6.全国大会〜C頂上編

いよいよ決戦の日。日の出を見るとかで、まだ真っ暗なうちに起床。冷え込む中を頂上へ登る。実際に頂上で見た「御来光」は、想像をはるかに上回る美しさだった。目の前に雲海が一面に広がり、徐々に朝焼けに染まってゆく様はまるで別世界にトリップしたかのような錯覚を与えてくれた。一同からも思わず感動の声がもれる。しかし、それにしても空気の薄さから、軽い頭痛がずっと続いている。少し酸素を吸って横になっていたら開始までには何とか治まり、すっきりした状態で決勝を迎えることはできた。しかしこのとき大門チームの1人がマジでやばい状態だったようだ。クイズにももしかすると出られないかも知れないくらいしんどかったらしい。が、これもなんとか参加できるようで、いよいよスタート。いやがおうにも緊張感の高まる中、まず留さんからここまで勝ち残った感想を順番に求められたが、大前くんは「こんな『富士山頂でクイズをする』などという、TV界始まって以来の企画に参加できて光栄です。」と堂々としたものであった。こんな状況でも冷静に受け答えができるというのは本当にすごいと思った。さて、決勝戦のルールはいわずと知れた10ポイント先取の早押し。ただし、途中で2位と3位の間に5ポイント差がつくと3位のチームは失格、というものだった。(あとで考えると、このルールが適用されたのは僕の知る限りではこの回だけだ。うがった見方かも知れないが、もしかすると先述のような状態だった大門を早く休ませてあげるためのルールだったのかも知れない。)これはとりあえずスタートダッシュが大事、と思った。がここで僕は慎重に行こうという気持ちが強くなり過ぎ、いわゆる「固まった」状態になってしまった。展開的には前半から大前くん、原くんが快調に正解を重ねリードする。僕はたまに分かる問題が来ても押せない。例えば「ギリシャ、ローマ、ユダヤ、獅子、団子から連想される顔の部分は?」にも、「団子鼻とはいうけど、ギリシャ、ローマ、ユダヤって・・・?」などと考え過ぎてしまう。(結局スルー)また、特に悔しかったのが、「アメリカにある数字の暗記法で、『May have a・・・」ここでアッと思った。これは、同じく恵我図書館でよく借りた「数学ものしり事典」の類に載っていた話だからだ。(他にも「Yes, have number.」というのもある)ここで押そうかと思ったが、もうちょっと聞いてからと思い「・・・small container of  coffee?』それぞれの単語の・・・」とここまで聞いているうちに押されてしまった。幸い押したのが大前くんだから良かったが、こういう「数字に関する問題」ぐらいしか確信持って答えられるのないなあ、と思った。しかしその後も「ローマ数字でXLと書けばいくつ?」も慎重に考え過ぎて田辺に取られたりした。(これも幸い間違えたが)原くんは「郵便番号のうち都道府県を表すのは上2ケタ」(彼は郵便局でバイトをしていた)とか「並行輸入」(彼は100円ショップ等の安売りが大好きで、新聞のチラシで見て知っていた)とか、自分の得意(?)ジャンルを正解していく。田辺も徐々に調子を上げ「東大寺7・田辺4・大門1」までこぎつけるが、この後積極策が災いして連続不正解。一時は「東大寺8・田辺1・大門1」にまで差が開いた。このとき僕の頭に確かに「優勝」の2文字がちらついたのをはっきり覚えている。大前くん、原くんも同じことを思って慎重になったのか、それとも田辺が開き直ったのか、ここから田辺が物凄い追い上げを見せる。我々も押すことは押すのだが、ここにきて急に押し負けてしまうようになってきた。(放送でも大前くんが「また押し負けた・・・」と言っているところが映っている)そしてついに「東大寺8・田辺7・大門2」まで追い上げられた。したがってこの時点で5ポイント差がつき大門が失格になってしまう。僕はここで「ここから逆転されたら勝負弱すぎる・・・」と焦ったが、それが再びいい意味の開き直りになり、初めて誤答がこわくなくなり積極的に押していこうという気持ちになったように思う。次の問題「平安時代の三筆といえば空海、・・・」ここまで読まれた時点で「これはきっと三蹟の方を聞いてくるな。小野道風と、行成・佐理の両藤原って分かってるから絶対押したる。」と考えた。しかし問題の続きは「・・・嵯峨天皇、橘逸勢。では、小野・・・」と、いわゆる「逆フリ」。あっと思って押したが、幸いほぼ同時に大前くんが押していた。助かった。ついにリーチだ。がしかし次の問題は「宇宙船ソユーズが、ミールを離れ再びドッキングに成功した宇宙ステーションの名は?」僕のチームは誰も分からない。これを田辺が正解し9対8。本当に最後まできわどい勝負だ、と思った。そして運命の問題、「1ヶ月のうちで、連続する3日間の日付を足したら・・・」来た!何とここで数字の問題だ。しかもこれも「数学ものしり事典」に載っていた。これは絶対取らなければと思った。後で考えると、「日付を3日間とも答えさせる」とか「最初の日の日付を答えさせる」など、変化はいろいろあると思うのだが、その時僕の頭に浮かんだのは、「確か『数学ものしり事典』には、真ん中の日の日付を当てるという内容で載っていた。だからこれは真ん中の日の日付を問う問題に違いない。でも『真ん中』という単語が出てからだったら押し負けてしまう。」ということだった。が、ここまでみんなが押したポイントはほとんど全て問題の内容が確定してからだったため、本当に押していいものか一瞬の迷いがあった。それが結局「・・・45となりました。・・・」と、ここで押すこととなる。これが何と決勝で初めて自力だけでの押しだ。一瞬周りの全てがシーンと静まりかえったのと、大前くんが小声で「おおっと・・・」とつぶやいたのが印象に残っている。その声には「ちょっと早すぎるんちゃうか?」という心配そうなニュアンスが感じ取れたので不安が増大したが、ええい言うしかないわ、と腹を決めて叫んだ。「15!・・・」次の瞬間の何と長く感じられたことか。鳴ったのが正解のチャイムと認識した途端、「やった!勝った!」と思った後、頭の中が真っ白になってしまった。留さんが「おめでとう。武野くんすごいぞ。」と言って握手をしてくれたが、本当に「夢の中にいるよう」という表現がぴったりだ。自分では結構好きな歌でもある東大寺学園の校歌が流れる。嬉しい。大前くんが「おー、こんなとこで校歌が聞けるとは思わんかった。」と言ったが、まさにそんな心境だ。留さんが「原くん、今の気持ちは。」「とっても嬉しいです。」とインタビューを始めたが、何を言っていいものか全く浮かんでこない。「大前くん、学校の先生にひとこと。」という質問に「2学期始まってから、『クイズなんか出てて受験大丈夫か?』って言わんとって下さい。」と答えているのを聞いて、僕も同感やなあと思いながら「すごいなあ、こんなに冷静にしっかり答えられるなんて。」と感心した。そして僕へのインタビューは「クラスメートにひとこと。」だった。ちょっとでも想定しておれば気の利いた答えが返せたのだが、このとき僕の頭にあったのは、最後に答えられてよかったということと、大前くんの答えた受験ネタだけであったため、小声で「いや、もう・・・」と言ったきり、何と言っていいものやら分からなくなってしまった。こうなったら本当に感激して言葉に詰まっている、というところを見せなければと思い、ちょっとグッと来たように見せた。留さんが「言葉が出てこないね。」とやさしく言って下さってちょっと救われたと思った。おかげで放送日の新聞のTV欄に「みんな泣いた!富士山頂決戦」と書かれてしまい、大前くんに「あれは武野だけやで。」と冷静なツッコミを入れられてしまったが。その後「やったぜ東大寺!日本一!」と叫ぶシーンを撮ったが、僕らのチームは近畿予選を勝ち抜いた時にも「元気がない」と言われていたぐらいで、果たして僕らが勝ってTV的に良かったのだろうかという気持ちもあり、せめて最後優勝した時くらいは全力で叫ぼうと思った。

7.その後

実感が湧いているのかいないのか不思議な気持ちのまま下山し、日本テレビで表彰式を終えた。スタッフルームを見せてもらったり、ずっとかぶっていた近鉄の帽子に留さんのサインをもらったりしていると、スタッフが東京ディズニーランドの入園券を渡してくれた。もちろん初めてで楽しかったが、場内で高校野球の決勝戦を3人ともラジオで聞いていた(結局天理が優勝した)のが一番記憶に残っている。表彰式でもらった「$2000」と書かれた大きなパネルも、新聞紙を貼ってちゃんと持って帰った。

学校に戻ってからは、2学期の始業式で他のクラブ活動とともに表彰されたり、校長室に優勝旗を飾ってもらったりしたが、(当時の校長先生がすごく嬉しそうにしておられたのが印象的だった)僕がイメージしていたほど特に周りが何かが変わったということもなく、一受験生としての日常に戻った。学校にファンレターが来たわけでもなく、通学途上で声をかけられることもなかったが(当たり前か)、僕が確実に決心したのは「大学に入ったらクイズがしたい」ということだった。そしてクイズ研究会があるという理由で大学を選び、今日に至るまで細々とクイズを続けている。残念ながらクイズそのものの実力としては大して強くはなれなかったが、生まれつきの運の強さか、何度か映像に残ることができ、その経験を買われて(?)勤め先の会社の宣伝で何十回もTVに出してもらうこともできた。それにクイズというツールを通じて素晴らしい仲間と知り合うこともできた。いずれにせよ、この「高校生クイズ」がきっかけでクイズというものが僕の人生に多大な影響を与えたことは間違いない。僕はこれからも、楽しい「クイズ」という趣味に出会えたことに感謝し、できるだけ長く続けていきたいと思っている。

<完>