こころのグループワーク


1.はじめに

 一昨年秋、大阪府の松原高校の教育相談係で、総合学科の「カウンセリング実習」などの科目を担当されている佐谷先生にお会いした。以前から開発的な教育相談には興味を持っていたので大いに刺激を受け、私も授業で実践してみたいと思った。しかし、私の勤務校は普通科単独校で、特別な科目は設置していない。そこで、3年の2時間連続の選択科目である「国語表現」の1時間を使って、「こころのグループワーク」の実践をすることにした。強引に読み替えれば国語の表現分野の一部に位置づけられるが、生徒は作文の時間だと思って選択しているので、動機づけができていないという大きな問題があった。私のわがままであるが、きっと生徒にとってもいい学習になると信じて実施に踏み切った。
 この実践にはもう一つ目的があった。それは「総合的な学習の時間」の試行である。以前から開発的教育相談をLHRなどで活用していたが、「総合的な学習の時間」でも大いに活用できると確信していた。そのためには、私だからできるという個人技の授業にしてはいけないことが肝要であった。一昨年夏、國分康孝先生のお弟子さんである埼玉県の武南高校の片野智治先生にお会いする機会があり、武南高校で使用されている担任向けマニュアルをいただいたのが大いに役立った。心掛けたことは、できるだけワークシートを作成し、展開の仕方もマニュアルとして残すことである。それによって、興味をもたれて少し勉強してもらえれば誰でも実践できる。また、年間を通じたプログラムを作ることである。それによって、系統的な学習ができる。
 ここでは、その概略を報告する。

2.こころのグループワーク

(1)出会いのワーク
 まず教師に対する一問一答で生徒の質問に可能な限り答える、教師の自己開示から始めた。そして、エンカウンターグループでよくやる、自由歩きや2人組・4人組の自己紹介などをした。生徒は初めての体験に戸惑っていたが、最後の方は満足してくれた。2時間目は自己紹介スピーチと肯定的なフィードバック、3時間目はエゴグラム、次の時間はエゴグラムを使ったイメージワークをした。他者だけでなく自分にも出会ってもらった。
(2)やりとりを理解するワーク
  2つ目のプログラムは、交流分析のやりとり分析で、自分のコミュニケーションの特徴を学習した。グループでシナリオを作ったり、ロールプレイをしたりした。すこし理論に走りすぎた嫌いがあり、生徒の理解はイマイチであった。
(3)自己主張のワーク
  3つ目のプログラムは、アサーショントレーニング。チェックシートをしたり、ケーススタディをしたり、7種類のシナリオを作ってロールプレイをしたりした。また、一週間のアサーション日記をつけさせたり、少し興味を引き付け直した。ここで、ようやく1学期が終了した。
(4)カウンセリング実習
 2学期はメインのカウンセリングの実習。マイクロカウンセリングの理論を応用して、「かかわり技法」「繰り返し技法」「言い換え技法」「質問技法」について、ワークシートやブレンストーミングやロールプレイなどの手法を用いて6時間実践した。ここで、動機づけの弱さが露呈した。カウンセリングに興味のある生徒は面白がってやってくれるが、そうでない生徒は毎回同じことをさせられているように感じたらしい。これがやりたくて始めた授業だっただけにショックが大きかったが、カウンセリングを教える難しさを認識できた。「カウンセリング」というと特殊なイメージを受けるが、「聞き上手」といえば身近なものになる。次にやる時はこのネーミングにしようと思った。
(5)MY LIFE〜自分史を書く〜
 最後のプログラムは、国語表現らしく自分史を書く。とはいえ、「こころのグループワーク」と銘打った以上、ただ漫然と書かせておくのでは芸がない。交流分析の脚本分析を利用すればかなり深くまで考えさせられるかもしれないが、生徒のトラウマを掘り起こしても責任が持てない。そこで導入として、「life simulation」という高校を卒業してから死ぬまでを5つのステージに分けたアンケート&心理テストや、「LIFE R.P.G.」という価値観の選択とサイコロで進める人生双六をし、これからの人生で待ち受けている課題について自分ならどうするかを考えさせた。そうしておいて、自分史を書かせるのだが、過去だけでなく、未来の自分についても書かせた。

3.おわりに
 最後のアンケートでは、ほとんどの生徒が概ね満足してくれたようだった。楽しくて為になったと書いてくれる生徒が多かった。後日、看護学校へ進学した卒業生から「先生の授業が今役立っている」と言ってくれた時は嬉しかった。
 それまでの蓄積は幾分あるとはいえ、決心してから半年しか準備機関はなく、自転車操業ならぬ一輪車操業であった。毎回生徒に振り返りシートを書いてもらって反応を見ながら、試行錯誤の連続であったが、久し振りにスリリングな充実感を味わえた。
  詳しい内容は、私のホームページ「教育の職人」(http://www.pat.hi-ho.ne.jp/nobu-nisi/)に公開しています。また、実践をまとめた冊子もそこで紹介していますので、ご覧 いただければ幸いです。



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