フツーの教師の学校教育相談 


1.学校教育相談とは

 社会では、心の教育とか、心のケアとかいう言葉が喧伝されている。また、スクールカウンセラーを派遣するなど、様々な施策も実施されている。しかし、教育現場ではかなり温度差があるように感じる。
 スクールカウンセラーが配置されたり、教育相談部や係が設置されたり、環境が整いつつある学校もある。教育相談の研修を積んで力量を高めている先生も増えて来た。しかし、今一つ多くの教師への広がりが欠けているように感じる。
 そう感じる原因は二つある。一つは、教育相談が専門視されすぎていることである。教育相談には専門的な知識や技術がいるので自分にはできない、餅は餅屋で専門家に任せておけばいいと考える教師が多い。
 もう一つは、不登校などの深い心の問題を抱えた生徒個人を対象にしていることである。多くの教師が毎日相手するのは、登校している生徒集団である。特に、担任は四〇人の生徒を相手にする仕事である。不登校などの生徒に対応したくても、時間の問題がある。
 また、登校している生徒も、相手の気持を理解できない、人間関係がうまく結べないなど、やはり心にどこか問題を抱えている。
 今、多くのフツーの教師に求められているのは、そうした生徒への対応である。フツーの教師の、フツーの生徒に対する教育相談である。これを、「学校教育相談」と呼ぶことにする。
 教師は、心の専門家にはできない次のようなことができる。
●教師は、毎日生徒と接しているので 生徒の問題に気づきやすい。
●教師は、抵抗なく生徒を呼んで話す ことができる。
●教師は、廊下や教室ででも、短時間 ででも生徒と接することができる。
●教師は、毎日生徒と接しているので 生徒の変化を見続けることができる。
●教師は、四〇人の生徒を相手にする ことができる。

2.学校教育相談の四つの領域
 学校教育相談は、生徒の問題が深いか浅いか、問題が内にこもるか外に現れるかによって、次の四つの分野に分けることができる。
(1)治療的教育相談
 従来、教育相談といえばこの分野を意味していた。深い大きな問題を抱えた生徒個人に対応することを役割としてきた。例えば、不登校になった生徒に対して、担任や保健部や相談係の教師が、何とか登校させようと家庭訪問を重ねてきた。
 しかし、不登校になってしまった生徒に対して、フツーの教師が対応するのは、専門性の面でも時間の面でも非常に困難である。
 この分野の教育相談は、専門的な知識や技術を持った相談教師やスクールカウンセラーに任せるか、専門機関に依頼する方がよい。
(2)訓育的教育相談
 問題行動を起こした生徒に対して、担任や関係の教師がする教育相談である。一喝したりする方が効果的な場合もあるが、従来の生徒指導では対処しきれない場合、一つの可能性として今後注目される。学力不振生徒の指導にも活用できる。
 教育相談は、生徒の言い分を聞くだけで生徒を甘やかすという批判がある。しかし、本来は、生徒に自分で自分の問題に気づかせ、自分の力で解決することを迫るたいへん厳しいものである。
(3)予防的教育相談
 登校しながらも、相手の気持を理解できない、人間関係がうまく結べないなど、心にどこか問題を抱えている生徒に対して、定期的な個人面談や、廊下や教室などの立ち話で、生徒の話を聞くのに活用できる。教育相談だから聞くことが主体になるが、質問したり情報を提供したり、助言したりすることもある。
 フツーの教師ができる教育相談の一つの分野である。
(4)開発的教育相談
 ロングホームルーム、授業、宿泊研修などで、比較的問題の少ない生徒集団を対象にする教育相談である。「総合的な学習の時間」にも活用できる。
 自分が何者かわからなくなったり、人間関係が希薄になったり、生きる力が弱くなっている生徒が増えている中で、生徒が自己理解や自分探しをしたり、人間関係やコミュニケーション能力などを身につけるのを援助する。
 これも、多くのフツーの教師ができる分野である。

3.予防的な教育相談の進め方
(1)面接の種類
 生徒の来談意欲によって、生徒が悩みを持ち自分の意志で相談に来る「自主面接」、面談期間や進路相談などで教師が呼ぶ「定期面接」、問題行動や学業不振などで突発的に教師が呼び出す「強制面接」の三つに分類できる。
 「自主面接」では生徒から積極的に自分の気持ちを話そうとするが、「強制面接」では呼び出されたことが不本意で、自分から話す気持ちはなく、反感すら持っていることがある。
 種類に応じて、面接の過程や技法を工夫することが必要である。
(2)面接の過程
 面接の過程は大きく4段階に分けられる。
 第一段階は「環境形成」。「関係作り」が必要である。特に初回の「定期面接」や「強制面接」ではじっくり時間をかける必要がある。
 人間関係がある程度できた段階でも、呼び出した場合はその理由を説明し「状況作り」をする。面接の前にその時の生徒の様子を確かめることから始める。
 第二段階は「問題探索」。生徒が何を問題にしているのかを探る。
 まず「事実確認」をし、共通の認識のもとに面接を進める。生徒が感情的になっている場合は、落ち着かせる意味でも有効である。聴き取った事実を整理してやると、一層詳しく具体的な話を聴くことができる。
 次に「感情探索」をする。事実の裏には感情があることが多く、事実をじっくりと聴くことで次第に感情を表出してくる。その感情に焦点を当てて話を聴く。特に、複雑な感情、混乱している感情、矛盾している感情に焦点を当てる。ここが教育相談で最も重要な段階である。
 第三段階は、「目標形成」。問題解決のための目標を作っていく
 まず「目標探索」をし、問題解決の方法をいくつか集める。この場合、教師がいい方法を持っているとしても、生徒から引き出すように援助する。ついつい教示してしまいたくなるのが教師の習性だが、ここは堪え所である。
 次に「目標設定」をし、どれをどういう順番で実行するのかを、生徒に決断させる。小さな実現可能な具体的なものから設定することが大切である。ここで注意しなければならないのは、問題の原因追究をしてはいけないことである。あくまで、問題を解決していこうという方向性が必要である。
 最後の段階は「目標達成」。目標が実行できたかチェックをしたり、実行できるように励ましたりする。実行できれば、次の「目標設定」とその「目標達成」を繰り返す。
(3)面接の技法
1)技法の基礎
 教師は、ついつい生徒の話を遮って答えを教えてしまいそうになる。そこを我慢して、ひたすら生徒の話を聴くことが大切である。すると、生徒の方から自分の考えや気持ちを語り始める。 それが教師の考えや感じ方と違っていても、その生徒がそのように考え感じているのだと思って、ひたすら聴く。それでも、どうしても受け容れることができない時は、誠意をもって丁寧にそのことを伝える。
2)はげまし技法
 うなずき、「ええ?」「そう?」などの短い言葉、話の最後の数語の繰り返しなど、話を聴いていることを意図的に示し、生徒から話を引き出す。
3)繰り返し技法
 話のキーワードを、生徒の言葉でそのまま繰り返す。教師がどの部分に関心を示しているかがそれとなく伝わり、生徒はそのことについて話すようになる。
4)言い換え技法
 話の重要な部分について、教師が自分自身の言葉で言い換える。生徒の気持ちと一致している場合は、生徒は自分をより明確にとらえることができる。一致していない場合は、修正しながら続ける。
 生徒が適切な言葉を探している場合やは、非言語的な表現を観察して、的確な言葉で表現してやることもある。
5)質問技法
 質問には大きく分けて、閉ざされた質問と開かれた質問がある。それぞれの特徴を理解して使い分けることによってスムーズに話が引き出せる。
a.閉ざされた質問
  「はい」「いいえ」で答えられたり、答えが決まっている質問。例えば、「あなたは高校生ですか」「あなたは何才ですか」など。
 事実収集、生徒が喋りすぎたり感情的になっていたりして流れを変えたい時、生徒が緊張してほとんど話さない時に役立つ。
 しかし、教師が誘導しがちになったり、次の質問を考えて聴くことがおろそかになったり、生徒が受け身になったり、自分の殻に閉じ込もったりする危険性がある。教師は質問が得意なので、使いすぎに注意する。
b.開かれた質問
  決まった答えがなく、生徒が長く話すことが期待できる質問。例えば「その時どう思いました」など。
 話題の始めや、ある点についてさらに詳しく聞きたい時や、具体的なものを引き出す時に役立つ。
 しかし、あまりにも漠然とした開かれた質問は、何を話せばよいのか分からなくなるので注意が必要である。また、「なぜ」は答えられないことが多いので避ける方がよい。
6)情報提供
 生徒が情報を受け取る準備があるかどうかを確認した上で、目標探索に必要な情報を提供する。
 その際、教師の価値観を入れないで、よい点も悪い点もすべて提示し、生徒の意志で決断させるようにすることが大切である。
7)自己開示
 教師が自分の経験や考えを生徒に話すことである。生徒に押しつけるのでなく、一つのモデルとして提示する。
 しかし、その生徒に対する教師の影響力が大きい場合は慎重にする必要がある。教師が得意とする技法なので、面接を独占しないよう注意する。
8)ミラクル・クエスチョン
 問題が解決したり目標が達成した状態を想定して、現在の状況や行動との違い、生徒が何をしているか、最初に誰が気づいてどのように言うかについて、詳しく具体的に話させる。
 「もし、奇跡が起こって、すべての問題が解決していたとしたら、あなたはどのようにしてそのことがわかるでしょう」という形で質問する。
 これによって、具体的な行動レベルの目標を設定することができる。
9)スケーリング・クエスチョン
 様々な事柄を数値に置き換えて表現させる。
 「あなたがこうあってほしいという状態を10、これまでで最悪だった状態を0とします。今あなたはどこにいますか」「前回の状態は4だったけど、今回はいくつぐらいですか」「あと2上がったら、どんなことが起こりますか」という形で質問する。
 これによって、抽象的な目標を具体的にとらえることができる。数値の大きさよりもその差や変化が重要である。
10)ビデオ・トーク
 ビデオで見ているようにありありと写実的な記述をさせる。
 「どのようにしているのか、ビデオを見ているように話してくれるかなぁ」と質問すると、進行形でイメージ豊かに話してくれる。重要な部分は、再生したりスローにしたりホーズにしたりして、より詳しく話させることもできる。
11)スモール・ステップ
 抽象的で大きな目標を一挙に解決するのではなく、具体的で小さな目標を一つずつ解決していって、その結果、大きな目標を達成させる。
12)強化と消去
 目標が達成できた時は、何からの賞を与えて、さらに達成が継続するように励ます。逆に達成できなかった時は、何からの罰を与えて、失敗を繰り返さないようにする。

4.開発的教育相談のつかい方
(1)開発的教育の効用
 高校生の年代は、自分とは何者であるかを探索する大切な時期である。と共に様々な葛藤に心が揺れ動く時期でもある。
 また学校は、同年代の人間が最も多く集まり、最も長く生活を共にし、人間関係の葛藤を経験し、人間として成長していく絶好の場である。
 だから、学校でLHRなどを利用して、自分について、人間関係について学習する必要がある。
 また、高等学校でも始まる「総合的な学習の時間」は、生徒には主体性や創造性を身につけること、教師には体験的や問題解決的な生徒参加型の授業をすることを求めている。
 そうしたニーズに十分応えてくれるのが、開発的教育相談である。発達段階に応じて、自己理解や他者理解、人間関係やコミュニケーション能力を高め、思考や行動を充実させたり変容させたりすることを目標としている。
 また、個人だけではなく集団も対象にできるので、グループワークという参加体験型の学習スタイルも提示してくれる。
(2)開発的教育のつくり方
 開発的教育相談の一つのワークを作るには、次の手順が必要である。
1)目的を明確にする。
2)学習活動の内容と順序を考え、全体 の流れを作る。
3)個々の学習活動を組み立てる。
4)学習活動にふさわしい教材を作る。
 目標やテーマに応じていくつかの手法を組み合わせて、一つのワークを作る。主な手法としては次のようなものがある。
1)スピーチ
2)バスセッション
 全体を五〜六人のグループに分けて話し合いをする。メンバー全員が話し合いに参加し、互いに協力しあって、課題を解決する。話し合いの過程で、自分がグループでどのような役割を果たしたかをふりかえる。
3)フィッシュボール
 二つのグルーブに分かれ、一つのグループが討議しているのを、もう一つのグループが観察し、観察した結果をフィードバックしたり、討議の仕方をコーチしたりする。
4)ディベート
5)ランキング
 あるテーマについて、いくつかの選択肢を用意し、自分にとって重要と考える順にランキングし、グループでその理由を意見交換し、討議する。
6)ブレンストーミング・KJ法
 何人かのグループを作り、制約のないリラックスした状態の中で、自由に発想・連想し、アイディアを出す。また、情報をカードに記入し、似たもの同士をグループ化し、図解し、つながりをはっきりさせて文章化する。
7)ロール・プレイ
  主題と役割と内容のアウトライン、あるいは初めのいくつかの会話だけを示し、二人がその役割を演技し、他の他の人が観察し、後で振り返る。
8)シュミレーション
 現実の中から取り出した一定の状況を模擬的に設定して、その中で利害の対立する五〜六の役割を設定し、その役割になって思考したり行動したりする。
9)アンケート
 あらかじめ質問を用意し、その質問に対する回答をもとにして、回答者の意見や感じ方を集計し分析する。
10)インタビュー
 直接相手に話を聞くことによって情報を集める。
11)チェックシート
 心理テストなど、カウンセリングの理論を応用した質問用紙を使用する。結果を教師が診断し指導の方針を立てるのでなく、見方を簡単に説明して生徒に自分で診断させることが望ましい。
12)イメージワーク
 感覚を駆使して、目前にないものを心の中に思い描く。
13)リラクセーション
 体の緊張をとることによって心の不安を解消したり、感情を安定させたりする。
(3)開発的教育の展開
1)ウォーミングアップをする
 緊張をほぐし、和やかな雰囲気を作り、動機づけをする。
2)ねらいややり方を説明する
 ねらいとやり方を説明し、生徒の警戒感や緊張感を緩和する。教師が自己開示やデモンストレーションをすると、生徒は具体的なモデルがあるのでやりやすくなる。
3)ワークをする
 ワークの深さには、知識や情報を交流する思考レベル、動きのある作業を伴う行動レベル、感情の交流まで踏み込む感情レベルの三段階がある。
 感情レベルでは、予想しなかった生徒の反応が起る可能性があるので、処理できる力量や補助してくれる人が必要である。思考レベルや行動レベルでも感情を伴うことがあるので注意が必要である。
4)ふりかえりをする
 ワークで何を学んだか、何を感じたかを、交流したり確かめたり受け入れたりする。
 ふりかえりの仕方には、グループで話し合う、ふりかえりシートに感想を書かせてグループで回し読みをする、何人かの生徒を指名して感想を言わせ適切なフィードバックをするなどの方法がある。

5.こころのグループワーク
 平成一一年度の三年生の二単位選択授業「国語表現」(受講者二九人)を利用して試みた開発的教育相談プログラム「こころのグループワーク」の一端を紹介する。
 私は以前から、開発的教育相談を国語の授業に時々取り入れてきた。いつか年間を通して授業してみたいと思っていた。そんな時、総合学科の高校で「カウンセリング実習」という授業をされていることを知り、その気持ちがますます強くなった。構想すること六カ月、ようやく実施にこぎつけた。大きな柱は、自己理解・他者理解・コミュニケーションである。しかし、始めてみると、自転車操業ならぬ一輪車操業であった。
 二時間連続のうち、一時間は作文の時間で、後の一時間をワークの時間にあてた。科目登録の時点では作文を書く時間だろうと選択した生徒なので、動機づけなしにいきなり始めたのは無謀というよりだまし討ちに近かったかもしれない。
(1)出会いのワーク
 最初の授業はまさしく出会い。選択講座なので生徒は四つのクラスからから集まってくる。顔馴染もいるし、初めて席を並べる生徒もいる。私もこの学年を教えるのは初めてで、どの生徒とも初対面である。
 グループワークを取り入れた授業をしたいという魂胆があるので、最初の授業は非常に重要なポイントである。インパクトの強い授業をして、こちらのペースに引き込みたいものである。
 いきなり教壇から降りて生徒の傍に行き名前と顔を確認しながら出席をとった。気がついたことがあれば一言添えた。生徒は面食らったようである。まずは先制点。
 相手を知るには、自分を知ってもらうことが肝要。「教師に対する一問一答」をした。私について生徒一人一人に質問させ、質問を番号をつけて板書し、一問ずつ答えていく。
 「年齢は? 四四歳」「趣味は?
プロレス鑑賞」「好きなレスラーは? ケンドー・カ・シン」「顧問は?」「長所は?」「短所は?」「何歳で結婚したか? 三二歳」「恋愛か? 九回見合いをしたけど、最後は自力」「この学校で嫌いな先生は? ○○先生とは合わない」。
 プライベートな質問にもできるだけ答える。まさか答えないだろうという質問にも、できる範囲で言葉を変えながら答えていく。ただ、人権等に関わる質問には、答えられない理由を説明してシャットアウトする。
 単語で答えたり、やや長い文章で答えたり、質問されたことだけに答えたり、少し膨らませて答えたり、ユーモアを交えながら答えたり、生徒とのスリリングな駆け引きである。
 全員質問を終えた所で、板書した質問を分析する。質問の事柄や深さで分類したり、質問の流れを追ってみたりする。また、質問内容は質問した人の興味のあり方を表していることも付け加える。
 この「教師に対する一問一答」は、自己開示をして生徒との親近感を形成するという目的もあるが、相手を知るにはどのような質問をすればいいのか、また、質問に答えるにはどのような答え方があるのかを体験するという目的もある。
 さて、次は生徒が二人組を作ってインタビューをし合うワークである。ただ二人組を作らせれば好きなもの同士になるだろう。隣の席同士でも芸がない。そこで「バースデーライン」というゲームをする。誕生日順に一列に並ばせる。誕生日を知るにはお互い聞かなければいけない。そこにコミュニケーションが成立する。言葉を使わないで身振り手振りでするバリエーションもある。そのラインを二人ずつ区切れば二人組の出来上がり。
 で、二人組が作れたら先攻後攻を決めてインタビューさせる。ここで先程の「教師に対する一問一答」が参考になる。何をどのような順序で質問すればいいのか考えながら二分間ひたすら質問し、ひたすら答える。
 その後、二組が合体して四人組を作る。インタビューで得た情報をもとにパートナーを相手の組に他己紹介する。ここで、相手の話をどれだけ聞けていたか、どれだけ効果的な質問をして良質の情報を引き出せたか、その成果が問われる。
 緊張したがまずまず成功だった。がしかし、今後、このテンションを維持していくことの難しさをヒシヒシと感じた。
(2)私を語るワーク
 大げさなタイトルだが、要するに自己紹介。ただ、授業の最初にいきなり持ってくるのでなく、出会いのワークで、相手がどんな情報を欲しがっているのか、自分をどのように見ているのかが分かっているので、紹介の内容が濃くなる。一人一分間、あらかじめ三百字程度の原稿を作らせておく。原稿があるとどうしても読んでしまうという欠点はあるが、語る内容に重点を置く。もっとも、「原稿を見ないで語ることができれば素晴らしいね」ぐらいのことは言っておく。
 さて、本番当日、教壇に立って語ってもらう前に、ちょっとワークをする。肯定的な言葉が数十語書いてある「インプレッションシート」と「Who
am I ?」配布する。まず、「インプレッションシート」の語群の中で、今の私に当てはまるものに○をつける。同じく、過去にはあったが今はないもの、今はないがこれから身につけたいものに○をつける。
 今の私に○が多くある生徒は自己肯定感の強いと言える。過去の私に○が多くついている生徒は、自己肯定感が低いと言える。それでも、未来の私に○が多くついている生徒は希望を失っていないと言える。そんなことを説明しながら、机間巡視をして生徒と会話していく。
 そして、講座の生徒全員の名前と五つの枡目を印刷したプリントを配布する。スピーチした生徒の印象を「インプレッションシート」から五つ以内で探して枡目に数字を書く。これだけの準備をしてから、一人一人が教壇に立って私を語り、聞いている生徒は印象を記入していく。
 全員が終われば、生徒名の書いたプリントを回収し、裁断して一人一人の束を作り、次の時間に生徒に配布する。そして、○の数の多い番号を、「Who am I ?」の人から見た私の欄に記入していく。
 今の私の○のついている数字と人から見た私の○のついている数字が多く一致していれば、自他のイメージのズレが少ないが、多ければ思い込みの部分が強いことが分かる。
 肯定的な言葉しかないので、傷つくことは少ないだろうし、自分でも気づかなかったよい面を見つけて新たなスタートを切るきっかけにもなる。
(3)やりとりを理解するワーク
  交流分析のやりとり分析で、自分のコミュニケーションの特徴を学習した。グループでシナリオを作ったり、ロールプレイをしたりした。すこし理論に走りすぎた嫌いがあり、生徒の理解はイマイチであった。
(4)アサーショントレーニング
 アサーションとは、自分と他人の関係をより平等にするための、自己主張の方法である。
 自己主張の方法を、「攻撃的」「受身的」「アサーション」の三種類に分類する。
 「攻撃的」とは、自分のことだけを考えて、他人を踏みにじるやり方である。相手の気持を軽視したり無視したりして、自分の気持や考えを一方的に表現する。反面、防衛的で必要以上に威張ったり強がったりする。
 「受身的」とは、自分よりも他人を優先し、自分のことを後回しにするやり方で、自分の気持や考えを表現しなかったり、しそこなったりする。
「アサーティブ」とは、自分のことをまず考えるが、他人をも配慮するやり方である。自分の気持や考えを率直にその場にふさわしい方法で表現しながら、相手にも同じように表現することを奨励する。
 まず、これらの基本的なことを理解させることから始めるのだが、いきなり説明するのでなく、まずチェックシートをさせる。最近の心理ブームもあって、生徒はこの手のテストが好きである。質問項目に答えて集計すると、自分の自己主張のパターンが分かるようになっている。
 自分の自己主張のパターンが判定されると、「攻撃的」とは何だ、「受身的」とは何だ、「アサーション」とは何だと興味がわいてくる。そこで、おもむろに説明する。この順序が大切である。
 自分に貼られたレッテルの意味がわかると、生徒は確かにそういう部分もあると思うようになる。人相見ではなく自分で自分について回答しているのだから当たっていて当然なのだが、客観的に診断されると納得してしまうのが心理の面白い所である。
 そうしてアサーションについて理解させておいて、実習の段階になる。よくあるケースを設定して、どうすればアサーティブに自己主張できるかを考えさせる。
 「昼休み弁当を買おうとしたが遅くなってしまった。自分の番が回ってきた時、突然割り込んできた人がいる。その時、どうするか。割り込んできたのが厚かましいオバハンの場合と、ちょっと怖いオッサンの場合とではどうか。」
 「テスト前日、いつも寝ている隣の生徒からノートを貸してくれと懇願されたらどうするか。」逆に、「自分が貸してもらう時にはどうするか。」
 同じ状況でも、対象や立場を変えてみる。何と言うか、どんな身振りをするか、なぜそうするのか、そうした時の気持ちを想像させる。
 はじめは、自分一人で考える。次に四人組になって、各自の対応を交流させる。この交流も一種の自己主張の場である。そして、実際に役割を決めてロールプレイしてみる。最後に、自己主張記録シートを配布して、一週間自己主張した場面について記録することを宿題として課す。
 また、五〜六人でグループを作り、情報カードを配布し、自分の持っている情報を口頭で提供しながら話し合い、一枚の地図を作るというゲームもした。そして、話し合いの中で、自分の自己主張のパターンはどうであったかを振り返らせた。
 私自身の自己主張を振り返り、生徒には攻撃的になっているし、攻撃的な言い方をする先生には受身的になっているなぁと反省した。教師がアサーディブになって、生徒にどうすればいいのか問いかけてみるのもいいかもしれない。
(5)カウンセリング実習
 二学期はメインのカウンセリングの実習。マイクロカウンセリングの理論を応用して、「かかわり技法」「繰り返し技法」「言い換え技法」「質問技法」について、ワークシートやブレンストーミングやロールプレイなどの手法を用いて六時間実践した。
 ここで、動機づけの弱さが露呈した。カウンセリングに興味のある生徒は面白がってやってくれるが、そうでない生徒は毎回同じことをさせられているように感じたらしい。これがやりたくて始めた授業だっただけにショックが大きかったが、カウンセリングを教える難しさを認識できた。
 「カウンセリング」というと特殊なイメージを受けるが、「聞き上手」といえば身近なものになる。次にやる時はこのネーミングにしようと思った。
(6)MY LIFE〜自分史〜
 最後のプログラムは、自分史を書く。とはいえ、「こころのグループワーク」と銘打った以上、ただ漫然と書かせておくのでは芸がない。交流分析の脚本分析を利用すればかなり深くまで考えさせられるかもしれないが、生徒のトラウマを掘り起こしても責任が持てない。
 そこで導入として、「Life Simulation」という高校を卒業してから死ぬまでを五つのステージに分けたアンケート&心理テストや、「LIFE L.P.G.」という価値観の選択とサイコロで進める人生双六をし、これからの人生で待ち受けている課題について自分ならどうするかを考えさせた。
 そうしておいて、自分史を書かせるのだが、過去だけでなく、未来の自分についても書かせた。
(7)おわりに
 というような感じで、一年間頑張ってみた。最後まで試行錯誤、悪戦苦闘の連続だったが、充実感はある。
 心掛けたことは、私だからできるという名人芸のようなものにしたくないということである。少し興味があればフツーの教師でもできるように、できるだけワークシート化しようと試みた。ワークシート化すると画一化されるとか、マニュアル的になるとかいう批判もあるが、それはそれに頼ろうとする教師の姿勢の問題であり、意欲のある先生ならそれをベースに自分なりに改良するだろう。
 なお、授業の詳細は、毎週私のホームページ「教育の職人」(http://www.pat.hi-ho.ne.jp/nobu-nisi/)の中で「LIVE KOKUHYOU」として逐次公開した。また、「こころのグループワーク」のワークシートと実践記録を一冊の本にまとめた。これも、ホームページで紹介している。                 



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