「ネットワーク」概要
ニューワーク市の私立探偵、ウイリアム・ゴードンは、美しい人妻、ジョン・ベネット・シュルツから、夫のミリアン・シュルツの素行調査の依頼を受けた。早速、尾行調査を始めたところ、ミリアンは毎日、金髪美人とホテルでデートし、夜はエスニックパブに出入りして、複数の女性と密接な付き合いをしているのが判明した。ゴードンは撮影した証拠写真を添えて、調査報告書を作成しミセス・シュルツに手渡した。
ところが、そのジョン・ベネットが行方不明になり、市警察が捜査に着手した。シュルツ邸の寝室から血痕が見つかったうえ、近くの湖から指輪や着衣が発見され細かい肉片も採取された。担当のジャクソン刑事はこれらを総合して、殺人、遺体損壊・同遺棄の容疑でミリアンを拘束し、調べを始めたが、ミリアンは犯行を認めなかった。
ゴードンは、国内最大手のアフラック保険会社から、社員で公認会計士のテリー・シェルドンの身元調査を依頼された。社の金の使い込みの容疑があり、その私的な動機を探るように、との要望だった。ゴードンはテリー邸に出向き、本人から事情を聞いた。家族五人の典型的な中流家庭の幸福を噛みしめるように、庭でバーベキューをしていたテリーは、疑惑を否認した。ゴードンはその暮らしぶりから私的な問題はない、と判断した。ところが、その数日後、一家四人は無残な射殺死体で発見され、テリーが、姿をくらました。
そのころ、市郊外の川で人間の下半身の白骨死体が見つかった。骨の専門家の鑑定で女性のもので、身長や体重の推定値、血液型などから、捜索願いの出ている該当者を調査したところ、隣町のジョージ・フォード歯科医師の妻、エリザベスと推定された。捜査を始めたウオード保安官は、生活記録を見に行った聖マリア教会でロバート・デ・コスタ神父から、歯科医がさらに二人の妻を亡くしていたという新事実を聞いた。
ミリアンの頑な否認に会ったジャクソンは、確固とした物的証拠を突きつけようと、湖で採取した肉片がなぜできたかを再現実験した。結果は、殴打して殺害した死体を冷凍してから切断し木材粉砕機に掛けて粉々にした、という推理を裏付けるものだった。それをもとにした追及にも、ミリアンは殺意の不在とアリバイを主張し否認し続けた。遺体切断に使ったと見られていたレンタルのチェーンソーも、かなり前に返却されていることが分かり、捜査は暗礁に乗り上げた。
アリバイ崩しのため、ジャクソンはゴードンの報告書にあったもう一人の女性、アネット・フォードを訪問した。すると争う物音が聞こえ、男がアネットを射殺して逃走した。ゴードンはアネットの部屋からパソコンのフロッピーを持ち帰った。そこには多額の保険金のリストが入っていた。
捜査の原点に戻り、聞き込みを始めたジャクソンは、シュルツ邸近くの食肉工場が不法侵入され、冷凍車と食肉加工機が使われていたのを突き止めた。ジャクソンとウオードは、市内のフォードの経営する歯科医院に事情聴取に訪れ、アネットがフォード歯科医の娘だったことが分かった。ミリアンの素行調査を再開したゴードンは聖マリア教会で、暴漢に襲われたのを、愛人のエミー・ブレアに救われた。ゴードンは、翌日の新聞にミリアンが同教会で身元不明の射殺体で発見された、との記事を見つけて、驚愕する。神父が逃走していなくなっていた。
歯科医が妻を殺した、との疑いを強めた保安官は、医師の自宅を徹底捜索した。その結果、寝室で殺された死体が屋外に搬出され、電動鋸で切断された、との確信を深めた。解剖されたミリアンの遺体からは、なにかの結社の構成員であることを示す不思議な印が見つかった。保安官は、神父の立ち回りそうなアイルランドカソリック総本山の聖ヨハネ教会の聞き込みをジャクソンに依頼してきた。子供のころから顔見知りのセプリアン大司教に会ったジャクソンは、神父館の裏庭で赤い紫陽花を見つける。その花の陰に不審な人影があった。
豊富な証拠をもとに追及されたフォード歯科医は、それでも自供せず釈放されて、意を決して聖ヨハネ教会に向かった。そこでは、大司教が神父と激論を交わしていた。その全てを盗聴したジャクソンは現場に踏み込み、神父を殺人などの共同謀議容疑で逮捕しようとしたが、逃げられ、銃撃戦になった。聖堂で撃たれて死んでいたのは、フォード歯科医だった。
逮捕された神父が全てを自供した。フォードもミリアンもテリーもアイルランドの独立を求めて戦うIRAを支援する組織の活動員だった。この組織を神父が束ね、高性能の武器を購入して祖国に送っていた。その資金を得るために、愛する肉親らに高額な保険金を掛けて、次々と殺害したのだった。
武器を満載して輸送する漁船はその日、アイルランドへ出航予定で、テリーが操船してていた。埠頭から出ていく船に追いついた保安官とゴードンらは、テリーと銃撃戦になったが、沖合にでた船は、保安官の機転で大爆発を起こし、沈没した。アイルランドを核ミサイルで攻撃しようという危険な計画は、瀬戸際で防がれたのだった。
漁船が爆発した日の夕方、英国の首都、ロンドンのダウニング街十二番地、首相官邸の二階寝室の電話が鳴った。電話に出たのは、新しくこの家の主人となった労働党党首夫人のシェルリだった。エミーが、伯父のトニー・ブレア首相に、一件を報告する電話だった。
「私がすこしでも、お役にたてれば、何でもしますわ。特別任務があれば、言ってくださいね」
と言うエミーに対し、ブレア首相は、 「愛しい君にそう言われると千人力だ。今度は、君らの活躍でわれわれの警官と治安維持軍の多数の人命が救われた。すこし休んでくれたまえ。私の最初の仕事として、君に、一ヵ月の休暇を許す」
と申し出た。
エミーは、その週のゴードンとのデートで、
「二人きりで、遠くに行きたいわ」
と提案したが、ゴードンは、
「そんなことをしている暇はない。どんな小さな調査でも、引き受けてやっていかなければ、食っていけない。休暇なんて夢の話」
と撥ねつけた。
エミーは、ダブルベッドの横に並んで寝ているゴードンの裸の体の上に乗り掛かって、その下半身を両手で握って、刺激した。
「こちらのピストルは、天下一品なのにね。私は、毎日、こっちの的になって過ごすことにするわ」
エミーは、そう呟いて、ゆっくりと腰を沈めていった。