カウンセリングの基礎理論


1.来談者中心療法の基本的な考え方

 カウンセリングには様々な理論があるが、その根底で共通している考え方は、ロジャースの来談者中心療法の基本的な考え方で説明できるだろう。来談者中心療法の基本的な考え方をまとめると次のようになる。
 人間の内部には、自己実現を完全に成し遂げようとしてたえまない努力を続けているある強い力がある。この力は、成熟しようとする動因、独立しようとする動因、自己を方向づけようとする動因などの特徴を持っている。これらを均衡のとれた構造に育てるには、よい「成長の場所」が必要である。
 成長は、相対的なダイナミックな変化の過程である。生きようとする力の衝突、個々人の相互作用、その人の性質などが、絶えず変化しながら達成され、個人の内に統一をもたらす。特に子どもは成長のスピードが速い。条件がよほど悪くなければ、自分の経験や自分と一緒に生活している人をそのまま受け入れる。
 来談者中心療法は、個人が自分の問題を十分解決できる能力を内部に持っているという以外に、未熟な行動よりも成熟した行動をもっと満足させる成長への衝動を持っているという仮定に基づいている。個人が今置かれている状態から出発し、刻々と変化していく状況に任せ、その時々の体制にその過程を委ねる。評価したり矯正しようする圧力を加えたりせず、その人をありのままに受入れ、その人が表現するものを反射して明確化してやる。このようにして、真実の自分になれる雰囲気を与え、その人が自分を知る喜びを学び、自分のたどるべき一層満足な道を率直に定められる機会を提供する。

2.ロジャースの6つの条件

 ロジャースは、『サイコセラピィの過程』(1966 岩崎学術出版社,Pp119-112 )の中で、カウンセリング関係において、「建設的なパースナリティの変化」をもたらす心理的条件を6つ挙げている。
1) 2人の人間が、心理的な接触を持っていること
2) クライエントは不一致の状態にあり、傷つきやすい、あるいは不安の状態にあること
3) セラピストは、この関係の中で、一致しており、統合されていること。
4) セラピストは、クライエントに対して、無条件の肯定的な配慮を経験していること。
5) セラピストは、クライエントの内部的照合枠に感情移入的な理解を経験しており、そしてこの経験をクライエントに伝達するように努めていること。
6) セラピストの感情移入的理解と無条件の肯定的配慮をクライエント伝達するということが、最低限に達成されること。

 第1は、セラピストとクライエントの関係についてである。セラピストの成立には、2人の人間が心理的な接触を持っているという最小限度の関係が必要である。すなわち心理的接触が存在しなければならないことを述べたものである。クライエントの肯定的な変化は、ある関係の中でしか起こらないという仮説を提出している。
 第2は、クライエントの状態である。クライエントは不一致の状態にあり、傷つきやすい、あるいは不安の状態にある。不一致とは、自己の像と現実の体験が矛盾がある状態である。不一致が意識されていない場合は、不安や混乱の可能性を持ちやすい。意識されている場合は、不安といわれる緊張状態が起こる。
 第3は、関係におけるセラピストの純粋性についてである。セラピストはこの関係の範囲内では一致した、純粋な、統合された人間でなければならない。一致しているとは、この関係の中で自由にかつ深く自分自身であり、彼の現実の体験がその自己意識によって正確に表現されるという意味である。しかし、セラピストは彼の全生活において「一致」している必要はなく、またそういうことは不可能で、クライエントとの関係のその時間において「一致」していればいいのである。クライエントとの関係のその時間においても一致できない時は、そのような感情を否定しないで、自由にそうあるならば条件に反しない。そういった感情をクライエントにある程度話してもよいが、但しその場合、第4第5の条件によくかなっていなければならない。
 第4は、無条件の肯定的配慮についてである。セラピストは、クライエントに対して、無条件の肯定的な配慮を経験していることの大切さを述べている。セラピストが、クライエントの一致していない状態も、一致している状態と同じように、「あなたが〜である場合だけ、私はあなたが好きです」というような条件をつけないで、暖かく受容していることである。
 第5は、感情移入についてである。セラピストは、クライエントの内部的照合枠に感情移入的な理解を経験しており、そしてこの経験をクライエントに伝達するように努めていることの重要性を述べている。セラピストが、クライエントの私的な世界を、「あたかも」自分自身のものであるかのように感じとることである。この「あたかも」という性格を失わないことが大切であり、巻き込まれないようにしなければならない。
 第6は、セラピストについてのクライエントの知覚である。セラピストの感情移入的理解と無条件の肯定的配慮を、クライエント伝達するということが最低限に達成されることを述べたものである。クライエントが、セラピストの受容と感情移入を感じている状態があることである。

3.来談者中心療法の基本原理

 V.M.アクスラインは『遊戯療法』(1972 岩崎学術出版社,Pp95-96 )の中で、来談者中心治療面接で、こどもの面接における治療者の指標になる基本原理として、8つ挙げている。

1) 治療者はできるだけ早くよいラポートができるような、子どもとのあたたかい親密な関係を発展させなければなりません。
2) 治療者はこどもをそのまま正確に受け入れます。
3) 治療者は、子どもに、自分の気持ちを完全に表現することが自由だと感じられるように、その関係におおらかな気持ちを作り出します。
4) 治療者は、子どもの表現している気持ちを油断なく認知し、子どもが自分の行動の洞察を得るようなやり方で、その気持ちを反射してやります。
5) 治療者は、子どもにそのようにする機会が与えられれば自分で自分の問題を解決しうるその能力に深い尊敬の念を持っています。選択したり、変化させたりする責任は子どもにあるのです。
6) 治療者は、いかなる方法でも、子どもの行いや会話を指導しようとしません。子どもが先導するのです。治療者はそれに従います。
7) 治療者は治療をやめようとはしません。治療は緩慢な過程であって、治療者はそれをそのようなものとして認めています。
8) 治療者は、治療が現実の世界に根を下ろし、子どもにその関係における自分の責任を気づかせるのに必要なだけの制限を設けます。

 第1は、ラポートの確立である。治療者はできるだけ早くよいラポートができるような、子どもとのあたたかい親密な関係を発展させなければならない。治療者が初めて子どもに会う時、治療者は微笑んだり挨拶の言葉で、子どもとの間に親密な関係を作る。子どもが拒否的な態度をとった場合、治療者は他の7つの基本原理を忘れないように対応する。
 第2は、子どもを完全に受け入れることである。治療者は子どもをそのまま正確に受け入れる。子どもを完全に受け入れるといっても、実際は非常に難しく、おおくの落とし穴が仕掛けられている。治療者が少しでも、子どもに対して否定的な態度をとれば勿論、批評したり非難したり賛辞を与えたりして子どもを評価することを言えば、子どもは敏感に察する。声の調子や顔の表情や治療者の仕種さえも受容の度合いを増減させる。また、受け入れることは、いま子どものしていることを是認することではない。子どもの否定的な感情や行動を是認することは、治療の妨害になる。
 第3は、おおからな気持ちを作り上げることである。治療者は、子どもが自分の気持ちを完全に表現することが自由にできると感じられるように、その関係におおらかな気持ちを作り出す。治療時間は子どもの時間であるので、子どもが使いたいように使わせる。たとえ子どもが黙って何もしなかったりしても、治療者は子どもと親密にしていて受け入れてやっていれば、子どもは自分の好きなようにできるようになる。治療者は子どもより先走ったり、その場面に全然存在していない何かを読み取ろうとしないことが大切である。
 第4は、感情の認知と反射である。治療者は、子どもの表現している気持ちを油断なく認知し、子どもが自分の行動の洞察を得るようなやり方で、その気持ちを反射する。治療者は子どもの表現している気持ちではなく、内容に応答しがちになる。また、子どもの気持ちを認めるのではなく、解釈していることが多くなる。治療者が子どもの表現している気持ちをとらえ、その気持ちを認めてやると、子どもはそこから進み出て、治療者も子どもも本当に洞察していることを知るのである。
 第5は、子どもに尊敬心を持ち続けることである。治療者は、機会が与えられれば自分で自分の問題を解決しうる子どもの能力に深い尊敬の念を持つことが必要である。行動の変化はある種の圧力によって順応させることではない。変化しないことも含めて子ども自身が選択し、子どもが自分の行動に責任を持つようにする。そうすることによって、子どもは自分に自信を持ち、自分を尊重する気持ちになる。こうして得られた行動の変化は、子どもが自分を洞察して内部から生じたものであるから、永続的な価値を持つ。
 第6は、子どもが先導するのに添っていくことである。治療者は、いかなる方法でも子どもの行為や会話を指導しないようにする。子どもが先導し、治療者はそれに添う。治療者は非指示の方針を一貫して固く守ることが必要である。探るような質問や賛辞や批評は控える。援助を求められた場合は、最小限度で応じるようにする。
 第7は、治療をせかさないことである。治療の過程が緩慢に感じられても、治療者はそれをそのようなものとして認める。子どもは自分の気持ちを表現するのに準備する時間が必要である。準備ができた時には、外部に表現するものである。治療者はその時間を待つ忍耐と理解が必要である。また、治療者は子どもの気持ちをほぼ正確に推測できても、完全にわかるはずはない。子どもに無理に表現させようとすることは、子どもを尻込みさせる原因になる。子どもはもともと緩慢なもので、広い世界を全て取り入れるには時間がかかる。しかし、現代はめまぐるしい勢いで子どもの上を駆け巡る。だからこそ、待つということが大切なのである。
 第8に、制限の意義についてである。治療者は、治療が現実の世界に根を下ろし、子どもにその関係における自分の責任を気づかせるのに必要なだけの制限を設ける。制限は賢明に一貫して用いると、治療期間を現実世界につなぎとめ、治療の誤解や罪の意識や不安定感が生じる可能性を未然に防ぐのに役立つ。ただし、制限は、子ども自身を守るために必要な常識的なものや、治療者に危害を加えることようなことだけに止めるべきである。また、必要が生じた時だけ制限するようにする。



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