「爬虫類を飼う女」梗概
 
 警視庁練馬警察署の山下英五郎警部は「公園で鰐が泳いでいる」と一一0番通報を受けた。山下は捕獲態勢を整えた。射殺した鰐の解剖で消化器から人骨が見つかったため、殺人事件の疑いも出て、警察は食われた人の身元捜査に乗り出した。その半年後、荒川河川敷に鰐が現れ、動物園から「この前の鰐と今度のは兄弟です」との情報が寄せられた。山下警部は滝の川署の女性の上田警部と鰐の身元を共同捜査。二人は三年前にその鰐の兄弟が売られたペットショップを突き止め、買った四人に直当たりした。
 三年前のある日、東京・板橋区の川越街道沿いにあるペットショップで子鰐を買う積もりだった松田由美子は、すでに吉野という男が買ったと言われ落胆した。由美子は会社近くで、その男と偶然再会。男の家に鰐を見に行くことを約束した。由美子が、度々、鰐を見に行き、遠慮がなくなったころ、吉野は由美子に借金を申し込んだ。最初は少額だったが、半年前には、一億円までになっていた。由美子は、伝票操作で資金を捻出し、吉野に貸し付けた。まで同様に難なく調達できそうだった。鰐騒動の一週間前に、由美子の上司の経理部長が蒸発。営業資金の一億円も一緒に消えていたから、社内は「部長が持ち逃げした」との噂で持ちきりだった。 子鰐の購入者を当たっていた二人の警部は、吉野宅を訪問した。吉野は「鰐は松田由美子に譲った」と言った。二人は、由美子のアパートを訪ねたが、転居していた。二人は、、会社の同僚から話を聞いて、由美子が退職したのと同じ頃、経理部長が失踪したことが分かった。二人は、この「吉野」と本当の吉野とは、別人ではないかとの疑いを抱き、再び由美子の会社を訪ねて、失踪した部長の顔写真を見た。それは先日会った「吉野」だった。
 トリックに気が付いた二人の警部は、吉野のマンションの部屋から、吉野の体毛を採取し、科学鑑定した。それは人肉の血液型やDNAタイプと完全に一致し、被害者は吉野と判明した。経理部長が吉野になり代わっていたのだった。山下警部は、由美子と部長の逮捕状を請求した。
 由美子と部長は、成田発ロンドン経由の飛行機で、ローマに向かっていた。ローマ空港の出入国チェックのカウンターで、手配を受けた日本大使館の係官が、二人を待っていた。中年男とOLの「愛の逃避旅行」は束の間の夢に終わった。