耳管狭窄症になった話

ことの起こり

1995年5月10日と11日にSanta Claraで開かれたBeのデベロッパコンファレンスに参加してきました。帰ってきて1週間に満たない5月17の夜、突然鼻水が出始めました。そして翌朝から猛烈な喉の痛みに襲われました。ほとんど切れそうなほどの痛みです。ここまでは、まあ良くあることなんですが、それが風邪なのか、アレルギーなのか、いつも良く分からないんです。

そして、その翌日あたりから症状がだんだん風邪らしくなってきて、タンや鼻水もズルズル出るようになってしまいました。しかし、熱が出るわけではなく、この期に及んでもアレルギーなのか風邪なのかよくわかりません。

それから10日ほど経った5月の最終週になっても、なかなか治らないので手を焼いていると、こんどは5月27日ごろから突然右の耳が聞こえ難くなりました。ちょうど、プールに行って耳に水が入ったままになった感覚に似ています。高層ビルのエレベータで降りるか昇るかして、耳がツーンとなったままのようでもあります。

これは、もしかして風邪をこじらせて中耳炎にでもなったのかと焦り始めました。

それは中耳炎ではない

しかし、ここ十数年というもの、中耳炎などにかかった記憶はありません。かかったことがあったとしても、遠い昔、小学生のころでしょう。そこで、中耳炎の症状がいったいどういうものなのか、家庭医学事典で調べて見ました。

それによると、中耳炎になれば耳の奥の痛みや発熱は避けられず、しまいには耳だれも出てくるということで、けっこう恐ろしい病気です。そして、どうも私の症状はここまではひどくないようです。熱も痛みもありませんし、中が膿んでいるような気は全然しないのです。

そこで、もう少し読み進めると「耳間狭窄症」という病気が載っていました。それは、喉の奥と耳の奥、つまり中耳をつないでいる管の周りが炎症を起こして管がつまり、鼓膜の外と内の気圧調整ができなくなる。その結果、耳が聞こえ難くなったり、ツーンとするというのです。私の症状はまさにこれ。ここに至って、ようやく病名を確信しました。しかし、それだからどうなるものでもありません。医学事典には対処方法も載っていません。

しつこい症状

この病気の症状は、四六時中耳がつまって聞こえにくいのですから、気持ち悪いことこの上もありません。鼻をかんだりするときに圧力で管が通って、耳の奥で空気が吹き出すようなビチビチという音がすることもあります。

どうも鼓膜の存在感があるので、ティッシュの切れ端で紙縒りを作って鼓膜を押したりしてみると、妙に気持ちよかったりします。また、鼓膜を押し込むようにした直後だけ、耳がつまった感覚が和らぐような気がします。

しかし、この症状はしつこいのです。もうすでに、風邪のような症状はほとんど治っているのに、耳だけは何日経っても良くなる気配がありません。かといって、それほど進行するようでもないのが、せめてもの救いです。

驚くべき符合

5月の最終週の中頃だったでしょうか、いっしょにSanta ClaraのBeのデベロッパコンファレンスに参加した某Mac雑誌の編集者と話をしました。そこで、実は帰ってから風邪をひいたんだかアレルギーになったんだかで、それが長引いているうちに耳が聞こえ難くなったということを話題にしました。

すると驚いたことに、その編集者もそうだと言うのです。彼の場合は左の耳ですが。よくよく聞いてみると、風邪らしい症状が起こったのもほぼ同日。症状の進行もほとんど同じ。そしてやはり恐らく耳間狭窄症になったことも同じ。これはもう偶然の一致とはとても思えません。

ウィルス性の耳間狭窄症というのがあるのかどうだか分かりませんが、この元になっているのは恐らくアメリカで拾ってきたウィルスなんでしょう。別にアメリカでいかがわしい場所に出入りしたわけではありませんから、もっと凄いウィルスをもらってくる心配は無かったのですが、なんとなく気持ち悪いですね。でも、それ以上に耳の奥が気持ち悪く、ほんとうに原因などどうでも良いという気持ちでした。

コンサートにも行ったが

症状にほとんど改善がみられないまま、とうとう5月の末になりました。5/30には、知り合いのチェンバロ奏者の方が出演するコンサートに行くことになっていました。場所は東京オペラシティのリサイタルホールです。耳が聞こえにくいのは、そのままなのですが、特に音楽鑑賞に差し障るほどでもなかったので、予定通り行くことにしました。

ここでは、やはりステージに向かって中央から右側に座ったことは言うまでもありません。そうすれば、左耳の音量が大きくなり、右耳をかばえるような気がしたからです。

たしかに、音楽鑑賞には影響なさそうだったのですが、やはりすっきりせず、何か損をしたような気さえしてきました。

耳鼻科に行って病名確認

6月に入ってもまだ治りません。ほとんど、そのままです。いくら病んでいるのが耳管のまわりだけだとはいえ、それがだんだん奥に進行して中耳炎にならないとも限らないような気がしてきました。

たまたま6月6日は会社がなぜか休みだったので、ついに耳鼻科に行くことにしました。いきなり「耳間狭窄症になったんですけど」なんて言ったら嫌われるに決まっているので、控えめに「風邪を引いた後、耳が聞こえ難くなって」という説明をしました。鼓膜を観察したり、聴力検査をやったり、痛みのないことを確認すると、医師は「耳間狭窄という病気ですね、特に治療法はありません」と言い放ったのです。この言葉の前半には、小踊りしたくなるような気分でした。素人ながら自分の見込み通りだったからです。だからなんだ、というわけではありませんが。

しかし、後半には困ったものです。とはいえ、鼻から空気を送って耳に通すようなことと、鼻から何らかの薬品を吸入するような治療を受けて帰ってきました。でも、確かに薬は出ませんでした。

結局分かったのは、病気の名前が見込み通りだったこと、1回行って治る人もいれば、治らない人もいるということくらいでしょうか。なんとも心細いものです。

ついに完治、たぶん

耳がつまっているという感じを意識しなくても済むようになったのは、ようやく6月の第2週に入ってからです。ところがそのころは、まだ完治したという感じはしません。そして6月12日の夜には、妙に鼓膜が痒くなるということも経験しました。これには、やはり紙縒りでコチョコチョやってみましたが、これがもうなんとも気持ちいいのです。変態かと思われそうなほどです。

その痒みも一晩で無くなり(少し残念)、その後もうほとんど正常に戻ったようです。ときどき鼓膜がパコパコいうような気がすることを除けば、もうつまっている感覚はありません。思えば風邪の発症からほぼ1月が経とうとしています。実は今でも鼻をかむのが恐かったりします。でも、もう大丈夫でしょう、たぶん。

このウィルス性の耳間狭窄症?、来年の冬あたり、日本で大流行するかも知れません。私の責任ではありませんよ。

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