「爺さん」粗筋
旅慣れた男が、道を急いでいると、掃除をしていた爺さんが、「この道を行った人で、帰って来た人はいない。山に大鬼が住んでいて、みんな食われてしまう」と声を掛けた。男が、「それなら、わたしが鬼退治をしよう」というと、爺さんは「それなら、これを持っていきなさい。だが、飲んではいけない」と言って、瓢箪をくれた。
男は、瓢箪を腰に、山道を登って行ったが、途中で青鬼の像と、赤鬼の像に出くわした。二つとも、「あまりに、喉が渇いたので、爺さんのくれた瓢箪のみずを飲んだら、固まってしまった」という。溶かして人間に戻るためには、「鬼が持っている薬を掛ければいい」と訴えた。
男は、大鬼のいる祠を見つけ、中に入って、大鬼の寝ている隙を見て、瓢箪の鬼殺しの水を掛け、薬を奪って、逃げかえった。
帰り道に、赤鬼、青鬼の像に薬を掛けて、人間に戻してやったが、二人とも礼も言わずに、立ち去った。
麓へ戻り、爺さんに、このことを話すと、爺さんは、気の毒に思ったのか、鬼殺しの作りかたを教えてくれた。翌日、また、山道を行くと、赤鬼と青鬼の像のあったところに、書き置きがあり、「出世したら、御恩をお返しします」とあった。
男は江戸に戻り、数年の研究で、鬼殺しの飲み物を売り出すと、大評判になり、大儲けをした。
ある日、歌舞伎役者と飛脚問屋の主人が、訪ねて来た。これが、青鬼と赤鬼にされていた人で、二人とも「恩返しをしたい」と申し出た。男は、二人との再会を、喜びあい、三人の交遊は、死ぬまで続いた。