私が試みたサイコエデュケーション
〜国語表現で実践した「人づくりのわーく」〜

 ここでは、二年前の「人づくりのわーく」の実践を報告します。本職の国語教師として二十八年、趣味の教育相談を勉強して二十三年になります。この二つをクロスオーバーできないかと、以前から時々授業で簡単な心理テストやグループワークをしたりして生徒に好評でした。そして六年前、三年生の選択授業「国語表現」で一年間通して「こころのグループワーク」の実践をしました。しかし、とりあえず今まで勉強してきたことを接ぎ合わせたもので、ワークシートも他のワークブックからそのまま転用したものが多く、いわば貸衣装のようなものでした。あれから四年、再び「国語表現」を担当するチャンスが巡ってきました。

「人づくりのわーく」の準備
 「人づくりのわーく」の準備は前年の夏休みから始めました。ひとりブレンストーミング法で自分にできること、生徒に必要な力をカードに書き出し、分類し、順序を決め、週二時間、年間二十五週分のプログラムのアウトラインを考えました。
 全体を貫くテーマは、「ありたい自分に気づき実現する」にしました。まず、自分とは何かを自他の視点から考える「セルフ・リサーチのわーく」。自分の中の自己実現を妨げている部分に気づく「ストレス・マネジメントのわーく」。それを解決するために自分と人との関わりについて考える「ヒューマン・リレーションのわーく」。その手段としてコミュニケーションについて考えスキルを身につける「コミュニケーションのわーく」。人の悩みを聞いて援助するスキルを身につける「フレンド・サポートのわーく」。自分の思いを相手に伝えるスキルを身につける「アサーションのわーく」。そして、今の自分がどのようにして形成されてきて、今後どのように成長していくかを考える「グローイング・アップのわーく」。そんな流れが出来上がってきました。
 ワークシートの作成は、冬休みからに取りかかりました。前回のテキストをベースに、オリジナリティの高いものを作成しました。心理テストやチェックシートの質問は、何種類かのものを分析して精選したり、自分で新たに考え出したりました。ケースや事例もワークブックにあるものや自分が体験したものをアレンジしました。ロールプレイの為に多くのシナリオを作ったりもしました。
 今回特に工夫したのは、興味本位のやりっ放しのものにならないように、レクチャーシートを用意して、体験したことを理論づけて学習できるようにしたことです。

授業の実際
 講座人数は十五人でしたが、座学よりも身体を動かすことの好きな生徒がほとんどで、じっくり落ち着いて自己洞察するような雰囲気は望めません。「面白くて、為になる」という難しいバランスが必要でした。しかも二時間連続の授業なので、滑るとたいへんな苦痛になります。一時間一時間が勝負でした。
 先にワークシートを使って実習をして生徒の興味を引きつけ、その後でレクチャーシートで理論的な説明をするというスタイルをとりました。授業の最後の五分で、この授業で習得してほしいポイントの理解度と授業の満足度を十点満点で自己採点させ、コメントを書かせました。本来なら、生徒同士で話し合わせることができれば完璧なのですが、生徒の集中力はそこまでもちませんでした。
 また、授業なので評価の問題が生じます。ロールプレイを評価したり、提出プリントや毎回のふりかえりシートを点数化したり、授業への積極性も対象にしました。さらに、テキストを持ち込んでペーパーテストもしました。ロール・プレイは六回し、最初は戸惑っていましたが、回を追うごとに慣れてきて、最後の方は自発的に楽しみながらやれるようになりました。

満足度の高い「ヒューマン・リレーションのわーく」
 生徒の満足度が最も高かったのが「ヒューマン・リレーションのわーく」でした。
 最初の「にぎやか商店街」は、情報を書いたカードを数人で分け持ち、その情報を提供しながら一つの課題を解決していくカード式情報交換ゲームです。自分の意見がなくても、手持ちの情報を提供すれば話し合いに参加できる利点があります。「おもしろ村」や「バスは待ってくれない」など優れたものがありますが、それらを分析して高校生のレベルに合った新たなものを創作しました。もう一つの「川を渡る女」は、ある物語に登場する五人の人物を許せないと思う順位をグルーブで話し合って決めるという価値観ランキングゲームです。どちらもグループワークで、高得点を得たことから、生徒は人と人のつながりを求めていることがわかります。
 ただ、このワークの真の目的は、「役割評定シート」でゲームの中での自分の役割を自他評価させ気づかせることです。さらに「集団・リーダー性チェック」をさせ、自分は集団に参加することが好きなのか、好ましい人間関係を作ろうとしているのか、どんなリーダー性があるのかを分析しました。
 次に、ソーシャル・サポートの観点から、自分の周囲の人物を書き出して配置し、自分と様々な関係を示す線で結んで「人間関係マップ」を作らせ、自分を援助してくれる人を探しました。

人生を考える「グローイング・アップのワーク」
 心理教育にはキャリア教育の視点が必要だと考え実践した「グローイング・アップのわーく」も好評でした。
 特に、工夫したのが「ライフ・ロール・プレイング・ゲーム」です。これは、筑波大学の渡辺三枝子先生らが二十年前に作られた「グット・ラック・ゲーム」を、私なりに何度もパージョンアップしたものです。双六のように、就職・結婚・出産・育児・昇進などの人生のイベントやそこで起こるトラブルに対してどうするかを選択しながら、老後に至るものです。選択の際に、どんな価値を重視したかがわかるようになっていて、自分の人生の価値観が明らかになる仕組みになっています。グループでするので、自分の人生だけでなく、人の人生も垣間見ることができます。

「人づくりのわーく」をふりかえって
 ▼人の前で話したりすることによって、普通の授業とはまた違った学習ができました。これってとてもいいことだと思います。この先の役に立てていきたいです。▼この勉強は遊びみたいだけど、一番人生に大切な勉強だと思う。▼私はあまり人前で話すことは得意ではないので、たまに嫌な授業もあったけど、やり終えて少しは自己主張ができるようになったと思います。▼この講座は型破り的な授業が多くて楽しかった。自分を発見できたし、いろんなデータも知れて自分を客観視することができた。
 生徒の感想を見ると、まずまず成功したようです。ただ、盛り沢山というか総花的で、一つのことをじっくり深く学ぶことはできませんでした。生徒の実態から、どんどん目先を変える必要がありました。授業者としては、物足りなさが残ったのは事実です。
 転勤して二年目になる今年、三度「国語表現」で「つながりのエクササイズ」を実践しています。今回は、コミュニケーションに特化して、心理教育というよりも人間関係を円滑にする実生活の面を重視して、自己紹介や雑談の仕方なども含めて、じっくりと学んでいこうと思っています。
 なお、「人づくりのわーく」のワークシートと展開例をまとめた実践集を作りました。興味のある方は、インターネットで私のホームページ「教育の職人」を検索してください。



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