「青いトマト」粗筋
三十六才のサラリーマン、岩沢は、渋谷のスクランブル交差点で声を掛けてきた十八才の少女、吉野りかと月に数回のデートの契約をした。ある日、会社に電話があり、リカが「面白い所に行こう」と誘ってきた。断ったことがない岩田は承諾し、渋谷で待ち合わせて、その店に行った。「野菜屋」というその店は一見変哲もないバーだったが、お国野菜の栽培室があり、会員制で人工栽培の野菜のキープが出来るという変わった店だった。りかの勧めで岩沢も会員になり、トマトの苗木をキープした。
都会に独り暮らしの岩沢には、生き物を育てるという経験は新鮮だった。数日後に行ってみると、確かに契約したトマトは順調に育っていて、期待を持たせた。そのあと、りかとは疎遠になていたが、会社に渋谷署の刑事から電話があり、万引きで補導したりかの身柄の引き取りを求められた。りかを引き取り、郊外の粗末なアパートに送っていった岩沢は、りかも都会の孤独な少女だと知る。その部屋に並んで寝ながら、子供のころ、トマト畑で見た兄嫁の密通の映像が蘇ってきた。トマトはそれ以来食べれなくなっていたのだ。
このことから親しみが増したのか、りかはその三日後にまた、会おうといってきた。
「野菜屋」に行くと、店の前に人だかりがしていて、火が出ていた。岩沢は他の人とともに、救助を手伝いりかも奮闘して、ずぶ濡れなった。その体を温めようと、岩沢はリカを目白にある自宅のマンションに誘うと、りかは喜んで付いて来た。十一階にある部屋からは、東京の市街地から富士山までがよく見渡せた。壁に囲まれた会社での生活の疲れを癒すために、帰宅後、岩沢はこの部屋で夜景を眺めて、安らぎを得ていた。少年の頃の衝撃的体験で、不能になっていた岩沢の前に、バスで体を温めたりかの若い肉体があった。今度は、生きていく自信が得られそうだった。