1年間を見通した教育相談

1 フツーの先生の教育相談
 教育相談というと、不登校を思い浮かべる先生が多い。不登校生徒がいなければ関係ない、不登校生徒はカウンセラーに任せておけばいい、だから、私には教育相談は関係ないと考える。たしかに、こういう治療的な教育相談もある。これはフツーの先生、担任が使うには難しい。ある程度の専門的な知識や研修、それに経験が必要であるし、時間もかかる。四〇人の生徒の担任としては荷が重い。
 しかし、教育相談には、治療的な教育相談だけでなく、予防的な教育相談や開発的な教育相談がある。こちらは、心に深い問題を抱えている生徒ではなく、不登校予備軍と言える生徒や比較的健常な生徒を対象にしているので、フツーの先生も使える、いや担任だからこそ使える。学級運営に取り入れることによって、教師と生徒、生徒と生徒の交流をより深めることができる。
 また、教育相談というと、生徒の言い分を聞くだけで生徒を甘やかすという批判がある。これは教師という立場とカウンセラーという立場を混同していることから起こる過ちである。教師の役割はあくまで指導することである。また、教育相談は、自分で自分の問題に気づき、自分の力で解決することを迫る厳しさ必要である。

2 面談で使える予防的教育相談
 予防的な教育相談は、生徒の悩みや問題を早期に発見したり、軽いうちに対処するのに役立つ。定期的な面談、学習指導や生徒指導や進路指導などの呼び出し面談、廊下などでの立ち話など、それぞれの目的や場面に応じて、教育相談を使うことができる。まずは、例を見てみよう。
1)教育相談的な面談
 A君は、遅刻や欠課が多く、授業に出てもマンガを読んだりウォークマンを聞いたり私が多い生徒である。提出物などもほとんど出しアルバイトをしたり夜遊びをしたりしている。呼び出したが、なかなか来ず、3回目でやってきた。  
■ こじれる対応
T どうしてこの前呼んだとき来なかったんだ!
S 用事があったんや。
T どんな用事や。
T いつまでも、こんな授業態度だったら、進級できないぞ。
S わかってる。明日からちゃんとする。
T その言葉は何回も聞いた。明日から明日から、いつになったらやるんや。まぁ、勉強しないのはお前の勝手やけどな。
S うるさいなぁ、ほっといてくれ。
T 先生はなぁ、お前のこと思って言ってるんやぞ。せっかく高校へ入れたんやからもうちょっと頑張ってみたらどうや。親も心配してるぞ。
S しつこいなぁ、親は関係ないやろ、高校なんか来たくなかった。ほっといてくれ。
T ええかげんにせんか!
□ 教育相談的な対応
T よく来てくれたな。
S 何の話や。また、勉強の話か。明日からちゃんとしたらええんやろ。
T ちゃんとしてくれたら、うれしいけど。君が授業中どんな気持ちで座ってんのか気になるんや。
S 勉強なんか全然わからへんし面白ないし、ボーッとしてるわ。
T 勉強が嫌いやからボーッとしてるのか。
S 嫌いなことないけど、夜遅まで起きてるし、しんどいねん。
T 夜遅くまで起きてるし、しんどいのか。
S 学校に内緒やけど、バイトしてんねん。
T そやけど、このままいったら進級も危ないかもしれへんしな。
S わかってるんやけどな、ほんまに次からやろうと思うんやけど、でけへんのや。
T やろうと思うけどでけへんのか。そりゃ、困ったな。
S どうしたらええんかな、先生
T どうしたらええんやろうな。先生も一緒に考えるわ。
2)個人面接の技法
 先生は教えるのが仕事だから、どうしても生徒よりも多く話して諭してしまう。それが生徒にピッタリくる場合もあるが、ズレてしまうことも多い。話すのを少し抑えて生徒の話を聴いてみると、案外生徒の考えていることや感じていることがわかることがある。諭すのは、その後でもできるし、その方がよい話ができる。また、聴くだけで生徒が変わっていくこともある。
 例のように上手くいくとは限らないが、教育相談の聴き方にはいくつかの技法、コツがある。ただし、教育相談の基本は、生徒が自分の持っている力に気づいて発揮するのを手助けすることである。少し時間はかかるが、一年間というスパンで見ると、却って効果的であることが多い。
1)かかわり技法
 上体を少し前に傾けて乗り出し、適切なポイントでうなづくことによって、聴いているというメッセージを出す。「そう。それから。もっと話して。具体的には」など短い言葉を投げかけて、話を引き出していく。
2)繰り返し、言い換え技法
 生徒の話の中でポイントになる部分やもっと聴きたい部分を、生徒の言葉のまま繰り返す。あるいは、生徒の気持が混乱していてうまく話せなかったり教師の感じていることを確かめたい時に、教師の言葉で言い換える。そのことによって、話の内容や生徒の気持ちが明確になったり整理されたりする。
3)質問技法
 質問には2種類ある。一つは、「ハイ」や「イイエ」で答える、あるいは「今朝は何時に起きたか」という、答えの決まっている「閉ざされた質問」。もう一つは、「どう思う」「何がしたいの」という、答えが決まっておらず自由な多くの答えを期待する「開かれた質問」である。閉ざされた質問は、特定の必要な情報を引き出す時や、話が途切れた時に役立つ。開かれた質問は、話の初めや、ある点について詳しく聴きたい時や、具体的なことを引き出す時に役立つ。
4)解決志向技法
 開かれた質問を利用して、どうなればいいのか、そうなれば今とどう違うのか、すでにそうなっていることはないかを質問する。そして、今の状態や解決後の状態を数値化して、少しずつレベルの高い目標を設定していき、どこまで達成したかをチェックする。
5)対決技法
 矛盾する二つの行動や思考や気持ちを引き出し、どちらを選ぶかという決断を迫る。1)〜3)の技法を使い、より具体的なイメージを描かせ、自分でどちらかを選択するように援助する。
 こうした技法を用いながら、生徒をサポートする。問題が自分の力量を越えていると思えば、すぐに養護教諭なりスクールカウンセラーなり外部の専門機関に相談することが必要である。また、教育相談は万能薬ではない。従来のやり方でうまくいくならそれを続ければいいし、行き詰まった時に試してみてうまくいけば継続することである。

3.LHRで使える開発的教育相談
 開発的教育相談は、自分を見つめたり、人間関係を考えたり、進路について考えたりするのに役立つ。
 学校は学力をつける場であると同時に、同年代の人間が生活を共にする場でもある。人間関係が希薄になっている現代社会において、人との関わり方を学ぶ絶好のフィールドがホームルームである。従来からも、担任は学校行事やLHRの時間を利用して、リクレーションやゲームをしてクラスの交流や団結を図ってきた。
 開発的教育相談は、もう一歩踏み込んで感情の交流をねらっている。ゲームなどの取り組みを通して、自分のあり方や人間関係のとり方について振り返り考えるのである。段階を踏みながら月に一回でも計画的に取り入れてみると、クラスの雰囲気はたいへんよくなる。いくつかの例を示してみよう。
1)年度当初の自己紹介で
 最初のLHRは自己紹介から始まるのが普通である。ともすれば名前だけで終わるとか形式的になってしまうことがある。
 まず、教師に対する一問一答。生徒が一人一問ずつ教師に質問する。教師は質問を板書しながらできるだけ答える。これは自己開示と言って教師が自分について話すことである。ただし、答えたくない質問には「ノー」と言う。後で生徒がする時の見本になる。これをモデリングと言う。そして黒板に書いた質問について、流れや種類やレベル、してはいけない質問などについて説明する。
 次に、二人組になり生徒同士で互いにインタビューする。そして得た情報をもとに、四人組になってパートナーの他己紹介をする。
 こうして動機づけをしっかりしておいて、みんなの前で一人ずつ自己紹介をする。聞いている生徒は、「やさしい。頼りになる。ユーモアがある」など肯定的な言葉が五〇個ほど書いてあるシートから、その人に当てはまるものを選び、その人に返す。
2)話し合いで
 クラスではいろいろなことを話し合いで決める。開発的教育相談では、話し合いの結果ではなく、その過程での感情の交流を重視する。価値観ランキングという手法で、いくつかの選択肢の順位をグループで決める話し合いをさせる。その後で、話し合いの中で自分の果たした役割が、まとめ役だったのか、トラブルメーカーだったのか、傍観者だったのかについて振り返る。
3)クラスの問題解決で
 クラスで問題が生じた時に、ロールプレイという手法を使って、その状況を整理して設定し役割を決め、生徒にその役割を演じさせる。そうして、その人の気持や解決策について考えさせる。



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