「鮎の川」概要
 
鮎釣りで有名な相模川に、釣りの季節がやってきた。中学生二年生の僕は、友達二人と毎日曜日には、必ず、川で釣りをしていた。ある日、何時ものように、僕たちの穴場で釣りをしていると、上の人車橋から同級生の麗子が声を掛けた。「こんど、転入生が来るよ」と麗子は、はしゃぎながら僕らにニュースを教えた。翌日、学校に行くと、麗子の姉で、僕たちの担任の加代子先生が、転入生の美佐子を紹介した。美佐子は、東京でタレントをしていたというだけに、田舎町にはいないような目鼻だちのくっきりした美少女だった。席が空いてきた僕の隣にきまって、僕は美佐子が好きになっていたがわかった。その日の午後は、皆で河原に石取りに出掛けた。要領の分からない美佐子の世話をして、僕と美佐子は親しさを増したが、河原では、大事件が起こった。僕らと一緒に川の中程まで入って、石を取っていた美佐子が急流に流されたのだ。僕は必死で、美佐子の体を掴んで、やっとのことで、助かったたが、二人とも意識を失った。美佐子は病院に入院し、僕は学校の医務室で加代子先生に抱かれたままどうにか命は助かった。先生と僕は、美佐子を見舞いに病院に行った、そこで、美佐子の兄と先生が挨拶を交わしたが、それが、初体面ではなさそうなのが、気になった。
 美佐子が退院したお祝いの会が開かれ、僕も加代子先生も出席した。その席で、鮎祭りのミスコンテストが話題になった。先生は、学生時代に四回も連続してミス鮎祭りに選ばれた我が町の誇りだった。その出場規約が改正され、連続応募が可能になったのと、同棲経験者は除外されることになったのがわかり、先生は出場を説得された。さらに美佐子も出場を促され、向いの町から、有力候補が出ないこともあって、ミスの争いは、この二人に絞られた感じになった。
 鮎漁の盛りには、夜釣りも行われる。初めて参加した僕らは、その興奮を楽しんだが、船の折り返し点の先の堤防上で、先生と美佐子の兄が抱き合って、接吻しているのを見た僕は、激しいショックを受けた。
 ミスコンテストは、一次、二次の審査に二人とも残り、ミスの座を二人で争うこととなったが、最後に、加代子先生への「同棲経験はないか」との爆弾質問が飛び出して、栄冠は美佐子が獲得した。決着が付いたあと、姿を消した先生の跡を追って、自宅も訪れた僕は、月明かりのなかで、先生が男に異常な行為をしているのを目撃した。それは、艶めかしい行為で、僕に甘酸っぱい興奮をもたらした。それは、成熟した男と女が、二人きりの時に行う秘め事のように、僕には見えた。
 その翌日から、僕は鮎釣りに川に入るのを辞めた。ただ、川辺に座って、流れを見ている僕の側に美佐子がいる。その瞳が川で照り返された光に射られ、きらりと光っていた。