「私」中心の日本語


第一段落
1)日本語には人称代名詞、特に一人称に関する語彙が多い。それはなぜか。
第二段落
2)日本人は古来、常に己との関係で自分を取り巻く対象を把握する。対象とは客観的な存在ではなく、自己とどのような関係にあるかによって意味を持つ「私」中心の観念(主観的)である。「私」と「公」は対立する概念で、「私」の立場から、「公」「世間」「社会」「世の中」をとらえ、己を中心に据えたうえでの「他人の関係」として捉えられていた。
3)私も社会を構成する一員であると捉えていない。日本語は自己を離れて社会を把握することができない、「私」中心の世界観の言語である。「公」は、天皇や朝廷の意味から、統治される国家・社会をさすようになった。「私」は「公」の中の一員ではなく、世間の人々に囲まれそれらを他人として対立的に把握する主体である。私」は「その当の本人」であり、「人」は私から見た「他人」である。
第三段落
4)自分をとりまく周囲の人を「人」と呼んで、他人の意味に使用する。「人目」「人聞き」「人前」などの表現は、他人に見られていることへの神経質なまでの意識で、きわめて受動的な態度である。
5)そこから、「人」を警戒したり、一蓮托生の思想、思いやり、戒めの言葉が生まれ、自分を信じる道に進む気持ちになる。
第五段落
6)日本語の「人」は「己の目で捉える他人」の意味で、対象たる人物(他人)を見る「人の目」がつきまとっている。

というにつまりまず社会が自分と無関係に存在し、自分が社会に所属するのでなく、自分が周囲の他人と関係することによって社会が生まれる。「公」はもともと天皇や朝廷のことだったが、「公務」「公職」「公用」「公立」など統治される国家・社会を指すようになった。日本語は自己を離れては世の中すら把握できない「私」中心の世界観の言語になった。


導入
1.段落番号を打つ。
2.音読する。
3.慣用句プリントを配布し、解答させる。
4.学習プリントを配布する。


第一段落
1【L4】第一人称の代名詞を挙げよ。
2【L4】その代名詞はどんな人に使うか。
3【L1】第一段落での問題提起は。
4【L3】なぜ、日本語は人称に関する語彙が豊富なのか。

板書
日本語=人称代名詞が多い。
 ↓
Qなぜそうなのか?



第二段落
1【L1】日本人の周りの事物や人物との関わり方の特徴は。
 ・話者自身をさす「私」の視点で周りの事物や人物を捉える。
2【L2】2段落で言い換えている部分を4か所抜き出せ。
 ・己との関係で自分を取り巻く対象を把握する。
 ・自己とどのような関係にあるかによって存在の意味を持つ「私」中心の観念
 ・己を中心に据えたうえでの”他者との関係”として捉えていた
 ・具体的な自分との人間関係に基づく世間の仕打ち
3【L2】2段落でそれと反対の否定されている考え方を2か所抜き出せ。
 ・そのような対象とは客観的な存在としての事物
 ・ドライな客観的で抽象的な人間社会一般
4【L1】筆者の意見を補足する慣用句と、その意味は。
 ・「世の中はそう甘くない」
  ・自分と直接関係のある周囲の人が自分の都合の良いようには動かない
 ・「世間様に笑われる」
  ・自分と直接関係のある周囲の人が自分を馬鹿にすること。
5【L1】「私」に対立する概念は何か。
 ・「公」
6【L1】「公」の言い換えを3つ抜き出せ。
 ・世間、社会、世の中
7【L1】日本語はどんな言語か。
 ・自己を離れては世の中すら把握することができない、きわめて「私」中心の世界観の  言語。
8【L2】「公」の意味はどのように変化したか。
 ・天皇ないしは朝廷のことから、
 ・私と対立する相手へ変化した。
9【L2】「私」と「公」の関係はどのように変化したか。
 ・「公」の中の一員ではなく、
 ・周りの世間の人々に囲まれ、それらを他人として対立的に把握する主体、己自身
10【L3】「「私」は「公」の中の一員ではなく、周囲の世間の人々に囲まれ、それらを他  者として対立的に把握する」とはどういうことか。
 ・私は周囲の人物と客観的、抽象的に関わっているのでなく、主観的具体的に関わって  いる。
11【L1】日本語の「私」はどんな意味か。
 ・その当人個人
12【L1】日本語の「人」はどんな意味か。
 ・私から見た他人

板書
日本人=話者自身を指す「私」の視点で周りの事物や人物を捉える
    己との関係で自分を取り巻く対象を把握する。
    自己とどのような関係にあるかによって存在の意味を持つ「私」中心の観念
    己を中心に据えたうえでの”他者との関係”として捉えていた
    具体的な自分との人間関係に基づく世間の仕打ち
   ×客観的な存在としての事物
   ×ドライな客観的で抽象的な人間社会一般
    ↓↑
    公=世間・社会・世の中
例「世の中はそう甘くない」
 「世間様に笑われる」
日本語=自己を離れて把握することができない「私」中心の世界観の言語
「公」=天皇・朝廷
     ↓
    私と対立する相手
「私」=「公」の中の一員
     ↓
    周りの人々に囲まれ、他人として対立的に把握する主体
日本語の「私」=その当人個人
    「人」=私から見た他人



第三段落
・因果応報(善い行いをすれば善い結果が得られ,悪い行いは悪い結果をもたらす)
・一蓮托生(結果のよしあしにかかわらず行動や運命を共にすること)
・当意即妙(すばやくその場面に適応して機転をきかすこと。)
1【L2】「人」を使った慣用句にはどんな意味が含まれているか。
 ・他人の目や耳を気にする。
2【L2】「人目」を使った慣用句にはどんな意味が含まれているか。
 ・他人がどのように「私」を見るか。
3【L1】「人目」「人聞き」「人前」に含まれている意味は。
 ・他人に見られていることへの神経質なまでの意識
 ・きわめて受動的な態度。
4【L1】「人を見たら泥棒と思え」とはどういう意味で使われているか。
 ・警戒する。
5【L1】「人を呪わば穴二つ」とはどういう意味で使われているか。
 ・一蓮托生。
6【L1】「我が身をつねって人の痛さを知れ」とはどういう意味で使われているか。
 ・思いやり
7【L1】「人の振り見て我が振り直せ」とはどういう意味で使われているか。
 ・戒め
8【L1】「人は人、我は我」とはどういう意味で使われているか。
 ・己を信ずる道
9【L3】「人はいざ」の和歌はどういう意味で使われているか。
 ・自分への批判を、世間の人々の薄情さに転嫁している。

板書
「人」を使った慣用句→他人の目や耳を気にする。
「人目」を使った慣用句→他人がどのように「私」を見るか。
  ↓
・他人に見られていることへの神経質なまでの意識
・きわめて受動的な態度。
・警戒する。一蓮托生。思いやり。戒め。己を信ずる道。



第四段落
1【L1】日本語の「人」にはどんな意味が込められているか。
・己の目で捉える他人。
・対象たる人物(他人)を見る人の目。

Qなぜ、日本語には人称代名詞が多いのか?
・己の目で捉える他人を見る人の目が常に付きまとっている。