白日夢  第十六の幻 (平成十五年五月三十日)

ライブat荻窪物語

 まったりとしたコクながら、後味は爽やか。美味しゅうございました。……って、食べ物の話ではない。face to aceのイベントの話だ。

 5月24日、土曜日。杉並区は荻窪に本社を構える新星堂。こちらにて、イベントが行われた。
 イベントは午後2時からと午後4時からの計二回行われ、ワタクシは二回目に参加。
 スタッフに引率されて、会場である本社ビルの地下ホールへと向かう。フロアの半分以上をパイプ椅子が占めていた。
 広さとしたら、山野楽器のイベントホールと同じくらいか若干小さいかといった具合。しかし、出入り口はしっかり扉で閉ざされているので、より密閉感がある。
 会場にはアルバム『a new day』が流れていた。……く〜〜〜!やっっぱり、こういうトコだと、すんごくいい音で聞ける。透きとおる高音、ドキドキのベースライン、なめらかなキーボードの音そして柔らかいボーカル
 現在、CDを使えるハードがロクでもないので、PS2で聞いている(それでも、TVのスピーカーから聞こえるから決して悪いモンでもない、と思う)ワタクシには新たな音として聞こえるよ!ショボ過ぎるよ、ワタクシ……。

 定刻通りにイベントは始まった。ステージ下手側から登場するお二人。うひゃぁー、ACEさんスーツだよぅ!本田さん……いつも通りだぁ☆
 熱い拍手に出迎えられて先ずは一曲。

『残像』〜印象的なピアニカは、勿論生演奏。ACEさんはギターを弾きながら唄う。まさか、この曲が一曲目に来るとは、完全に予想を覆された(笑)
 椅子に座っておとなしくしているお行儀の良い淑女達(笑)も二人を目の前にし、生演奏を前にしてそうそう固まっているわけにいくまい。曲に合わせてユラユラしていた。一緒に唄っている人もいたね。ま、ワタクシもそうだが。

 「本日は二回回しです。もう、今日はこの二回目の為にやってますから。一回目なんてリハーサルですよ」曲が終わり、ACEさんから一言。相変わらずの軽口で会場は笑いに包まれる。きっと一回目では「二回目のことなんて知ったこっちゃない」とでも言っていたんじゃなかろうか?
 「これは大事なことだから……」と改めて切り出す。「中学生になって初めてお小遣いを貯めてフォークギターを買ったんだけど……。ソレを買ったお店って言うのが新星堂さんなわけで。新星堂本社ビルのあるこの場所は以前、何年か前まで、普通のお店だったのね。で、片隅にはギターやら楽器が置いてあったの。そのギターを手にして以来、わたくしのギタリスト人生が始まりましてですね、こう……縁と言いますか」という、事実とは常に心を震わせるのだなあ、というエピソード。
 この時買った一万円のフォークギター(モーリス100)でビートルズやらディープパープルやらを一生懸命、無理矢理弾いていたギタリスト人生一年生の頃のACEさん。「ギター弾けたら女の子にモテルかも!どうにかなるんじゃねぇか?」の一心で学校にも持って行き、教室で奏でる。ギター練習曲では余りにも有名な『禁じられた遊び』を弾くのだが、転調する手前の部分までしか弾けなく、挫折した事もあるという。みんな、同じなんだねえ(笑)会場中「ああ〜、分かる分かる〜」という空気でいっぱい。隣の本田さんも深く頷いていた。
 「では、そろそろ……もう、季節はずれの感は否めませんが、北海道では今が満開だそうですので、目を閉じて、北の大地へ想いを馳せて聞いて下さい」と次の曲へ。

『桜』〜ギターは持たずに唄うACEさん。
 「毎年毎年、“桜”と名の付く曲が出てきますが、この曲もね、桜の時期に毎年、歌い続けていきたいなぁと思ってます」いや、毎年と言わずにライブ毎に歌ってOK!「良い曲なんですよ〜」とACEさん。

 「このビルの隣にある、杉並公会堂。実はそこが成人式の会場となり式典がありまして……」当時、成人の日は一月十五日。その日に式典が催されたわけだが、一月十五日生まれを境に招待状が届くようになっていたという。
 「成人式なんてほとんど同窓会のようなモンでしょ?なのに、私は皆さんも知っての通り、一月十五日よりも後の生まれですから、同級生の殆どが出席している式に出られなかったんですよ。翌年になっちゃうんです。でも、知っている人が誰もいないのに出たくないでしょ?で、結局私は成人式に参加していないんです。成人式に出たことがない」
 確かに。知っている人がロクにいない式典じゃあ、盛り上がらない。只でさえ、お仕着せ感のある内容だしね。
 「なもんで、成人式のその日、私は原宿で呑んでおりました(笑)」

 お次の曲は『CLOUDY DAY』〜出だしが少しだけ、「おや?」と思うところがあったが、ACEさん自身の「オッケー!」サインでそのまま進行。ちょっと切ないやるせないこの曲が綺麗に終わり、ACEさん一言。
 「『CLOUDY DAY』トラブルバージョンを聞いていただきました」
 さすが、兄さん!なかなか聞けないバージョンをありがとう!!(笑)
 「いや、だってさぁ。やっちゃったモン勝ちでしょ?こういうの」度重なる突発的事情に余裕のあしらい。ステキッ!
 ちなみに、トラブルとは、ぶっこ(本田さんの愛機、Powerbook G4)の調子がチミッとだけ乱れ、ACEさんのギターが入るタイミングを見失い、僅かに崩れたっていうだけ。もっと酷いトラブルが過去にあったようだから、このくらい、どうってことないさ〜。

 続く荻窪話。
 駅ビルのタウンセブン内にあるケーキ屋さん好味屋(こうみや)。ここのインディアンプリン。これが大変お気に入りのACEさん。
 「普通、プリンって聞いて想像する形じゃない」という一風変わったプリン。「プリンっていうか……ミルフィーユ?」とは本田さんの言。なんじゃ、そりゃあ〜!?
 なんでも、プリン状の物とスポンジ(カステラ?)状の物が折り重なっている作り、販売されるときはカットされて売っているそうな。……全然想像がつかない!これは、実物を拝みに、いや、買って帰らねば!そう思った矢先、「第一部の時にも言ったら、皆さんが大挙して好味屋さんに押し掛けてですね、早くも本日分のインディアンプリンが売り切れてしまいました」
 あんまりにもACEさんが、美味しいんだよ!と力説するのでプロデューサーさんも買いに出掛けたら売り切れだったそうで。しかも、急遽追加分さえも予約でいっぱいになってしまったそうだ。
 第一部の時に余りにも熱く語った為、ファンの方から差し入れもあったそうだ。そのおかげで、ACEさんも「久しぶりに食べた、美味しかった〜」とホクホク。「皆さんもね、是非!甘い物は別腹でしょ?」と誘惑。でも、売り切れじゃ買えないじゃん! 
 この日に限っての売れ方に、お店の人は戸惑ったに違いない。
 こちらのケーキ(ACEさん曰く、パンもあるらしい。でも、ケーキしかなかったぞ〜)の他にも、「ラーメンブームのずっと前から丸福のラーメンで育ちました」……ケーキとラーメンでそんなに大きくなったんかい!?

 またもや杉並公会堂にまつわるお話。
 「コンクールなんて言うもんじゃないけど……小学生の時に合奏大会があって。みんなリコーダー吹いてて何人かは前でアコーディオンの奴もいてさ。
 男子は白いシャツ、Yシャツで出る事になってたんだけど……。
 当日の朝、おふくろがね「あんた、今日は肌寒いからこれ着て行きなさい」ってセーターを出したわけですよ。丸首のね、しかもちょっとモヘアっぽい。
 小学5年生の男子にファッションなんて無いわけ。出されたモンを来て学校に行ったら、みんなYシャツなの!「あれ?何か違う?」と思っていて。
 そしたら先生が「男子はこれを付けるように」って蝶ネクタイを配りだしたのね。あのー、後ろを簡単なホックで留める、一部分ゴムになってる奴ね。で、みんながネクタイを付けている中でさ、俺は「……くっそー、おふくろめぇ!!」って。
 無理矢理セーターの襟のトコから出して、先生から安全ピン借りてくっつけてさあ。
 その時の写真があるんだけど、後ろの方でリコーダー吹いてるんだけど、全体写真で小さいんだけど、明らかにYシャツじゃないのが分かるの。俺スゴイ情けない顔して写ってる。早く帰りたくってしょうがないのよ」
 ACE兄さんのトホホ〜な話。「もう、汚点だね」吐き捨てるように言うACEさん。隣で本田さんはず〜っと笑いっぱなし。会場中も笑いっぱなしだった。そこで、ACEさんから忠告が。
 「皆さんもね、母親となった暁には学校の指示には従ってくださいね。もう、子供は人と違うことは厭がりますから。本当、気を付けて下さい」

 他にも本田さんのお話。
 本田さんは学生の頃、山岳部に所属、活動していたという。しかも、全国大会に出場!……出来る程なのだったが、大会開催地の四国へ行く旅費が捻出できずに出場を断念したという。
 それにしても、山岳部の大会?ピンと来ない。
 「大会ってさぁ、どんな事するの?」ACEさんが問う。
 「う〜ん、色々やるよぉ。まずは、タイムでしょ……」
 規定ポイントまでの到達時間、地域の動植物の知識、地図の読み方などなど。
 本田さんの言い方はとても専門的で、いまいち飲み込みの悪いワタクシの頭には難しかった。要約すればこんな感じ。
 そう言われてみれば、本田さんのWEBサイトの日記でも、山に行ったとか良く出てくるよなぁ。
 同じ山でも、麓と頂上では気温、生息している動植物の種類も違う。
 「屋久島は凄いよ!気温差がね、広いんだよ。島を平面として考えると、沖縄から東北までの気温差があるんだよ。屋久島だけでだよ!?」
 屋久島の緯度は……と地球での位置にまで言及。本田さん、生き生きしている。
 「しかし、こんな事喋っててもねえ……。みんな退いてるでしょ?」
 いいえ。ただ少し、曲に関してのお話よりも、熱心になっているのにビックリしているだけです。
 お二人とも、「“植生植物の垂直分布”について語るミュージシャンって……」と苦笑していた。
 そんなマイノリティ加減を払拭すべく、話題はこの夏に発売されるミニアルバムへ。
 80年代の洋楽のカバーアルバム『SONGS MAKE MY DAY』

 “a new day tour”の時、ACEさんが一言洩らした。
 「洋楽のカバーをやったら面白いんじゃない?しかも、80年代の」
 聞いたスタッフが乗った。「あ、面白そうですね」「どんな曲だったらface to aceで面白くなりますかね」
 数日後には、吉本興業の会議室で選曲会議。
 「ああ!それもいいよね」
 「ね、これはどうですか?」
 「この曲、知ってます?」
 大盛り上がりの選曲会議。白熱する会議。余りのハイテンション振りに、「スッゴイ、楽しいネ〜」「もう、レコーディングはやらなくてもイイか」会議だけで堪能してしまったface to ace。
 そんなわけにはいかず、勿論会議の結果レコーディングをし、発売を迎える。
 「なんだか、アッという間だったよねえ」
 「ツアーが終わったらすぐに、作業に入って……。これもまた、本田のアレンジがね!もう〜〜〜」(巧いこと言葉になっていない)
 「原曲者の意図は「おそらくこうだろう!」って解釈をして……「本当はデュランデュランやりたかったんだよな、こいつら」って汲み取って(笑)」
 「俺たちが格好良くしてやるよ!ってね」
 どんどんテンションが高くなっていく二人。 
 「これを聴く前に、原曲を聴いておくって言うのも、面白いかも知れないね。でも、廃盤になっていて手に入らない曲もあるから(笑)全部は難しいね」
 ACEさんがザッとアーティスト名を言ったんだけど、何一つ知らなかった。もともと洋楽には疎いのだが、それを上回る知名度の特殊さ。
 ……マイノリティ加減は払拭できない。

 トークも大盛りあがりだが、とうとう、ラストの曲。
 『RAIN』から流れるように『ノンフィクション』へ。
 きっと、みんなが唄っていたんだろう。『ノンフィクション』でのコーラス部分では、客席にマイクを向ける。普通のライブのノリ。トークイベント用のミニライブじゃ、ない。

 トーク以上の盛り上がりで曲が終わり、醒めないうちに握手会へ!!(直筆サイン色紙のお土産付きACEさんからの手渡し)
 アッという間の一時間は、二人の優しい笑顔と、暖かい握手で心地よく終了。
 またのイベントを楽しみに、カバーアルバムの発売を心待ちにして、ひとまず、インディアンプリンを食べてみようかな。

 

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