はじめに


 本職の国語教師として26年が終わりました。そして、趣味の教育相談を勉強して21年になります。この2つをクロスオーバーできないかと以前から授業中に心理テストのようなものをしたりして、生徒に好評でした。そして4年前、もっと本格的な取り組みができないかと思い、3年生の「国語表現」の授業の中で1年間通して「こころのグループワーク」の実践をし、この冊子と同じようにまとめました。ちょっと関心のある先生なら誰もが使える開発的学校教育相談のワークブックというコンセプトで作成しました。しかし、とりあえず今まで勉強してきたことを接ぎ合わせたもので、ワークシートも他のワークブックからそのまま転用したものが多く、いわば貸衣装のようなものでした。

 あれから4年、再び「国語表現」を担当するチャンスが巡ってきました。

 国語では、インプットの分野として「読む」「聞く」があり、アウトプットの分野として「書く」「話す」があります。しかし、実際の授業では「読む」「書く」分野ばかりが重視され、「聞く」「話す」分野はほとんど扱われていないのが現状です。私自身も苦手な分野です。しかし、日常生活では「聞く」「話す」分野の必要性の方が高い。そこに教育相談の手法が生かせないかと考えました。

 自分を表現するためにはまず自分とは何かを考えることが大前提であり(セルフ・リサーチのわーく)、自分の中の引っかかっている部分に気づき(ストレス・マネジメントのわーく)、それを解決するために人との関わりが必要であり(ヒューマン・リレーションのわーく)、コミュニケーションについて考えたり(コミュニケーションのわーく)、援助の方法について考えたり(フレンド・サポートのわーく)、自分の思いを相手に伝える方法を考えたり(アサーションのわーく)することが必要になってきます。また、今の自分がどのようにして形成され、今後どのように成長していくのかも考える(グローイング・アップのわーく)、そんな流れが出来上がってきました。生徒がこうしたことを考える契機になったり、基本的な枠組みを認識したり、基本的なスキルを身につけることを目標に設定しました。いわば土台づくりの段階で、さらに話題の選定や話の組み立て、言葉遣いや敬語の問題、話し方など国語的な側面から取り上げる必要がありますが、それは今後の課題です。したがって、今回はサイコエデュケーション(心理教育)の側面が強くなりました。

 実践の成否を決める大きな要素の一つはネーミングです。大きなタイトルをつけ、それに負けない実践にしようと、「人づくりのわーく」と命名しました。この授業だけでなく、教育の本来の目的を達成する基礎を築くことができればという願いを込めました。

 教材は前回の「心のグループワーク」をベースに、今回の「人づくりのわーく」は大きくアレンジしたものやオリジナリティの高いものを作成しました。ワークシートだけでなく、レクチャーシートも用意し、興味本位のやりっ放しのものにならないように、理論づけて少しでも生徒に定着するように考えました。そのため、「心のグループワーク」よりは難度の高いものになり、実施するにはある程度の経験と知識が必要で、前回が入門編とするなら、今回は実践編という位置づけになります。指導の難易度については、目次のワークシートの欄に3段階で示しました。「A」は教師がこのレクチャーシートとユーザーズガイドを読めばできるレベル、「B」はさらに参考文献を読めばできるレベル、「C」はある程度の経験を必要とするレベルです。

 本書の構成は、まずワークシートを提示し、次に使い方を示したユーザーズガイド、そして実践の反省を報告した後、学校教育相談のあり方についての私なりの見解を簡単に添えました。

 ワークシートは実際に使用したあと反省点をもとに改善したものです。表や図を多用して、ビジュアルなものにしました。今の生徒はじっくりものを読むことが苦手なのでこの方が頭に入りやすいと思います。その分、教師が補足しなければならない部分が増えました。また、順序も実際の授業の通りではなく、より一貫性のあるように並べ変えました。

 ユーザーズガイドはねらいとアウトラインを示して概観を把握してもらった後、理論的なことやワークの留意点について詳しく書きました。人のワークシートはそのまま使いにくいものですが、そのワークシートに込められた思いを理解していただければ、利用なり応用なりがしやすくなります。また、自分でワークシートを作る時のヒントにもなると思います。

 実践の反省は、「人づくりのわーく」が構想する段階から実践した後までの様子をまとめ、今後の展開の方向性と、実際みなさんが使用される時のモデルパターンを示しました。毎時間取った生徒の評価も加えました。これは実施順になっているので、本書の順序とは異なっています。また、授業なので評価の問題が生じます。そのために作成した筆記テストも添えました。これは今までにない試みです。

 最後に、21年間の経験を元に現段階での私の、教師が学校でする教育相談についての考え方をまとめました。「学校教育相談map」を添えて分かりやすく俯瞰できるようにしました。従来ならこの章がトップに来るはずですが、堅苦しい理屈より実践を見てもらって、私が考えていることを理解してもらえればと思い、最後にしました。


 前作のまえがきの最後に、次は「学校教育相談の神髄」をまとめたいと書きましたが、奥は深く、いまだ道半ばです。だからこそ、勉強していく価値があると改めて思いました。



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