「スクープ」概要
 
 大手新聞社の外信部員、岩田隆は、泊まり明けに編集局長室に呼び出され、事業部への異動を命じられた。ワシントン特派員が、ロシアの亡命科学者に接触して、国に残してきた家族の安否の確認と亡命の手助けを頼まれたのだという。「成功したら、世紀のスクープを教える」という条件だった。こういう機密の仕事に、秘密の立場で動ける者が必要になったのだという。岩田は三階の事業部に席を置いて、機会を待った。しばらくすると、後輩のワシントン特派員から、「亡命者に会う算段が着いた」と知らせてきた。岩田はアメリカに行き、厳重な警備の網をかいくぐって、その男、アレクセーに面会。岩田は家族とロシア大統領への親書を託されて帰国した。美術展の成功の謝礼と二回展の打合せでモスクワに行くことになった岩田は、かつての特派員時代の愛人のつてを頼って、エミチャン大統領との会見に漕ぎ着けた。クレムリンの会見室で、大統領と握手を交わした岩田は、その手の感触が記憶と違うのに気がついた。出されたウオッカは、薔薇の香りがした。
 大統領の許可が出てロンドンで一家と再会できるようになった、とのアレクセーからの報せを受けた岩田は、その立会いと約束のスクープを得るために、宿泊先のホテルに向かった。岩田は、途中不審な東欧系の小柄なメードに出会うが、岩田が部屋に入ると、妻と子供二人と共にアレクセーは、死んでいた。手にシャンパンのグラスを持ち、そのグラスには小さな虫が付いていた。警察に知らせる前に部屋を点検すると、ベッドサイドのテーブルに、見慣れた女性の写真が置いてあった。それは、この国の元皇太子妃殿下、ダイアナの美しい笑顔だった。スコットランドヤードから、重要参考人して出国を禁じられた岩田は、三矢ロンドン支局長の自宅で待機するが、妻のエイコは、再会を喜ぶ。二人きりになって、昔の愛情が再燃した二人は、初めて体を許しあった後、テレビでダイアナ元妃の事故死のニュースを見てパリ行きを決意する。
 パリの高級ホテルに宿泊した二人は、愛を深めあいながら、手を携えて元妃殿下の行動の謎を追った。パリ警察は、「事故は調査中」と口が硬かったが、救急治療をし死亡を確認した病院の医師は、応対の態度がおかしく、不審を抱かせた。遺体が早急に搬出されているほか、死因にも不審な点が多かったが、管理が厳しい病院からはそれ以上の情報が得られないと判断した岩田らは、現場にいたパパラッチから取材しようと当たりを付けたが、事務所に案内してくれた若い男とその親方は、突然、拳銃で撃ち合って死んだ。だが、その事件が一行も報道されないのを不思議に思って再縫訪した警察で、事故車両が改造されていた事実を聞かされる。
 撃ち合いの現場の事務所を再訪問した岩田とエイコは、その家が空家だったのを知る。部屋の隅に落ちていた紙片を後で見てみると、ピラミッドに武装した白衣の男たちが写っている写真だった。示唆を感じた岩田は、エジプト行きを決意。カイロの街を巡ってからルクソールに向かい、テロリストの襲撃に会うが、一命を取り留める。テロリストが持っていた荷物の中に、スイスの銀行家の写真があり、その男がこの銃撃で死んでいた。因縁を感じた二人は、すぐにスイスに向かった。
 ローザンヌの銀行を訪ねた岩田とエイコは死んだ銀行家がウィーンで投資銀行を経営していたことを知らされ、ウィーンに向かう。特急列車の車内でエイコは、小柄な女に襲撃されるが、反撃し車外に突き落とす。この件をウイーン警察に届けた二人は、投資銀行で執事に会い、銀行家がエジプト系の資産家と組んで危い投資をしていたことを掴み、その資産家の住所を知る。そして、ウイーン警察でエイコを襲撃した女が国際手配の大物テロリストであり、アレクセー一家殺害の犯人だったと知らされる。
 ロンドンに帰った二人は、ロンドン警視庁から、事件の背景説明を求められる。組織犯罪の疑いを持った秘密情報機関が、関心を持ち、エジプト人資産家が住むアムステルダムに向かう岩田らに、身辺警備の係員を付けるが、その二人はパリで撃ち合って死んだと思っていた男だったことから、ダイアナ元妃の死の裏に英国と王室の意思があったとの疑いを深める。資産家に会った岩田は、死んだ元妃が、実はダミーだったことを打ち明けられる。アレクセーは、そのダミーをクローンで造る技術の秘密を握り、漏らそうとして殺され、銀行家も融資の引き揚げを目論んで殺されたのだった。テロリストを使った陰謀が明るみに出たが、元妃の行方は依然不明だった。
 「元妃は自由を得たくて、この事故計画に乗ったのかもしれない」という推測を裏付けるように、この一連の事件の後、金持ちの南海の王国の無人島に急造された大宮殿に大量の真っ赤な薔薇の花が空輸されて行ったのを見た人は少ない。