を付けたね。確かに変だよね。 佳代:エエ,だから,そんな事実はなかったと考えたのですが・・・。 久住:うん,鋭いね,実は,僕もそう思うんだ。 佳代:エッ,本当ですか。 久住:うん,怨恨説のほとんどは,江戸時代に作られたもので,なぜ光秀が信長を討ったかを説明できないので作り上げられた話だと思うよ。 佳代:作り話ですか。 久住:たとえば,領地の話があったよね。 佳代:ハイ,まだ手に入っていない中国の二国を与える代わりに,今の領地を取り上げるという話ですね。 久住:そんなことを命令すれば,誰だって反乱するに決まってるよね。信長がそんなに頭が悪かったとは,どうしても思えないんだ。 佳代:言われてみると,私もそう思います。 久住:多分,元になった命令は,「切り取り勝手」といって,特別ボーナスのようなもので,普通は領地を加増するときに出す命令なんだ。この領域に関しては,すべてお前の勝手にしていいという命令だろうね。この命令を受けるというのは,大変な名誉だったんだ。しかもその領域の中に,西国の死命を制するといわれていた大森銀山が入っている。光秀からすれば,今の領地を返上してでも,この地域がほしいと思ったかもしれないね。 佳代:ぜんぜん謀反の理由にならないですね。 久住:信長が領地没収を命じるとは思えない理由がもうひとつあるんだ。安土城が琵琶湖のそばにあったのは知っているよね。 佳代:ハイ,大きな城だったそうですね。 久住:でも,信長という人は,城を守って勝つ,という発想がまったくなかった人だったみたいで,敵に城を攻めさせておいて,敵が攻め疲れたところを新手の援軍で叩くというのが性に合っていたようだね。安土城でも同じような工夫をしている。 佳代:どういうことですか? 久住:丹羽,明智,羽柴といった主だった武将の居城を琵琶湖のそばにおいて、敵が安土城を囲んだら,すぐに船で駆けつけられるようにしてあったんだ。武田家を滅ぼして,天下取りが固まったような時期だといっても,光秀を西国に追いやって安土城の守りを手薄にするのは,まだ早すぎるような気がする。 佳代:そんなふうになっていたんですか。 久住:そういえば、母親が磔になった話があったね。 佳代:ハイ,丹波八上城を攻めたときの。 久住:そう,最初のトークで佳代ちゃんはテレビで見たと言っていたね。 佳代:ハイ,その回のハイライトになっていました。 久住:あの話なんか明らかにでっち上げだ。 佳代:エッ,嘘なんですか。 久住:そう,光秀が城攻めのために,どこかで農家のボケた老婆を拾ってきて「わが母である」と下へもおかぬ扱いをしておいた上で,人質交換のときに利用したという話がもとになっているらしい。 佳代:エー,そうなんですか!! 久住:この話は,光秀の知略と,きちんと老婆の菩提を弔ったという礼節をほめたたえるエピソードにもなっているんだ。 佳代:テレビと全く違いますねぇ。あの野際陽子さんのすごい顔,今でも覚えています。 久住:うん,テレビ的,小説的に言えば,いい場面だからね。なかなか外せないんだろう。 佳代:すると,その点で,光秀は信長を恨むことはないわけですね。 久住:当然だよ。ところが,今回のトークのためにいろいろ調べてみたら,その話も創作ではないかと思うようになってきたんだ。 佳代:エッ,それも創作なんですか。 久住:うん,まず,当時の状況を考えてみよう。 佳代:ハイ。 久住:丹波八上城は兵糧攻めで落城寸前だった。 佳代:エエ。 久住:だいたい,そんな城に人質を送るかい。 佳代:そう言えば,変ですね。 久住:黙っていても落城する寸前の城に人質を送ることはありえないと思うんだ。 佳代:ハイ,説得力があります。すると,人質の話はなかったんですね。 久住:そう,光秀は八上城を包囲しながら各所で手柄を上げており「落城をあせっ人質を送った」なんていう話は成り立たないと思う。 佳代:では,どうしてそんな話ができたのですか。 久住:そうだね。光秀は,波多野氏に寝返られて丹波攻略が遅れたことを個人的にも腹を立てていたようだ。 佳代:ハイ。 久住:そこで,城主を生け捕りにしてさらし者にするという普通ではできそうにないことをやってのけた。 佳代:ハイ。 久住:城主というのは,落城前には切腹するか,討ち死にするか,あるいは逃亡するもので、生け捕りにされるなんていう無様なことはめったになかったんだ。 佳代:分かります。 久住:それを生け捕りにした訳だから信長からも「天下に名をとどろかせた」と誉められている。 佳代:エエ。 久住:すると,どうやって城主を生け捕りにできたのかという疑問が出てくるだろう。 佳代:そうですね。 久住:そこで老婆を実母に仕立て上げてという話が生まれ「母親を人質に送ってまで開城させたのに,約束をやぶられた」という話がこしらえられたんじゃないかな。 佳代:なるほど,そう考えると分かりやすいですね。 久住:そうだよね。とにかく,実際,食料がまったくないことがわかっている城に,わざわざ大事な人質を送るなど,誰もやらないことだよね。時代が違えば価値観が違うといっても,いつの時代でも当たり前のことはあると思うよ。 佳代:本当ですね。ところで久住さん,信長は光秀を最も信頼していたと思いますか。 久住:うん,もちろんだよ。というよりも,織田信長が本当に信頼していた部下は光秀だけだったと思うんだ。 佳代:エッ,それはどういうことですか? 久住:当時の光秀の役割は親衛隊長兼大臣のようなもので,しかも信長の部隊の中で最強の部隊を率いていた。 佳代:ハイ。 久住:本能寺の変の直前や直後には,秀吉,家康,柴田勝家,滝川一益など不審な行動を取った者が多すぎるし,特に秀吉と家康などは,事前に知っていたとしか思えない行動をとっているんだ。 佳代:中国大返しですか。 久住:そう,秀吉や家康の不審な行動は知っていると思うんだけれども,勝家や一益,あるいは丹羽長秀も変な動きをしている。 佳代:といいますと。 久住:まず柴田勝家だけれども,当時,上杉景勝軍と戦いながら,北陸を制圧しかかっていて,いよいよ越後に入ろうとしていたところだったが,本能寺の変の報を聞いて何をやったかというと,各自が北陸の自分の城に退却して守りを固めてしまった。 佳代:ハイ。 久住:数からみて,そのまま南下するだけで光秀軍に勝てるのに,わざわざバラバラになってしまった。上杉と戦うにしろ,光秀と戦うにしろ,まとまっていれば勝てるのに,守りに回ってしまっている。急ごしらえでまとまらなかったのならともかく,この軍はほぼ同じ指揮体制で7年も北陸で戦ってきている。それがここにきてバラバラになるのは,おかしいと思うんだ。 佳代:そう思います。 久住:次に丹羽長秀だけれども,信長の三男信孝と共に,四国の長曾我部に攻め込む準備中だった。光秀とほぼ同数の1万の兵を持ちながら,秀吉が戻ってくるまでの間,大坂周辺で様子を見ていた。 佳代:エエ。 久住:信孝の血気盛んで思慮の浅い性格からいって「弔い合戦をやって死のう」と主張しただろうし,おそらくそうすれば勝っていただろう。織田家一思慮の深いこの人が,戦えば勝てる状況で,あえて勝ちを見送った理由がどこにあったのか,納得のいく結論が出せないんだ。 佳代:う〜ん。 久住:それから,滝川一益だけれども,群馬の前橋を根拠地に,北条氏と戦う準備をしていた。周辺の勢力から,われもわれもと応援が殺到し,待っているだけでも相手が降参してくるような状況だった。ところが,本能寺の変の報を聞いてこの人が決めたのは「軍を二つに分け,半数で北条氏と決戦し,残り半数を率いて光秀を討つ」だった。いかに大軍が集まったとはいえ,これで勝てるわけがない。北条氏に大敗したとたん,さっきまでの大軍は跡形もなくなっていった。後に秀吉と戦い,さんざん悩ませた変幻自在の戦い方を考えると,とても同じ人間のやったこととは思えない。 佳代:難しくなってきました。 久住:最後に秀吉だけれども,高松城水攻めの最中に毛利の大軍が救援に来たので,信長に援軍を要請した。にもかかわらず,同時に,小早川隆景や安国寺との間で和平交渉を進めている。信長が最強の親衛隊(光秀軍)を率いて毛利を滅ぼしにくるのがわかっていて,なぜこんなことをしていたのか。 佳代:怪しいですね。 久住:和平交渉が進んでいなかったら「中国大返し」はできなかった。もし,本能寺の変が起こらなかったら,確実に切腹だった。 佳代:それで秀吉犯人説も出てくるわけですね。 久住:そう,また家康も堺見物という名目で危険な京都を離れ「伊賀越え」の下準備をはじめていただろう。いきなりあんなことができるわけないからね。 佳代:同感です。分かりました。ちょっと難しかったですけれども,わたしも自分の考えに自信がもてるようになってきました。 久住:そうだよね。佳代ちゃんは本当に鋭いよ。いいところを見ている。後は,もっと研究して本能寺の変を解明してね。 佳代:ハイ,がんばります。 久住:僕も,今日しゃべったことで一応の結論は出ているんだけれども,それはまだ明かさないでおくよ。この辺は後で小説にしたいんだ。 佳代:わぁ〜,それは楽しみです。 久住:うん,歴史小説というより推理小説のような展開になりそうだけどね。 佳代:是非,書いて下さいね。今日は本当にありがとうございました。 |
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