5.全国大会〜B九合目編
放送ではこの後すぐ準決勝になっているが、実はこの後いったん東京に戻った。なぜなら、次の日曜日が「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」の後楽園予選だったからだ。僕らは来年からウルトラには絶対出ようと思っていたのでスタッフに許可をもらって外野スタンドで見せてもらい、予定より1年早く後楽園の熱気と興奮を生で見ることができた。ちなみに東京での宿は本郷三丁目の機山館というところで、ここには後に受験の際にも縁起をかついで泊まった。東京では、3人がお揃いの服を買うように言われたが(準決勝から3人の服が揃っているのはこのため)それ以外は自由行動だった。といっても遊び場所を知っているわけでもなく、僕らは新宿に服を買いに行った後は、旅館で原くんが持ってきていた「カード麻雀」を米子東と学校対抗でしたりしていた。ちょうどTVでは高校野球の「天理vs米子東」が放送されており、お互い県代表を応援しながらの対決はなかなか面白かった。野球は結局7対2で天理が勝った。
さて、近畿予選のところにも書いたが、うちの学校は毎回遠足の行先を自分達で決めていた。僕らは当時登山が好きで、「登山組」と言われるほど毎回山を行先候補に推薦していた。だから山登りには不安は全くなかったのだが、何せ日本一の山である。しかも登山シーンを延々映してもしょうがないし、これはきっと途中ブルドーザーか何かで運んでもらえるのでは?と僕は考えていた。しかし一向にそんな気配はない。結局、本当に自力で九合目まで登った。真夏なのに寒いし、霧は深くなってくるし、何より空気が薄くて頭が痛くなってくる。想像してたよりずっと過酷な条件だ。そんな中で行われるのは、「一問必答YES・NOクイズ」。4チームが順番に並び、YES・NOクイズを1問づつ出していくのだが、何と1問正解で勝ち抜け。つまり、一番後ろにいるチームが常に敗退の危機にさらされていることになる。(しかも他力本願)瞬間的に、これは最初の順番を決める近似値クイズの順番がかなり影響すると思った。正解する確率を2分の1として、いきなり3チームが連続正解してしまう確率は12.5%。つまり、8分の1の確率で「何もせずして負けてしまう」ことになるからだ。(後で計算したところ負ける確率は、前から順に18.2%、21.0%、24.7%、36.1%だった。やはり一番後ろの敗退確率が断然高い。)しかし、出された近似値クイズが、「平常心拍数78の留さんが10回腕立て伏せをした時の心拍数を当てる」というもの。こんなん分からん!僕らは「126」と書いた。他は大門115、田辺127、米子東128。この時点で一番後ろはなくなったのでとりあえずちょっと安心。正解は・・・106回。みんなその前の「コーヒーに入れる粉ミルクのふたに指で穴を開けると、中身が飛び出す」というデモにびっくりして、きっと多めに書いたのだろう。それにしても田辺、米子東とはたった1づつというきわどい差で、2番目というまずまずのポジションを確保した。そしていよいよYES・NOクイズ。まず大門に出された問題は「夏でも寒い富士山頂は、30度を超す地上より音が伝わりにくい。」だった。ああ、これは簡単や、抜けられたと思った。何せ気温が高くなると音速が増すというのは理科の時間で習うから。しかし、大門は不正解。やはりここで「学校でまだ習っていない」という1年生チームの弱点が出たか。とりあえず自力で勝ち抜けられるようになった後ろの3チームから自然と拍手が沸く。次は僕らのチーム。「富士山より高い所に首都が位置する国もある。」僕は「確か、チチカカ湖なんかは富士山より高い所にあったよなあ。そんな高いところにあるのかという意外性から考えてもYESだ。」と思った。2人も同じ意見。結構自信をもって正解発表を待つ。さあ、また1抜けだと思っていると・・・「ブー」あれ?不正解???何と最も高いラパスは3632mとのこと。まさに「一寸先は闇」とはこのことで、他のチームの拍手が悔しいというよりは単純にショックが大きかった。しかも次の問題「君たちが登ってきた登山道は国道である。」に田辺が正解(NO)し、焦りはピークに達した。何とか次に回ってきたときに落ち着いて考えられるようにと、とりあえず自分が通過席に立ったつもりで問題を聞くことにした。しかし、次の米子東の問題「東京から新大阪に向かう新幹線で、富士山は左側の窓から見えることもある。」を聞いたときは、思わずのけ反った。僕の実家から徒歩3分のところに松原市立恵我図書館があり、そこで借りて読んだ「鉄道おもしろ事典」のたぐいの本に載っていた話だからだ。これは運に見放されたか?と思っていると、幸いにも米子東は知らなかったようで、不正解。思わず「ヨシッ」と声が出たところを思い切り映されてしまった。順番は再び大門。「金魚鉢に入れた金魚を持って登った場合、気圧が下がるため金魚の浮き袋が膨張して浮いてしまう。」僕はこれはNOくさいと思った。そんなヤワなメカニズムだったら魚は生きていけないと思ったし、わざわざ「気圧が下がるため」と念を押すように言っているのも怪しい。と思ったら何とこれも大門は不正解。よし、分かる問題も結構あるぞと思って次の問題を待った。「過去に観測された記録を見ると、夏に頂上の気温が20度を超えたことは一度もない。」げ、また分からん問題や。一度もない、ということは一度でも異常気象みたいな年があればNOやな・・・一度くらいはあるんちゃうんかと思って「NO?」と2人に言った。が、正解はYES。またまた敗退の危機にさらされる。なまじっか他の高校への問題が正解できてるだけにもどかしくて仕方がない。次の米子東の問題「富士山にある、煙や水蒸気を出す噴き出し口はすべてふさがってしまった。」は「すべてふさがった、ってどうやって証明すんねん?」と思っていたらその通り。しかしまたまた米子東は不正解。もう3巡目だ。とりあえず今は一番後ろでないものの、もういい加減抜けたい。そして大門への問題は「月見草は、月の動きに合わせて向きを変える。」う〜、また分かる問題や。確かにひまわりなんかは太陽の動きに合わせて向きを変えるけど、それは単なる「向日性」だから。月のどこにそんな引力があるんや、と思っていたら、さすがに大門もこれには正解。あれれ、気がつけばいつの間にか、最後の2チームに残ってしまっている。近似値クイズを始める前に留さんが「米子東、野球残念だったなあ。今日はその悔しさを(同じ奈良県の)東大寺学園にぶつけていいからな。」と言ったのを「まあ、4チーム中落ちるのは1チームやから。」と笑って聞き流していたのが、本当に米子東との一騎打ちになってしまった。TV的にはおいしいなと思いながらも、もう後がない状況だ。(ちなみに、ここまで8問終わっているが、この形式で正解率を2分の1と考えた場合、8問終わって勝負がついていない確率は約14.5%である。)とにかく問題文のどこかにヒントがあるはずだから、一言一句聞き流さないようにしよう、と不思議と開き直れた。「赤道の直径を3mとし・・・」僕はここで、続きの「・・・地球をそのままの形に縮小すると、・・・」を聞きながら、とりあえず何分の1の縮尺かを出しておこうと思い、4万キロ÷3.14≒1万2千キロ余り、だから4千余り分の1と出した。(実際は4千余りではなく4百万余りだったが)「・・・日本一高い富士山は1ミリ以下となる。」と問題文が読まれた瞬間にはもう「3776÷4千余りだから0.9ぐらいや」と答えを出していた。(実際は0.89ミリくらい)考える時間が15秒あるので慎重に検算をする。3mと1万2千キロで1000倍のずれがあることに気付いたが、まあmとミリも千倍の差やから一緒やと思った。大前くんに「0.9ぐらい・・・」と言うと、彼はこれまでで最も大声で「YES!」次の瞬間がやたら長く感じた・・・そして鳴ったのは正解のチャイム!やった!やっと抜けた!喜びが爆発する。勝ち抜けたチームは「決勝進出ゲート」へ走っていくように言われていたが、それを忘れていても自然と走ってしまう。いやあ、本当に苦しかった。それにしてもあの状況で、物凄い集中力が働いて頭が回転できた自分がちょっとスゴイと思った。でもそれならもっと早く抜けとけよ、とも思ったが。
米子東が降りていくのを見るのはちょっとさびしかったが、僕はそれを見ながら「もしうちが負けてたらひょっとして大前くんが九合目に一泊してでも決勝を見ようって言うてたかも?」などと考えていた。この日は九合目の「万年雪荘」に泊まったのだが、夕方以降何もすることがない。仕方なく(?)またカード式麻雀を田辺としていたら、スタッフがやってきて「どこが優勝すると思う?」と聞かれた。ちなみに大門は田辺が優勝すると言ったらしい。田辺は東大寺と言った。こういう時、最後に答えるのは気を遣う。ここで大門と答えればいわゆる3すくみになってきれいなのだが、今までの戦いぶりから見て僕は田辺かうちだろうと思っていたので、一番TV的にきれいな答えは・・・と考えたあげく、「いやあ、どこも同じくらい強いですから、どこが勝ってもおかしくないと思います。」と答えた。この返事が実際に決勝戦を始める前に留さんに言ってもらったのは結構嬉しかった。もし他の2校が「自分の学校が優勝する」と答えていたら、きっと「いや、うちが優勝すると思います。」と答えていただろう。その後「お約束」の寝ているシーンを撮り、またしばらく麻雀をしてから早めに寝た。明日は日の出前に起きなければならない。いつの間にか、クイズをしている環境が当たり前になり、今までのステップを振り返ることもしなくなっていた。ただただ目の前のクイズに負けないこと、そして泣いても笑っても明日で終わりやな、とそんな事を考えていた。