教材観 子どものための作品には、単純な構造の複雑な課題がこめられている。それは、子どもの目や意識が受け取るべきものを、大人の目や意識が造り出すからである。子どものための作品は大人の想像力がつくり出すというのは「単純な構造」である。しかし、大人になることは子どもの否定に立っているのであるから「複雑な課題」がある。つまり、ここでいう大人は、子どもと大人の互いに排除し合う境界がはっきりしない「大人子ども」「子ども大人」という幻的人格である。 展開 導入
・映画では、怪獣に対抗するウルトラマンが存在するが、現実では、核兵器に対抗するものが存在しない。 ・現実には、三十分間ウルトラマンが登場しない映画を生きていることになる。 8.三十分番組の終わりまでウルトラマンが現れない映画を見ればどんな気持ちがするか。 ・怪獣による破壊がいつまでも続き、人間は無力感に陥る。 9.想像力は意識によってコントロールできないものだが、大人の想像力の基底にあるものは。 ・暗さ、悲惨さ[A4] ・現実には対抗できるものが存在しないのに、核兵器から怪獣を想像した。 10.それを受け入れる子どもの想像力は。[A4] ・核兵器の脅威について教育を受けていない。 ・未熟。幼稚。 第三段[いうまでもなく怪獣映画は〜発展して行きえるだろう] 1.[いうまでもなく〜ミラーマンがやってくる。]を音読させる。 2.「怪獣映画」の「ウルトラマン」について書いてあることを確認する。 3.g〜kに接続語を入れる。 ・hiは副詞が入る。 4.18)〜23)の指示語の指示内容を考える。 19)は指示内容が後にある。 20)23)は名詞化するために最後に「こと」をつける。 21)は指示内容が後にあり、長い。 5.怪獣とウルトラマンの外見の違いは。 ・怪獣=動物の限界を越えた体力をしている。 実在の動物を思わせる所を残している。 ・ウルトラマン=人間の形をしている。 哺乳類くささがない。 科学のにおいをたてている。 6.ウルトラマンの誕生秘話について説明する。 1)最初は、人類が危機に陥った時にどこからともなく現れては人類のために戦う「正義の怪獣」として設定されていた。デザインは、人間風の手足がついた翼手竜のような姿で、タイトルは、『科学特捜隊ベムラー』であった。テレビ版ゴジラ。 2)その後、宇宙人をヒーローとした番組に変更された。自分の星がX星人の侵略によって滅んだために、地球に止まって人類の平和のために働くという宇宙難民として設定され、『レッドマン』と命名された。 3)最終的に宇宙人が普段は人間の姿をしており、人類の危機に当たって宇宙人に変身するという設定になった。そのため、人類を守る動機が必要になった。怪獣なら所詮「獣」であるから動機は曖昧なママでよかったし、人間なら地球を守るという単純な正義感でよかった。そこで、『ウルトラマン』ではベムラーを護送する途中ハヤタ隊員の飛行機と衝突して死亡させ、罪悪感から地球に止まって人類を守ることになった。しかし、異星人を死なせたことにそんな責任を感じる必要もなく、自分の命を与えるのも飛躍しているし、「光の国」で生き返らせればよい。 7.ウルトラマンファミリーについて説明する。 1)ウルトラの星は、地球のように美しく生物も人間と同じであった。しかし、太陽が爆発しウルトラ星は死と暗黒に包まれた。 2)そこでウルトラの星の科学者が人工太陽プラズマスパークをつくり出した。プラズマから放出されるデファレーター線が人々を超人にした。 3)そんな時、宇宙征服を企む宇宙人が怪獣軍団を率いてウルトラの星を攻撃してきた。若き日のウルトラの父も戦い「ウルトラベル」の奇跡パワーで撃退する。 4)そして戦いで負傷したウルトラの父は介抱してくれた銀十字軍の女性団員と結婚した。ウルトラの戦士たちは自分たちの力を宇宙平和に役立てるために宇宙警備隊を組織する。 5)ウルトラの兄弟は、ゾフィ、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンA、ウルトラマンレオ、アストラ、ウルトラマン80等であるが、実の兄弟ではない。ウルトラマンタロウはウルトラの父は母の実の子でセブンとは従兄弟になる。 8.ウルトラマンはどんなものとして想定されているか。 ・科学の精 9.そこで生じる問題について。次の段階を踏むか、いきなり六〇字以内でまとめさせる。 1)科学の二面性とは何か? ・科学の威力 ・科学の悲惨さ 2)ウルトラマンは科学のどの面を表しているか。 ・科学の威力を示威だけで、科学の悲惨さとは無関係。 3)生じる問題とは何か。 ・ウルトラマンは科学の精として想定されている。 ・科学には、威力と悲惨さの二面がある。 ・ウルトラマンは科学の威力しか表していない。 ★ウルトラマンは、科学の精として想定されているが、科学の二つの側面の、威力を表しているだけで、悲惨さを表していないこと。(五九字) 10.怪獣映画の一般式について。 1)怪獣映画の一般式とは何か。 1)怪獣が出現する。 2)一般市民が自分の生活圏を踏みにじられて嘆きつつ怪獣を見上げる。=人間の無力感 3)準科学的集団が怪獣と戦い敗れる。=人間による努力の限界 4)ウルトラマンが登場する。 2)この一般式によって何を強調しているのか。 ・ウルトラマンが科学の威力(正義)であること。 11. 科学特別捜査隊の存在意義について考える。 ・第三七話のジェロニモンに対して、イデ隊員が「ウルトラマンがいれば科特隊なんかいらないんじゃないか」と悩みを打ち明ける。ハヤタは科特隊の数少ない実績(アントラーはムラマツ隊長の投げた青い石で、ドドンゴは目をイデとアラシのスパイダーで、ケムラーはイデのマッドバスーカで、ザラガスはイデのQXガンとウルトラマンのスペシューム光線で、ゼットンはペンシル爆弾で)を持ち出して「持ちつ持たれつだよ」とフォローにならないフォローをする。 12.[人間の側から〜発展してゆきえるだろう?]を音読させる。 13.怪獣やウルトラマンと人間との関係について。 1)どんな関係か。 ・ウルトラマン+人格高潔な科学者+優等生の子ども=科学の威力=正義 ・怪獣+気ちがい科学者+悪人集団=科学の悲惨さ=悪 2)これによって何を強調しているのか。 ・ウルトラマンや科学の正義。 14.ウルトラマンに出てくる子どもの悪事について考える。 ・ホシノ少年は、ネロンガを一人でやっつけようと前に仁王立ちになったり、ケムラーに対してアラシ隊員のスパイダーショットを黙って失敬したり、年上のイデ隊員をタチの悪い冗談でからかったり、怪獣を挑発して窮地に陥ったり、フジ隊員のビートルに隠れていて操縦までしてしまう。 ・ムシバ君は、自分が書いた落書きが怪獣になったガバドンの出現に大喜びし「暴れろ、暴れろ」とたきつけるという危険な思想をもった確信犯である。 15.[Q3]怪獣映画の真のメッセージとは?〔A3〕 ・正義としての科学の威力。 ・科学の絶対的な威力が地球を滅亡から救い、人類に未来を与えるという全面的な正義の保障。 (地球を滅亡の危機に瀕しさせた、科学の悪、人間的悲惨は隠している。) 16.ウルトラマンは正義の味方と言えるか考える。 ・初期は一対一で怪獣と対決していたが、シリーズ後期には「我々ウルトラの戦士は共に戦う」という合言葉を振りかざして集団リンチかイジメのように、よってたかって怪獣をなぶりものにしている。 ・メフィラス星人は、地球人の人格を認め地球人の合意が得られない限り武力的侵略には訴えず、ウルトラマン以上の実力がありながら無益な戦闘を放棄した。 17.ウルトラマンと怪獣の関係について考える。 ・最初は、怪獣は文明社会を脅かす大自然の象徴であり、ウルトラマンは文明社会の秩序を維持する正義の味方として設定された。「大自然と人間の力の試し合い」 ・しかし、愛の象徴のウルトラマンが怪獣を殺すことに矛盾が生じ、怪獣・宇宙人と地球人の仲裁役として設定された。 ・『ウルトラマンセブン』では敵を異星人に限定し、異星人を征服的先進国人、地球人を後進国人と見なして、ウルトラマンの戦いが正当化された。 ・しかし、ウルトラマンセブンは異星人である以上、地球人と異星人の間に立って悩まざるを得なくなった。宇宙人からは「裏切り者」として罵られ、地球人にもなりきれない。 第四段[もともとぼくが〜おわり] 1.第四段を音読させる。 2.l〜oに接続語を入れる。 3.26)〜28)の指示語の指示内容を考える。 26)は場所とすれば「広島や長崎」、時間とすれば「原爆後」。 27)は名詞化して「ということ」をつける。 4.作者の視覚的動機とは何か。 ・怪獣とウルトラマンの格闘によって都市が破壊されること 5.ウルトラマンも都市破壊の当事者であったことを確認する。 ・タイトルもここからきている。 6.怪獣は東京タワーを壊すが、絶対に破壊しない場所はどこか。 ・皇居、御所。 ★右翼への配慮 7.作者のオブセッション(固定観念)について。 1)それは何か。 ・都市を再建することがいかに大仕事であるというもの思い。 ★自分の家が怪獣とウルトラマンの格闘で破壊されたとすればどうか考える。 2)作者にとってそれが気になった理由は。 ・広島や長崎の原爆後の人間の営為に感銘したから。 ★原爆問題は作者のライフワークでもある。「広島ノート」などの著書。 8.再建費用と期間について考える。 ・ペスターが破壊した京浜工業地帯の場合 タンクローリー一台、タンカー一隻、オイルタンク約四〇基、付属設備など、現在価値として六八〇〇億円の損害、経済の波及効果として三兆円、復旧までに三年かかる。 ・ゴモラの破壊した大阪の場合 大坂城三五〇億円、大阪市街七〇億円、造成地四〇億円、防衛兵器二〇〇億円、合計六六〇億円、波及効果は一五〇億円。関西人の受ける精神的ダメージはタイガースが優勝するより数段大きい。 9.ウルトラマンの破壊についての責任を考える。 ・「行為」とは「人間の自発的に意思の表現としての身体の動作または静止」であるので、ウルトラマンは人間でないから行為は成立しない。 ・しかし、ウルトラマンは外国人に準じて考えれば刑事責任が問われる。そうすれば人間以上の知能を持つ宇宙人も刑事責任が問われる。 ・しかし、彼らを法廷に立たせることは不可能である。 ・そこでウルトラマンに変身すれば地域住民に危害を加える危険性を自覚しているハヤタ隊員とウルトラマンは同一人格と見なされる。 ・しかし、1)地球人の生命に対する現在の危機を避けるための、2)やむをえない行為であり、3)その行為から生じる害は避けようとした害の程度を越えないので、刑法上緊急避難に該当し違法性はない。 ・また、責任能力においても個人の能力を越えており、国の賠償責任を追及するべきである。 10.大人が怪獣映画を造るのに使っている方法論について。 1)それは何か。 ・場面展開の論理 2)「場面展開の論理」とは何か。 ・持続的に論理を展開してゆき、論理的に都合悪い、単純に整理しがたい現実に直面 した場合、場面を展開する論理。 3)これがQ1「子どものための文学・映画・劇(=作品)が、大人によってどのように 造られるか?」の解答[A1]になる。 4)想像力との違いは。 ・想像力は、意識によってコントロールできない。 ・場面転換の論理は、十分に意識によってコントロールされている。 5)「場面展開の論理」と反対の方法論は。 ・リアリズム ・自己否定を契機にして、より大きな自分をつくりかえしめる方法。 6)リアリズムによる怪獣映画とはどんなものか。 ・科学の悪、科学の人間的悲惨をも担い込んでいるウルトラマンを描き出す。 7)「場面展開の論理」を使う理由は。 ・ウルトラマンを超科学スターに聖化し続けるかめ。 ・科学は正義であると思わせ続けるため。 11.怪獣番組のリアリズムについて考える。 ・『ウルトラマン』では、科学特捜隊がウルトラマン抜きでゼットンを倒すことによって「甘え」を否定しようとした。ゾフィーは「地球の平和は人間の手でつかみとることに価値がある。いつまでも地球にいてはいけない」とウルトラマンを説得する。隊長のムラマツも「地球の平和は我々科学特捜隊の手で守り抜いていこう」と呟く。 ・『ウルトラマンセブン』では、モロボシダンが脈拍三六〇、血圧四〇〇、熱が九〇度近くあったが無理をしてゴース星人の怪獣パンドンと戦い、過労死する。ウルトラ警備隊のソガ隊員は「ダンを殺したのは俺たち地球人だ。奴は傷ついた体で人類のために戦ってくれたのだ。ダンを殺したのは俺たちなんだ」と呟く。「甘え」をきっぱりと否定し、ナショナリズムの立場に移った。 |
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