「199×年・夏」概要
 
 都内有数の私立進学高校に通う僕は、三年生の春に、桜の咲く下で、足の悪い同級生、島田俊介に、「天才の命は太く短い。天は短くとも充実した時間を彼らに与え、性急に天に、自らの近くに召されるのだ。君達、のんびりしている暇はないぞ」と声を掛けられ、島田への関心を持った。級友によれば、彼は数学オリンピックで金メダルを取った数学の天才だという。
 二年生の時、塾の友達の男女で湘南の海に行って、名門私立女子高生の女友達から「子供のころ、交通事故に会って死にかかったが、貴方の同級生に命を助けられた」と聞いたことがあったので、それが足の悪い島田だ、と直観する。三年の夏に、僕は島田を誘って、また湘南で泳いだが、その帰り道、東京駅の下りエレベーターから落下した乳母車を体当たりで救った島田は、転落して死亡した。この夏、僕はその同じ浜辺に寝ながら「天才の命は短い」と言う島田の声を聞いていた。