平成12年度 夏季研修会

自分の感じに気づくワーク
〜フォーカシング入門〜

日時 平成12年8月4日(金) 10時〜16時30分
場所 醍醐交流会館
講師 京都教育大学助教授 内田利広氏
内容 教育相談で、生徒の話やその気持ちを聴くには、知識や技術も必要ですが、感受性も必要になってきます。
また、生徒の気持ちを感じるだけでなく、聴いている自分自身の気持ちを感じることも大切です。
知識や技術は、書物を読むなどしてある程度身につけることはできますが、感受性を身につけるのは難しいものです。
今回の研修では、「フォーカシング」という技法を使って、自分の体の感じに気づくワークをします。
講師は長年フォーカシングについて研究なさっている、内田先生にお願いしました。
初めての方でも、わかりやすく指導してくださいます。
1日の研修ですが、有意義な研修会になると思います。是非、多数ご参加ください。
費用 会員(京都府立学校教員)は、2500円
非会員は、3500円
申込 氏名・所属・連絡先を、nobu-nisi@pat.hi-ho.ne.jpへ。
定員(15名)になり次第締め切らせていただきます。

京都府立学校教育相談研究会夏季研修会
平成12年8月4日
醍醐交流センター

自分の感じに気づくワーク
〜フォーカシング入門〜

1.フォーカシングとは(講義)

フォーカシングは初体験の参加者がほとんどなので、まず、講師がフォーカシングについて説明した。

1)起源

1960年代の初め、C.ロジャーズの共同研究者であった、シカゴ大学のユージン・ジェンドリン博士が、成功したカウンセリングのクライエントには、言葉にし難い内的な気づきや身体的な感覚があることを発見した。それを意図的に引き出すことが出来れば、カウンセリングが成功する確立が高くなると思い、技法化した。

2)体験過程スケール(EXPスケール)

フォーカシングは体の感じを重視するが、それには7つの段階がある。

自己関与が見られない外的事象。
「今日の降水確率は70%です」                      
自己関与がある外的事象。〜と思う、〜と考えるなどの感情を伴わない抽象的発言。
「今日の降水確率は70%です。雨がよく降るなぁと思いました」       
感情が表明されるが、外界への反応として語られ、状況に限定されている。
「雨ばかりだと嫌ですね」                        
感情は豊かに表現され、主題は外界よりも本人の感じ方や内面。
「雨ばかりだと、頭が重い感じがする。鉛の塊が入っているような」     
感情が表現された上で、自己吟味、問題提起、仮説提起などが見られる。探索的な話し方である。
「雨が降ると気が滅入るなぁ。頭が重いのは交通事故の後遺症かなぁ」    
気持ちの背後にある前概念的な体験から、新しい側面に気づきが展開される。生き生きとした、自信を持った話し方や笑いが見られる。
「医者は後遺症はないと言っていた。何でも事故のせいにするのはやめよう」 
気づきが応用され、人生の様々な局面で応用され、発展する。
「雨の日はゆっくり休めということかもしれないなぁ」           

3)フォーカシング・ステップ

からだの内部に注意を向ける。
気がかりなこと・体の感じ・生活の気分などを、自分に問いかける。     
間を置く。
心の中にクリアリング・ア・スペースを作り、1で出てきたことを一つ一つ、適切な場所や容器に「置いていく」。
そして、それに巻き込まれないように、少し距離をとって眺める。      
フォーカシングする事柄を選ぶ。
いくつか置いてみた事柄の中から、今、ここで見つめてみたい事柄を一つ選ぶ。
フェルト・センスを見つける。
フェルト・センスとは、意味を含んだ身体感覚。フォーカシングでも最も重要なもの。疾病や体調とは違った感じ方のするもの。              
取っ手(ハンドル)をつける。
フェルトセンスを言い表す、適切な言葉やイメージを探す。         
その感じと一緒にいる。
取っ手を数回自分の中で響かせ試してみる。いろいろな質問をして、そこから新しい気づきが生じるのを待つ。
フェルトセンスや取っ手が適切でないと思ったら、3へ戻る。        
おわりにする。
いつでも引き出せるように印をつけておく。                

2.ビデオによる理論の復習

次に、村瀬孝雄先生のビデオを視聴し、講義の内容を復習した。

その中で、話題になったのは、「間を置く」ことである。「間」とは、人と人との間、話の間、自分の中の間である。「間を置く」とは、気になることを眺めて、心の中にスペースを作って、1つずつ置いていくことである。これだけでも、一つの技法になる。名付けて「棚卸し法」である。

3.質疑応答

ここまでの所で質疑応答。講義だけでなく、ビデオで短い事例を見たりしたので、参加者にもイメージがつかめてきた。いくつかの質問が出た。午後の実習が楽しみになってきた。

4.昼食休憩

フォーカシングの精神(?)に則って、その日の気分にあったメニューを注文する。

5.フォーカシングの実習

講師の指示によって、参加者全員がフォーカシングを体験した。時間にして30分弱であったが、非常に長い時間に感じた。体験後、一人一人感想を述べ、講師がフィードバックした。

  リスナーの指示    フォーカサーの内面    注意すべき事柄  
準備   静かに、軽く目を閉じ て、ゆったりした気分になってください。    心を落ち着けてゆとりを持って体全体をゆったりさせる。        始める前に体をほぐす動作や軽い体操を取り入れる。目を閉じた方が心の中に注意を向けやすい。
空間を作  いま気になっていることや、問題にしていることを思い浮かべ、一つ一つ自分の前に並べるようにして整理してみてください。少し身を引いて、間(ま)を作ってくださ い。          いま気になっていることや問題にしていること を、思いつくままに取り出して整理してみる。自分から少し離れた所に並べるような気持ちで、少し距離(間)をとってみる。          ちょっとしたことや何となく落ち着かないことなど、どんなことでも外に出してみる。
気がかりなことを1つ選ぶ 並べたものの中から、一つ選んで、少し離れた所から軽く触れるように、注意を向けてください。 気かがりなことのうち、今ここで、もっとも触れて(吟味して)みたいことを、一つ選ぶ。あまり近づかないようにして、注意を向ける。     できるだけ具体的な問題を選ぶ。漠然とした問題は扱いにくい。    
フェルト・センス   その問題の全体はどんな感じか、言葉にせずに、注意を向けて、感じられる感じに注目してください。はっきりしなけれ ば、注意を内面に向けてじっくり待ちましょう。 自分の体の奥の方にある漠然と湧いてくる全体的な感じに注目している と、次第にはっきり感じられるようになる。
あわてないで、じっくり時間をかける。湧くき上がってくる感じを言葉にしない。       
手がかりをみつけ  漠然とした感じの特質を表すような短い言葉や、イメージが出てくるのを待ち、味わうようにして口を出してください。  漠然とした感じの質はどんなものか、それを表す言葉やイメージが出てくるのを待つ。      出て来た言葉やイメージは、気がかりなことを全て表しているのではな い。         
共鳴させ  その言葉やイメージは、漠然とした感じにピッタリか、何度か付き合わせてください。(フォーカサーのつぶやきを繰り返す)          フェルトセンスと、手がかりになる言葉やイメージがピッタリ合っているか、何度か確かめる。  付き合わせていると、フェルトセンスが変わったり、手がかりになる言葉やイメージが変わったりするが、何度が繰り返しているとはっきりしてくる。         
終結   この辺でやめられます か。やめられるようなら終わりにしましょう。出て来たものを覚えておくために、印をつけておいてください。そして、ここで起こった感じに感謝しましょう。      やめるか続けるかは自由です。やめるときは、目を閉じたまま、出て来た感じを覚え、印をつけ、からだに感謝して、静かに目を開ける。     リスナーはいろいろ指示をしますが、最終的に決定するのはフォーカーである。フォーカサーが無理をしないように進めていく。        

6.ビデオによる事例研究

ビデオで2つの事例を見て、質疑応答をした。

1つ目のビデオは、涙が鞄の中に閉じ込められているイメージから始まって、涙が鞄から出て来て、鞄を綺麗にしていくイメージ。2つ目のビデオは、白い狐に乗ってある島へ行き、犬と出会い汚れた靴を見つけ、それを綺麗にすると王子様が登場するというイメージ。
どちらもビデオなので映像で脚色しているので、実際の過程とは違う感じがしたが、それなりに進行の様子が理解できた。

7.質疑応答

ビデオを見て、さらに疑問点などを質疑応答した。

★リスナーがどの程度まで解釈をしてよいのかという質問に対して、普通はあまり意味づけしないで、フォーカサーのイメージの進行に任せると言う回答だった。
★クリアリング・ア・スペースに置くことも、一つのフェルト・センスであるという確認があった。
★一人でやる場合の注意事項についての質問があった。それは可能だが、ただ、リスナーがいることによって、フォーカサーが安心して苦しいことも体験できるという回答であった。
★フォーカシングの効用についての質問について、カウンセリングの成功率は3割であるが、フォーカシングはそれよりも高い率であるという回答であった。

8.参加者の感想

▼以前から関心を持っていたフォーカシングについて、実習を交えて解説していただき、大変参考になりました。ただ、やはり自分でリスナーとの一対一のセッションを体験してみないと、実感として理解しにくいところは確かにあると思いました。学校現場での教育相談について生かしていくには、まだまだ課題があるとは思いますが、他に教員の精神衛生維持にも活用できいるではないかと思いました。いろいろな問題が次々と押し寄せてくる学校現場では、クリアリング・スペースの技法は結構有効な気がします。
▼初めての体験で非常に面白かったです。ただ自分自身のフォーカシングは、自己のイメージの貧困のため、あまりイメージが広がらずちょっと苦労しました。
▼とても面白かった。自己の内面のイメージを活性化させる手法ということで役に立ちそう。ぜひ自分でもやってみたい。
▼分かりやすい説明と実習で楽しく学習できました。芸術療法と呼ばれるものに対して今1つ理解できずにいましたが、イメージを大切にする今回のフォーカシングに関する研修で、少しとっかかりができたような気がします。フォーカシングそのものについても、興味深く、もう少し勉強してみようと思います。
▼体と心の間に見え隠れする入り曖昧な部分を大切にして、対話を進めるようにして接する態度というものは、私個人にとってもこれからも重要視しなくてはならないと思っていただけに、大変共鳴できました。
▼学校現場では、自分自身の身体について「だるい」とかあいまいな形で訴える生徒が多い(もしくは、身体がどうも変だが自覚できない、どう変なのか自覚できない生徒が多い)ように思われている。そのような者ついて自分の身体について注目させ、気づかせることが単に身体レベルだけでなく、もっと多くの意味を持つことを実感した。新しい理論を分かりやすく学べ、とても勉強になりました

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