[ラスト・コンサート]あらすじ
折茂藤一郎は、膵臓ガンで「あと半年の命」の診断を受け、入院した。残された人生をどのように、過ごそうかと考えた時、小さい頃に聞いたヴァイオリンの音が蘇った。それは、彼が小学生のころ、遊びから帰る坂道の途中にある洋館で、少女が弾いていた美しい音色に関係していた。その少女は、プロの演奏家になっていて、折茂も聞いたことがあった。
藤一郎は、ヴァイオリンを習うことにした。先生は芸大出の若い女性で、レッスン用の中古楽器を神田の専門店から買ってきてくれた。それには、「S.M.」のイニシャルが書いてあった。レッスンハ厳しかったが、それで、上達も早かった。
一方、血友病患者の町田しおりは、小さいころから、ヴァイオリンを習って、音楽大学に進み、卒業して自宅で子供達に教えていたが、ある日、手を切って、血が止まらなくなり、病院に緊急入院した。そこで、しおりは新しい非加熱血液製剤を処方された。その薬で、しおりの血友病の治療は、易しくなり、体調も快調だった。
藤一郎は、ヴァイオリンが大分、上達したその年の夏に、プロの演奏が聞きたくなって、子供のころ、道で聞いた少女の前端貞子の夏の演奏会に出掛けた。そこで、隣の席に座っていた若い女性が、プログラムで手を切り、出血が止まらないという事故が起きた。藤一郎は自分のハンカチを渡して、止血を助けた。
隣の席の女性、町田しおりは、緊急入院で、一命を取り留めた。母の康子は、ハンカチのお礼を手紙に認めて、藤一郎に送った。そこには、しおりが入院したのが、藤一郎の入院中の病院であることが、書いてあった。
しおりは、入院中に、重体に陥ったが、いつも、昼頃に聞こえてくるヴァイオリンの音に、生への意欲をかき立てられ、一命を取り留め、徐々に回復していった。
ところが、十一月以降、その音が、いつも変わらずに同じなのに、しおりは、気付いた。母の康子にそれを打ち明けると、康子は、音源を探ったが、その部屋には、鍵が掛かっていて、密室になっていた。
康子は医院長に、詳しい話を聞いた。院長は、演奏は、藤一郎がしていたこと、しおりの病気の回復に、その演奏が役立っていること藤一郎が知っていたことなどを話してくれた。そして、実は、既に十一月に亡くなっていることを打ち明けた。
それでも、何故、演奏の音が聞こえていたのか。藤一郎が、しおりに当てた手紙でその真相が明らかにされた。