「懲戒免職」あらすじ
 
 岩瀬太一郎は、寒さが増しはじめた十一月初旬、三十年間、勤めた新聞社を「懲戒免職」になった。
 それまで、人生の半分を捧げた岩瀬の記者人生は、人事の「約束違反」の連続だった。駆け出しのころからを振り返ると、岩瀬にも「花の時代」もあったが、大半が、憎悪と怨念で彩られている。明るい性格が、暗くなっていったのも、人事での度重なる「嘘」による「不信」が、彼の心を蝕んだためだ。
 その、心身への浸潤が、彼に、大それたことをさせたらしいが、彼にその意識はなかった。「大それたこと」とは、それを追及した管理職らによれば「会社にとって、致命的なことで、自己退社をすべき」と彼は迫られた。しかし、彼は「自分に覚えがないことで、退職はできない」と主張して、「賞罰委員会」へ出席して、弁明することにした。しかし、「委員会」は彼を「懲戒免職」と決めた。岩瀬に、師走の風は一層、冷たかった。